“令和最初の傑作”を読み解く 清 竜人 超ロング・インタビュー

清竜人   2019/06/05掲載
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 清 竜人が7枚目のソロアルバム『REIWA』をリリースしたのは5月1日、令和元年の初日のこと。ミッキー吉野、原田真二、瀬尾一三、井上鑑、星勝と清自身が各々2曲ずつの編曲を手がけ、J-POP/歌謡曲の遺産を三つの元号にわたって継承するという明確なメッセージを込めた“令和最初の傑作”である。
 昨秋、シングル「目が醒めるまで(Duet with 吉澤嘉代子)」リリース時のインタビュー(https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/kiyoshi-ryujin/1000001459)がとても刺激的で楽しく、アルバムのときにまた会えたらいいなと思っていたのだが、ようやく実現。アルバム発売から1か月以上経っているから聴き込んでいる人も多いだろうし、インタビュー記事もすでに複数出ている。極力よそと重ならない内容にしようと頑張ったつもりだが、成否は読んでご判断ください。
 余談だが、取材の2日後に“清 竜人ハーレム♡フェスタ 2019”(新木場STUDIO COAST)を見た。声優やアイドルが多数出演し、清自身のステージはミュージカルばりに展開する極めつけのラブラブ♡アッパー♡ワールド。清 竜人25や清 竜人TOWNで慣れていたはずだが、『REIWA』をガッツリ聴き込んでいた分、ギャップに悶絶した。その振幅を淡々と往来する彼の胆の据わりようにあらためて感服するとともに、記事に出てくる「エンタテインメントとしてのJ-POP」という話を思い出した。今後、何が出てきても驚かないだろう――と書いてはみたが、きっとまた驚くのだと思う。
――4月1日、新元号が発表された瞬間にアルバム・タイトルとジャケットを公開したのは鮮やかなお手際でした。「平成の男」を出した時点でここまでの流れができていたんだな、と思いましたが、背景にはどんな経緯があったんでしょうか。
 「まず、なんとなくのアルバムのコンセプトみたいなものを――まだ全然ふわふわした状態でしたけど――考えていたところに、2019年5月1日改元という報道があったんです。たまたまその時期に新作のリリースを予定していたので、調べてみたら5月1日は水曜日だと。CDの発売は水曜日が多いという音楽業界の慣習と照らし合わせてすごく縁を感じたので、そこに照準を絞ろうという話になりました。新しい元号がタイトルになれば作品としても意味があるし、話題性もあっていいなと思いついたんですが、いつ発表されるかわからないし、時期によっては間に合わないかもしれない。そんな不透明な状況下で“タイトル未定”のままいろいろ動いてたんですけど、今年の初めに4月1日に新元号を発表するという首相談話が出て、4月1日にタイトルを決めて5月1日リリースというスケジュールで間に合うかどうか判断を仰いだところ、ギリいけるということだったので、それでいこうと。経緯としてはそんなところですね。ゴールデンウィーク中の発売だったので、工程だけが唯一の不安材料でした」
――なかなかスリリングですね。懸念はありませんでしたか?
 「ただたんに新元号を令和元年の5月1日に発売されるアルバムのタイトルにするだけだと、アーティストとしてちょっと違うかなとは思ってました。なので、昭和から平成、そして次の時代に向けて、3世代にまたがって活躍する人たちとコラボレーションして、時代に橋渡しをする普遍的なポップスを……という作品のコンセプトとも合致するように、すべてがうまいバランスで成り立つようにプランニングしたつもりではあります。そこがうまく落とし込めないのであれば、この話はナシにしようと。結果、手前味噌ではありますが、美しいバランスでできたのではないかと思ってます。もしかしたら同じようなことを考えている人もいるかな、とは思ったので、最速を目指してスタンバイしておいて、発表されたらすぐにツイートして、アート・ディレクターにすぐデザインしてもらって、すぐニュース出し、という措置をとりました」
――話題性に終始しないように作品内容との整合性を押さえたわけですね。初回限定盤のジャケット写真が葉桜なので、昨年以前に撮影されたのではないか、だったら2年前の段階から計画していたのか、と……。
 「それがじつは違いまして(笑)。たまにご指摘を受けるんですが、河津桜といってちょっと開花の早い品種で、撮影は3月10日ごろだったんですが、その時期でもうこの状態なんです。結果的に時代の変わり目みたいなものも匂わせられたし、印刷に間に合うスケジュールで桜を撮れたので、よかったなと思ってます」
――ジャケットに込めたメッセージはあるんですか?
 「そこまで深い意味を込めたつもりはないんですけど、もちろん作品と否が応でも印象が連動しちゃうので、作品性とこのタイトルと、このアルバムに込めたメッセージみたいなものと並べたときに違和感のないようなヴィジュアルやシチュエーションにはしたいなと思って、アート・ディレクターと相談しながらシーンを作ったという感じですかね」
清 竜人
――葉桜が時代の変わり目を象徴するということに加えて、散った花びらを踏んで立つ竜人さんの横顔にも、前時代の遺産を踏まえて次代を見据える構図なのかな、と思いました。
 「そこまでは考えていませんでしたけど、何か匂いのするものにはしたいね、と話してました」
――僕はまんまと匂いにつられてしまったようです(笑)。内容的には、竜人さん自身を含めて都合6人のアレンジャーが参加しているのに、とても統一感が高い印象を受けました。
 「それぞれ個性の違う楽曲を並べたいなと思う反面、パッケージとしての統一感はある程度帯びさせないとな、というのは、このアルバムだけじゃなく常に心がけていることではあるんです。僕自身が基本的には全曲の歌詞とメロディを作って歌っているので、その時点で悪い意味での差はそこまで出ないようになってるかなと思うのと、プラス、アレンジャーの選定やそれぞれに振り分ける楽曲にはこだわっていて、この楽曲はこの人だからこんなイメージで仕上げてくれるだろう、と――もちろん想定外の部分もありますけど、それもひっくるめた大きなカラーみたいなものは自分の中でシミュレーションしながら作業を進めていきました」
――その具体例を挙げていただくことはできますか?
 「まず僕の好みというか琴線に触れる楽曲だったり音楽性というのがもとにあるんですね。たとえばミッキー吉野さんだと、彼がホーンを絡めてアレンジした曲に好きなものが多いから、ブラス・アレンジが映えるようなメロディ、歌詞のものをお任せしようと。“ちょっとブラスが鳴ってるようなイメージです”ぐらいに軽くお伝えして、そこからコーディネートしていただく、というような作り方ですかね」
――お任せする部分とリクエストする部分とのバランスに気を遣ったんですね。
 「おっしゃるとおりで、そこのバランスはアーティストとしてもプロデューサーとしてもすごく大事だと常々思ってます。自分が関わるべきことと関わらないほうがよいこととの線引きをうまくできるかできないかが、作品としてのトータルなクオリティに直結するかなと思って、慎重に塩梅を測るようにしてますね」
――関わる/関わらないに関して言いますと、星勝さんがアレンジされた「TIME OVER」と「サン・フェルナンドまで連れていって」では竜人さんがピアノを弾いていますね。
 「(笑)。これはですね、希望的観測の部分もあるんですが、星さんが僕のピアノを気に入ってくれて、デモで僕が弾いたのをそのまま使ってくれてるんです。初めてお会いしたときに“大阪のプレイヤーの泥臭さがあって好きだ”みたいなことを言ってくれたんですよ。ものすごく音楽に造詣が深い方がおっしゃることなので、僕には何のことだかよくわかりませんでしたけど(笑)」
――よくわからないと言われているのに恐縮ですが、強いて言えば、星さんはどういうところを大阪っぽいと思ったと想像しますか?
 「どうなんでしょうね……わかんないですけど、緩急や強弱が大げさなところかな(笑)。フォルテはすごいフォルテで弾くし、ピアノもすごいピアノで弾くというような、けっこう大味なピアノだと思うので。自分で弾いてデモを作って、本チャンでほかのピアニストを呼んでそこを弾いてもらうと、やっぱり自分よりタッチがソフトだったりするんですよ。ちょっとこじつけの部分もありますけど、そこに関西の文化を感じたのかもしれないです」
――ご自分がアレンジした2曲のピアノは大谷愛さんが弾いていますよね。これは自分より彼女の演奏が楽曲に合うと判断したから?
 「そうですね。最近はライヴでも自分で楽器を弾くことが減ってきました。弾いたほうが楽曲なりパフォーマンスの点数が上がるんであればもちろん弾きますけど、誰かに弾かせたほうが点数が上がるんだったらそうするというだけで。たとえば〈痛いよ〉という楽曲は、ピアニストに任せて歌うのと、自分で弾き語るのとで、色合いとか雰囲気がまったく違うんですね。俯瞰的な判断をちゃんとすることが大事だと思います。デビューしたころはギターの弾き語りも多かったですし、バンドの中でピアノを弾きながら歌うこともよくあって、それはそれでよかったんですが、ミュージシャンたるもの弾かないとサマにならない、という固定観念というか、ちょっとした見栄みたいな部分もあったんですよね。いまは弾いてもいいし弾かなくてもいい、歌ってもいいし口パクでもいい、という考え方でやってます。大事なのは作品なりプロジェクトなりにとってどっちがいいかであって、その点数をエゴで下げることはしたくないので」
――それは10年のキャリアで培われてきたものなんですかね。
 「それもありますし、単純に練習するのが嫌いっていうのもありますかね(笑)。今回の『REIWA』の作品群を去年の5月ぐらいからライヴでパフォーマンスし始めて、その時期のインタビューで話したりもしたんですが、ハンドマイク+カラオケで歌う人が近年は減ってるけど、そのスタイルが悪いわけではないと思うんですよね。なのに減っていることの背景にはもしかしたら、ミュージシャンは楽器を弾かないとダメだとか、そうしないと観客は喜んでくれないとか、そういう固定観念があるのかもしれないなと。別にそうじゃないのに。カラオケだって質の高いエンタテインメントは作れるし、バンド演奏だからこそ発揮できる魅力もあるし、ケースバイケースで判断すべきなだけで」
――最近MCでもよく話していますが、それもハンドマイク+カラオケスタイルに応じて変わってきたんでしょうか。
 「それもありますし、僕の中ではいろいろ理由があるんです。ひとつは、ミュージシャンがただストイックに演奏して帰るというだけではもう時代にそぐわなくなってきてるんじゃないか、と感じること。もうひとつは、昔は若いミュージシャンがライヴでベラベラと実のない話をするのを聞くのが客として好きじゃなかったんです。だったらその分1曲2曲増やそうっていう発想で、MCなし、もしくは本当に必要最低限のことだけ言うようにしてた時期もありました」
――ミュージシャンももっといろいろな面を見せてエンタテイナーになるべきだ、と?
 「これは僕の肌感で、数値的な根拠があるわけではないんですが、最近、音楽ってエンタテインメントであるはずなのに、どちらかというと音楽の部分にだけフォーカスが当たって、J-POPがある種、専門化してきているような気がするんです。コアな音楽ファンはそれでいいけども、ふだん音楽を聴かないような人たちに“おっ、面白そうだな”と思わせるようなタイプの人が減ってきてるような気がして。そのひとつの要因として、J-POPを音楽としてだけ捉えているミュージシャンが増えてきたことがあるんじゃないかなと分析してるんです」
――ああ、なるほど。
 「もちろんいい音楽を作るのは大事だし、僕もそう心がけてますけど、J-POPって極端な言い方をすると音楽だけで構成されてるもんじゃないと思うんですよ。タレント性やヴィジュアルなど、いろんな要素が総合的にエンタテインメントとしてのJ-POPを作り上げているはずなのに、音楽をブラッシュアップすることだけで成長しようとしてるミュージシャンが増えてる印象があって。それにはそれで理由があると思うんですが、エンタテインメントとしてのJ-POPという感覚でふだんからモノ作りやパフォーマンスを考えるアーティストが増えていくと、縮小してきている音楽シーンを逆に広げる方向に少しずつ持っていけるんじゃないかと。僕もクラシックとかジャズみたいな専門的な分野で活動していればまた違うと思うんですが、やっぱりJ-POPのシーンにいる限りは“いいものを作る”というだけじゃちょっと視野が狭いし、真理を突けていないというか、やるべきことが足りてないという感覚があって。J-POPをもう少し大局観で捉えて、円を広げていく方向に考えを切り替えるべきなんじゃないかな、って思うんです」
――竜人さんが1作ごとに作風をガラリと変えるのも、そういう考え方に基づいているところもあるんですかね。
 「それももちろんあります。さっきもちょっと触れましたけど、いいクオリティの作品を作るのはもちろん大事だけれども、それと両輪で話題性や一般の人たちが食いついてくれる何かを同時に考えるべきで、そのバランスがとれてるのがいいアーティストだと思うんです。そういう意味でちょっとバランスの悪いアーティストが増えてきてる気がするし、僕もそうなりがちなので、ことあるごとに自分を見つめ直して頑張るようにはしてるんですけど。マインドを変えればすぐに理想的なバランスを手に入れられるわけではもちろんないけど、そっちに進んでいけるように努力をしよう、価値観を柔軟にしていこうと考え始めれば、その積み重ねでシーン全体が少しずつ変わっていくのではないかと。なので僕はポジティヴに考えていたいし、そういうアーティストが増えれば10年後、20年後のJ-POPのシーンがもう少し飛躍していくんじゃないかと思ってます」
――すばらしい。シーンや業界のせいにする人もいますが、そのシーンを作っているのは自分自身ですものね。
 「ものすごく微力ながらもシーンの一端を担う者として、責任感も使命感も持ちながら、自分のできることから少しずつ、全体が変わること、大きくなることに貢献したいとは常々思ってます」
――アルバムの話に戻りますが、歌詞は基本的に1曲1曲が独立しつつも、ストーリーとは言えないくらいの非常にうっすらとしたストーリーがあるように聞こえました。
 「今回のアルバムはとくにメロディ重視で作ったので、歌詞はもちろん大事にしてるんですが、どちらかというとメロディ・ラインとサウンドがより豊かに響くような世界観なり情景を描こうとして、そこに歌詞を落とし込んでいってるイメージですね。サウンド先行で、そこにスパイスを振りかけていくような感覚といいますか。なので明確なメッセージがあるわけではないし、絶対に作りたかったシーンがあるとかいうことでもないんです」
――ストーリーをつないでいるのは歌詞よりもメロディやサウンドなのかもしれませんね。面白いなと思ったのが、男言葉で歌っている曲は昔の映画の主人公みたいな古風な男が、わりといい気になって歌っていて(笑)、女言葉の曲がそこに適宜ツッコミを入れているような構図があるなと……。
 「なるほど(笑)。その考え方はなかったですけど、言われてみるとたしかに。面白いですね」
――とくに顕著なのが「Love Letter」と「私は私と浮気をするのよ」の関係なんですけど。女言葉の曲がユーモアの輪郭をはっきりさせてくれるというか。
 「ご意見を踏まえて聴き直してみます(笑)」
――往年の歌謡曲やポップスって、歌い手の人格と歌が直結するのではなく、そこにひとつフィクショナルなものが挟まっているのが肝だと思いますが、『REIWA』ではそこをきっちり押さえているのがさすがだなと感じました。
 「清 竜人25でかなり鍛えられたところがありますね。アーティスト性も音楽性も全然違いますけど、ある種フィクションで世界観を作り込んでいくメソッドは、あそこで確立できたようなところもあって。なので変な苦労はなかったです」
――ただ、竜人さんの歌唱はやっぱり歌謡曲歌手ではなく現代のシンガー・ソングライターのそれなんですよ。そのいい意味での違和感が新鮮です。
 「そこは僕の中でこの作品のミソになってる部分でもあります。歌謡曲世代のヴォーカリストの歌い方まで模倣して歌うと、オマージュあるいはパロディのようなものになってしまって、もともと考えていた温故知新というテーマのむしろ真逆になるので、それは絶対に避けたいと。たぶん、いまおっしゃったように、僕の発声とか歌い回しって現代的だと思うんですね。自然体で自分の歌をうたえば、そこに普遍的なメロディやサウンドが合わさることでオリジナリティが生まれると思ったし、実現できているかどうかはさておいて、僕が狙った塩梅でいうと、昭和と平成をつないで次の時代への橋渡しをするという意味で、この作品が平成の最後、令和の初めの時代性を帯びて完成したことのひとつの理由にもなってるかなと思うんですけどね」
――組み合わせの妙ですね。“知新”のポイントはほかにもありますか?
 「口ずさみやすい普遍的なメロディ、すんなりと日本人の心に届くようなものを目指しつつ、自分独自のメロディ・センスみたいなことにはすごくこだわって慎重に作ったつもりです。ひとつうれしかったのが、ミッキー吉野さんにこの作品のテーマをお伝えした上で初めてデモを聴いてもらったときに、“これは昭和歌謡じゃないね。もちろん歌謡曲のテイストはあるけど、もっとモダンなものだよ”って言ってくださったんです。どういう意味合いでおっしゃったのかはわからないんですけど、自分が狙ってたところを言葉にしてくれたような感じもあって、自信になりましたね」
――竜人さんが普遍性を求めてこの5人のアレンジャーを起用したのは面白いですね。僕の世代だとどうしても70〜80年代のヒット曲のイメージが強いもので……。
 「70年代、80年代のヒット曲でも、全然響かないものや、すっごく古くさいなって思うものももちろんあるんですよ。時代が変わったらすぐ色褪せるようなものって、いつの世にもあるじゃないですか。そういうんじゃなくて、生まれるよりもずっと前の曲なのに、自分がいま聴いてもすごくいいと思える音楽性が、彼らが手がけた楽曲にはあったんです。それが普遍性というものを作り上げるひとつの大きな要因だった気はしますね。永遠のテーマだと思うんですけど、何十年前の楽曲であれ、当時おしゃれだったものがいまでもおしゃれ、当時かっこよかったものがいまもかっこいいみたいに、時代が変われど受ける印象が変わらないのが普遍的なものだと思うので、それを目指したいなと思いました」
――ご自分がアレンジした2曲についてですが、「25時のBirthday」はボサ・ノヴァっぽかったり、「あいつは死んであの子は産まれた」のほうはちょっとファニーな、ジャンル的にはなんと言えばいいのかわからないんですが、フォークと……。
 「あと南西諸島の民謡っぽさも若干ありますね、音階的に」
――この2曲はほかの10曲にはないピースでアルバムを完成させるという意味で作った?
 「そうです。最後の最後に作った2曲で、〈25時のBirthday〉はボサ・ノヴァ調なんですけど、ボサをベースにした楽曲はひとつ入れたいと思っていたので、どこからも出てこなかったら自分でやろうと思っていたんですね。J-POPとボサノヴァってじつはすごく相性がいいと僕は思っていて、もっと世の中に増えたらいいのにと思いながら作りました。〈あいつは死んで〜〉のほうは、アルバムの最後をどう締めて次につなげるのがいいかなというところから最後のピースを作った感じですね」
――そうすると今後の展開もすでに考えているというか、頭はもう切り替わっているくらいなのではないですか?
 「なんとなく、次はこんなことしようかな、というのは多少あります。約1年間、ひさしぶりにソロをやって、もうちょっとやりたいなとも思いつつ、もっとエンタテインメント的なものをやりたい気持ちもふつふつと沸いてきてはいるので。どっちをやるのか、はたまた同時進行するのか(笑)。とくに来年以降の動きは策略を練らないとな、と思っております。今年の時代の動きも見ながら」
――最後に少しだけ、前回少し話題になった音楽評論の話の続きをしたいんですが、僕は自分がうまいインタビュアーとは思わないんですよ。質疑応答というより雑談っぽいというか、「僕はこう思ったんですけど、どうですか?」と自分の解釈を伝える場合が多くなってしまうからなんですが……。
 「自分になかった視点からの作品分析に触れるのはすごく新鮮ですよ。意外すぎる捉え方をされることもありますけど、こう見えるよ、こう聞こえたよ、と言ってもらえることでハッとすることは往々にしてあるし、極論“これ、かっこいいと思ってやってたけどダサかったな”みたいなこともあると思うんですよね。モノ作りの仕事では、自分の価値観を時代に応じてどんどんブラッシュアップしていくしかないので、そのきっかけはあるに越したことはないというか、数があればあるほどいいと思うんです。それを受けて自分の中で押し問答をして、磨いて磨いてモノを作っていくのが、表現をする者として正しい姿勢というか。インタビューも“Aですか?”“Aです”と問答に終始するんじゃなくて、ちょっとした解釈や意見を投げてもらうことで、AプラスBがあって、そのBに対してCがある、みたいに展開していけばいくほど、僕らもライターさんも読者の方も、視野が広がると思うんですよ。だからすごく大事だと思いますけど、どうですか?」
――できているかどうかはともかく、僕もそういうふうに機能できたらいいなといつも思っています。
 「ですよね。考えてることはたぶん同じだと思います(笑)」
――僕は音楽に関しては素人で、竜人さんはプロじゃないですか。素人がこういうところに来て、ああだこうだと利いたふうなことを言うわけで……。
 「でもそれがいっちばん大事やと思います。本当に。プロの意見にはえてして落とし穴があるというか、本当に狭い視野で専門的な話で悦に入ってる人間が多いんですよ。僕もそうなりがちなことが多々あったし、いまもあると思うし。専門家じゃないからこそ言える意見というのは、こっち側の人間からするとものすごく大事だし意義のあることなんです。あの、野球のセイバーメトリックスってあるじゃないですか」
――映画『マネーボール』の元ネタになった球団幹部が採用した野球統計理論ですね。
 「あれを提唱したビル・ジェームズって野球経験者じゃないんですよね。何十年もの間、“やったこともないやつが何を言うてんねん”という感じで見向きもされなかったけど、いまやメジャーリーグから日本の野球まで席巻してるじゃないですか。あれってすばらしい評論だと思うんですよ。現役選手やOBは自負もあるし勘もあるから、自分の経験値からすべてを判断しちゃうけど、畑の違う人の視点がじつはすごく大事で。いろんな分野でそういうことってあると思うんです。世界一影響力のあるワイン評論家のロバート・パーカーだって、ワイン作ったことないし。プレイヤーとしての能力と評論家としての能力はまったく別物なわけで、そこをごっちゃにして意見に耳を傾けないプレイヤーは絶対に伸びないと僕は思います」
――それは評論家も同じだと思います。傍目八目に過剰な自信を持って上からモノ申すんじゃ話にならないし、かといってビビる必要もないし。正直に謙虚に丁寧に話せば、たいがいのことは通じるんじゃないかと思うんですけどね。
 「本当にそうですよ。言葉遣いとかTPOとか、もう道徳的な話になりますけど(笑)。たとえ内容は正しくても、相手からするといい気がしない言い方をしちゃったら、伝わるもんも伝わりませんからね。否定を含んだ内容であれば丁寧に話しましょうよ、と。そうすればちゃんと議論になって次のステップに進めるのに」
――大人ですね。そういう考え方は昔からですか?
 「否定されることも当たり前の世界でやっていく覚悟は最初から決めていたので、むちゃくちゃ言われることもいまだにありますけど、理不尽に腹を立てるってことはないほうだと思います。もちろん、どっちかというと肯定されたいですけどね(笑)」
取材・文/高岡洋詞
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