ジャンル、世代、国境を越えるOSAMU SATOの最新作

佐藤理   2020/04/24掲載
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 『東脳』『LSD』などを手がけたゲーム・クリエイターであり、ミュージシャンやグラフィック・デザイナーなど、多様な顔を持つアーティストOSAMU SATOが、自身のレーベル“理念音盤(理念レコーズ)から、最新アルバム『GRATEFUL IN ALL THINGS(感謝感激雨霰)』を発表した。立花ハジメ、佐藤 薫、大野由美子、成田 忍、宇川直宏ら多彩なゲストが参加したアルバムで、ファンタジックなテクノからアッパーなダンス・チューン、エクスペリメンタルな電子音楽、アンビエントまでバラエティに富んだ内容は、彼のこれまでの足跡が伝わってくる集大成的な傑作といえるだろう。SATOにメールで話を聞いた。
――SATOさんは2017年に15年ぶりの新作『All Things Must Be Equal』をリリースして以降、『Objectless』『LSD REVAMPED』と、過去作品にリマスターやブラッシュアップを施したアルバムが続いていましたよね。それはレーベルやファンからの要望が大きかったのでしょうか?
 「15年ぶりに音楽を始めたのは、ベルリンのSLEEPERSからのオファーがきっかけです。音楽はその間まったくやってなかったので、何度か断っていました。もうスタジオも機材も何もないので音楽を作ることはないと思っていたんです。そうすると(SLEEPERSが)昔、録音したものはないかと聞いてくるものですから、昔のDATやバックアップのデータなどをチェックしていたら、自分でも記憶にない曲が結構発掘できました。そして、また録音を始めていくと、それにのめり込むことになり、旧作のリワークも含め20曲以上できました。ですので、『All Things Must Be Equal』はカセット、アナログ、CDとすべて曲が違ったりします。そして、日本でもCDを出したいなと思い、古巣でもあるMUSICMINEから出すことにしました。
 時期を同じくして、ドイツのV.O.D.から『Objectless』(83年)という、僕の学生時代の処女作のリイシューのオファーが来ました。僕もその音源を断片的にしか持っていなくて……。なぜドイツの人がそれを持っていてくれたのか、それだけで敬意に値します。今の時代にそのままというのもちょっとはばかれるので少しだけオーバーダビングして、断片的に残っていた当時の音源をリワークして、新曲を加えて、アルバムにまとめました。『Objectless』をリリースした当時は“アンビエント”という言葉もなく、“環境音楽”と言っていた時代です。ただ、時代を経てこのアルバムを聴くと、シンプルで単純ですが、これからの自分のやりたいことの一つではあるなと思っています。
 『LSD REVAMPED』については『All Things Must Be Equal』リリース当時に個展も同時にしたところ、多くの若い10代、20代のファンが見に来てくれました。それは大きなありがたい誤算でした。実際、『All Things Must Be Equal』も予想より多く売れました。それは、ネットインフラが成熟して、ゲーム関連である僕の制作物が相当数掘られていたという結果だと思います。そしてその発端がやはり『LSD』というプレステのソフトが入り口でした。日本だけで発売されたものが、国内はもとより海外にまで飛び火して、そこから現在の海外リリースという現象は始まっているのではないかと思います。ということで、『LSD』のサントラをリイシューという話でしたが、僕としては、新たにミックスし直して出したいと考えました。原盤は僕が所有していて、全曲、マルチトラックが残っていたというのも大きいです。
 ですので、当然レーベルやファンからの要望というのは、制作のキッカケになっていますが、まったく同じものをリリースするのではなく、すべて新作と思っています」
GADRO
――今回の『GRATEFUL IN ALL THINGS』は純然たる新作で、12曲全曲に異なるゲストが参加するという、コラボレーション色の強い作品になったわけですが、そうしたアイディアはどうやって生まれたのですか?
 「コラボの大きな理由としては、僕が2020年で還暦を迎えるということもあり、一つの節目として、今まで一緒にやってきた方、関係の深い人、僕が好きな方を、リスペクトと感謝の自分の証としてなんらかのコラボレーションをしてアルバムを作りたいと思いました。まあ、勝手にみんなに祝ってもらおうっていう感じでもあります(笑)。なんとなくイメージにあったのはリンゴ・スターの『リンゴ』っていうアルバムでした」
――制作はどのように進んでいったんですか?
 「基本的に僕は物を作る時、あまり最終形を考えたりしないんです。僕にとって曲を作るのは音のパズルのデザインなので、時間があれば、スタジオに入って作業を始める感じです。ただ最初、まだアルバムの構想もない時には、ちょっといつものスケールじゃない、いろいろ実験的な独自スケールを考えたり、オリエンタルなモードで作ってみようかなとかは、やっていたりしています。それはパズルの中にちょっとした制約やルールを加味することなんです。〈GRASS FIBER TEMPLE〉〈FLOWER ARCHITECT〉〈FLYING ELEPHANT〉などはその時できた曲です。
 コラボレーションというのも基本、一緒に作業というよりは、ネットでやり取りしてデータでもらう、実際にその場で録ってもデータで持ち帰ってからが僕の大きな作業なので、ある種ルールを加味するようなことであるとも言えます。もちろんコラボレイターには換骨奪胎前提でお願いしています。ルールといっても僕の中だけのことなので、クライアントのあるルールではなく自由に作っていくことはできるのです。僕がコンピュータを使って作品を作るのは、データにしてしまうことはある意味平等にすべてを一旦、同等にするということもあります。そしてそのデータを、クリエイティヴィティを持って、あらゆる制約から自由にリスペクトと感謝の上に創作するということが、僕のやろうとしていることなんです」
――ゴンドウトモヒコさん、成田忍さん、沖山優司さん、佐藤薫さん、大野由美子さんなど、かなり豪華なミュージシャンが参加されていますね。
 「ゴンドウさんについてはライヴを90年代から一緒にやっていますし、今も一緒にやることもあります。共作曲は、ゴンちゃんから曲のMIDIが送られてきました。その曲の構造を一旦バラして、気に入った部分を組み直し、それに僕が足していくことで仕上げました。
 成田忍さんは、ある意味一番関係が深いです。(出身地の)京都時代からの付き合いです。同時期に上京して僕はグラフィック、成田さんはノンスタンダードからURBAN DANCEでデビューして、僕はそのブレーンとしてジャケット・デザインやビデオ、そしてたまに作詞などをしていました。また、僕がソニーからメジャー・デビューする時、最初のレコーディングはいろいろと成田さんがサポートしてくれました。今回は成田さんが途中まで作っていたMIDIデータを投げてもらい、僕がそれを換骨奪胎して曲に仕上げました。
 沖山さんについてはもともと学生時代に近田春夫さんのバックバンド、BEEFを見た時からファンでした。その後成田さんがURBAN DANCEのあとに新バンドをやるときに沖山さんを推薦しましたし、20代の頃その3人でアメリカ音楽の旅もしています。沖山さんとはしばらく会ってはいなかったのですが、彼がYMCというYMOチルドレンのバンドでベースをやっているとゴンちゃんから聞いて、ひさしぶりに連絡を取り、ベースを弾いてもらいました。スパニッシュとインドっぽいスケールの曲に対して、本当に生きているベース・ラインをいただきました。曲が数段良くなったと思います。先日、成田、沖山、佐藤の3人でひさしぶりに集合して、新しくバンドというかユニットを作ろう、という話になったので、今後いろいろコラボするかと思います。
 佐藤薫さんは僕の学生時代に遡って、EP-4のツアー・カメラマンとして何度かご一緒したり、薫さんのレーベルのスケーティングペアーズから『Objectless』を最初にリリースさせていただいたり、僕がリスペクトする人であり、原点です。薫さんは、3本のドローン的な音、ノイズを送ってきてくださいました。それらはそれだけで音世界がありました。僕はそれを僕のバックトラックにピッチを編集したり切り刻んでリズムにしたりして、できる限り使い切りました。気持ちとしては、猟師がイノシシを撃ったらすべてを感謝していただくという感じでしょうか。またこの〈SWEET SUITE FIELDS〉には、バッファロー・ドーターの大野由美子さんにMINIMOOGを弾いてもらっています。バックトラックが50%くらいできたところでそのトラックを送り、手弾きで弾いてくれたファイルを送ってもらい、僕が編集してダビングしています」
――今回のアルバムの重要曲「I LOVE YOU」では、立花ハジメさんとコラボされています。
 「立花ハジメさんは、僕にとってはスターです。学生時代はYENレーベルから出たレコードをすべて聴いていました。デザイナーとしてもADC賞を取られたり、憧れの存在です。そして僕もその後同じ世界を目指し、20代の後半、ハジメさんが審査員を勤められた、デザイン・コンテストに応募して賞をいただきました。そして昨年ハジメさんが個展をされていて、そこでお願いしました。音はその会場でサーキットベンディングしてあるTR606とSPEAK&SPELLをハジメさんがずっと触って面白い音を出されていたので、それを録音させていただきました。〈I LOVE YOU〉のほぼ全編で鳴っています」
――この曲はSNSで集められた「I LOVE YOU」のたくさんの声をサンプリングするというユニークな試みをやっていて、愛にあふれたような音像を生んでいますね。
 「SNSで募集して、いろいろな国の言葉の“I LOVE YOU”を使っています。僕のSNSはいろいろな国のファンがフォローしています。以前、『LSD』の〈COME ON AND〉という曲のビデオを作る時、ゲーム画面だけでビデオを制作するのではなく、ファンたちに住んでいる街を歩く動画を送ってもらい、それを使って完成させました。当時もSNSで募集すると結構な数が集まりました。その時の方法と同じで、各国の言葉で“I LOVE YOU”を募集したら、一晩で50を超える数が送られてきました。どうして“I LOVE YOU”という言葉にしたかというと、世界中の人が一番誰でも知っていて、一番美しい言葉で、普遍的だからです。アルバム・タイトルの『GRATEFUL IN ALL THINGS(感謝感激雨霰)』のテーマにも沿った言葉だと思いました」
――「DAIMONJI ESPRESSO」は、画家の伊藤桂司さん、小説家のいしいしんじさん、ギャラリストの藤木洋介さんという、ミュージシャンではない方々が参加されていますが、お三方はどのような役割だったんですか。
 「今回の曲の中で、1曲は非音楽家だけで作ろうと思っていました。僕自身、いわゆるアカデミックな教育を受けた音楽家ではなく、自分では非音楽家であると思っています。藤木さんは、今回も個展を企画してくれたBEAMSのB-GALLERYのギャラリストで、ベルリンの本屋で買ってきたエスプレッソマシーンの形をした音の出るオブジェを、スタジオに持ってきてくれました。そのエスプレッソマシーンを演奏というか触って、変なノイズをダラダラ録音させてもらって、それをさまざまに変調させてというところから始まりました。
 その後、いしいしんじさんとは京都の僕のアトリエで会いました。ちょうど8月16日、大文字の送り火の日でした。そこでもダラダラといしいさんが大文字のことを一人で喋る言葉をずっと録音しました。曲の途中、ずっと話しているのはいしいさんの大文字の話です。そこに伊藤さんのジャンク・パーカッションを加えています。だからこの曲は“大文字エスプレッソ(DAIMONJI ESPRESSO)”という奇妙なタイトルになりました。ちなみにこのタイトルで、いしいさんが短編小説を書くと言ってるので、完成したら僕が絵をつけて何らかの形で発表したいと思っています」
――クラブ系のサワサキヨシヒロさんやDJ WADAさんも参加されていますね。
 「サワサキヨシヒロさん、DJ WADA さんはMUSICMINEのレーベルメイトでもあり、その関係で友人になりました。サワサキさんは今、京都に住んでいるので、京都で会うことも多いんです。京都組で何か一緒にやりましょうみたいな話があって、ちょっとコラボしたりしていました。その時僕が作ったメロディが〈PANORAMA NOSTALGIA〉です。その時も一旦完成させたのですが、そのメロディが僕的にわりと気に入っていたので、今回もう一度自分用にやり直しました。この曲は、僕の生まれ育った京都に対しての郷愁、ノスタルジアでもあります。悠久の京の歴史を想うことは宇宙を想うことに似ていて、そこにはパノラマで未来が開けているようなイメージが僕にはあります。アルバム最後の曲になりますが、最後のコードとともに一旦終了して、新たな世界が始まる感じを示唆しているとも言えます」
――「NATIONAL GRAPHICS」は環境音楽家の小久保 隆さんとSATOさんという、アンビエント系のレジェンド的な2人の共演ということで感慨深いものがありましたが、小久保さんとは以前からお知り合いなんですか?
 「小久保さんは20代からの付き合いです。小久保さんが音楽を担当するイベントで、いろいろ映像やデザインを担当してました。ジャケットを担当したものもあります。ですから、音楽でもいつかご一緒できればなあと思っていました。今回小久保さんは好きに使っていいよって、いろいろなものを提供してくれました。彼は世界中を飛び回り、フィールドレコーディングをしています。今回は、マサイ族の声、京都・嵯峨野のせせらぎ、ジャマイカの海の音を使っています。ほかにも数十ヵ所送ってくれました。たぶん小久保さんとは軽くアルバム一枚くらいの曲はできそうな気がしますので、それも進めようとは思っています」
――全体として、ダンス・チューン、アンビエント、ダークな曲、エクスペリメンタルな曲など、これまで佐藤さんがやられてきたことの多くを投入したような、バラエティに富んでいてエンタテインメント性の高いアルバムになっているように思うんですよね。聴き手を選ばないポップ性も感じますし。
 「僕は音楽に関して器用な職業的プロフェショナルではないので、ヒット曲を書こうみたいなことはできません。ただ自分で聴いて気持ちいいもの、楽しいもの、聴きたいものを作っています。ちなみに僕が一番好きで一番聴いた音楽はビートルズです。まったくの比較ではありませんが、ビートルズがあらゆる音楽を自分たちで消化して、最上のエンタテインメントとして発表していたこと、そこがずっと好きなところ、飽きないところだと思っています。いろんな音楽を聴いてきましたが、僕の中で勝るものはまだ現れないですね。そして恥ずかしながら、自分の音源を聴くのも好きなんです」
――そうした多彩な曲が揃い、多くのゲストが参加しているのに、雑多な印象が薄く、全体として統一感のある作品になっています。
 「やはりそれは最終的な仕上げは僕がやっているので、そのトータル感は嫌でもついてしまうとは思います。いわゆるプロデューサー的な、ディレクター的な役割です。また、僕の名義でリリースするのでそうするのも当然と思います。今回新しく、自分自身で“理念音盤(理念レコーズ)”というレーベルを立ち上げましたので、マスタリングも自身でやっています。曲によっては、構成やミックスまで立ち返ることもありましたが、なかなか楽しい作業でした。もちろん本業でもあるので、ジャケット・デザインやビデオも一人で作りました。できることは全部一人でやってみようと思って。それは、今後どんな時代になって、どこにいても、リリースできるという術を持つという実験でもあったわけです。
 じつは、このアルバムとは別にもう一枚分マスタリングまで終わっているものがあります。同時発売を考えていましたが、ヨーロッパで『COLLECTED AMBIENT GROOVES 1993-2001』も出るので、今回はリリースしませんでした。それは僕のソニー時代の人気のある数曲を、ゴンドウトモヒコさんにホーンやってもらったり、沖山優司さんにベース、菅原弘明さんにギターを頼んで新たにレコーディングしたものです。そのほか未発表の旧曲などを新たに録音しています。これはタイミングを見て、いずれリリースしたいと思っています」
――今回、同じタイトルの画集も発刊されるそうですが、それは佐藤さんの中で、音楽とアートが両方あって初めて完成するというような思いがあるのでしょうか?
 「自由です。一つでも完結できるように考えて作っています。別々でもまったく構いません。出したあとは作品が一人歩きするのが理想です。ただ僕は、両方作るのが好きなだけです」
――今後についてですが、音楽の活動は継続していくのですか?また、やってみたいことはありますか?
 「もう新しい曲は作り始めています。それはいずれまとまってくればアルバムにします。いつでも出せるように自身でレーベルを始めた、というのもあるので。あとは海外でいろいろなものがリリースされてきてもいるので、海外で個展やライヴなどをやってみたいですね」
取材・文/小山 守
Information
OSAMU SATO official site
http://www.osamusato.net/
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