次世代のレベル・ミュージックを鳴らす注目のバンド、Kidori Kidori

Kidori Kidori    2014/08/21掲載
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 UKロック、スカ、ダブ、アフロビート、ジャズ、プログレなど雑多な音楽的要素を飲み込んだサウンドで注目を集める関西発英詞ロック・バンドKidori Kidori。彼らが前作『El Blanco』から1年ぶりとなる2ndミニ・アルバム『El Blanco 2』を完成させた。音楽に対する貪欲なまでの愛情と現状に対する問題意識をガソリンに熱く燃え滾るようなサウンドをのっけから畳み掛けるように展開する「Zombie Shooting」〜「Mass Murder」、ロック・バンドの四つ打ち化(?)に対する彼らなりの返答ともいうべきポリリズミックな「Come Together」、ラモーンズ meets ビーチボーイズともいうべきポップなガレージ・チューン「99%」、内省的なサウンドで日常の虚無感を音像化した「El Blanco」、そしてラスト・ナンバー「テキーラと熱帯夜」では、はっぴいえんどを彷彿とさせる日本語ロックを披露するなど、今作でも彼らの持ち味ともいえる多様性に富んだサウンドが展開されている。そんなKidori Kidoriのサウンドを一手に担うヴォーカル&ギターのマッシュに自らの音楽遍歴から今後の展望までじっくりと話を訊いた。
――お生まれはイギリスのウェールズなんですよね。
「5歳までウェールズで過ごしました。そこから17歳まで大阪で過ごして、英語が喋れなくなっちゃったんで、取り戻そうと思って、また1年ぐらいイギリスで生活して」
――言語感覚は取り戻せたんですか?
「そうですね。政治とか経済とか込み入った話になると難しいんですけど。向こうにいるときは、どんな音楽が好きかとか、あと、日本の女とイギリスの女はどっちがいいかとか、そんな話ばかりしてましたね」
――最高じゃないですか(笑)。現地で過ごした幼少時の記憶とかありますか?
「毎週教会に通って、その教会で飼ってた馬に乗ってたのをなんとなく覚えてます。あと当時住んでた家に、国の土地と自分の土地を仕切る木製の門みたいなのがあって、隅っこに小さな穴が空いてたんですけど、夏場、夜になると、そこからハリネズミが入ってくるんですよ」
――ハリネズミが(笑)。
「とにかく田舎だったんです(笑)。でも、覚えてるのは、ほんとそれぐらいですね」
――5歳で大阪に戻ってきて、音楽に最初に目覚めたのは幾つぐらいのときですか。
「小学1年生の頃、PUFFYがテレビで“♪カニ食べ行こう”って歌ってるのを観て衝撃を受けて(笑)。それが音楽に興味を持つようになったきっかけですね。そこから日本のチャートを追いかけるようになって、何かのきっかけでブルーハーツが好きになって。そこからブルーハーツが影響を受けた、クラッシュとかラモーンズを聴くようになりました」
――音楽の情報はどうやって入手してたんですか?
「主に雑誌を読んだりして。ブルーハーツのルーツ的な情報は誰かの家でネットで調べて、携帯かなんかにメモを取った記憶がありますね。あと当時、『BECK』って漫画が流行ってたんで、あそこに出てきたアーティストもひととおり聴いて。『BECK』の中にロックスターの逸話をパロってる描写とかがあって、“これ、何々のパロディやん!”とか言いながら読んでる可愛くないガキだったんですけど(笑)」
――ちゃんとネタ元がわかってるっていう。でも、そういう知識があると、より立体的に音楽を楽しめたりしますもんね。
「そうなんです。そんな感じで中学時代は70年代のパンクを中心に昔のロックをいろいろ漁ってたんですけど、15歳か16歳ぐらいの頃、ふと“同時代の音楽も聴かなきゃ”と思って。それで当時流行ってたストロークスとかリバティーンズを聴くようになって。2000年代の頭にガレージ・リバイバルがあったじゃないですか。僕は70年代のパンクが大好きだったから、あのへんのバンドは、とっつき易かったんですよね」
――そのとき、もうバンドはやってたんですか?
「本格的にバンドを組んだのは大学1年のときですね。小学校時代からの幼馴染で今はもう辞めちゃったベース(ンヌゥ)と大学で再会して、同じく幼馴染だったドラムの川元(直樹)に“バンドやらへん?”って声をかけて。もともとはガンダムのプラモデルを作る会合やったんですけど(笑)。ガンプラ仲間が今ではバンド仲間になって」
――ということは、最初に組んだバンドがKidori Kidoriだったんですね。
「そうですね。高校の軽音でコピーバンドみたいなのはやってましたけど、自分が中心になって組んだのは今のバンドが初めてです」
――最初から曲はオリジナルだったんですか?
「はい。ベースがテクニカルな嗜好の持ち主だったので、最初は初期のレッチリみたいな泥臭いミクスチャーバンドをやろうと思ったんですけど、いかんせんドラムが初心者だったんで技術的に難しくて。当時はガレージ・リバイバルの名残があったんで、ヘタクソでも成り立つような風潮があって。だったら勢い重視で、オリジナルから始めちゃおうって」
――歌詞も最初から英語で?
「そうです。このバンドではレベル・ミュージックをやりたかったんで、メッセージ性のある歌詞を歌いたかったんです。でも歌詞を日本語にすると、どこかフォーキーな響きになってしまうというか」
――変に思想性だけが強調されてしまったり。
「意味に寄りすぎちゃう感じがすごく嫌で。もっとメッセージを中立的に音楽で発信したいなと思ったんです。クラッシュとかマヌ・チャオが、まさにそうじゃないですか。ああいうスタイルが理想的だなと思って」
――マヌ・チャオといえば、以前、自分が制作担当したマヌの本についてマッシュくんからコメントを頂いたとき、 「19歳の頃、音楽の師匠に出会った」って書いてありましたけど、それはどういう人だったんですか?
「大学に入ってCDショップで働いてたんですけど、“師匠”はそのお店のレゲエ担当で、とにかくいろんな音楽に詳しい人だったんです。当時は “次に何を聴いたらいいんだろう?”って考えてた時期だったんですけど、その人に相談したら、“レベル・ミュージックが好きやったら、こういうミュージシャンがおるで”ってマヌ・チャオを教えてもらって。それまで、ワールドミュージック的なものに興味を持ったことが一切なかったんですけど、いざ聴いてみたら、めちゃくちゃカッコよくて、“こんな音楽があるんや!”って衝撃を受けて。そこからマヌが携わってるラジオチャンゴ周辺のミュージシャンをディグるようになったり、あとはアフリカやブラジルの音楽とか、ロック以外の音楽もどんどん聴くようになって。師匠と出逢ったことで音楽に対する興味の幅が一気に広がりました」
――Kidori Kidoriのサウンドを物語る上でも重要な出逢いだったわけですね。
「はい。その頃から、自分がカッコいいなと思う音楽の要素をバンドにもどんどん取り入れるようになって。ここ最近は、そこにさりげなく日本っぽい要素を加えるというところに自分なりの美学を感じているんですけど」
――マッシュくんが考える日本っぽさっていうのは具体的にはどんな感じなんでしょう?
「僕、日本のミュージシャンで一番尊敬してるのが細野晴臣さんなんですよ。細野さんの楽曲から伝わってくる感覚が僕の中で一番ドンピシャな日本っぽさなんです。洋楽っぽいサウンドに、民謡や沖縄音楽を自然な形で取り入れていたり、あとはメロディに対する日本語の載せ方だったり、細野さんの音楽からはすごく勉強になる部分がたくさんあって」
――ちなみに細野さんのアルバムだと何が一番好きですか?
「うわ〜、難しいですね……。一番最初に聴いた『HOSONO HOUSE』にも思い入れがあるし、いわゆる“トロピカル3部作”(『トロピカルダンディー』『泰安洋行』『はらいそ』)も大好きだし。最近は『フィルハーモニー』をよく聴いてます。でも、ここ数年のカントリーっぽい作品も好きだし(笑)。時期に関係なく、細野さんが作る音楽はどれも大好きです」
――バリバリの細野チルドレンだったんですね。
「バリバリの細野チルドレンです(笑)。細野さんの表現って、ちょっとしたユーモアもあるじゃないですか。あの姿勢にもすごく影響を受けていて。今回のミニ・アルバムも、シリアスな流れが続いて、最後に〈テキーラと熱帯夜〉っていう、ちょっとトボけた曲で終わるんですけど、これも完全に細野イズムの影響です」
――そうだったんですね(笑)。
「はい(笑)。そんな感じで、ジャンル問わず、いろんな音楽から影響を受けてます」
――Kidori Kidoriのサウンドにはマッシュくんのヘビーリスナーとしての感性が大いに反映されていると思うんですけど、あくまでもキモになってるのは雑多な音楽的要素をいかにして3ピースのバンドフォーマットに落とし込むかというところだと思うんです。
「最近、料理をするようになって思うんですけど、料理と作曲って本当に似てるんですよね。ここでこれを入れると旨いとか。これを入れるとクドいとか。食材や調味料の取捨選択がすごく作曲に似ていて、すごくおもしろいなと思ってるところなんです。ちょっとした工夫で美味しくなったりするし」
――そこで問われてくるのもオリジナルのセンスだと思うんですよね。今はYouTubeが普及したりしていて、やりたい音楽を細部までトレースできるし、料理もクックパッドがあるから真似しようと思えば余裕で真似できちゃうし。
「そうなんですよ! 重要なのは、いかにオリジナルのレシピを追求できるかっていうことで。そういえば、こないだババアが作るかぼちゃの煮つけを初めて作ることができて(笑)。最初クックパッドを見て作ったんですけど、若者の味がするなと思って。僕は、ババアが作るかぼちゃの煮つけが大好きなんで、何度かトライした末に、あの味が出せるようになったときの興奮は本当に凄かったですね」
――アナログ感をいかに出すか、みたいな(笑)。
「“あの時代の空気感”みたいな(笑)。でも重要なのは、単にお手本を真似するだけじゃなくて、あくまでも自分の感覚で再現するっていうことなんですよね」
――自分なりのアレンジが加わってるからこそオリジナリティが生まれるわけだし。
「今回のアルバムでいえば、1曲目の〈Zombie Shooting〉とか、まさにそういう曲で」
――この曲はフェラ・クティの「Zombie」からインスパイアされたんですよね。
「はい。でも、まんまフェラ・クティみたいなことをやってもツマんないなと思って。アフロ・ビートが持っているパワーをいかにして邦楽的なビートで再現できるかというところからスタートして。それプラス、僕らのサウンドってなぜかホラーっぽいって言われることが多いんですけど、だったら〈Zombie〉と引っ掛けて、ホラーっぽいテイストも取り入れたらおもしろいんじゃないかと思って。だったら、ブラック・サバスやなと」
――たしかにサバス感ありますね(笑)。
「フェラ・クティとブラック・サバスを混ぜてしまおうと。それで最後はバッド・レリジョン的な展開で終わるっていう(笑)。いろんな要素がぐちゃぐちゃに混ざってて」
――フェラ・クティにインスパイアされてるんだけど、最終的にまったく違うアウトプットになってるっていう。
「このバンドでは、こういうことがやりたいんですよね。ちなみに2曲目の〈Mass Marder〉では、80年代の商業ロックのテイストを取り入れていて。あの時代って、日本人が洋楽と近かったと思うんですよ。僕らはこんな音楽やってるくせに、邦楽しか聴かない層がお客さんに多いんです。以前から、そういう子たちに洋楽のおもしろさを伝えたいなという気持ちがあって。で、どうすればいいんだろうと思って、たまにリスナーとコミュニケーションを取ったりすると、“お父さんが洋楽好きです”みたいな子が多くて、“この子たちはMTV世代の子供たちなんだ”と思ったんです。この曲をライヴでやるときは、ギターで弾いたフレーズをファンに歌わせるっていう、当時流行っていたことをあえてやってるんです(笑)。あの時代をリアルタイムで体験した世代の人たちからすると、ダサくて仕方ない感じなのかもしれないですけど、僕らの世代からすると別にダサい感じって、それほどなくて」
――完全に一回りした感じがしますよね。
「今の子達にとっては目新しいことになってるというか。この曲はお父さん世代が聴いても懐かしく感じるだろうし、親子で楽しめるような曲になってると思います」
――でも、タイトルは「Mass Murder」で(笑)。
「はははは。そうなんですよね(笑)」
――歌詞の内容も殺伐としたものだし。
「洋楽を聴かない層に英語で歌いかけるっていうのは、歌い手のスキルが必要なのと、やっぱり曲自体の良さが必要だなと思ってて。曲がカッコ良ければ、“どんなこと歌ってるんやろう?”って歌詞を読んでくれるんですよね。以前、原発をテーマに教育のことを見直そうっていう〈NUKE?〉って曲を発表したんです。その曲はYouTubeでも公開されてるんですけど、動画を観た人がツイッターで“こんなシリアスなことを歌ってるバンドだと思わなかった”とかつぶやいていて。それって僕からするとショックではあるけど、反面、こういうことを歌ってる若いバンドもいるんだっていう衝撃を聴き手に与えることもできたんじゃないかと思って」
――あくまでも基本姿勢はレベルで。
「そうです。僕らの曲が何かを考えるきっかけになったら嬉しいなと思いますし、そこで少しでも何かを感じてくれた人をガンガン引きずり込んでいきたいなって。僕は自分たちの音楽を取っ掛かりにして、リスナーにいろんな音楽に興味を持ってもらいたいんですよ。ロックは飽きたからジャズを聴いてみようとか。そういう人たちが増えてくれば、もっとおもしろい音楽が出てきやすい状況が生まれてくると思うんです。僕は25歳のクソガキではあるんですけど、下の世代に音楽のおもしろさを真剣に伝えたいなと思ってるんですよ」
――この春から活動拠点を大阪から東京へ変更、レーベルもヒップランドミュージックに移籍して心機一転、新たな活動がスタートしたわけですが、最後に今後の目標を聞かせてください。
「僕らを応援してくれてる人たちが“応援していて良かった”と思えるような、おもしろい音楽を作り続けていきたいですね。あとは、自分らのおまんまも大事だけど、これから音楽を取り巻く状況がもっと豊かなものになればいいなと思っていて。僕もその時代の音楽は大好きだから、 “70年代の音楽シーンはおもしろかった”って言う人たちの気持ちもわかるんです。でも、今、音楽をやってる身からしたら、やっぱり“今の音楽シーンが一番おもしろい!”って堂々と言えるような状況を自分たちで作らなきゃいけないと思うから」
――他人任せじゃなく、あくまでも自分たちで率先して状況を変えていきたいと思ってるわけですね。
「そうです。近頃のバンドは……っていうと、おっさん臭くなっちゃいますけど(笑)、みんなそれぞれ音楽に対する愛情はあるんでしょうけど、聴いてる音楽の絶対量がリスナーより少ないような人たちも結構いて。正直、ミュージシャンなのにそれって、どうなんだろうって思うんですよ。FRONTIER BACKYARDTGMXさんだったり、僕の周りにいるバンドの先輩方は貪欲に音楽を聴いていて、僕も先輩方の影響でカッコイイ音楽をたくさん教えてもらったんで。そういう姿勢を僕らの世代のバンドが継承できてないのは、すごく残念なことだと思うんです。だとしたら、せめて自分くらいは貪欲に音楽をディグリ続けて、そこで感じた楽しさをいろんな人たちに伝えていきたいなと思っていて。これからもそういう気持ちを持って、活動していきたいですね」
取材・文 / 望月 哲(2014年8月)
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