柴田聡子、新しい試みとニューEP

柴田聡子   2020/07/03掲載
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 昨年、『がんばれ!メロディー』とライヴ・アルバム『SATOKO SHIBATA TOUR 2019 “GANBARE! MELODY” FINAL at LIQUIDROOM』と2枚の新作を立て続けに発表。絶好調ぶりを発揮したシンガー・ソングライター、柴田聡子。その勢いに乗って、今年5月から日本を縦断する弾き語りツアー〈ひとりぼっち'20〉が予定されていたが、コロナの影響で中止になってしまう。不安だらけのステイホームな日々で、柴田は歌とどんなふうに向き合ってきたのか。自宅で“ひとりぼっち”で始めた新しい試みや新作EP『スロー・イン』について、zoomで話を訊いた。
――ツアーの中止は残念でしたね。
 「ほんと、つらかったです。友達とかスタッフさんがいなかったら、どうなってたんだろうって思いますね」
――どんな生活を送ってたんですか。
 「自粛前から自粛生活を送ってたようなものなので、そんな大きな変化はなかったです。まあ、太陽の光は浴びとかなきゃっと思って散歩に出たりはしてましたけど、もともと散歩は好きで歩き回ってたし。でも、4月から5月頭くらいはさすがに落ち込んじゃって。毎日、曲のカケラみたいなものは作るけど、それをまとめる集中力が出なかったんです」
――そんななか、5月16日に行なわれた配信のイベント〈CROSSING CARNIVAL'20 -online edition-〉に出演したのを拝見しましたが、自宅配信のライヴはあれが初めてだったんですか?
 「そうです。家で撮影したものを流したんですけど、全部ひとりでセッティングして、録音もミックスも自分でやりました。ネットでクリス・ロード・アルジさん(※世界一有名とも呼ばれるミックスエンジニア)のミックステクとか学んだりして(笑)。そしたら、“めっちゃ楽しいじゃん!”ってなって、それで落ち込んでいた気分が復活したんです。新しいことをやるって、すごく楽しいし落ち込んだ気分も和らぐんですよね。何かを作るっていうことは常に自分を助けてくれる気がします」
――自宅から映像を配信するミュージシャンが増えましたが、柴田さんの場合、大学の映像学科で学んでいるのが強みですね。機材もノウハウもある。
 「2012年くらいの知識で止まってるんですけどね(笑)。ひさしぶりに映像撮ってみたら技術がすごい発展してて。当時やりたかったことが簡単にできたりするんです。あの頃の涙ぐましい努力は何だったんだ!と思いました」
――そういう新しい技術からの刺激もあるわけですね。
 「私は化学とか物理とかは苦手なんですけど、機械を使うのは好きで、そういうガジェット・オタクみたいなところがあって良かったと思います」
柴田聡子
――そして、中止になったツアー日程に合わせて、ご当地映像を流しながら配信ライヴをスタートしました。ファンには嬉しい企画だと思いますが、やってみてどうですか?
 「技術的にヤバいっていうのはあるんですけど、ある一定の人たちには楽しんでもらえるかな、と思います。インスタで私がタグづけされた写真を見ると、ベッドにノートパソコンが置いてあって、その両脇に2人が寝そべって私の配信を観てたりする。そういうのを見ると、やって良かったって思いますね。少しは楽しいことを供給できてるのかなって。無料だし、自分が楽しそうだと思うことを全部やっていこうと思ってやってます」
――部屋で演奏しててもライヴの緊張感はあります?
 「ありますよ。(見ている人からの)コメントを見て驚いたりして、意外とリアリティあるんですよね。それにライヴ配信中はひとりで、スタッフもいないので、何か起こったら自分で対処しなきゃいけないから緊張感もある。ただ、終わった後がナゾなんです。突然、ポツンとひとりになる感じがヤバすぎるので、最近は125mlの小さなビール缶、お墓に備えるようなやつを買っておいて、配信が終わった後にひとりで飲んだりする日もあります(笑)」
――ひとり打ち上げを(笑)。そんななかで、7月3日に新作のEP『スロー・イン』をリリースされますが、バンド・サウンドを全面に押し出した『がんばれ!メロディー』に比べて、弾き語りが軸になっていますね。
 「今回はバンドじゃないかな、と思ったんです。あと、自分でサウンドを考えて自分でアレンジしたいっていうのがあったから」
――これまでは違ったんですか?
 「今までは誰かに頼むんだったら、その人にまるっとお任せしてきたんです。そうやって任せるのが、その人とやる意味かなと思っていたから。でも、RYUTistっていうアイドルの曲を書いた時に、デモでかなりサウンドの方向を決めて、それをバンドに渡して演奏してもらったら、バンドのみんなが“すごいわかりやすかった”って言ってくれて。私が意図するところがちゃんと伝わって、みんなの視界がクリアになったみたいだったんです。その結果、曲をすごいいいテンションで作ることができた。それで“やっぱり、自分でサウンドを考えないとダメなんだな”って思ったんですよね」
――今回は曲の青写真として、しっかりとデモを作ったわけですね。
 「そうです。元来、私はそんな曲とかデモ作りが巧いほうじゃないんで、音像はぼんやりしてるとは思うんですけど、なんとか頑張って、はっきりさせることを目指しました。メロディとかリズムに関して“ここはこうしたい!”っていうのが伝わるように」
――レコーディングに参加したのはどんな顔ぶれだったんですか?
 「イトケンさんがピアノ演奏とドラム監修をしてくれました。今回はピアニストに頼んでその人の個性を出してもらう、ということじゃなく、私のデモどおりにやってもらおうと思ったので、鍵盤もできるし、ドラムの音作りも協力してもらおうとイトケンさんにお願いしたんです。あとチェリストの橋本 歩さんと、橋本さんに紹介してもらったコントラバスの山田章典さん。橋本さんはRYUTistのレコーディングでご一緒したんです」
柴田聡子
――今回のEPはストリングスがアクセントになっていますね。
 「音を決めていく時、最初のほうでチェロって良いかもって思って全編にフィーチャーしたんです。それでデモの段階でストリングスのパートを自分で打ち込んでみたんですけど、全然わからずにやってるから、もう大変で(笑)。RYUTistの時も自分で打ち込んだんですけど、“感覚でやってるんですね?”って(笑)。今回も怒られるかなと思ったけど、もう甘えちゃおうと思って」
――1曲目の「変な島」からストリングスが活躍しています。ライヴではギターの弾き語りで歌っていましたが、今回はストリングスやコーラスが加わって曲に膨らみが生まれていますね。
 「ライヴで弾き語りで歌っている時も、ここでストリングスがフワッと広がる感じで入れば良いなあ、と思っていたんです。そのナチュラルな欲望をそのままアレンジしました」
――鼻歌っぽいメロディが親しみやすくて、NHKの「みんなのうた」に推薦したいような可愛い歌です。
 「朝起きた時、夢の中で鳴っていた曲が頭の中に残ってたんです。“へーんな島、へんな島”って。この島、モデルがあるんですよね」
――変な島なんですか?
 「能登半島にある“見附(みつけ)島”っていう島なんです。能登に旅行に行った時に立ち寄ったんですけど、海浜公園を抜けた海辺に島があって、松林の間から突然現れるんですけど驚いちゃって。写真で見ると頭に毛が生えてるみたいな可愛い島なんですけど、近くで見ると怖いんですよ、めちゃくちゃ巨大で。干潮の時は島まで渡れるんですけど、その日は風が強くて、もう無理!って諦めました」
――2曲目の「いやな日」は山小屋が舞台ですね。
 「去年、名古屋の番組でメイプル超合金のお2人にお会いする機会があって。私、ほんとにメイプル超合金が好きだったんで、めちゃくちゃ嬉しかったんですけど、その番組で即興で曲を歌ってもらうかもしれないっていう話があったんです。“えー、できるかな?”と思いながらも、ちょっとせこいけど、なんか仕込んでいこうかなと思ってメロディ・ラインを考えたんですけど、それがこの曲のメロディの始まりだったんです。メイプル超合金さんとスタジオで会うんじゃなく、ピクニックとか山に行きたいなとか思いながらメロディを考えてました」
――確かに山小屋って開放感ありますよね。ご飯も美味しいし。
 「ですよね。空気がいいところで飲むコーヒーって、めちゃくちゃうまくないですか?いい空気とコーヒーが口腔内で絶対なにか化学反応みたいなものを起こしているっていう説を唱え続けてるんですけど(笑)。この曲は初めてのコーヒー・ソングかもしれない」
――続く「友達」はタイトル通り友達ソングですね。
 「友達って何で一緒にいるのかな?って思ったりするんですよ。小学校の時に出会う友達と大人になってできる友達って違うじゃないですか。小学校の時は強制的に教室に入れられて、そこでたまたま一緒になったことで友達になったりするけど、大人になると自分で友達を選ぶようになる。選んでいるっていうことは“こいつと付き合えば、なんかいいことあるかも”とか、そういう利害を考えていることが多いんじゃないかと思うんですよね。自分はどこまでその友達のことを好きなんだろう、とか、そういう面倒臭いことを考えたりしちゃうんですよ。私は欺瞞警察なので(笑)、欺瞞に対して目を向けてしまう」
――子供にしても、こいつと友達だったらゲームいっぱい借りられる、とか考えたりするだろうし、友情ってピュアなものとは限らないですよね。
 「そうなんですよ。そういうところを包み隠さず見てみようと思った曲です」
――欺瞞警察の厳しい目で(笑)。この曲はEPで唯一、リズムが入った曲ですね。前作の「涙」を思わせるような。
 「リズムを入れるんだったら強くしたいなって、このところずっと思っていて。そこを、これまで何作か一緒にやってくれたエンジニアの宮洋一さんがしっかり受け取ってミックスしてくれました」
柴田聡子
――4曲目の「どうして」は個人的に大好きな曲です。いきなり、花壇で寝ているところから始まる歌詞もすごいですけど、曲のアレンジもユニークだし独特のグルーヴがありますね。
 「自分では古典的だなって思って作ってたんですけど、リズムが何拍子かわからないままデモを録っていて。自分では4拍子かな、と思ってたんですけど3拍子にもできる。デモを橋本さんに送ったら、“これは何拍子なんですか?”って聞かれたんですけど、最後までよくわからなくて。最終的に宮崎さんが解明してくれたんですが、もう、それも忘れてしまった(笑)。そういう状態でやっていたのが良い効果を生んだのかもしれないですね」
――ストリングス・アレンジも独特で、曲の途中で唐突に壮大な世界に突入する意表をついた演出も面白いです。
 「ストリングスは橋本さんとアレンジをすり合わせた時に、たまに、“ここ、いいですね”って言われるところがあってめっちゃ嬉しかったです。曲の途中で変化のあるパートを入れたのは、6分ぐらいある曲だからアレンジを頑張らないと持たないかもって、宮さんや周りから言われて。最初に途中でメロディを変えたんです。でも、それだけじゃダメな気がするから、アレンジも変えようってことになってこういう形にしたんです。自分は曲を作ってると、曲が長いという感覚がそこまではっきりわからなくて。自分では“この曲はこれくらい尺が必要”と思ってるし、やってて高揚感もあるんですよ。でも、それが本当かなって時々考えるし、宮さんとか周りの人の意見を聞いて変えてみました」
――一体何が始まったのかって思いますよね。柴田さんの多重録音したコーラスも効果的だし。
 「このパート、“ちょっとミュージカルっぽいね”って言われたりもするんですけど、去年ミュージカルにハマってたんです」
――そうなんですか。
 「去年の1月にニューヨークに行ったんですけど、ブロードウェイで『オペラ座の怪人』を観て、あらためてミュージカル最高だなって思ったんです。子供の頃、両親が劇団四季によく連れて行ってくれたんですよね。去年の年末には映画『CATS』が公開されて、子供の頃に観た『CATS』を思い出したりしたんです。それでバンドで『アニー』のカヴァーをしたりして、ミュージカルが好きだった頃の気持ちを取り戻してたんです」
――ツアーの振替スケジュールも決定しましたが、ライヴでミュージカル・ナンバーのカヴァーもぜひ聴いてみたいです。今後、ツアー以外に何か予定はありますか?
 「今年は年内中にアルバムを作りたいと思っていたんですけど、ツアーの振替も決まったし、どうなるかなあ。アルバムが作れたら、また自分でアレンジを頑張って考えたいと思ってます」
――ミュージカルに出る予定は?
 「ないです(笑)。そういえば、去年か一昨年ぐらいに、多分、乱れ打ちされているメールだと思うんですけど、〈『レント』のキャストオーディションがあるので受けませんか?〉っていうメールが来てて、一瞬、受けようかな?って思いましたけど(笑)。『レント』好きなんですよね。『レント』なら出たいな!」
取材・文/村尾泰郎
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