出自はノイズ、その仲間への嫌がらせとしてポップを作り始めた――会心の一作『アート・エンジェルズ』への道程

グライムス   2016/02/08掲載
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Grimes 'Art Angels'
 グライムス(Grimes)ことクレア・バウチャーにとって、2015年はさらなる飛躍の年だった。シンセ・ポップやカントリーやJ-POPやヒップホップやオルタナなどがごちゃ混ぜになった音楽性はそのままに、メインストリームのポップ・ミュージックにも対抗しうるクリアでパワフルなプロダクションへと跳躍した最新作『アート・エンジェルズ』は、欧米の主要な音楽メディアの年間ベスト上位を総なめ。これまではそのスキゾフレニックな音楽性と端正なルックスから“ポスト・インターネット世代のポスター・ガール”と称されていたが、今まさに彼女はインディ界のカルト・ヒーローからより大きな世界へと飛び出そうとしている。
 以下の対話でもクレアが吐露しているように、新作のクリーンなプロダクションはセルアウトと反感を買う恐れもあっただろう。だが、結果として『アート・エンジェルズ』は、ただのポップと呼ぶには奇妙すぎて、アングラの実験音楽というレッテルを貼るにはポップすぎるという、グライムスの希有な個性を一層浮き彫りにすることとなった。その意味において、これはグライムスの本来的な資質をもっとも明快に体現したアルバムだと言っていいだろう。『アート・エンジェルス』のワールド・ツアーで来日中のクレアに話を訊いた。
――『アート・エンジェルス』は、さまざまな音楽メディアで2015年の年間ベスト・アルバム上位にランクインするなど、大絶賛で迎えられましたね。
 「でも、じつは本当にひどい反応が返ってくるんじゃないかって思ってた。これで私のキャリアも終わり! っていうくらい。そうならなかったから、よかったんだけど」
――なんでそんなふうに思ってたんですか?
 「今回は“しょぼいんだけどそこがチャーミング”みたいなものは絶対に作りたくなくて。自分は本物のミュージシャンだってことを証明したかったから、この3年間は技術を磨いてサウンドを洗練させてきた。けど、それは“グライムスはローファイな音楽をやっているナイーヴなミュージシャンだから好き”っていうこれまでのリスナーの期待を裏切ることになる。だからファンが離れていくんじゃないかって」
――キャリアのこのタイミングで、自分が本物のミュージシャンだと証明したかった理由は?
 「もっとプロのプロデューサーと一緒にやった方がいい、と周りから言われ続けたことがいちばんの理由。グライムスはプロデューサーじゃない、っていう疑念を一掃したかったの。私のプロデューサーとしていちばん相応しいのは私だし、自分が主役なんだってことをみんなにわからせたかった。男性のプロデューサーと同じように(音楽性だけで)評価されたかったっていうか」
――このアルバムは、自分自身のアートを貫くんだというあなたの意志と周囲のノイズの間に起こるテンションがパワーになっているところがあるので、とても張り詰めた感覚があります。と同時に、ある種の脆さや人間的なエモーションも感じられる。それは、本作のインスピレーションになったというスマッシング・パンプキンズ『メロンコリーそして終りのない悲しみ』トゥール『アニマ』にも通じるところがあると思いますが、そこはどう捉えていますか?
 「ああいうサウンドって、ニュー・メタルほどあからさまに強烈じゃないでしょ? 本能的には張り詰めた感じなんだけど、エモーションの部分では脆い部分がある。実際、私はそういう音楽を作りたいって思ってた。ただ、トゥールとかスマッシング・パンプキンズって、かなり若いときに聴いてた音楽だから、無意識のうちに影響を受けていたところもあるんだけど」
――では、そういった90年代のアグレッシヴなロック以外で、『アート・エンジェルズ』をインスパイアした作品を教えてください。
 「そうね……曲ごとにいろいろあるから、名前を挙げていくのが大変(笑)。〈BELLY OF THE BEAT〉はエルヴィス・プレスリードリー・パートンケイト・ブッシュの歌い方に影響されたし、クイーンスパイス・ガールズに影響された曲もある。サウンド面では、きゃりーぱみゅぱみゅがインスピレーションになっている曲もあるしね。彼女の甲高い声と中田(ヤスタカ)のガリッとしたサウンドの対比に、すごく影響されたの。でも、具体的にこの曲ではこれを使おうって考えながらやってるわけじゃない。私の音楽の作り方って、ものすごくいろんな音楽を聴いて聴いて聴き続けて、それを一旦止めて、すべて忘れたら、作るときにもっと全体的なイメージを思い返してみるの。ピカソと一緒ね。すべてを吸収してから、それを全部忘れるやり方だから」
――今あなたが話してくれたとおり、グライムスの音楽にはさまざまな時代やジャンルのサウンドが詰め込まれています。それはいわゆる“ポスト・インターネット”という世代的なものだと説明するジャーナリストもいますよね。ただ、一方で、それはあなた個人の資質が大いに関係しているようにも感じます。自分としては、どちらの捉え方のほうがよりしっくりきますか?
 「世代的なこともあるとは思う。私の友だちにも、いろんなものをごっちゃにして混乱してるような人が多いから(笑)。ただひとつ思うのは、私がバンクーバーで育ったことが影響しているんじゃないかってこと。バンクーバーって、いろんな人種が集まっていて、マルチカルチュラルな土地なの。私は寮制のパブリック・スクールに通っていたんだけど、絵を描いたり演技をしたりするような子たちが世界中から集まるようなところで。クラスの半分くらいは中国人、韓国人、日本人。アフリカから来てる子もいたし、英語ネイティヴの子は30%くらいしかいなかった。それで小さい頃から、何でもありのクレイジーな状況を当たり前に捉えていたところがあると思う」
――なるほど。それにしても、今の時代、メインストリームのポップ・アイコンはたくさんいますし、アンダーグラウンドのヒーローも無数にいます。でも、あなたのように、そのどちらでもありながら、どちらでもないようなアーティストはなかなか見当たりません。そのように、簡単にはカテゴライズできず、ある意味ではミステリアスな存在であることは、あなたが目指すところではあるのでしょうか?
 「私の出自はノイズのシーンなの。で、その仲間への嫌がらせとしてポップを作り始めた(笑)。実験性やアンダーグラウンドな資質っていうのは、ずっと自分の中にあるんだと思う。だから、完全にポップ・スター的な存在になることは絶対にない。私はオルタナを聴いて育ってきて、その後にポップを発見した。ポップについて本当に深く知ってるわけじゃないし、自分にとっては新しいもの。だから宙ぶらりんな感じは自然に出てくるんだと思う。けど、もちろん意図的な部分もある。デヴィッド・ボウイとかレディオヘッドって、ポップなところにも繋がってるけど、やっぱり変なものを作っているでしょ? 私も彼らみたいに、ある種のカルト的な部分でみんなに受け入れられるものを作っていきたいって思ってるの」
取材・文 / 小林祥晴(2016年1月)
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