シバノソウ、少し大人になった彼女の「これから」を表明した新作EP

シバノソウ   2022/03/16掲載
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 3月16日にニューEP『これから』をリリースしたシンガー・ソングライター、シバノソウ。22歳になり、少し大人になった彼女の「これから」を表明したEPについて、昔から彼女のことをよく知るライター、南波一海がじっくり迫ります。
――新作『これから』を聴くと、ソングライティングの面で変えたところがあるのかなと感じました。アルバム『あこがれ』(2020年)があって、そのあとにEP『夏で待ってて』(2020年)を出して以降、修行じゃないですけど、あらためてたくさん曲を作っていたんですよね。
 「以前、南波さんとのトークイベントで30曲ノックをやったと話したじゃないですか。それは今度のインストアライブでダウンロードコードを配っちゃおうと思ってるんですけど。私は音楽を習ったことがなくて、手癖でしか作れないので、いろんな曲を参考にしながらたくさん作ってみたんですね。そのなかから選んで、いまのバンドのメンバーとアレンジして広げていったのが〈愛を祈らないで〉と〈閃光のような人〉と〈21歳〉なんです。曲の作りかたが変わったというよりは、完成のさせかたが違うんだと思う。『あこがれ』は、まずアレンジャーに編曲をお願いして、それをメンバーが忠実に弾くという感じだったんですけど、今回はメンバーと仲よくというか、みんなで一緒に作っていこうと」
――バンド的に。
 「そうそう。一番にあったのは、メンバーのいいところがたくさんあるから、自分が出しゃばらなくても任せちゃったほうがいいという気持ちで。信頼もあるので、たとえば間奏が長い曲とかも、ここはお任せしますということが増えたんです。みんなのよさをそのまま活かせるのがいいなと思うようになりました」
――なぜ変わってきたんだと思いますか?
 「一緒にやることが長くなってきて、シバノの曲をバンドセットでやりました、というのではなくなってきているんだと思います。つまるところ、弾き語りではやりにくい曲が増えた(笑)」
――バンド然としてきたんですね。
 「だけど、前に〈21歳〉のデモを南波さんに聴いてもらったときに、暗くない?って言われたじゃないですか。たしかに暗いんだよね。それはなんでかというと、みんなで作ろうと思っていても、私がひとりのモードになっちゃうんですよ。違う違う、もっとこういう感じで、ってスタジオでリファレンスの曲を流したりするんですけど、そうするといい方向に行くときだけじゃなくて、みんなにはみんなのペースがあって都合が合わなかったり、全員がやりがいを持って臨めなかったり、ソウさんはアイドルになりたいの?ってメンバーから不満が出たりもする。人間関係ストレスみたいなものは変わらずあって、それが曲に出るんだと思うんです」
――人付き合いが得意なほうではないですもんね。
 「信頼してはいるんだけど、いわゆるバンドって感じの、曲を作るときにそれぞれがこんなのを持ち寄って、とかではないんですよね。かといって自分も全部が見えてるわけじゃないという多少の不安があって、そのバランス感で作ってる。それが〈21歳〉の“みんなで笑えたならいいのに”という歌詞に繋がっていて。本当は笑いたいんだけど、みんなにどうですかねってお伺いを立てているようなところがあります」
シバノソウ
――「ひとり」もまさにそういう歌ですよね。恋人でも家族でも埋まらない溝があるんだと気づくのって、やっぱり大人になったということなんだと思うんです。
 「あはは(笑)。“わたしの歯ブラシを捨てる時どんな気持ちだったんだろう”って書くのはどうだろうと思ったんです。生々しいというか、そんなことを歌ったことがなかったので。だけど思いきってこれでいこうと」
――個人的には身を削ってなにかを出すほうが刺さるとは思っていて。
 「たしかに削ってはいる(笑)」
――『EVERGREEN』を作った頃はまだ10代でしたよね。あのときは一歩引いて、いまのあなたはこうで、青春とはこういうものだ、と背伸びして歌っていたと思うんです。それももちろんよかったんですけど、『あこがれ』ではもっとパーソナルなことを内側から吐き出すようになって。今作もそうではあるんだけれど、歌のなかで描かれている様子が想像しやすいと言いますか。
 「バランスがよかったのかもしれないです。アートワークはスケブリさんにディレクションをお願いしたんですけど、これを伝えたいんだったらこっちのほうがいいと思うとかの意見を聞けて。初めて人にお任せして、すごくうまくいったんですよね。メンバーに弾いてもらったり、アドバイザーという名目でPAをやってらっしゃる戸川(光)さんにアドバイスをもらったりしたのもそうですし。私、自分がこうしたいというのと受け取られかたの乖離にずっと悩んでたんです。最近になって、こうしたいんですけどどうしたらいいですか?と聞けるメンタリティになってきたんだと思う。人が関わるとつらいからひとりでやってたんだけど、やっぱり人とやりたいからバンドも始めたし、バンドだけでも内側に入りすぎるから別の人にアドバイスをもらったり。そういうのができるくらいは大人になったのかもしれないです」
――人と作ることで風通しのよさを獲得したと。やりたいことと受け取られ方の乖離に悩んでたということですが、もともと注目されたい気持ちが強くあったなかで、誰かとまっとうな作品作りをするというところに着地したのがすごくいいなと思っていて。
 「そう思ってもらえるのは超嬉しいです。それもずっとわからなかったんですよ。自己表現をしたいという欲があるとして、それがたまたまテレビブロスに出れたり、地下アイドルブームがあったり、当時の高校生だったというのもあって、なんとなく音楽を始めちゃったという気持ちがかなりあったんですね。自己表現したいんだったら音楽じゃない方法もきっとあるだろうに、本当にこれでいいんだろうかってよく言ってたんですよ」
――たしかに言ってましたね。
 「だけど、自分が自分たらしめるものは音楽で、それをたくさんの人に聴いてほしいという気持ちが純粋にあるんだと気づいて。私、たくさんの人に聴かれたことがなかったのでそれがわからなかったんですよ。正直言うと、自分でCDを刷って目の前で売れていくのがただ楽しかった。だけどそうじゃなくて、〈愛を祈らないで〉の先行配信でたくさんの人が聴いてくれたのを知ったときに、涙が出るくらい嬉しかったんです」
――どうして見てくれないんだと躍起になって注目を集めようとするよりも、誠実にものを作るほうが近道だったという。
 「そうそう!でも、日々の練習とか曲作りってすぐに評価されるわけじゃなくて、ラグがあるじゃないですか。だからもどかしくて焦る気持ちもずっとあるんだと思います」
シバノソウ
――『夏で待ってて』では『あこがれ』の流れを汲みつつ新たな方向性を探っているような印象を受けたのですが、『これから』のヴァリエーションの豊かさに結実した感もありますよね。サウンド面に関してバンド・サウンドでいこう、みたいなこだわりはない?
 「そこは全然ないです。もともといろいろ聴いてきたので、絶対にバンドなんだというのはないし、ライヴでシンセ弾いてみたりとか、音を重ねてみたりとかはやってきたので。それに、自分のギターは全然好きじゃなくて(笑)」
――えー!
 「うん。歌が好きみたいですね。伝えるための言語を増やしたいなと思っていて、そのためにギターを頑張らなきゃというのはあるんですけど、みんなの前でギターを弾きたいというのは全然なくて。でも、いろんな歌いかたで歌えるようになりたいなっていうのはあります。『夏で待ってて』では息を多くして歌ったり、平坦に歌ってみたりとか、いろいろやってきたんですよね。今回でいうと〈夜長〉では岩瀬さん(the Stillの岩瀬蓮太郎)にシャーデーみたいに歌え!って詰められて(笑)、シャーデーを聴いて、意識して歌ってみました。そういう提案は楽しいです。こだわりがあまりないので、みんながこうしてほしいということをできない自分がもどかしいくらいです」
――メロディや歌詞にはこだわりがあるわけですよね。
 「いや、メロディもそこまでかもしれないです。私、意識しないとリファレンスをパクっちゃうんですよ(笑)。だからクレジットを見ると〈21歳〉に“Melody arraned by”ってあまり聞いたことない言葉があるんですけど、これはリファレンスと同じになってしまったメロディを岩瀬さんにどうにか変えてもらったんです。本当のことを言うと、メロもなんでもいいんですよ」
――なんでもいい(笑)。
 「メロディのアレンジをお願いしたら何パターンも送られてきて、どれがいいのか全然わからなかったんです。〈夜長〉のときは、いまあるのが正解だとは思ってない、ということしかわからなくて。それで、いろんなパターンを歌ってみて、メンバーに聴かせてみて、もらった意見を採用しました。曲は、こういうのが作りたいですという最初のアイディアやコンセプトがあればいいかな。あとは、その曲に見合った歌が歌えればかなり満足」
――それはもうシンガー・ソングライターというよりシンガーですね。
 「本当ですよね。そうなってくといいな、とも思います。器用じゃないので、むしろそこを突き詰めていったほうが自分はいい気がします。でも、歌詞に関しては、〈21歳〉は誰にも書けるわけじゃないという気持ちもありますね」
――できるならひとつのことに集中したい?
 「メンバーのスケジュールを押さえるとか、そこでの人間関係に悩むとか、お金を作るとか、特典用にサインをいっぱい書いたりとかしてると、自分はマルチタレントじゃないよなって思うんです。だからなによりも歌を頑張らないと」
――なるほどなぁと。「夜長」でシャーデーという言葉が出ましたけど、こういうアプローチの曲もやることには驚きました。
 「以前はサブカルサブカル言ってましたけど、それは自分がいまいる界隈とか文脈みたいなものをすごく意識してたからなんです」
――シバノさんと親和性の高い地下アイドル・シーンとの距離の取り方みたいなことですよね。
 「そうそう。でも、シーンとかじゃなくて、関係性のある人と一緒に考えようという方法論で作ったのが今回で、それがうまくハマった曲だなと思いました。これまでもいろんな人と作ってきたけど、昔よりは自分のやりたいことがわかってきてるし、全部汲み取ってもらおうと思うのではなく、対話していきたいよという気持ちを実行に移せたのかなと」
――「夜長」は夜中の首都高が描かれるじゃないですか。こういうことを書くようになったのもやっぱり驚きます。
 「運転してますからね〜」
――車を運転すると否応なしに社会のルールを感じますよね。
 「そう!社会!運転にかわいげとかが認められたら事故りますからね(笑)。高校生のときに〈水星〉を歌ってたら、お父さんに“これは夜中にクラブにいて、帰りたいけど帰れないしなって気持ちにならないと歌に深みが出ないよ”って言われたことがあったんです。いやいや、こっちはサブカルの文脈で歌ってるんだよって思ってたけど、深夜2時のドライブを経験したことによって歌える歌があるんだってわかったのはよかったです(笑)。でも、もうまわりが就職してる年なんですよね。いままで私があんなにしゃかりきに大人ぶって、まわりは冷たい目で見てたのに、もうスッと追い抜かれていき……」
――その気持ちもわかるけども(笑)。「ささくれ」を聴いて、おおっと思いました。ビートも音響的にも面白くて。
 「ギターの夏彦曲ですね。kiss the gamblerとかいろんなサポートをやっている人なんですけど、作ったことがなかったからなにかやってみたいと言ってくれて。悪いようにはならないだろうなとわかっていたのでお願いしました」
――「閃光のような人」も新境地ですよね。
 「ラップというわけじゃないけど、ハロプロの曲をよく聴いたりしてて、遊びで16分でとってみたりしたデモを作ったら、メンバーがいいじゃんと言ってくれたので採用しました。先行で出した〈愛を祈らないで〉を聴くと、『あこがれ』からの流れかなって思いますよね。でも、1曲目にラップみたいなのがあったりして、〈ささくれ〉みたいな曲もあったりして、なんだこれってなるのが目標です」
――新しいことにチャレンジしているのを聴くとワクワクしますよ。
 「先行で〈愛を祈らないで〉を出したとき、フェミニズムっぽいことを考えてるの?って言ってくれたじゃないですか。あれに出てくる“無理して男らしくとか”の“男”は私のことなんです」
――ですよね。
 「あれは、“無理して女らしくとか 無理してわかったふりとか しなくていいんだよ”って私が誰かに言われたいなという(笑)。だから、なにかすごい考えて作ったというより、ただ言ってほしいなってくらいなのかも」
――男らしさ、女らしさって一体なんなんだということも自然に歌詞に入ってきている。それも以前には見られなかった変化じゃないかなと。
 「でも、そんなにいいものでもなくて。大人になったねっていうその大人の行き先がすごく綺麗かというと、私の場合はそうでもない、というのもありますよ。『これから』は、これからの生活をマシにしていきたいということなので(笑)」
――そういう意味だったとは(笑)。でも、シバノさんの人間らしさだと思いますよ。それがリアルな歌詞として響いているわけで。今回、〈21歳〉がありますけど、これまでも年齢に関する歌を残していますよね。
 「たしかに。ログとして一番わかりやすいのかな。〈21歳〉ってタイトルをつけることによって素直に言いやすいんだと思います。さっき言われたように、〈18歳〉を作ったときは自分でも俯瞰で見てる感じがあって。それはあまりよくなかったかなと思うんですけど、でも、あのタイトルにしたことでそのときの思いをそのまま言えたところがありました。〈モラトリアム・ナインティーン〉も、19歳ってこういうところがあるじゃないですかって開き直れた感じがあったんです。本当は恥ずかしいんですけど、迷いとかをそのまま出すための建前ができるというか」
――曲名を決めることによって思いを堂々と綴れる。
 「うん。“今が幸せだってみんなで笑えたならいいのに”って書くのは暗いし、ちょっと恥ずかしいし、そのままなので、日記を人に見せてる感じがしてしまうんだけど、〈21歳〉というタイトルをつけることによって、いま22歳の私が歌えるんです。いまでも〈18歳〉を歌えるし、年を重ねるほどによく歌えるような感覚もありますね。最近言われて気づいたのが、歌詞の最後の行が私の言いたいことなのかなって。“今が幸せだってみんなで笑えたならいいのに”もそうだし、“ちゃんとしたいなって思った”とかもそう(笑)。物語を完結させたかったんだと思います。その書きかたも今後は変わっていくかもしれないですね」
――年を重ねてきて……というほどでもないですけど、10代の頃と比べて生きやすくなりました?
 「生きやすくなったし、ちょいちょい生きにくくもなった(笑)。もう許されない感じがあるというか。前までだったら、高校生だしなってことでまわりになんとかしてもらえてたけど、さすがにこれからは自分でできることを増やしていかないといけない気持ちもあります」
――とはいえ、こうして自力で作品をフィニッシュまで持っていって、ちゃんと自分を更新しているのがすごいと思います。
 「有言実行の力はあるので、なんとか完成はさせました。そこはずっとやってきてよかったよっていう」
――もうかなりのキャリアを積んできたから。
 「年数と枚数でいったらかなりです(笑)。掟ポルシェとジョニー大蔵大臣の出番の間で初ライヴをしたのが14歳のときで、初めてCDを出したのは15歳とかで。もう8年くらいやってるんですよね。でも続けるのが大変だとは思わないですよ。辞めなければ続くものなので」
――アイドルと違って、運営と合わなくて……とかじゃないですもんね。
 「私の場合は、運営が、とか、メンバーが全員辞めて、とかじゃないので。アイドルはともかく、本来は続けていくのがデフォルトなはずじゃないですか」
――音楽をやりたいからやるわけで。
 「うん。バンドだって、たとえばベースが抜けたら探さないといけないかもしれないけど、シバノソウはひとりでもできることだから。その振れ幅を活かしていくほうがいまは合ってるなって。バンドの名前をつけようって考えたこともあったけど、いまは無理。できると思ったときにやればいい。とにかく焦らず、真摯にものを作っていくほうがいいのかなって。いまはもっともっと音源を聴いてほしいです。いいものを作れたから、いろんな人に聴いてもらいたいです」
取材・文/南波一海
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