生への渇望感みたいなもの――映画『グラスホッパー』挿入歌をジョン・スペンサーが語る

ジョン・スペンサー   2015/10/05掲載
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世界有数の人口過密都市・渋谷を舞台に、飽和状態に達した人間の凶悪さを生々しく描いて、累計140万部を突破した伊坂幸太郎の大ヒット小説『グラスホッパー』。孤独な男たちの運命が交錯する人間ドラマであり、二転三転の巻き込まれ型サスペンス要素も備えたこの“最強エンタテインメント”が、ついに映画化された(11月7日公開)。主演は生田斗真浅野忠信山田涼介。さらに劇中で流れる挿入歌「Don't Wanna Live Like The Dead」を、あのジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(JSBX)が書き下ろしている。言わずと知れた、ニューヨークのオルタナティヴ・シーンを代表するガレージ・ブルース・バンド。ただし今回はセルフ名義ではなく、登場人物の1人が信奉する架空のアーティスト“ジャック・クリスピン”の楽曲という設定だ。原作者の熱いラブ・コールを受けて実現したという夢の取り合わせ。フロントマンのジョン・スペンサーに、この曲に込めた思いを聞いた。
――書き下ろしの劇中歌「Don't Wanna Live Like The Dead」。ミドルテンポのリズムにしっかりタメを利かせた、非常に力強いブルース・ロック・ナンバーに仕上がっていますね。ノイジーな音色と気怠い雰囲気が、本作のテーマと深くリンクしているように感じました。
「ありがとう! そう感じてもらえたのなら、すごく光栄だよ」
――原作者の伊坂幸太郎さんは、日本でもっとも評価の高いミステリー作家の1人で、JSBXの熱烈なファンとしても知られています。今回のコラボも伊坂さんたっての希望だったそうですが、オファーを受けたときはどんな気持ちでしたか?
「率直に言って嬉しかったよ。残念ながら原作小説の方は、英語の翻訳が出ていなかったので未読なんだけど、プロットを説明されてぜひやってみたいと思った。まず第一に“実在しないロック・グループの楽曲を書き下ろす”という発想が刺激的じゃない? これまでもJSBXではいくつかの映画やTVドラマ用に音楽を提供してきたけれど、自分以外の誰かになりきって作業をした経験はなかったし。これが『スター・ウォーズ』や『風と共に去りぬ』みたいな超大作のスコア依頼だったら迷ったかもしれないけれど(笑)、世界観も自分に合ってると思えたのでね。チャレンジングな仕事だからやってみようと」
――実際の作業はどのように進めたんですか?
「まず最初に、曲が流れる該当シーンの短い映像を見せてもらった。ナイフ使いの若い殺し屋(注: 山田涼介演じる“蝉”)とその相棒で依頼主の中年男(注: 村上 淳演じる“岩西”)が、事務所でやりとりするシーンだね。製作チームはそれに加えて、物語全体の詳しい内容と、その場面が果たす役割、殺し屋と相棒の関係性なども送ってくれていて。それをもとに曲と歌詞のイメージを膨らませていったんだ」
――ちょっと意外でした。じゃあレコーディングの段階では映画の全体像はまだ見えていなかったと。
「うん。ただ、日本側のチームからは“心に孤独を抱えた若い殺し屋とその相棒の、一風変わった友情を表現した楽曲”という具体的なサジェスチョンももらえていたし。題名やテンポなども含めて求められているイメージが明確だったから、心配はほとんどなかったね」
――ジャム・セッション的要素を強く感じさせるJSBXのアルバムとは、かなり違ったアプローチですね。
「そうだね。JSBXで曲を作る際は、とにかくメンバーの3人が面白いと感じたテーマなりモチーフを、片っ端からどんどんブチ込んでいくんだ。でも劇中歌というのは、いわば物語をより効果的に見せるための、1つの道具。当然そこにはオリジナルとは違った制約が生じる。例えばタイトルの方向性。または歌詞と登場キャラクターの関連性。アレンジのフィーリングや、演奏時間もそうだよね。レコーディングやミキシングはいつもと同じハーレムのスタジオを使っているけれど、曲作りのアプローチはむしろ真逆。いろんな縛りを考慮しつつ、なおかつ曲としてエキサイティングなものに仕上げるプロセスが、今回のテーマだったよ」
――つまりJSBXではなく、あくまでジャック・クリスピンという架空のアーティストになりきる作業が重要だったと。その意味ではアクター的な仕事だったとも言えそうですね。
「まさにその通り。もちろんサウンドのベースはJSBXだけど、それを踏まえた上で、別のミュージシャンを演じた感覚じゃないかな」
――岩西という殺し屋のエージェントはジャック・クリスピンに心酔していて、「トンネルから飛び出す前こそ気を付けろ」「道を外れた者は犬に喰わせろ」など、ことあるごと彼の名文句を引用します。ハードボイルド風のユーモアが印象的でした。
「世代を超えたあの二人の関係性は興味深いよね。僕自身は“蝉”という殺し屋が固執するシジミの映像に、強いインスピレーションを受けたよ。心に空洞を抱えた彼は、“仕事”を終えた後は必ずシジミを買い求め、その口から出てくる泡を眺める。で、“人間もこんな風に生きてる証拠が目に見えればいいのに”と夢想するんだ。そういう生への渇望感みたいなものは、〈Don't Wanna Live Like The Dead〉というストレートなタイトルだけでなく、ミドルテンポのリズムにも反映されてると思うよ。ちなみに数週間前、初めて完成版の映画を見せてもらったんだ。日本のスタッフがわざわざ僕らのために英語字幕を入れてくれたんだけど、作品全体の中に楽曲を置いてみて、自分のイメージは間違ってなかったと思えたよ」
――なるほど。作品は楽しめましたか?
「もちろん! 僕は日本人じゃないので、この映画に描かれた時代性や社会背景などをどこまで理解できているかは自信がないけれど、それでも観ながら何度も“凄いな”と感心したよ。まずプロット。幾重にもわたるトラップが仕掛けられていて、その中で主人公3人の運命が交錯していくじゃない。緻密な構成がとてもスリリングだよね」
――個人的には、どのキャラクターに心を掴まれました?
「うーん……若きナイフ使いの“蝉”も、ターゲットに自ら死を選ばせるもう1人の殺し屋“鯨”(浅野忠信)も魅力的だけど、やっぱり元教師の“鈴木”(生田斗真)じゃないかな。真っ当な生活者だった彼は、言うなれば巻き込まれ型サスペンスにおける典型的なキャラクターなんだよね。殺されたフィアンセの復讐をするために自ら裏社会に踏み込んでいくわけだけど、物語の全貌を把握してるわけではない。つまり観客と同じ目線でトラップに翻弄され右往左往を繰り返す、アーキタイプ・ロール(元型的役柄)と言ってもいい。だからこそ彼に感情移入することで、観客は日常性を飛びこえて、“もしかしたら自分だってある日突然、同じような目に遭うかもしれないぞ”とストーリーに没入できるんだ。僕みたいに平穏な暮らしを送っているオーディナリー・パーソンはね(笑)」
――映画という表現形式について、ジョンさんは確固とした見方をお持ちなんですね。これまで「音楽」という観点では、どういった作品に影響を受けてきたんですか?
「これまた月並みだけど、真っ先に思い浮かぶのはスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968年)。少年時代に見て、映像と音楽の使い方にぶったまげたよ。サントラのLPも持っていて、文字どおりレコード盤が擦り切れるほど聴いたもんさ。それ以外にも、例えばLAパンク・シーンの勃興を切り取った音楽ドキュメンタリーの傑作『ザ・デクライン』(1981年 / 原題: The Decline of Western Civilization)とか、ロックン・ロール歌手のジェリー・リー・ルイスの生涯を描いた『グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー』(1989年)、あとはティナ・ターナーの自伝的映画『TINA ティナ』(1993年 / 原題: What's Love Got to Do with It)なんかも大好きだよ。他にもたくさんありすぎて、ぜんぶ名前を挙げるのは不可能だけれど(笑)」
――つまり子供の頃から、無意識の部分も含め、映像と音楽の相互関係には強い関心があったと。
「僕らの世代はみんなそうさ。僕が小さかった1970年代の前半には、例えばザ・モンキーズジ・アーチーズみたいなTV用アイドル・ポップ・バンドの番組もいっぱいあったし。『バナナ・スプリッツ』(原題: The Banana Splits Adventure Hour)とか『ドラドラ子猫とチャカチャカ娘』(原題:Josie and the Pussycats)みたいなお子様向けのパッケージ・ショーも何も考えず楽しんでたからね。そういう少年時代の記憶は、有形無形で残ってると思う。もちろん、逆の作用もあるしさ」
――逆の作用と言いますと?
「そういうTVショーって、ファニーな動物のキャラクターがひたすらワイワイ騒ぎながらバンドをやったりして、人畜無害で閉じた世界なわけじゃない。極端に言ってしまえばフェイクな音楽だよね。そういうものが身の周りに溢れていたからこそ、十代の僕はピュアで生々しいサウンドを求めて、パンクとかブルースみたいなリアル・ミュージックにのめり込んでいったと思うんだ」
――激しい反動が、今のJSBXのスタイルをもたらしてくれたと(笑)。そうやって音楽との関わりを伺うと、今回の挿入歌が物語と深いところで結びついた理由もわかるような気がします。ところで今年リリースされたJSBXの最新アルバム『フリーダム・タワー』は、3ピースの荒々しい音にファンク、R&B、ヒップホップなどブラック・ミュージック要素を大胆に採り入れたダンス・ミュージックに仕上がっていました。新たな展開を感じたファンも多かったと思うのですが、今後、新たに挑戦してみたいことは何かありますか?
「現段階では何とも言えないね。今年はずっとアルバムを踏まえた長いライヴ・ツアーを続けていて。7月には日本で〈SUMMER SONIC 2015〉にも参加できたし、秋からはまたヨーロッパ・ツアーが控えている。1つ確かに言えることは、JSBXというのは本質的にライヴ・バンドであり、観客と一緒に楽しむことで次のインスピレーションも沸いてくるってことだね。また日本のオーディエンスと再会できるのを楽しみにしてるよ」
――はい、みんな待っていますので。
「ありがとう!」
取材・文 / 大谷隆之(2015年8月)
映画サイドから「ジャック・クリスピンのイメージは?」と聞かれた時、ジョンスペが好きなので名前を挙げたんですが、まさかジョン・スペンサーさん本人が引き受けてくれるとは。
あまりの嬉しさに、それを知った時、大声出しちゃいました。
――原作・伊坂幸太郎


ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン
Jack Crispin A.K.A. The Jon Spencer Blues Explosion
「don't wanna live like the dead」

E式紙ジャケット仕様 1曲入りCDシングル 600円(税込)
全国のLoppi(ローソン、ミニストップ)、HMVにて12月18日(金)より発売。
10月1日より予約受付開始、商品の受け渡しは12月18日。


クリックすると大きな画像が表示されます
『グラスホッパー』
grasshopper-movie.jp/
2015年11月7日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

[出演]
生田斗真 浅野忠信 山田涼介
麻生久美子 波瑠 菜々緒
村上 淳 宇崎竜童 吉岡秀隆 石橋蓮司


配給: KADOKAWA / 松竹
(C)2015「グラスホッパー」製作委員会
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