キノコホテル   2010/08/04掲載
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毛皮のマリーズ
 何をもって、その音楽を和モノというのか。90年代初頭にDJの現場でその言葉が飛び交うようになった時点では、イギリスのレア・グルーヴに倣って、DJプレイ可能な60〜70年代日本産のGSやファンキー・ジャズ、ドラムの教則レコードやテレビ / 映画のサントラなどのレア音源を和モノと総称する共通認識があった。それから20年以上が経ち、日本の音楽史に残されたバック・カタログは相当にディープなところまで掘り進められ、再発化は進行している。ただし、海外とは異なり、コンピレーションやミックスCDの楽曲使用許諾が取りにくいと言われる日本の特殊な音楽事情もあってか、そうした音源を現代的に再解釈、再構成した和モノのコンピレーションやミックスCDはリリースのハードルが依然として高い。しかし、新譜では得られない新しい音楽の響きを求めて、現場のDJたちはレコード / CDショップで過去発表された素晴らしい音楽を掘ってはクラブ・プレイし続けている一方、拡大解釈をすれば、若いミュージシャンが日本の音楽シーンにおける豊かなバック・カタログと出会い、それを今日的な作品に昇華するフレッシュな眼差しやスタンスも捉え方によっては和モノ的と言えなくもないだろう。なかでも、2000年以降のロックンロール・リヴァイヴァルの文脈から村八分裸のラリーズスターリンINUといった伝説的なバンドと出会った毛皮のマリーズ黒猫チェルシーといった若手バンドから聴き取れる2010年代ならではのしなやかなロックンロールにはニュー・ジェネレーションの和モノ観が象徴されているように感じられる。


ROCK THE MIX
片平実(2009年)
 また、シャッフルされた新譜とレアな旧譜を分け隔てなく楽しむ音楽との接し方はアンダーグラウンド・シーンやヘヴィー・リスナーだけでなく、一般のリスナーにも広がりつつある。2006年にJ-POPのみをプレイするべく始まったイベント<日本式>から登場したDJ和は、80年代中後半から現在にいたる王道のJ-POPヒットを高度な技術でつないだプレイが人気を博し、2008年リリースのミックスCD『Jポッパー伝説[DJ和 in No.1J-POP MIX]』ほか3作のミックスCDをリリース。また、94年からロック・イベント「Getting Better」を行っているDJの片平実は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONくるりの楽曲を用いたミックスCD『ROCK THE MIX』を2009年1月にリリースしており、彼ら以外でもこの種のミックスCDやコンピレーションは増加傾向にある。今の10、20代のリスナーにとっては、もはや90年代のJ-POPも、掘って発見する対象になりつつあるということなのだろう。


PRIVATE LESSON IN CONTROL
コロムビア編
ECD(2005年)
 その一方では、カッティング・エッジなシーンにおけるディープな発掘や探求も依然として行われている。2005年にはラッパーのECDが2枚のコンピレーション『PRIVATE LESSON IN CONTROL』をリリース。ちあきなおみ「海のそばで殺された夢」やザ・ピーナッツ「エピタフ」など、KING RECORDとコロムビアに残された70年代の楽曲を軸に、時代を横断した選曲で現出するチル・アウトなサウンドスケープはリスナーの想像力を気持ちよく解き放ってくれる。また、オールジャンル・ミックスのDJとしては、日本の第一人者であるクボタタケシが2009年にミックスCD『ミックス・シーディー』をリリース。この作品は、フィッシュマンズほか、日本人アーティストの楽曲のみで構成されており、その多くは新しい楽曲だが、布施明「君は薔薇より美しい」ほか、オールドスクールな曲も彼が作り出す流れのなかで効果的に用いられている。


KING OF DIGGIN'
〜DIGGIN' OST〜
やさぐれファンク番外地編
MURO(2010年)
 そして、世界に知られる日本屈指のレコード・ディガー、MUROが2010年1月がミックスCD『KING OF DIGGIN' 〜DIGGIN' OST〜やさぐれファンク番外地編』をリリース。梶芽衣子主演の「野良猫ロック」シリーズほか、70年代日本映画のサウンドトラックからファンキーな楽曲をコンパイルした内容はこれぞ和モノといえる濃厚にしてディープな一枚だ。ただし、こうしたコンピレーションやミックスCDのリリースは、どうしても経験や知識豊富なベテラン・アーティスト / DJやコンパイラーに集中しがちで、若い世代の新しい和モノ観を象徴する決定的な作品リリースはまだまだこれから。個人的にはメロウなギャングスタ・ラップやチカーノ・ラップ、スウィート・ソウルを入口にして、日本のフュージョンやシティ・ポップスに接するようになった横浜のアーティスト集団、Pan Pacific Playaの斬新な解釈性には大きな可能性を感じている次第だ。
文/小野田雄


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