エレクトリック・マイルスの現代版を標榜するSelim Slive Elementzがライヴ録音の新作『VOICE』を発表

Selim Slive Elementz   2019/08/06掲載
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 ジャズ・ジャーナリストで医師でもある小川隆夫がリーダー/ギタリストを務めるバンド、Selim Slive Elementzがライヴ録音のセカンド・アルバム『VOICE』をリリースする。quasimodeのキーボーディスト・平戸祐介を筆頭に百戦錬磨のプレイヤーたちが揃い、エレクトリック期のマイルス・デイヴィスの現代版というコンセプトのサウンドを展開する彼ら。メンバーは2サックス、2ギター、4リズムからなり、『VOICE』というタイトルのとおり、独自のヴォイスを持った8人のソロがたっぷりと堪能できる。また、ファーストよりもファンク調の曲が増え、親しみやすくなったのも特徴だろう。リーダーの小川に話を聞いた。
――Selim Slive Elementzの結成に至るいきさつから教えてください。
「僕もいい歳になったから、そろそろ終活をしようかなと思って。家にレコードやいろんなものががたくさんあって、これ、死んだらどうするの? って不安になって、処分しはじめたんです。これまでにいろんなことをやってきたけれど、悪い人生じゃなかった。そうは思っているけれど、でもなにか心残りがあって。考えてみたら、それはバンドを1973年に辞めたことだったんです。だったらバンドをやろう、それも60年代の終わりから70年代のエレクトリック・マイルスをやろうと。マイルスってカムバック以降はフュージョンっぽくて明るい音楽になるけど、それよりも70年ごろの『ライヴ・イヴル』とか、ああいうちょっと暗くて妖しげでやばい感じの音楽がやりたいなと。やるなら、せっかくだから本格的なものをやりたい。アルバムも出したいし、ライヴもやりたいし、海外にも行きたい。そういうことができるメンバーを集めようと思っていた時に、以前からよく知っていた平戸(祐介)さんというquasimodeのキーボーディストに渋谷の喫茶店でばったり会って。僕、バンドやろうと思ってるんだよ、エレクトリック・マイルスの現代版をって。以前から、バンドをやるなら平戸さんとやりたいなと、勝手に考えていたんです。形としては僕がリーダーだけど、みんなでひとつのコンセプトの中で音楽を作ってやれるバンドが作りたかったんです」
――なるほど。
「その時は夢を話して終わったけれど、1年後に平戸さんに会った時にもうちょっと具体的にコンセプトというかアイディアを話して。じゃあメンバーを決めようって、何も考えずに“サックスだったらこの人がいい”みたいな候補を、それぞれの楽器で何人か出し合ったんです。そうしたら最初にオファーした全員がやりたいと言ってくれて、第一候補で決まってしまった」
――メンバーはどういう基準で選んだんですか?
「最初に平戸さんと話した、今マイルスが生きていたらこんな感じでやるだろうというイメージがわかる人を選びました。だから、エレクトリック時代のマイルスの音楽が好きで、マイルスのあのレコードのあの感じ、って言って通じる人じゃないとダメ。実際一緒にやってみたら、全員がマイルス大好きだから、ツーカーでこちらの意図が伝わるんです」
――2サックス、2ギター、4リズムという編成ですが、トランペットをあえて入れてないですね?
「最初はちょっと迷ったんですよ、入れるかどうかで。ただ、トランペットを入れるとすごく注目されちゃうだろうから、その人がつらいでしょ。あと、マイルスのコンセプトを勝手に受け継いでるうえにトランペットがいると、さらにマイルスのイメージがオーヴァーラップしてくるから、そこからはちょっと離れたかった」
Selim Slive Elementz
――ファーストの時のインタビューを読むと、セカンドはスタジオ録音で緻密に作り込みたいっておっしゃってましたよね。でもライヴ録音になったのは何故?
「初めてリハーサルをした時から、これはライヴ・バンドだよねというのがあったんです。2018年の秋に関西ツアーをやって、プロデューサー的立場でステージ上でみんなの演奏を聴いていたとき、やるたびにどんどん良くなってくるのがわかった。それで、次もライヴ・レコーディングにしようと決断しました。ライヴで、この前のほうが良かったねというのは一度もないんです。毎回、今回が最高だって、メンバーもお客さんも言ってくれる。しかも、リハーサルやサウンド・チェックでやったのと同じようにはライヴでやらない。意識しているわけじゃないけど、メンバー間の雰囲気とか客席からの空気で変わるのがSelim Slive Elementzなんです」
――曲が育っていく、という感じ?
「まさにそう。テーマらしきメロディはあって、この曲は誰がソロで次はこう展開するというのもみんなには伝えるけど、まったく無視されちゃって(笑)。それでもいいの。その自由奔放さがこのバンドの命だと思うから。むしろそうやってくれたほうが僕は嬉しい。言われたとおりにカチッとやるのは、これだけのメンバーだからやろうと思えばやれるけど、それじゃ物足りない。即興性とか自由さがあってほしいし、それが活かせるメンバーだから」
――ほかにエレクトリック・マイルスから学んだことは?
「70年代のマイルス・バンドってマイルスが吹いていないときでも、彼がいるなりのテンションの高さとか緊張感があったわけで、僕らもそういうバンドにしたかった。あと、ウェザー・リポートの初期の頃にソロ/非ソロというコンセプトがあって。普通、ソロが終わったら次の人がって、ソロをまわしていくでしょ。でも、ウェザー・リポートは(ジョー・)ザヴィヌルがソロ弾いていても途中でウェイン(・ショーター)が入ってきて、空間をそれぞれのイメージで好き勝手に埋めていっちゃう。そうすると独特の緊張感が生まれる。このバンドでも、誰かがつまらないソロやっていたら入ってきていいと言ってる。フロントは2サックスだから、元晴君が吹いている時に栗原(健)君は横にいるけど、いつでも吹けるように構えているし、入ってくる時もある。その逆もあるし。プレイはしていなくても、全員が演奏に参加しているんですね。だから緊張感が保てる」
――小川さんは医者であり、ジャズ・ジャーナリストとしても活躍されていて、今はギタリストという顔もお持ちですね。どの肩書がいちばんしっくりきますか?
「それは医者だと思います。どれも本業だけど、医者がいちばんキャリアが長いし。どれもプロとしての自覚を持ってやってはいるけど、メインの職業としては医者ですね。音楽の原稿を書く時は音楽ジャーナリストと名乗るけれど」
――複数の肩書があることで、プラスになることもありそうですね。
「医者とジャズ・ジャーナリストの二足のわらじを履いて30何年だけど、そのふたつの両立は精神的にいいですね。医者ってやっぱり精神面でハードなのね。今はクリニックで働いているから深刻な患者さんは来ないけれど、大学病院にいた時は入院患者さんも診るし手術もするし、責任が大きい。ストレスがすごく溜まりました。ところが、音楽について書く仕事をしている間はそれに没入するから、医者のことは忘れられる。医者だけだった時代が十何年あるけど、その時はほんとつらくて、ノイローゼになるんじゃないかと思った。医者を辞めたいなって毎日思っていた。そんな時にたまたまジャズについて書く仕事がやれるようになったけど、書く仕事だけをやっていたら、それはそれでストレスになるから、うまいバランスですね」
――セカンド発売後、またライヴがあると思うんですが、今後はフェスに出ても面白そうですね。
「6月頃に、中国の深センで10月にあるすごく大きなフェスティヴァルに出ないかというオファーがきたんです。しかも、中国ツアーもブッキングしてくれるという。とてもありがたい話ですよね。メンバーにあたったら、前半は誰かがダメ、後半も誰かがダメ。フェスは1週間やってるから都合のいい日に来ていいといわれたけれど、どうしても誰かが合わない。でも、それはしょうがない。もともとこの8人が揃わなきゃSelim Slive Elementzじゃないと思ってるから。アルバムのミキシングの時もみんな来てくれて、全員がこのバンドを大事に思ってくれていることがよくわかった。嬉しかったですね。とにかくこの8人が揃わなきゃ絶対にやらない。誰か辞めますといったら、その時は解散ですよ。ミキシングが終わった時に、あるメンバーが“小川さん、よくわかりました。これは素晴らしいバンドです、頑張りましょう”って。これも嬉しかった。こういう嬉しさが味わえるから、バンドを続けることができると思っています。僕はひとりでも欠けたらこのバンドは成立しないと考えているし、今回のレコーディングでこれまで以上に結束が固まってきた。だから今後の展開が楽しみです」
Selim Slive Elementz
取材・文/土佐有明
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