半美子、今こそ“心のふるさと”に帰ろう、半美子初のカヴァー・アルバム

半崎美子   2020/12/09掲載
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 シンガー・ソングライター、半美子が初のカヴァー・アルバム『うた弁 COVER』をリリースする。(北海道からの)上京20年を記念して制作された本作には、彼女自身の半生が色濃く反映されている同時に、聴き手の心に“故郷”“両親”という言葉に象徴される、ノスタルジックな思いを届けてくれるはずだ。
 せっかく入った大学を辞め、音楽活動をするために故郷・札幌から単身で状況したのは、19歳のとき。音楽業界へのツテなどまったくなく、パン屋で住み込みで働きながら(!)、わずかな時間を使ってデモ音源を作り、レコード会社や事務所に送り、クラブで歌うという生活を続けてきた彼女はその後、“全国各地のショッピングモールで歌う”という独自の活動へと至る。
 生きることの美しさ、厳しさ、悲しさ、素晴らしさを反映した歌は、その場に居合わせた人たちの心を捉え、涙を誘い、サイン会を通した対話のなかで“1対1”で関係を作り上げた彼女は、2017年にメジャー・デビュー。リスナーに寄り添い、語り掛けるような歌の魅力、そして、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』をはじめ、多くのメディアに取り上げられた。
 メジャー1stミニ・アルバム『うた弁』がロング・ヒットを記録し、日本有線大賞新人賞を受賞。2018年に東京国際フォーラムでのライヴを成功させ、天童よしみに提供した「大阪恋時雨」が2019年のNHK紅白歌合戦で歌われるなど、活動の幅を広げている半美子。たった一人で東京に来て、まったく何もないところから現在の状況を作り上げた彼女にとって、“上京から20年”というタイミングはとても大きな節目なのだと思う。
半美子
 今年3月にリリースされたシングル「布石」にも、東京に来てからの20年の日々、そのなかで得た体験や感情が強く映し出されている。何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。失敗を重ね、ときに落ち込み、後悔しながらでも続けてきたことは、かならずあなたの強さになる――そんな思いを込めた歌は、先が見えないコロナ禍を生きる我々の心をしっかりと支えてくれるはずだ(上京当時の生活をモチーフにしたMVに対しても、「半美子は、涙を心の汗に変えれる人。心の奥底まで届くのは、人にずっと、寄り添う 言葉を知っているから」「新型コロナで沈みがちな心に勇気を有り難う!心に沁みました」といったコメントが並んでいる)。また、亀田誠治のプロデュースによる、生楽器の響きを活かしたアレンジも絶品。目の前の人に語り掛けるような彼女の歌には、やはり演奏者の息づかいが伝わるようなサウンドがよく似合う。
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 『うた弁 COVER』は、“上京20年”を踏まえ、“故郷”“青春”をテーマに制作されたカヴァー・アルバム。幼少期、音楽に目覚めた頃の楽曲を中心にセレクトされ(選曲監修は音楽評論家の富澤一誠)、シンガー・ソングライターとしてのルーツを実感できる作品に仕上がっている。本作に対して彼女は、「故郷を離れる前と、故郷を離れた後、両方の日々の中にまるで歌碑のように心に刻まれている歌があります。 帰りたくても帰れないそんな時、心の故郷に帰ることができたのは、歌が傍らにいてくれたからです」とコメント。この言葉からは、彼女自身も“歌”に支えられたきたことがはっきりとわかる。歌の持つ力を知り尽くし、信じていることも、彼女の歌声がこんなにも心に響く理由だろう。
 『うた弁 COVER』は、故郷に向かう最終列車を描いた中島みゆきの「ホームにて」からはじまる。さらに、都会の夜景を洒脱なサウンドとともに映し出すスタンダード・ナンバー「黄昏のビギン」(作詞:永 六輔 作曲:中村八大)、かつての恋を懐かしむ「さくらんぼの実る頃」(シャンソンの名曲に加藤登紀子が訳詞を付けた楽曲)が重なり、“故郷”“青春”というテーマを深めていく。武部聡志による編曲も素晴らしい。ジャズ、ラテンのテイストを取り入れた「いい日旅立ち」(山口百恵)、アコーディオンの響きを活かし、アストル・ピアソラのタンゴを想起させるサウンドを施した「異邦人」(久保田早紀))ど、ボサ・ノヴァの雰囲気をまとい、心地よいサウダージを生み出す「あの日にかえりたい」(荒井由実)。原曲の魅力を維持したまま、新たな表情を感じさせてくれるアレンジもまた、本作の大きな魅力だろう。
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 また、半美子の「永遠の絆」のセルフカヴァーも収録。2009年の2ndミニ・アルバム『飾らないアイ』に収録されたこの曲は、親への思いを真っ直ぐに綴ったミディアム・バラード。独り立ちして10年が経ち、確実に老いていく両親に対し、“そのままでいてほしい”と願う「永遠の絆」は、親にも気軽に会えない2020年において、さらに大きな意義を感じさせる楽曲として響く。アコースティック・ギター、ピアノを中心にした温かいサウンドと、まるで手紙を読むようなヴォーカルも心に残る。
 昭和の名曲を中心に、シンガーとしての奥深い魅力を示した『うた弁 COVER』。聴き手の心に寄り添い、青春の日々や故郷の思い出を蘇らせてくれる本作は、半美子の歌の力をさらに強く印象づけるはず。帰省もままならない2020年の年末、じっくりと浸りたい作品だ。
文/森 朋之
撮影/品田裕美
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