カヴァー・アルバム『だれそかれそ』 ハナレグミ インタビュー

ハナレグミ   2013/05/24掲載
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 5thアルバム『オアシス』から1年8ヵ月。ハナレグミから初のカヴァー・アルバム『だれそかれそ』が届けられた。今作は、サントリー「角ハイボール」のCMソングとしてお馴染み「ウイスキーが、お好きでしょ」をはじめ、「Hello,my friend」(松任谷由実)、「いっそセレナーデ」(井上陽水)、「ラブリー」(小沢健二)、「エイリアンズ」(キリンジ)、「多摩蘭坂」(RCサクセション)など、ジャンルや時代を越え不朽の輝きを放ち続ける名曲の数々に、ハナレグミが持ち前の情感ほとばしる歌声で新たな息吹を注ぎ込んだ極上のカヴァー集だ。2002年の活動開始時より、思いの向くままお気に入りの楽曲をカヴァーするなど、オリジナル楽曲と分け隔てることなく、ごくごく自然なスタンスでカヴァー曲と向き合ってきたハナレグミ。そんな彼がなぜこのタイミングでカヴァー・アルバムを制作するに至ったのか、また今作のレコーディングを通じて改めて感じることとなった歌と自分との距離感とは――。ハナレグミに話を訊いた。
――今回どういう流れでカヴァー・アルバムを作ることになったんですか。
 「ずっと前からカヴァー・アルバムを出さないかという話はあったんだよね。でも、あまりピンときてなくて。音源として形に残すんじゃなくて、ライヴの現場で思いつくままに好きな歌をカヴァーするというのが自分の中でしっくりきてたから。ただ(前作の)『オアシス』を出した後、次の作品に向かう中で1回、これまでとは違うアイディアで作品を作ってみるのもおもしろいのかなと思ったんだ。そう考えたとき、今だったらカヴァー・アルバムを作れるんじゃないかと思って。あとはスカパラの3人と一緒に〈ウイスキーが、お好きでしょ〉を録ったのも大きかったかな。あのCMレコーディングがきっかけになって、ゆっくり時間をかけながらカヴァーを録っていこうと思って。それで1ヵ月に3曲ぐらいのペースでぼちぼち録り始めたんだよね」
――選曲はどんな感じで進めていったんですか?
 「基本的にはそのとき自分が歌いたい曲。ライヴでも事前に用意するというよりも、今の自分のフィーリングにマッチする曲を歌うことが多かったから。久しぶりに歌った曲が半分くらいあるのかな。たとえば〈プカプカ〉なんかは学生のときによく歌ってた曲だし、キリンジの〈エイリアンズ〉はすごく昔に、1回だけやったことがあるぐらいで。あとは小さい頃に口ずさんでた曲とかね。それこそ〈いっそセレナーデ〉とかは、幼少期の記憶を呼び戻されるような曲で。架空の東京を舞台に繰り広げられる大人の恋の歌というか。“こんな世界があるんだ”ってドキドキしながら聴いてた(笑)。小学校の頃は、安全地帯の曲とか、ちょっと大人の匂いがする音楽が好きだったんだよね。それで、勝手に妄想を膨らませて(笑)」
――たしか、中学時代に教室で安全地帯の「ワインレッドの心」をアカペラで歌ってたんですよね(笑)。
 「何かのタイミングで調子に乗って歌ったんだろうね(笑)。そうしたら先生が褒めてくれて。それ以来、授業が早めに終わったりすると、“永積、歌ってよ”みたいな感じになって」
――そこがシンガーとしての原点というか。
 「そうかも。今とやってることが全然変わってないんだけど(笑)」
――さらにルーツを遡ると、初めてグッときた曲は、家族旅行の帰りに車の中で聴いたビリーバンバンの「いちご白書をもう一度」だったんですよね。
 「そうそう。なんとも言えない気持ちになって。この音楽にどっぷり浸ってみたいって感覚をそのときはじめて味わったんだよね」
――「この世界の住人になりたい」みたいな?
 「そう! ほんとそんな感じ。その感覚が今までずっと続いてる気がするな。カヴァー曲を歌うときって、その歌の世界観に、いかにして自分が気持ちよくハマれるかっていうのがいちばん大事で。アレンジをカッコよくするとか、そういうことは他の人がやってるし、俺がやることじゃないなって今回のレコーディングで改めて思って。その曲が持ってる世界観にとことん入り込んで歌う。カヴァー・アルバムって、メロディも歌詞も自分が書いたものじゃないから、いろんな景色がそこに生まれるわけで、それを自分の歌声が真ん中で繋げていくような感じになればいいなと思ったんだよね。実際、完成したアルバムを通して聴いてみたら、すごく自分の色が出てるなと思ったし。物心ついて歌い始めてから今に至るまでの自分のサウンドトラックみたいな作品になったんじゃないかって」
――ある意味、原点回帰的な作業でもあった?
 「そうだね。今回のレコーディングで自分の音楽的なルーツを再認識したところもあって。いちリスナーとして聴いていた曲はもちろん、たとえば小沢健二さんの〈ラブリー〉とかキリンジの〈エイリアンズ〉は、より意識的に音楽を聴きはじめたSUPER BUTTER DOG以降の自分とも繋がってるし。ここで歌ってる曲って、一見バラバラだけど、自分の中では全部繋がってるんだよ。歌を聴いてグッとくる感覚って子供の頃からずっと変わってないから」
――要するに、いちリスナーだった頃と変わらず、プロ・ミュージシャンとして活動をスタートしてからも常に変わらず大好きな曲にときめき続けてきたっていう。
 「もちろん今もときめき続けてるしね(笑)。今回のアルバムには入れなかったけど、それこそ少女時代とか安室ちゃんの曲も大好きでよく口ずさんでるし。いつでも、好きな曲を深く考えず“好きだ”って言える自分でいたいなと思うんだよね」
――それこそジャンルに関係なく。
 「うん。今回、松任谷由実さんの〈Hello,my friend〉を歌ったんだけど、あの曲も、実は4、5年前、テレビの歌番組でアイドルの子が歌ってるのを偶然聴いて、めちゃくちゃいい曲だなと思って。原曲はもちろん知ってたんだけど、その子がカヴァーしてる〈Hello,my friend〉がすごく良くて、自分でも歌いたいと思ったんだよ」
――そういうパターンって結構あるんですか?
 「あるある。今回のアルバムでいうとTHE BOOMの〈中央線〉もそう。この曲は高校時代の同級生がバンドでカヴァーしてて。そいつが歌う〈中央線〉が大好きで。ずっと、その友達が歌ってる〈中央線〉が自分の中ではオリジナル・ヴァージョンだったんだよね。のちのちTHE BOOMの原曲を聴いたときも、しばらくの間、若干違和感があって(笑)」
――ははははは。
 「誰かが歌う誰かの歌にグッとくることとか俺の場合、結構多くて。あと車に乗ってるとき、偶然、ラジオから流れてきた曲があまりにも良すぎて“ちくしょ〜”みたいな気持ちになるときもあるし(笑)」
――グッとくる曲の傾向って、なんとなくあったりするんですか。
 「悲しい曲にグッとくることが多いかな。そういう曲って、実際歌ってみたときに、すごく気持ちがいい。悲しい曲って、自分の中ですごく“鳴る”んだよね。身体の中が感動でいっぱいになるっていうか。歌ってて、すごく、じわじわくる。でも、悲しい歌だからといって決してネガティヴな気持ちにはならない。むしろ胸がキュンとして、すごく自由な気持ちになれる。もちろん楽しい曲を歌って“イエーイ!”って気持ちになることもあるし、それはそれで楽しんだけど、なんかこう、悲しい曲を歌ってるときのほうが、自分自身と向き合えるような気がして。特にカヴァーって、自分に向けて歌えてるときが、いちばん気持ちいいんだよね。自分が作るオリジナル曲に関しても、基本的には自分自身に向けて歌ってるような曲が多いから、そういう曲が本能的に好きなんだろうね」
――今回のアルバムで、いざ自分で歌ってみて新しい発見があった曲はありますか?
 「曲ごとにいろんな発見があったんだけど、いちばんおもしろいなと思ったのは〈エイリアンズ〉の歌詞。いざ歌ってみたら、それまで自分が解釈していたのとは違う歌詞の世界が浮かび上がってきて。ずっと、行き場のない恋人たちの寄る辺ない気持ちみたいなものを歌った曲だと思ってたんだけど、あの曲の歌詞には、どこか自分の原風景みたいなものが描かれてるような気がしたんだよ。歌ってる最中に、都会と田舎のはざまにある町の景色が浮かんできて。僕は東京の郊外でずっと育ってきたんだけど、あの曲の歌詞で描かれてる“公団”とか“バイパス”がある風景って、まさに自分がずっと見てきた風景なんじゃないかと思った。田んぼの真ん中にインターチェンジがあったり、昔ながらの風景と近代的な建物が混在してる感じって、よくよく考えたらすごく不思議な風景なのかなとか思ったり。なんかディレイがぐわーんってかかってる中で、ささやかに生活してる感じっていうか。しかも、その風景って実はたくさんの人たちが共有してるんじゃないかと思って」
――目一杯ディレイをかけたエレキギターの弾き語りっていう「エイリアンズ」のサイケなアレンジは、そのイメージにインスパイアされたわけですか。
 「そう。思い切りディレイをかけて飛ばしてみようって。アイディアが閃いてから20分くらいで一気にレコーディングしたんだけど、あのテイクが録れたときは自分でも感動した。曲の世界に没入しまくったね(笑)」
――参加メンバーでいえば、LITTLE TEMPO土生“Tico”剛さん、市原“Icchie”大資さん、市原“YOSSY”貴子さんとか、レゲエ / スカ周辺のアーティストとの共演も新鮮で。たとえば土生さんとか今まで人脈的に割と近いところにいたと思うんですが。
 「そうだね。土生さんとは、ずっと一緒にやりたいと思ってたんだけど、一方的に怖いイメージを持ってて(笑)。軽い気持ちで“やりたいっす!”みたいなことを言えない雰囲気があったから。でも、ここ数年で、何度か一緒に飲む機会があって、今回、RCサクセションの〈多摩蘭坂〉をやりたいなと思ったとき、絶対、土生さんに入ってほしいなと思ったんだよね。IcchieさんとYOSSYさんとも今回初めて一緒にやらせてもらったんだけど、すごい才能を持ったアーティストだなと思った。音の気配がすごいんだよ」
――音の気配?
 「毎回、聴くたびごとにプレイが変わってる印象を受ける。そういう演奏が自分は大好きなんだよね。すごく生き生きしてるんだけど、それでいて、勢いだけじゃなく、ちゃんと細かいところまで考えられてて。そういうプレイができる人ってそんなにいないから一緒にやってて、すごく刺激を受けた。そういう意味で今回のレコーディングは出会いにも恵まれたなと思う」
――いざ、カヴァー・アルバムを作ってみて、自分の中で何か変化はありましたか?
 「自分以外の人が紡いだ言葉やメロディを歌うことで、いろんなことを再確認できたし、このカヴァー・アルバムを完成させたことで早く次の作品を作りたくなった。それって自分としては、すごく珍しいことなんだけど。いつもアルバム1枚作ると真っ白になって、しばらく何もしたくなっちゃうんだけど(笑)」
――創作意欲が刺激された?
 「うん。改めて思ったんだけど、カヴァーだからこそ到達できる世界っていうのがあって。自分の言葉とメロディだとあまりにも“自分”すぎて一歩踏み込めないこととかあるんだけど、カヴァーは、そういうことを意識せず、歌の世界に無心で浸れるところがあって。自分の身体から生まれたメロディや言葉じゃないからこそ、ほどよい距離感を保てるのかもしれないね。今回、その感覚を再認識できたことで、これから作る自分の曲にも何かしらの影響が生まれてくると思う」
取材・文 / 望月 哲(2013年5月)
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