まちがいさがし、話題の自己内省音楽的4人組、ついに1stフル・アルバムをリリース

まちがいさがし   2020/10/07掲載
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 音楽の活動拠点がライヴハウスだけでなく、インターネット上ということもめずらしくなくなってきた2020年。インターネットを中心に、自分たちの音楽をリスナーにじわりじわりと届けてきたのが、4人組バンドの“まちがいさがし”だ。2000年代の邦ロックの影響を受けつつも、等身大で内省的ですっと染み渡るメロディのギター・ロックを鳴らす。2018年に発表した楽曲「ラヴソングに騙されて」は口コミにてひろまり、ノンプロモーションながら120万回再生超を記録。まさに音楽のよさが支持されている彼らが、1stフル・アルバム『八畳間放蕩紀行』をリリースする。アーティスト写真を含め、まだ謎多き彼らにメール・インタビューを敢行。どのようにして現在の活動スタイルが確立されたのか、本作はどのように生まれたのかなど、ざっくばらんに話を聞いた。
――まちがいさがしは2011年に結成、活動休止を経て、2016年より活動を再開。基本的にWeb上での楽曲公開をしながら、2019年に唯一再開後ライヴを行なっただけです。どうしてこうした活動スタイルを取ろうと思ったのでしょう。
佐々木「まだ学生だった頃に結成したのですが、すぐに休止してしまって。再開したのは、社会人になってからになります。それぞれの生活する環境も大きく変わって、なかなか集まれないのもありましたし、ライヴにも前向きにはなれなかったので、自然とインターネットが活動の中心になりました」
和野「このような活動形態を取ろうと思ったというより、活動するにあたって無理しないようにすると自然とこうなった感じだよね」
今野「社会人として働きながらだと、当然メンバーそれぞれの生活を大切にしないとバンドを続けられないなというのがありました。なので、年に数回しか会えないし、ライヴもほとんどできない、という制約がある環境を受け入れて、でもみんなと良い音楽をつくりたいという思いで動いている、という感じです」
――社会人とバンドの両立を図りながら見出した活動スタイルだったんですね。
松崎「活動を再開するタイミングで、じつは私だけ就職のため3人と離れることになってしまったんです。そのため、必然的にライヴがあまりできないだろうと考えていましたが、当時からネットを介して音楽を発信することが盛んになっていましたし、こういった活動がメインのバンドがあってもいいかなと思いふたたびバンドに参加しました。なので年に数回しか顔は合わせないんですよね」
――そしたら、楽曲制作はどのように行なっているのでしょう?
佐々木「クラウド上で、音楽ファイルを共有しながら制作しています。私の弾き語り音源に、まずは今野くんがドラムを、それから和野くんがベースを、最後に松崎くんがリードギターを重ねて、といったかたちです。スタジオは、レコーディング直前に、細かいニュアンスのすり合わせに入る程度です」
今野「毎回レコーディングの日程だけ決まっていて、そこから逆算して曲を間に合わせています。実際4人でセッションして曲を詰めるのはレコーディング前日の数時間程度ですので、できた曲をすぐそのままの感覚でレコーディングしている感じです。ライヴをするためには更に準備が必要になってくるので、なかなか難しいのが現状です」
まちがいさがし
――メンバー4人それぞれ、どのような音楽やカルチャーに影響を受けてこられたのでしょう?
佐々木「抽象的になってしまうのですが、音楽とを問わず、時代性のある作品やポップカルチャーには、ずっと憧れがあって、影響も受けていると思います」
今野「ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『君繋ファイブエム』を聴いたのが、音楽に興味を持ったきっかけです。アルバムとしての完成度が高く、個人的には今回のアルバムの曲順を考える際にも曲の流れなどイメージした部分はあります」
和野「僕も音楽的ルーツはASIAN KUNG-FU GENERATIONですが、最初のきっかけは音楽に興味があってというよりはアニメの主題歌で流れていたのを聴いてそこからハマっていった感じです。今でも同じような感じで興味を持って聴き始めるパターンが結構ありますので、そういう意味ではアニメには影響受けているのかなと思います。音楽ジャンル的にはメロコア、インスト、ポストロックあたりも好きです」
松崎「僕はほかの3人とはわりと音楽的ルーツが違いましたね。高校の時はメタルばかり弾いていました(笑)。 大学に入ってからはわりと日本のバンドも聴くようになったし、いろいろなジャンルの曲もプレイするようになりました」
――まちがいさがしのサウンドは、やわらかい音が多く、佐々木さんのヴォーカルを含め、やさしさを感じます。どうしてこういう音作りを指向されているんでしょう。
和野「音作りは各パート完全に分業していて、ベースに関しては自分の好みの音を作っているだけではありますが、唯一演奏は指弾きでとだけ頼まれているのでその影響は多少あるかなと思います。基本的にはまず歌を聴いてもらうということを念頭に置いていますので、フレーズ含め歌の邪魔にならないよう心掛けています」
今野「ドラムも同様ですね。どの曲もしっかりとしたテーマがあって作詞されているので、その歌詞がしっかりと曲に乗るような自然なドラムフレーズを心掛けています」
松崎「このバンドの活動の性質上、セッションで曲を作ることはほとんどなくて、すべての曲が佐々木の弾き語り音源に各パートを追加していくっていう工程をたどっています。基本的に佐々木の声と曲がやさしい雰囲気なので、必然的にそこに加えていくほかのパートもやさしく、やわらかい音作りになっているんだと思います」
――『八畳間放蕩紀行』の制作において、具体的なサウンドや雰囲気などリファレンスがあったり方向性はありましたか?
和野「このあたりは正直疎いのでミックスなどはすべてエンジニアさんにお任せしています。ミックス作業にも立ち会いはしていますが大概聴いているうちに寝てしまい、起きたら完成していることが多いです(笑)」
今野「よく寝てたね(笑)。一曲一曲に全力投球をしていたので、とくにアルバムを作成する過程でリファレンスがあったわけではありません。私はレコーディング中は、どうしたらまちがいさがしらしいサウンドになるかについて考えながら立ち会っています。たとえばブレスの音量とか、コーラスを入れる箇所とか、こうしたら曲の良さがもっと伝わるかな? と思ったことは細かい部分でも反映するようにしています」
松崎「アルバム制作の話が出る前に録った曲がほとんどなので、半ばベスト・アルバムと言ってもいいくらいなのですが、活動を始めた当初からバンドのコンセプトやサウンドは一貫しているので、過去の曲をかき集めていても一枚のアルバムとしてすごくまとまっているように感じます」
――今回のアルバムに収録されている11曲は、集大成的な作品なものともいえるんですね。曲を作った時期もけっこうバラバラなんでしょうか?
佐々木「編曲やレコーディングは、2016年から2020年にかけて行ないましたし、作詞作曲となると、さらに遡って、制作期間も長短さまざまですから、相当に時差はあります。また、私はいずれの曲も、それぞれをひとつとしてつくるので、アルバム自体は音楽上の意図を持ちませんが、たしかに地続きではあって、現在の“まちがいさがし”に栞を挟むような、目印にあたる作品と言えるかもしれません」
――キャッチにある“自己内省音楽”というコンセプトはどのようにして生まれたものなのでしょう。
佐々木「私がつくる音楽の、根底にある主題を“まちがいさがし”と表現しているのですが、“自己内省音楽”は、それから詩情を落として、わかりやすく記号に寄せる意図をもって、好んで使っている言葉です。バンドとしては、“社会人四人組インターネットロックバンド”などと称していますが、こちらも言わば、名刺代わりのようなものです」
――佐々木さんの書かれる歌詞はやさしさとともに、ちょっとした諦念や希望、はかなさも内包されているように響きます。歌詞を書くうえでどのようなことを心がけていますか?
佐々木「私の詞は、生活の途中に落ちてくる、不安な自意識と向き合う先、思い詰めた奥にある心象を、音楽と言葉がもつ詩性の手をかりながら、ある種の自己同一のためにあらわしたもの、と思います。そのとき生まれる心象それ自体は複雑に見えても、表裏のない、正負混ざり合うような、切り離せないひとつと捉えていて、放っておけば、曖昧な枠に紛れてしまうのを、そのまま許したり、受け入れたくて、曲を書くし、曲ができているような気がします」
――アルバム・タイトル曲にもなっている「八畳間放蕩紀行」がとても印象的でした。いわゆるフォークの四畳半と比較すると広めのスペースかなと思うのですが、どうしてこのタイトルの曲を作ろうと思ったのでしょう。
佐々木「私は、長く実家暮らしだったのですが、当時の自室が八畳間で。たとえるなら、四畳半を書けるような芸術家に、憧れていました。現実は違っていて、生活の見てくれとおり甘えきって、格好がつかなければ、鬱屈と深刻にも振り切れないし、悪癖と言えるほどもない、半透明くらいの時間が余るばかりと、〈八畳間放蕩紀行〉は、それらをひとえに象徴する曲と言えるかもしれません。アルバムのタイトルとしては、必然でなくとも、主題のそばにあるこの曲を、あえて名付けました」
――2018年に発表された「ラヴソングに騙されて」のMVが120万回再生を記録しています。この曲はどのようにして生まれた楽曲なんでしょう?
佐々木「私の詞と曲にはあともさきもなく、終始ひとつとしてつくるので、どうしても、詩情に曲調が惹かれてしまいます。その中にあって、〈ラヴソングに騙されて〉は、日常からあまり波立たない、むやみに鋭角やら、独りよがりで自嘲がちな心象をすくっていて、かえってほかになく、大衆性にも紐付いたような印象があります。とにかく、演奏陣が格好良くて、聴いていて楽しいし、多くの方々に受け取っていただいたのも、本当にありがたく、嬉しく思っています」
今野「佐々木から送られてきた弾き語りのデモ音源を聴いたときにすごくキャッチーだなと思ったのを覚えています。結果的に多くの人にバンドを知ってもらうきっかけになった曲なので、自分としても曲が正しく表現できたのかなと感じられて嬉しいです」
和野「僕は逆に弾き語りの段階では曲の雰囲気を捉えきれず、最初は正直そこまでしっくりきていませんでした。ドラムが入ってから曲の方向性がようやく自分の中で掴めてきて、打楽器って凄いと思った記憶があります。反響については素直に嬉しいですが、急激に再生数伸び始めた当時は少し怖いと思ってました(笑)」
松崎「ギター、ベース、ドラムの3人とも、基本的にはもととなる佐々木の弾き語りになじむ演奏というのを優先に考えてフレーズをつけていると思うのですが、多分この曲は全員冒険したんじゃないですかね、自分たちはこんなのも弾けるんだぞと(笑)。 その結果、奇跡的にまちがいさがし屈指のキャッチーな曲が生まれたという感じです。MVの反響には驚きましたが、初めて聴いた時のインパクトが大きい曲なので、リピートして聴いてくれる人が多かったのではないかと思います」
#VALUE!
佐々木「収録曲では唯一、私が“まちがいさがし”をつくる前に書いた曲です。おっしゃるとおり、これまで多くのミュージシャンの方々が、あらゆる感性から“東京”を歌っています。それは、むしろ強く意識したうえで、何者でもない私には、どのようにうつり、何を表現し得るだろう、と思い至ったのが、制作のきっかけでした。遠く知らない“東京”に触れて、はね返る自意識の心象をかたどっています」
――せっかくですので、メンバー4人それぞれ思い入れのある楽曲を1曲ずつ教えていただきたいです。
今野「〈旅には出ないと誓ったくせに〉ですかね。初めてメンバー4人でMVを撮影した曲で、そのワクワクして楽しかったと思い出があるのと、一歩前に踏み出す力強さみたいなものが感じられて好きな曲です」
和野「4人でMV撮る時、大概冬の時期で寒いけど楽しいよねあれ(笑)。僕は〈夏に遠回りする〉です。活動をしなくなって4年くらい経過して、このまま自然消滅するかなと思っていた中、ようやく再開して初めて制作した曲なので思い入れがあります。曲自体は晩夏の寂しさやノスタルジックな雰囲気をリードギターがうまく表現できてる感じがエモいので好きです」
松崎「和野が言うようなノスタルジックな曲のギターは自分でも気に入ってますね。後半そういった曲が多いのですが、とくに〈夜更かしはエンドロールのよう〉が曲調とテーマがすごく合致していて好きです」
佐々木「すべての曲が自己の内面と深く関わるので、思い入れそのもの、好きも嫌いも混ぜこぜで、考え込んでしまうと…… 選べないかもしれません。申し訳ありません……」
――イラストレーターのカシワイさんが描かれているジャケット・イラストは、どのようにして生まれたものなのでしょう?
今野「アルバムを発売するとなったときに、まちがいさがしのバンド・イメージに合ったイラストを描かれている方をとにかく探しました。カシワイさんのイラストを拝見させていただいたとき、表現されているその空気感にこのバンドと共通するものを感じたのでメンバーにも共有したところが始まりです」
和野「各自思い描いていたイメージを出し合ってイラストの方向性をどうしてもらうかとか話しあっていましたが、当時確かまだアルバム・タイトルが確定していなかった時期だったので、それにもよるよな、とか皆で悩んでいましたね」
松崎「バンドの方向性をもとに描いていただいたんですが、ジャケットに描かれているもの一つ一つがそれぞれ楽曲に結びついていて、すごくしっくりきたのが印象的でした。おそらく曲も結構聴いていただいたのではないでしょうか」
佐々木「少しでも制作の手掛かりになればと思い、私の中にある、音楽上のモチーフやそのつくりを、拙くもお伝えしましたが、何よりもカシワイさまの素敵な創造性をして、自由に解釈いただいたものです。本当に、素晴らしい作品を表現していただきました」
――現状ライヴ活動は1度とのことですが、今後ライヴをやっていきたいという想いなどはありますでしょうか?
和野「やはりお客さんを前に演奏するというのは楽しいですし、モチベーションが上がるので、今の状況下ですぐにというのは難しいとは思いますが、やっていきたいなという思いはあります。僕はバンド抜きで単純にメンバーと集まってワイワイやるのが好きで、先日のワンマンライヴも泊まりがけでの移動やライヴ後の打ち上げなど含めて凄く楽しかったのでそういう意味でもやりたいですね(笑)」
松崎「とはいえなかなかライヴの機会が取れないのが現状ですし、このご時世というのもありますので、なんとかリモートでライヴができないかなとは勝手に考えています。何年か前にネットセッションを試したときは、遅延のせいでまったく演奏になりませんでしたが、これからはメンバー間離れていてもライヴができる時代になっていくと思っています。あとは佐々木のモチベーション次第です(笑)」
今野「結局はそうだよね(笑)。個人的には欲を言うと夏フェスとか、大規模フェスに出たことがないので、誘っていただけたら有給をとってでも出たいな、と思っています(笑)」
佐々木「もともと私は、ライヴの挫折があって、音楽から離れてしまったので、未だに前向きにはなれないのですが、仲間と演奏するのは、本当に楽しいし、好きだから、またいつか、心からそう思えるようになりたいです」
――まちがいさがしはどのようなバンドでありたいと思いますか?
今野「“捨て曲がない”と言われるのが個人的には一番嬉しいので、これからも一曲一曲を丁寧に表現して、自分自身の曲を好きだと言える、嘘のないバンドでありたいです」
和野「まずは4人で楽しく活動できるバンドでありたいです」
松崎「自分も和野が言うようにそれぞれの生活を優先し、無理なく楽しくできればいいです(笑)。普通に働きながらでも、メンバー間離れていてもバンドをやってアルバムがリリースできるんだということが伝わればいいかなと思います」
佐々木「“バンド”としては、何よりも音を合わせる瞬間、その原風景を忘れずにありたい、と思っています。どこまでも、自己の内面へと向かう音楽ではありますが、ときに仲間と行き先をともにする合間、見える景色ひとつを大切にしたいです。本当に、バンドは、ひとりではできないので」
取材・文/西澤裕郎
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