音楽に滲む風景 mabanua『Blurred』

mabanua   2018/08/31掲載
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 2017年に再始動したOvallのドラマーとしてはもちろん、Chara米津玄師藤原さくらなどの楽曲のプロデュースでも冴えた手腕を発揮しているmabanuaが約6年ぶりとなるソロ・アルバム『Blurred』を完成させた。“トレンドをまったく意識せず、真っ白な状態から作り始めた”“まずはコードとメロディを形にしてからトラックを作った”という本作には、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロなどのジャンルの壁を超えた“mabanuaワールド”としか言いようがない音楽世界が広がっている。
――アルバム『Blurred』の話の前に、ここ最近のmabanuaさんの活動について少し聞かせてください。Ovallの活動、ソロ活動と並行して、Charaさん、米津玄師さん、藤原さくらさんの楽曲制作に参加するなど、プロデューサーとしても活躍。いまの状況をどう捉えていますか?
 「こういうふうになるとは思ってなかったですね(笑)。じつは自分のソロ作品を作るつもりもなかったんですよ、もともと。origami PRODUCTIONSのボスが僕のデモを聴いて“クオリティがいいから、ソロでアルバムを出してみたら?”と言ってくれたことがきっかけで、それを聴いてくれた方から“プロデュースしてほしい”という依頼をもらって。人から提案してもらって“じゃあ、やってみます”という感じでここまで来たというか。自分から誰かに声をかけて“これをやりたい”“あれをやろう”と言えるタイプではないんですよね」
――Ovall、ソロ活動のバランスも自然に生まれている?
 「そうですね。Ovallはバンドだから、個人的にはライヴが中心だと思っていて。mabanua名義の活動はまったく逆で、録音作品が軸になっているんです。ソロの場合は自分で弾いて、叩いて、歌っているので、ライヴで再現しづらいところもあるんですけどね」
――なるほど。では『Blurred』に収録されている曲も、この6年の間に作りためたものが中心なんですか?
 「ずっと作ってはいたんですけど、アルバムとしてまとめる段階で、1回、全部ナシにしたんです。プロデュースをやっていると、どうしても世の中の流行りを意識せざるを得ないんですね。相手のアーティストと“最近、どんなの聴いてますか?”という話から入ることも多いし、たとえばチャンス・ザ・ラッパーFKJ(French Kiwi Juice)が話題になることもあって。そうすると、自分の作品もいつの間にか流行りに寄ったりするんですよ。そういう曲を3ヶ月後に聴いて“流行りを意識してるな”って恥ずかしくなることもあって。だからアルバムの制作に入ったときに、“トレンドみたいなものをすべて排除して、いままで個人的に聴いてきた音楽、培ったものだけで作ろう”と思って。実際、今回のアルバムに入っているのはここ1年半くらいの間に作った曲が中心です。あとは、他のアーティストに提供しようとして採用されなかった曲もいくつか入っていますね。いずれにしても、自分が好きで作ったものしか収録してないです」
――トレンドから意図的に離れることが、アルバム制作の第一歩だったわけですね。
 「はい。人が聴いたら“トレンドっぽいな”と感じるかもしれないけど、自分としては5年後、10年後にも聴ける作品になったと思っているので。たとえばビョークベックって、もはや流行りとは関係なく、そのときにやりたいことをやってる印象があるじゃないですか。いつかそういうアーティストになりたいという意識もあるんですよね、自分のなかに」
――実際の曲作りはどういうプロセスで進めたんですか?
 「曲は鍵盤かギターで作るんですが、まず、コード進行とメロディをある程度固めました。ビートメイカーの場合は最初にオケを作って、後からメロディを乗せますよね。そうじゃなくて、コードとメロディだけで形を作ってからトラックを考えたくて。そうすれば、どんなアレンジでも大丈夫なんですよ、これまでの経験上。プロデュースしているときもそうで、自分がいいなと思うアーティストは、簡単な弾き語りだったり、鼻歌みたいなデモを送ってくることが多いんです。それだけで十分だし、どういう曲かもちゃんと判断できるので」
――シンガー・ソングライターのように“歌いたいことが先にある”というわけではなく?
 「そう、歌いたいことがあるわけではなくて、あくまでもコードとメロディなんですよね。歌詞に関しては、メッセージみたいなものより、映像が浮かんでくるようなものを意識しています。僕、よく映画を見るんですけど、映像と音楽が重なる瞬間がすごく好きなんですよ。去年でいえば、『ブレードランナー 2049』でハンス・ジマーの音楽がかかるシーンが鳥肌が立つほど好きで。自分で曲を作るときも、“この風景に似合う音楽って何だろう?”と考えることが多いんです。いまは群馬に住んでるので、『世界の車窓から』じゃないけど(笑)、移動中ずっと風景を見ていることが多くて。そういうときにフッとメロディが浮かぶというか……。以前、ハナレグミの永積タカシさんに“mabanuaの曲を聴いてると、風景が浮かぶんだよね”と言われたことがあるんですけど、視覚的な要素が強いというか、それが自分のスタイルなんだなと思います」
――なるほど。今回は初めて日本語で歌詞を書いてますが、それはどういう意図で?
 「ずっと英語で歌ってきたから、単純に“日本語で歌ってみたい”という興味があったんですよね。あと、弾き語りでライヴをやるときに“日本語で歌うほうが圧倒的に有利だな”と感じることがあって。狭い空間のなかで聴いている人に曲を届けようと思ったら、英語よりも日本語のほうがいいんですよ。ただ、日本語で書くにしても、曖昧な表現をしたくて。たとえばCharaさんの曲を聴いていると――特に〈マドリガル〉〈夜明けまえ〉が好きなんですが――ぜんぜん説明的ではないんだけど、フッと入ってくる日本語のフレーズに惹かれたり、Charaさん自身の感情がしっかり伝わってくる瞬間がいくつもあって。意味を伝えるよりも、風景だったり、感情みたいなものを表現できたらいいなと思ってましたね。シチュエーションとしては、朝焼けか夜が多いかな。歌詞のなかに出て来るのは一組の男女か、もしくは自分ひとり。大体、ネガティヴな状況の歌ですね」
――日本語を乗せるとメロディにも影響がありますか?
 「それはすごくありました。英語を想定しているのと日本語を想定しているのでは、ぜんぜんメロディが違ってくるんです。試行錯誤もありましたね。日本語を乗せるとJ-POPみたいな感じになりがちなので、そこをどうにか抑えようと思って。〈Heartbreak at Dawn〉の歌詞はゴッチさん(後藤正文)に書いてもらったんですけど、すぐに自分がやりたいことをわかってくれたんですよね。“夜、高速道路を走っている風景を思い浮かべて書いた曲なんです”ということだけを伝えたら、こちらから何も言わなくても“アレでしょ? 日本語っぽくない歌詞がいいんでしょ?”って。上がってきた歌詞を見たときも、さすがだなと思いました。文章の最後を“でした”みたいにすると日本語らしくなってしまうんですが、この曲の歌詞は“と言う”という語尾になっていて。そのことによって“英語に聴こえなくもない”というニュアンスが出るんです」
――「Call on Me」にはCharaさんをフィーチャーしています。
 「これはさっき言った“提供したけど採用されなかった曲”なんですよ(笑)。もともとCharaさんのアルバムのために作ったんですけど、いろいろと事情があって、収録に至らなくて。僕としてもすごく気に入っていたから、このままお蔵入りしてしまうのはもったいない!と思って、自分のアルバムに入れることにしたんです。Charaさんのために書いた曲をご本人に歌ってもらって自分のアルバムに収録するって、けっこう無理矢理ですけどね(笑)」
――Charaさんには音楽的な影響も受けてますか?
 「そうですね、中学生のときからずっと聴いてるので。自分が音楽の世界に入ったのは、いまの事務所のボスとCharaさんの影響が大きいと思いますね。さっきも話に出たベックやビョークもそうですけど、ジャンルがわからないアーティストが好きなんですよね。CharaさんはJ-POPでもあるし、ロックでもあるし、ブラック・ミュージックやヒップホップも要素もあって。そうやってジャンルを行き来する人が好きだし、自分もそうありたいと思いますね」
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――ジャンルの幅を狭めないことが大事。
 「というか、狭められないんですよ(笑)。僕はもともとバンドをやっていて、ビートメイカーでもあるし、弾き語りもやっていて。いまもいろんな楽器をやっているし、自分でもジャンルがわからなくなってるので。聴いてきた音楽もバラバラですからね。ハイスタが好きだった時期もあるし、アレステッド・ディベロップメントにハマったこともあるし、クラシックのコンサートに通ったこともあって。そのせいか、ライヴに来てくれた人に驚かれることも多いんですよ。“mabanuaさんはヒップホップかと思ってけど、ぜんぜん違った”とか“すべて生演奏かと思ってたら、めちゃくちゃループを使ってた”とか(笑)」
――リスナーによってイメージがまったく違うんでしょうね、mabanuaさんは。今回のアルバムもジャンルはわからないですからね。
 「そうですよね。でも、それは世界的な流れでもあると思うんです。フランク・オーシャンはR&Bか?と言えば、よくわからないじゃないですか。コールドプレイが打ち込みをガンガン使ってたり、いろんなジャンルが混ざっているのが普通なので。日本くらいじゃないですかね。ジャズはジャズ、ヒップホップはヒップホップ、ロックはロックみたいに分かれているのは」
――アルバム・タイトルの『Blurred』は“滲む”という意味。ジャンルが混ざる話ともつながってますね。
 「そうかもしれないですね。最近はパキッとわかりやすいものが求められがちだけど、もっと曖昧でいいと思うんです。“この映画はアクション? サスペンス?”って、そんなのどっちでもよくない?って(笑)。プロデューサーとして関わるなかで“どんなリスナーに向けていますか?”みたいな会話に疲れていたところもあったし……。もともと、色が滲んでいたり、混ざっている様子が好きだし、美しいと感じるというのがいちばんの理由ですけどね」
――アルバムが完成したことで、ソロ・アーティストとしての次のビジョンも見えてきましたか?
 「自分で歌うことに関しては、とりあえずやり切った感じもあって。次はインスト・アルバムもおもしろいかなと思ってます。そういえばOvallのShingo Suzukiが“このアルバムはすごくいいけど、次はドラム、ベース、ギター、歌だけのミニマムなものも聴いてみたい”と言ってくれて。頭を整理する時間が必要だけど、今回のアルバムとはまったく違うものを作ってみたいですね」
取材・文 / 森 朋之(2018年7月)
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