『マッカートニー 3,2,1』ポール・マッカートニーがこれまでの音楽活動をリック・ルービンと語るドキュメンタリー

ポール・マッカートニー   2021/12/28掲載
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 お茶目な79歳――。
 ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』に続き、ディズニープラスで12月22日から配信が開始されたポール・マッカートニーのドキュメンタリー作品『マッカートニー 3,2,1』を通して観て、まず思い浮かんだのはそんな言葉だった。
 「アイ・ウィル」のベース音をはじめ、“声真似”ならぬ“音真似”(とくに楽器)はポールの“得意技”のひとつだが、この手のインタビューものでは、ポールの得意技が炸裂する場面が多い。今回は、(ジミ・ヘンドリックスが)エレキ・ギターのプラグをアンプに差し込む際の音まで“口真似”するとは思わなかったが、身振り手振りを交えたポールの“音真似”が、中でも最高にお茶目なのだ。
 1話約30分構成で、全6部・計3時間。“ボリュームたっぷり”ではあるものの、8時間にもおよぶ『ザ・ビートルズ:Get Back』の公開直後だと、“もっと観たい!”という思いにやはり駆られてしまう。
 とはいえ、これまでに書籍やアーカイヴ作品で過去を振り返ることがあったポールが、60年代=ビートルズ時代以前の出来事について映像作品として本格的に回想するのは、ビートルズの『アンソロジー』以来のことだ。
 ポールが“話し相手”に選んだのはリック・ルービン。ビースティ・ボーイズやRUN-D.M.C.のヒップホップ勢に始まり、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、スレイヤー、メタリカなどのヘヴィ・ロック勢のほかに、ミック・ジャガー、ジョニー・キャッシュなどのベテラン勢も手がけた名プロデューサーとして知られている。RUN-D.M.C.とエアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」でヒップホップとロックの融合を図った人物でもある。そうした革新的なプロデューサーがポールに話を訊いていくのだから、面白いに決まっている。しかも、これまでの曲作りやレコーディングについて、二人で実際に卓をいじりながら数々の逸話が披露されていくのだ。
 名曲の誕生秘話が中心だが、曲が生まれた背景や、影響を受けたミュージシャンについて、ポールの“解説”を補う映像がふんだんに取り入れられているため、説得力がさらに増している。モノクロ映像というのも、じつにセンスがいい。
 では一話ごとに、個人的にも気になった見どころについてまとめてみる。
[第1話]
 「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」のハーモニーだけの音源から始まるという冒頭だけで、いきなり“耳がダンボ”状態である。
 まずは「ミッシェル」が生まれるまでの話が面白い。リヴァプールの楽器店「ヘシーズ」の店員が弾いていたギターのコードを見てびっくりしたポールとジョージが、弾き方を訊き、ジョンに教えたこと。そして、そのコードを使って書いたのが「ミッシェル」だったこと。さらに「ミッシェル」がエディット・ピアフの「ミロール」の影響を受け、エンディングのテンポを落とすところも含めて真似をしたということ――こういう知られざる思い出話がポールの口をついて次々と出てくる。
 ジョージとヒッチハイクをしたときのことや、映画を一緒に観に行き、上映前に流れた“結婚を考えてます?”という家具の広告を二人とも気に入り、バディ・ホリーっぽい「シンキング・オブ・リンキング」を書いたこと。しかも90年代に『アンソロジー』を作っていたときに「この曲を覚えているかい?」とジョージに言われたこと(実際に一緒に演奏した模様がボーナス映像として収録されている)も、『ザ・ビートルズ:Get Back』にその曲が一部登場することを思うと、なおさら感慨深い(作曲クレジットはポール単独だが)。
 「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」では、ジョージの歌う主旋律と、ポールの攻撃的なベース・ラインがまるで別々の曲のように聞こえるというリックの指摘を受けたポールが、そのベースの音だけを再生させたマルチテープに別のメロディを即興で乗っけていく場面が出てくる。ポールのとてつもない才能が、こういうちょっとしたやりとりの中で観られるのがすごい。
[第2話]
 ポールが作曲術について話す場面がまずめずらしい。ピアノを学びたい若者に対して「ドが最初の一歩」だとエディ・コクランの「トゥエンティ・フライト・ロック」を例にとって説明しはじめ、ここでもまた、その流れを受けて即興で1曲演奏する。
 話はビートルズ時代にかぎらず、ここではウイングスの「バンド・オン・ザ・ラン」にまつわる話から、ナイジェリアのラゴスでのレコーディングでのエピソードも紹介。“デモ・テープ”を盗られた話はファンには知られているが、フェラ・クティのステージを観たのは「人生最高の音楽体験のひとつだった」と語っているのがちょっと意外で新鮮だ。
 最後に、「いま曲を作ってみる」と言ってポールがピアノで「ライフ・キャン・ビー・ハード」という“新曲”を披露。「昔からあったと思わせるところがいい」とリックは言うが、まさにポールの曲にはそういうものが多い。『ザ・ビートルズ:Get Back』を観ればあきらかなように、とくにピアノの曲にはそう思わせるものがたくさんある。
ポール・マッカートニー
©2021 MPL Communications, Inc.
[第3話]
 冒頭の「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」の別ミックスに続き、ポールがドラムを叩くことになった裏話がまず登場する。ポール曰く――「僕がリンゴのドラムに注文をつけてたら “お前がやれ”と言われた。“じゃ お前がやれよ!”」と。
 第1話で「心に残る曲よりも覚えやすい曲を書くしかなかった」と語ったポールは、ここでは「ベイビーズ・イン・ブラック」を3拍子で書いたことについて、「最初はファンのために曲を書いていたけど、徐々に自分たちのために書くようになった」と語っている。周りに受け入れられるように動くのではなく、周りに受け入れてもらうために動くという大きな変化が曲作りにも出てきた、ということだろう。第4話では、「レコードが売れて自信が持て、ジョージ・マーティンも自由にやらせてくれた」ともポールは語っている。
 また、シングルに関してフィル・スペクターに「名曲を2曲も入れるのではなく、聴いてる人が歌えるようにB面はA面のヴォーカルをなしにするだけでいい」と言われたことに対し、「僕らが買う側だったらがっかりするからそれはできない」と返したという興味深い話も出てくる。
[第4話]
 曲の演奏についての話が充実している。たとえば「ひとりぼっちのあいつ」のジョージのエレキ・ギターの音を目立たせたかったために工夫を施したことや、「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」のベースをチューバの音のようにしたくて短く音を切って弾いたことなどだ。「マックスウェルズ〜」を録音した時期にロバート・モーグがEMIスタジオの上の階にいて、いろんな装置を持っていた、なんていう話も聞いたことすらなかった。
 一方、「マックスウェルズ〜」のピアノは、「アルペジオの弾き方が僕とは違うので、ジョージ・マーティンかもしれない。僕が弾いていたとしたらもっとゆっくり弾いていた」と語っていたり、「アナザー・ガール」のリード・ギターは「ひどいから僕だって言いたいけどね」と(おそらく知っていて)答えたりしている。
 例として挙がるのは、もっぱら耳になじみのいい曲が多いが、マニアックな曲が出てくるのも、いい味わいだ。後半に出てくる「チェック・マイ・マシーン」などは、その最たる例だろう。ポール自身もこの曲を気に入っていると公言しているだけあり、ここでもノリノリ、である。個人的にも好きな「チェック・マイ・マシーン」は、ビートルズの「ユー・ノウ・マイ・ネーム」のポール版だと解釈しているが、なんと、その曲に続けてエンド・クレジットに出てくるのが「ユー・ノウ・マイ・ネーム」だった。(個人的に)本作の最高の流れはここ、である。
ポール・マッカートニー
©2021 MPL Communications, Inc.
[第5話]
 「ラヴリー・リタ」が題材として出てくるのはやはり個人的にはうれしい流れだが、ここではベースにまつわる話が中心。まずはベーシストになったきっかけについて、クオリーメンとしてのデビュー・コンサートでギター・ソロをトチッたことや、ジョンとジョージがベースは嫌だと言って、自分がベースを担当することになったと触れている。
 もうひとつはベースの重要性についてで、ジェームス・ジェマーソンの影響や「カム・トゥゲザー」の元歌をいかにファンキーな曲へと変えていったかについて、思いを込めて語っている。
 リック・ルービンとのやりとりも面白い。「それぞれ曲の作者が作品の構想を立てるのか?」と訊かれたポールは、「そして僕が口を出し、だから憎まれる」と笑いながら返す。続けて「厄介だったのは、いいアイディアを出しても“じゃあ自分でやりなよ”と言われることだ」と、ここでは「タックスマン」でのギター・ソロに関してのジョージとの話し合いについて挙げている。『ザ・ビートルズ:Get Back』で観られるポール主導のやりとりは、66年以降は綿々と続いていたことが窺える。
 また、「ジャンク」の“ダダダ〜”と歌われる箇所について「歌詞が未完成?」とのリックの突っ込みに対して「ジャズだ」とポールは答えているが、機会があったら、リックには、次は「ユア・マザー・シュッド・ノウ」に関しても同じ質問をしてほしいなと願う。
 ほかにも、「初耳だ」とリックも言う、聴いたことのないエレキ・ギターのカッティング音が入っている「メイビー・アイム・アメイズド」や、『マッカートニー』という最初のソロ・アルバムのタイトルが生まれた経緯をはじめ、第5話には興味深い話が多い。
 そして最後に登場する、「ポールは革新的なベーシスト。今のベース演奏の半分は彼のパクリだ。偉大なミュージシャンだ」と語ったのが誰だったかを聞かされたときのポールのうれしそうな表情――この場面は、本作の最大の見どころだろう。
[第6話]
 最終話は「イエスタデイ」の誕生秘話が目玉だ。ここでも、夢の中で曲ができたことを、身振り手振りを交えながら説明するポールがお茶目でかわいい(笑)。
 もうひとつ、「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」が生まれた経緯も見逃せない。「お気に入りは〈イエスタデイ〉と言いたいが、実際はこの曲だ」とポール。「気軽に褒める男じゃなく、身構えてるところがある」ジョンがこの曲はいいと言ってくれたと、ポールはうれしそうに語っている。さらにポールは「二人で書いたのは300曲ほどあり、完成できなかったのは10曲ほどだ」とも言うが、300曲は多すぎでしょう。
 最後に「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の話題を持ってくるのは、イギリスでのこの曲の“位置付け”を象徴するものでもある。そしてエンド・クレジットで出てくる曲は、やっぱりあれ、だった。
ポール・マッカートニー
©2021 MPL Communications, Inc.
 第3話の最後に、「ディア・プルーデンス」の高音のハーモニーを息継ぎなしにみんなで出し続けたことについて、ポールが話す場面がある。それを観て、“ああ、なるほど”と思った。不可能だと思われることに対してもつねに前向きなポールは、「できるからやってみよう」と他の3人に伝え続けてきたのだ、と。そして限界に挑み続けたからこそ、ビートルズの曲は今でも古びることはないし、ビートルズ自体もいまだに現役感があるのだ、と。
 ジョンは、亡くなる直前(80年12月)のインタビューで「これまでに僕が、一夜かぎりでなく一緒に仕事ができたアーティストは二人しかいない。ポール・マッカートニーとヨーコ・オノだ」と語ったが、まもなくジョンの“2倍の年齢”となるポールが、半生をいま振り返ってみて思うのは、たぶん、こういうことなんだと思う。
 “自分の生涯のパートナーはジョン、ジョージ、リンゴ、ジョージ・マーティン、そしてリンダだ”と。
文/藤本国彦
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『マッカートニー 3,2,1』
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