ビター・スウィートなポップスとして胸深く響くポップ・シンフォニーを鳴らす話題のバンド、ザ・なつやすみバンド

ザ・なつやすみバンド   2012/07/02掲載
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 ザ・なつやすみバンドの1stアルバム『TNB!』が話題を呼んでいる。とにかく一般のリスナーにとっては、ものすごく完成度の高いCDが目の前にいきなり現れたという感じだった。大掛かりな宣伝もないし、音楽雑誌にだってレビューもほとんど出てないほぼ無名のバンド。だけど、CDショップで流れているのを聴いてみんな衝撃を受けているのだ。“この人たち誰?”って。

 ザ・なつやすみバンドのメンバーは、ピアノと歌、そして大半のレパートリーの作詞作曲を手掛ける中川理沙を中心に、ベースの高木潤、ドラムスの村野瑞希、そしてスティールパン、トランペットなどさまざまな楽器をこなすマルチ・プレイヤー、MC.sirafu(シラフ)。中川とのデュオである“うつくしきひかり”、シングル「踊る理由」が話題の“片想い”での活動に加え、ceroやNRQなどのサポートでも多忙な曲者sirafu。バンドの一員として作曲やレコーディングのミックスも行なう彼の個性が、バンドのサウンドにカラフルなムードを与えていることは間違いない。

 だが、このバンドの魅力は、何よりも彼らと彼女たちが鳴らす音楽そのものだ。小旅行、木陰、星空、ピクニック、サイクリング、パーティ、たいせつな人との出会いや別れ……、誰にでもある普遍的なひと夏の物語とその終わりを、完璧に言い表すひとこと、それが“なつやすみ”だ。懐かしさや愛しさの中にひそむ永遠に解決できない何かを、そいつはくずぐる。そのとき、ビター・スウィートなポップスは、それぞれの聞き手の中でポップ・シンフォニーとして大きく開花するのだ。

 どこかで聞いたような、でも、きっとこれは、はじめての感覚。その魅力の源泉を知りたくて、メンバー4人にインタビューした。
――バンド結成は2008年だそうですが、そのいきさつは?
中川理沙(以下、中川) 「結構適当に始まった感じなんです。こんなにちゃんとやるとは自分でも思わなかった(笑)」
高木潤(以下、高木) 「中川さんと僕が、幼稚園と高校が一緒なんですよ(笑)」
中川 「高校で再会して同じクラスになって再会したんですけど、一緒にやり始めたのは高校を卒業してからです。大学2年の頃に1曲オリジナルを作ってみたら自分でも手応えがあったので、それをやるバンドを組みたいなと思ったんです。その頃に潤くんが大学でバンド・サークルに入ったという話をしていたので誘ってバンドを始めました。あとは大学の知り合いと高校時代から一緒にバンドをやっていた女の子と。自分が言いたいことが何でも言えるような人たちを集めて始めました」
――最初から、バンド名はザ・なつやすみバンドだったんですか?
中川 「はい。それはなぜかというと……、聴いた人がふらふらっと現実逃避できるようなバンドにしたかったんです。自分がそういう感じで音楽を聴くから、自分でもそういうものを作れたらいいなあと」
――ということは、『TNB!』の一曲目「なつやすみ(終)」も、その頃にできた曲ですか?
中川 「ザ・なつやすみバンドになって最初に作った曲があれです。この名前にしたからには、夏をイメージして曲を作ろうと思って。夏のイメージというのが私の中では寂しい感じのする、終わりのイメージだったんです」
――「なつやすみ(終)」を聴いて泣いちゃう人が僕の知り合いにいますよ。
sirafu 「僕にも、知り合いから“昼休みに公園で聴いてたら泣いちゃいました”ってメールが来ました」
――たとえば、ザ・なつやすみバンドという名前で、もっとハッピーでアウトドアな感じのことをやりそうな方向性だってある。でも、ザ・なつやすみバンドはそうじゃなくて、夏のせつなさ、寂しさをつかまえてる。そこが結構決定的ですよね。高木さんは、その頃に中川さんのオリジナル曲を聴いてどう思いました?
高木 「僕もベースを本当に始めたばかりだったので、経験も何もないし、オリジナルをやったこともなかったので……、中川さんの曲をやるのは本当に難しいと思いました。曲を持ってきて、それをみんなでイチからやっていくということも初めての経験でしたから。中川さんが持ってるイメージを言葉で伝えてくれるんです。“森の感じで”とか(笑)。そういう抽象的な単語を聞いて音にするというのがすごく難しかったですね。それは今も変わらないですけど」
中川 「ドラムのこととか、コードとかも何も分からなくて、本当にイメージでアレンジを伝えるしかなかったんです。“ドドドド”みたいな擬音で伝えるとか(笑)」
――ピアノを自分だけで弾いているのと、バンドの音にしていくのとは違いますもんね。コピーだったらスコアもあるけど。その頃はどういう音楽を聴いてたんですか?
中川 「はっぴいえんどとか、TOMOVSKYとか。結構いろいろ聴かなきゃと思ってた時期ではありましたね」
――歌詞作りの参考にしたような音楽や人は?
中川 「いないんです。あまり歌詞をきかなかったから。でも、TOMOVSKYの歌詞は好きでした。そこはちょっと影響を受けているかも」
――TOMOVSKYのどういうところが気になったんですか?
中川 「なんか……、すごく、諦めてるところ。最初から諦めた上で、ポジティヴになろうとしているところ。そういう作品に救われることが多いです」
――さっき高木くんはライヴ一回限りのバンドだと思っていたと言ってましたけど、でもだれかが続けようといったから、バンドは今ここにあるわけですよね。
中川 「たぶん、私です。曲を作ってバンドでやってみるのがおもしろかったから、もうちょっとやりたいなと思ったんです。そしたら、地元の千葉でやった結成2回目のライヴのときに、全然知らない女の子のお客さんが曲を聴いてぼろぼろ泣いてくれていたんです。そのときに、“もしかしたら人に届く音楽をできるのかもしれない”と思ったんです。それで、東京にもライヴをしにいってみようぜ、と(笑)」
――村野さんは結成から約1年ちょっとしての参加ですね。
村野瑞希(以下、村野) 「私は中川さんの大学の後輩で、最初はドラマーの人が出られないときに代わりで2、3回参加したんです。でも、なつやすみバンドでドラムをやってからは、他の人がやるのはいやだなあと思うようになったんです。それで、ドラムの人がやめたときに「そのままいさせてください」とお願いをしました」
――その1年後くらいに最初のミニ・アルバム『なつやすみの誘惑』(2010年)を作るんですよね。
高木 「ちょうどsirafuさんと出会ったぐらいですね」
sirafu 「最初はあだち麗三郎(あだち麗三郎クワルテッット、cero)が四谷区民センターでやってたイベントで会ったのかな。あだちくんと知り合ったときにもらったチラシで、なつやすみバンドの名前が書いてあって」
中川 「どう思った? その名前」
sirafu 「そのときは全然いいとは思わなかった(笑)。ダセえって。だけど、そのあと中川さんと僕であだちくんのバックをやる機会があって、そこで初めて知り合ったんですよ。それから少しして、なつやすみバンドのサポートで入るようになったら、そのうちギターの人が抜けることになったんですよ。彼らもいろいろ悩んでたんだけど、ギターを入れずに僕を加えた4人でやったら、結構バンドとしての可能性があるとすごく感じたんです」
――他のメンバーはどうでした? 解散するかもと思ってました?
中川 「思いました。終わるかもしれないな、と」
sirafu 「その頃はギターが音の要だったし」
中川 「空間系っぽい、ふわあっとしたギターの感じがあって。その色が強かったんです」
sirafu 「逆に僕は4人でやることで、アンサンブルの個性が出せるなと思ったんです。曲もポップだし、アプローチの仕方が無限にある。音楽的に難しいことをやってない人たちにスティールパンが入るのは新鮮だし。それに、前は音が大きいバンドだったけど、これからは静かな感じで歌がもっときこえるようになる。リスナーにもっと中川さんの歌が届くようになれば大化けするなと思ってました」
――バンドを続けていくなかでその決断は大きなポイントだったと思うけど、他にも、自分たちの自信につながるような節目はありましたか?
sirafu 「去年の7月の<Shimokitazawa Indie Funclub>でのライヴとか」
中川 「うん、そうだね」
sirafu 「Daisy Barってそれほど大きくないところだったけど満員になって、入場規制もかかるくらいで、びっくりした」
中川 「無名だったからね」
sirafu 「あれは、このバンドが割と注目されてるんだという自信になりましたね」
――そして、去年の夏からレコーディングに取りかかったのが、この『TNB!』になったというわけですね。ミックスもsirafuが担当していて、本当に自分たちの力で作り上げた作品で。
sirafu 「リリースをどういうかたちにするかは、しばらく悩んでました。シングルがいいのか、ミニ・アルバムがいいのか、それともアルバムで出すのがいいのか」
中川 「お客さんからも“いい加減にCD出してよ”とは言われていたんです」
sirafu 「中川さんが“アルバムがいい”って言ったんです。全体のストーリー性みたいなのを重視してるという考えが彼女にはあって。じゃあアルバムにするんだったら、もう自主で作っちゃおうかなと思って、やってみたんです」
――それがよかったのかもしれない。プロっぽさで突き詰めると削ぎ落とされてしまうような、センチメンタルのかけらみたいな要素が良い感じでサウンドに残っていて、聴いていると心に落っこちてくる感じがする。音の響きも含めてとても自然で、もっといえばラフな感じでもあるけど、それが聴いてる人にも伸び伸びとした感じで伝わってる部分があって。あらためて言いますけど、これほどの良い曲のあるバンドを、どうして今まで知らなかったのかなと、CDを手にした人がみんな思ってるはず。
中川 「地味、なのかな? 見た目とか? あまり宣伝もしてないし」
sirafu 「活動もそんなに派手にやってないし。バンドとしてはライヴの本数も少ない方だと思いますよ。あんまり誘われることもなかったし。たぶんね、バンド世渡りが下手なんですよ(笑)。でも、そのぶん流行とはちょっとはずれたところで僕らはやれてるのかも」
――でも、今後は結構忙しくなる気がします。
中川 「音楽とかそんなに知らない人にも聴いてほしいんです。バンドとかライヴが好きな人たちが集まってくる場所だけじゃなくて、もっと広いところでやりたいなとも思ってます。だから、どっちかというと、J-POPの方を最近は意識しちゃいます」
 “この4人でできること”が、“この4人にしかできないこと”へと変わるとき、バンドの魅力は一段上の大きなものになる。ザ・なつやすみバンドの1stアルバム『TNB!』に刻まれているのは、まさにその変化の瞬間であるようにも思う。夏のまばゆさもせつなさも一緒に受け止めながら、音楽はその先へと走り出す。忘れられない夏があるように、この名前を覚えておいてほしい。ザ・なつやすみバンド!
取材・文/松永良平(2012年6月)
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