“ひねくれポップの大団円”がつぽんず、初の全国流通版

がつぽんず   2021/11/17掲載
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 人なつっこくてかわいらしくて、少し意地悪。バンド名から想像がつく通りのオフビートなポップ・ソングを、とぼけた味のある歌声で届けるがつぽんずが、初のミニ・アルバム『先のことは少し、考えている』をリリースした。
 あべまえば(ヴォーカル、ギター)を中心に、2017年秋に大学の同級生たちと3人で結成。居酒屋の名物メニューからつけたというテキトーな命名のわりに、“ひねくれポップの大団円”と大言壮語する(アン)バランスが面白い。
 ツイッターのプロフィールには「有名になって北乃きいに会うまでは続けます」と記すあべまえばに、初めてのインタビューをした。
――結成のいきさつから教えていただけますか?
 「大学4年生のとき、就活がうまくいかなくて、学生生活最後に何かやっておこうかな、みたいな感じで、ベースの斎田(さいたにっと)に声をかけたのが始まりです。最初に一緒にやっていたドラムのげんきくん(ふじむらげんき)も大学の友達なので、3人でなんとなく始めました」
――バンド名の由来は?
 「大学の近くにある居酒屋で最初3人で集まって、そこのメニューにガツポン酢があったので、"これでいいんじゃない?“ず”で終わってるし、バンド名っぽいじゃん"って。こんなに長く名乗り続ける気はなかったので、あんまり納得いってないです(笑)」
――“あべまえば”という名前の由来は?
 「僕、歯が出ているんです(マスクを外して前歯を見せる)。覚えやすい名前がいいかなと思って。"まえばくん"と呼んでくれる人もいるので、名乗った甲斐があったなと思っています」
――じゃあ僕も“まえばさん”と呼びますね。まえばさんが音楽に惹かれたのは?
「親も音楽が好きで、もともと音楽が身近にある環境ではありました。本格的にハマり始めたのは中学生の頃で、曲作りに興味を持ったきっかけは、浦沢直樹さんの『20世紀少年』でした。作中で主人公がフォークソングを歌うんですけど、それが“帰り道にカレーの匂いがする”みたいな歌で。“そういうことを曲にしてもいいんだ。これだったらできるかもしれない”と思って、曲を作り始めました」
――「Bob Lennon」ですね。作詞・作曲は浦沢直樹さん。
 「そうです。浦沢さんが自分で歌ってる動画もあって、かっこいいなと思って。僕が最初に作った曲は“今日の夕ご飯はハンバーグが食べたい”みたいな、ただパクっただけの曲でした(笑)。高校に入ってからは多重録音機で音源を作り、バンドコンテストとかに応募していました」
――いいところまでいきましたか?
 「全然(笑)。最高が2次審査でした。2次はライヴ審査だったんですが、地元の友達と組んだ即席バンドだったので、大恥かいて帰ってきました(笑)」
――勉強は?
 「まったくやっていませんでした。大学入る前に2浪していて、浪人中はひたすらももクロを聴いていました」
――へー。ちょっと意外ですね。
 「やっぱり心が弱ったときはつけ込まれますね(笑)。精神的にとても救われました」
――ももクロから学んだことは?
 「たくさんありました。曲のジャンルが幅広かったので、ももクロを通して知る音楽がいっぱいあったし、パフォーマンスの面でもすごく勉強になりました。命を削っているような空気感が、お客さんを感動させるんだなと。ギリギリの状態で音楽をやっている人は、やっぱりかっこいいなと思います。フジファブリックとかが好きな理由も、もしかしたら同じかもしれません」
――フジファブリックが好きというのはとってもよくわかります。
 「あとはandymoriですね。志村正彦さんと小山田壮平さんは僕の中でずっとお手本です。フジファブリックはヘンテコなことをするかっこよさで、andymoriはヘンテコなことをあえてしないかっこよさ、みたいな」
――がつぽんずはメンバーが流動的になっていますが、やりたい音楽に合わせて編成を変えているんですか?
 「そうです。とにかく曲が良くなることを優先して動いてきました」
――曲はほとんどまえばさんが作っているんですよね。
 「ほぼひとりで作っていて、編曲もデモ音源の段階で大枠はすでに決めています。本当は各演奏者に編曲を丸投げしたほうが面白い曲になる場合もあるのですが、なかなか譲れない部分もあって、今はそういうやり方にしています」
がつぽんず
――そしていよいよ“ひねくれポップの大団円”というキャッチフレーズを背負って、初めてのミニ・アルバムが完成したわけですね。
 「担当の方に“何かキャッチコピーがあったほうがいいんじゃない?”と言われてひねり出しました。ちょっと大きく出ておこうかなと思って(笑)」
――アーティスト写真を見るととてもそんな強いことを言わなさそうな人たちが写っていますが(笑)。
 「この写真は“ひねくれ”部分を体現したつもりなんです。バンドなのに芸人さんの宣材写真みたいになっていたら目を引くんじゃないかと思って。」
――さいたさんの存在感がすごいですね。まずロック・バンドには見えない。
 「『キングオブコント』の1回戦で敗退してそうですよね(笑)」
――『先のことは少し、考えている』の7曲はここ最近よく演奏していたなかから選んだんですか?
 「そうですね。担当の方に“出し惜しみせず、出せるときに全部出したほうがいいんじゃない?”と言われて、たしかにその通りだなと思ったので、過去曲から最新曲まで幅広く収録しました」
――現時点でのベスト・オブ・がつぽんずですね。資料に「フォークロックの枠に留まらず、自由なアイディアによって構成される楽曲」とありますけど、僕がひとつ共通しているなと思ったのが、いい意味で聴き手に緊張を強いる曲がひとつもないなと。
 「くどくならないということは意識してます。曲をパッと終わらせるのも、飽きられる前に終わらなきゃ、みたいな。恐怖心に近いですね(笑)。あとは軽やかに仕上げるということも、常に気にしています。歌詞が暗いときは逆に曲はめちゃくちゃ明るくするとか」
――「アパレル・ラプソディー」はそのなかでは突出して要素が多いですね。
「これは自分の曲に少し飽き始めていた時期に、いつもと違うことをしようという気持ちで作った曲です。最新ヒット・チャートを聴きまくって、流行りに寄せてみたらどうなるんだろう、と思って作りました。アリアナ・グランデのアルバム(『Positions』)とか、あと何聴いてたっけな。とにかくいろいろパクって混ぜたんです(笑)。でも“私は前の曲のほうが好きだったなあ”と言われることも多かったので、もうやりません」
――(笑)。面白い曲だと思いましたけどね。
 「面白さ……しかなかった(笑)。やりきったっていう達成感はあったんですけど」
――「スケートボード」もシンセが目立ってちょっと異色の曲ですね。
 「これを作ったのはもう5年くらい前です。Perfumeのドキュメンタリー映画(『WE ARE Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』2015年)を見てめちゃくちゃ感動して、自分もテクノをやりたいと思って作りました。結果、全然Perfumeにはならなかったんですけどね(笑)」
――誤解や届かなさが新しいものを生むので、それでいいと思います。ほかにパクったのは?
 「〈黒いママチャリ〉は昭和前期の雰囲気を出したいなと思って、〈リンゴの唄〉(1946年)とか〈蒲田行進曲〉(1929年)とか、あとは『ウルトラマン』シリーズのマーチング曲とか、たくさん参考にしてアレンジをしました」
――アルバム全体の曲順としては、「どうでもいいこと」がアルバムのイントロダクションみたいな役割で、その後だんだんと深みを増していくような流れになっていると感じました。最後の2曲でぐっとまえばさん個人のパーソナリティにフォーカスが当たっていくというか。
 「27歳になってからいろんなことが急に切実になってきて、現実感や焦燥感が、急に増した気がしているんです。友達が結婚したり、子供ができたり、転職したり。そうするとだんだんと話が合わなくなってくるような感覚もあって。自分はバンドをずっと続けているけど、みんなはどんどん次のフェーズに入り始めていて。そういうザワザワした気持ちを感じてもらえたらいいなと思ってこの曲順にしました。5曲めの〈アパレル・ラプソディー〉あたりで風向きが変わるようにしたいなと。『先のことは少し、考えている』というタイトルもそういう意味合いがあるんです。実際はあんまり考えていないんですけどね(笑)」
――「悪友」はMVも拝見しました。出演しているのはどんな人たちですか?
 「全員、今回のアルバムに関わってくれた人たちです。がつぽんず結成当初からお世話になっている披岸さん(披岸克哉)、〈スケートボード〉を一緒に作った奥村(奥村りょうすけ)、初代ドラマーげんきくん。そしてコーラス、シンセ、ジャケット写真モデルなど、昔からいろいろ手伝ってくれているあずもん(浅利梓)。アーティスト写真に写っている3人と合わせて、7人が出演しています。今回は集大成みたいなアルバムだし、歌詞の内容的にも、本当に気心知れた友達だけに出てほしいなと思って」
――「“久しぶり”なんて言うなよ」「“お疲れ様”なんて言うなよ」というくだりがいいですね。大人びた言葉に急によそよそしさを感じてしまうというやつ。
 「寂しいですよね。“そんなの昔、言わなかったじゃん”っていうのが最近多くて」
――悪友たちと盛り上がるのが「いつもの悪口で」というのもリアリティがあって好きです。
 「安い居酒屋でまわりのバンドの悪口ばかり言ってますからね(笑)。全員嫌いなんじゃないかっていうぐらい嫌いですね。早く抜け出したいです」
――(笑)。どっち方向に抜け出すかですね。
 「お茶の間に行きたいですね。ライヴハウスに行ったこともないような、普通のおばさんとかに聴いてほしいです」
――言われてみるとそうなり得る音楽かもしれないですね。
 「映画主題歌とかCMとか、どんどんやっていきたいです」
――お会いする前はもっとのんびりした印象を抱いていましたが、アルバムを聴いてお話をうかがって、実はギリギリ感の人なんだなと納得しました。
 「ちゃんとインタビューしていただくのは今日が初めてで、今まではあまりしゃべる機会がなかったので、穏やかな人だと思われがちなんです。ライヴに来てもらうとMCで人間性がバレたりして、お客さんから“そんな人だと思わなかった”ってよく言われます。今後はもっとダークサイドを表に出していきたいです」
――今後のことは少し、考えていますか?
  「決めかねています(笑)。このアルバムを出してどういう反響があるのか、まったく予想ができなくて。半年間これにかかりっきりだったので新曲も溜まっているし、やりたいことはいろいろあるんですけどね。がつぽんずは必ず、新曲を出すたびに新しい出会いがあるんです。他力本願ですけど、今回もそれに賭けているところはあります。アルバムを出した後、いったい誰が興味を持ってくれるのか。どんなお誘いがきても対応できるだけの手札は揃っている、という状況です」
――名刺代わりのものはできたわけですものね。
 「ようやく配り歩けるものができました。今回収録した7曲は全然毛色が違うので、どれが誰に刺さるのか、ワクワクしています」
取材・文/高岡洋詞
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