ユーミン、じゃがたら、『みんなのうた』…、新作は原曲と違う風景が見えるカヴァー集 KERA

ケラリーノ・サンドロヴィッチ   2021/07/07掲載
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 KERAの新ソロ・アルバム『まるで世界』は、カヴァー集。有頂天時代にチューリップ「心の旅」のカヴァーで知られるようになった彼は、これまで折りに触れカヴァーを発表しており、過去には、悪意や茶化しのために取り上げたものもあるが、今回は正真正銘好きな曲だけを取り上げた。1963年生まれの彼が幼少時に親しんだNHK『みんなのうた』の曲や、青年期に影響を受けたパンク / ニューウェイヴなど、1曲を除きすべて邦楽の全14曲。どの曲にもKERAならではの工夫を凝らしたアレンジが施され、完全に“KERAの曲”として表現されている。「ノスタルジックなものにしたくなかった」という本人の弁どおり、ニューウェイヴ出身らしい攻めの内容だ。
New Album
KERA
『まるで世界』

CDSOL-1972
――お芝居の公演が中止になって時間ができて、予定してなかったアルバムができたということですが、カヴァー・アルバムになったのはなぜでしょう。
「作曲っていつもひとりの作業ですけど、そこをふっ飛ばして誰かと共同作業をしたかったんですよね」
――みんなとお芝居ができない反動で、早く音楽で誰かと一緒にやりたくなった。
「それはあると思います。今はひとりで音楽作る人もいっぱいいますけど、僕は楽典的な知識はないし、コードもよくわからない。ひとりだと効率が悪いし誰か自分のイメージを形にしてくれる人がいないと。あとはカヴァーって、オリジナルを作るのとまた違う脳みそを使うんですよ。演劇で言うと書き下ろしの芝居をやるんじゃなくて、チェーホフとかシェイクスピアとか、海外の翻訳劇や古典劇を脚色してやるのに近い感じがありますね。カヴァーってすなわち編曲するってことだから、その作業がないとただのコピーになっちゃう。どう編曲するかが勝負。戯曲をどう読むか、というのと同様に、すでにある曲と歌詞をどう読むか。自分の中で何を膨らませて何を削るか。原曲と違う風景が見えてこないとカヴァーをやる意味がないと思ってるので。〈心の旅〉のカヴァーで世間的に認知された人間だという自負もある。だからこそ安易なカヴァーは絶対やれない、という思いもありましたね。それに、何年かに一度カヴァーをやると、音楽活動に弾みがつくようなところがあるんです」
――選曲の基準は?
「最初はニューウェイヴ縛りにするとか、『みんなのうた』縛りとか、いろいろ考えたんです。そのほうがキャッチーでわかりやすいから。でもアルバム一枚を作るだけのアイディアが、よし行けるってところまで集まらないんですよ。だったら脈絡なくてもいいからやりたい曲をやろうと」
――「誰も知らない」「クイカイマニマニ」「地球を七回半まわれ」「まるで世界」と、『みんなのうた』の曲が4曲も入ってます。
「それは偶然なんです。ただ僕の中でノベルティ・ソングとかコミック・ソングとかアニメ主題歌と同じような位置づけで、普通に日常で流れていていつのまにか覚えてるみたいな曲が子供の頃から好きで。オリジナルもそういうことを意識して書いていたりもするし。CMソングもそうですけど、3回聴くと忘れられないような曲への愛着みたいなものが自分の中にあるんだと思います。自分が子供の頃の曲をいっぱい入れよう、という意図があったわけじゃないですが、結果的にそうなってますね」
――とはいえ今作でいちばん新しい曲が、別役実が作詞した「まるで世界」の1985年です。有頂天でガンガンやってたころの曲ですね。
「この曲は当時は知らなかったんです。世間ではやってるような曲は聴いてなかったですしね、あの頃は。昨年3月に別役実さんが亡くなって、YouTubeで検索してたら、あ、こんな曲も作詞してるんだって」
――歌詞がちょっと変わってますね。
「完全なる別役節ですね。まさに別役さんの戯曲の世界観です。自分がおかしいんじゃなくて世界がおかしい、というところに帰結するのがとても別役さんぽいなと」
――歌詞に関しては、現時点でご自分が気持ちをこめて歌えるような曲を選んだ?
「そうですね。たとえば〈遠い世界に〉は学生運動の時代、新宿西口フォークゲリラの時代の曲じゃないですか。あの時代は若者たちが社会を変えようとしていた。68年って世界的にそういうことが起こっていた。若者の叛乱みたいな。でも71年ぐらいになるとそれもなくなってきて。当時そのど真ん中で歌っていた五つの赤い風船 / 西岡たかしさんの歌詞って、その後の顛末を知っている今の我々からすると非常にせつないものがありますよね。当事者だった若者たちの多くが、結局は彼ら自身が軽蔑していたような生き方をせざるをえなかった。そうしたことすべてを知っている、彼らにとっては未来人である僕が、当時の若者の思いを歌う、という、ある種の実験でもあるし、当時の彼らに対して捧げるものでもある」
――すごく純粋で清らかな歌詞ですよね。
「うん。信じてないと歌えない歌ですよね」
――「だけど僕たち若者がいる」とか「これが日本だ私の国だ」なんて、なかなか言えないですよね、今では。
「今歌うと非常にシニカルな意味合いを帯びて響いてきますよね。だけど彼らは信じていた。当時は高度経済成長期で、戦後の焼け野原から日本人がシャカリキになってがんばって、東京オリンピックで先進国の仲間入りまでして。でも今のままでは日本はダメになるんじゃないかって“戦争を知らない子供たち”が危機感を持って社会を変えようとした。当然SNSもない時代で、情報も少なく、非常に狭い視野の中で、それでもすごくまっすぐに生きようとした結果だと思うんですよね。そういう、今とは違う状況で作られ歌われた曲を、今あらためて歌う面白さ……“検証する”というと堅苦しいですけど、そういう気持ちもあるんです」
――KERAさんは有頂天のころから、ひねくれていたり物事を斜めから見たりする芸風があったと思うんですが、それがこういうまっすぐな歌を茶化さずに歌えるようになった。ご自分の中で変化があったんでしょうか。
「ある意味あれは戦略でしたから。たとえば僕らより上のリザードのモモヨさんの世代だと、ユーモアが介在する余地がなかなかなかったと思うんです。きわめてシリアスだったし、シリアスでないとメッセージなんか届かない、というムードがあった。数年後にヒカシューやゲルニカみたいな演劇畑の人たちが出てきてちょっと変わったけど、もっと、何を言われてもまともに受け答えしないっていうか、全部受け流して笑いとばしていくようなスタンス――“戦略”っていうと計算づくみたいですけど、“勘”で、そこにはまだ椅子がありそうだなっていう気がしたんですね」
――反発もありました?
「反発も大きかったです。ふざけやがってとか、コミック・バンドとか言われて。でも結局その後何年も何十年も経ってみれば、僕にしろ大槻(ケンヂ)にしろ石野(卓球)にしろ(田口)トモロヲさんにしろ直枝(政広)さんにしろ、生き残ってる人たちがいっぱいいるわけですよ。そういう(才能のある)人たちが集まっていたのがナゴム・レコードだった。閉社して10年ぐらいはナゴムの名前を出すのがイヤだったし、なんでもかんでもナゴムを起点にして自分が語られることに抵抗があった時期もありましたけど、今はむしろ誇りに思える。大槻はもうずいぶん前から自分の衣装に“ナゴム魂”とか刺繍の文字を入れたりしてますけど(笑)。石野が作る曲もナゴム時代と変わらないもんね。機材や楽器がよくなったのと、ちょっとスカしてるだけで(笑)」
KERA
――「中央フリーウェイ」(荒井由実)と「時間よ止まれ」(矢沢永吉)はちょうどKERAさんが少年時代のヒット曲ですね。「中央フリーウェイ」はXTC「Makling Plans For Nigel」を強引にくっつけたアイディアが面白い。
「ユーミンはザ・シンセサイザーズで1回やってるんですけど、イマイチ納得がいってなくて。今回のカヴァー・アルバムは、まったく異なる楽曲のイメージをアレンジ段階で“ネジでくっつける”というコンセプトなんですけど、XTCとユーミンをくっつけたんですね。イントロだけ聴くとXTCが始まったとしか思えないっていう(笑)」
――そういうアイディアって、一緒にやったミュージシャンやスタッフと話し合って決めていくわけですか。それともKERAさんの頭の中に浮かんでくる?
「話し合いまけど、バンドじゃないから、ジャッジするのは僕です。僕がこれでいいやっていうと、それで決まっちゃうんですよ。だから、“ちょっと待って、もうちょっと粘らせて”って言って(笑)ソロはそこが難しいんですけどね。いいも悪いも全部自分で決めなくてはならない。ドクター・ジョンみたいなニューオーリンズのリズムと琉球音階を取り入れる曲はいつかやってみたくて、今回〈時間よ止まれ〉でやってみたらどうだろうと思って。伏見(蛍)君っていういつも一緒にやってくれているギタリストにアイディアを伝えてアレンジをお願いしたら、とてもうまいことやってくれて。とは言っても現場は付け焼き刃なんですよ。プロフェッサー・ロングヘアみたいなピアノ、って言ってもピアニストは畑違いでまったく聴いたことない(笑)。なのでYouTubeで何度か聴いてもらって、その場でこんな感じかってやってるんですけど(笑)」
――でもそこらへんはニューウェイヴ上がりの人って感じがします。フェイクの魅力というか。いい意味で。
「まさにそうなんですよね。ニセモノ味があったほうが面白いし、ホンモノの人たちも面白がってくれる。ヘンテコで面白いと。だから自分流にやっていけばいいと思うんです」
――「LAST TANGO IN JUKU」をカヴァーしたじゃがたらは?
「自分にとっては特別な存在ですね。10代の頃に、高田馬場にあったじゃがたらの事務所の電話番をやってたんです。だからじゃがたらのメンバーとは昔から知り合いで。まあまあひどい人たちだったんですよ(笑)。朝まで飲んで、最後には胸ぐらつかみ合うようなケンカが何組かであって(笑)、しかも誰もお金を持ってない(笑)。独特なバランスの上に成り立っているバンドだったと思います。OTOが入ってからは音楽的には各段に安定したように僕は感じましたが、いい感じでアクセルを踏み始めると、なにかが起こるバンドなんですよね。“さあここで勢いをつけて”って時に(江戸)アケミさんが不調になって1年間休んだりする。それも含めて“ロックな”人たちでしたね」
――そんな強烈な人たちが身近にいたら、いろんな意味で影響を受けそうですね。
「やっぱりね、音楽って人の運命を変えるだけの力があるんですよ、いろんな意味でね。好きで楽しいってだけじゃなくて、自分の人生も音楽によって軌道修正されたという実感がある、一曲一曲がそれだけの力を持っている。軽薄な曲だろうがシリアスな曲だろうが関係なく。植木等で自殺をやめた人も僕は知ってますし」
――最後がショパンの「別れの曲」。
「カヴァー曲たちとの出会いと別れみたいなニュアンスですね。ある楽曲の葬儀に出かけた帰りにボソボソ歌ってるようなイメージ。盛り上がらずに歌うのが難しい曲なんですけど。このアルバムはこの曲を最後に持ってきたかった」
取材・文/小野島 大
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