ウルリッヒ・シュナウス Special Interview ―「シンセの音楽的な可能性を賞賛する」6年ぶりのソロ新作、これまでの軌跡を振り返る

ウルリッヒ・シュナウス   2013/02/21掲載
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テクノ〜エレクトロニカの手法を用いてシューゲイザーの美学を再構築し、“エレクトロニカ・シューゲイザー〉なる新たなジャンルを生み出したドイツ出身ロンドン在住のクリエイター、ウルッリッヒ・シュナウス(Ulrich Schnauss)が、およそ6年ぶりとなるソロ最新作『ア・ロング・ウェイ・トゥ・フォール(A Long Way To Fall)』を完成させた。これまでの作品に比べ、よりシンセの音色を前面に打ち出したシンフォニックなサウンドスケープは、まさに新境地。レーベルを移籍で心機一転の彼に、新作はもちろん、シューゲイザーへの思い入れや、これまでのキャリアについてたっぷりと語ってもらった。
シンセサイザーへの愛、
シューゲイザーの本質を語る
――前作から随分とインターバルが空いてしまいましたね。
 「前作『Goodbye』のリリース後、“シューゲイザー”という表現形式でこれまでの焼き直しをせずに表現する方法論が考えつかなくなり、何らかの変化の必要性を感じていたんです。ちょうどその頃、ストレートで直接的なシンセ・サウンドへの愛着が自分の中で再燃していたので、そういう部分を反映したアルバムを作ってみることにしました。どう進めていくかが定まるまでに約2年間かかって、その後4年間かけてアルバムを少しずつレコーディングしていったので、これだけの時間がかかってしまったんです。個人的な事情や健康上の問題もありましたね。10年付き合ってきたパートナーと別れたことと、糖尿病にかかったことも、完成が長引いた原因かも」
――もとの楽器が何だったのかわからなくなるくらいエフェクト処理したフレーズのレイヤーがウルリッヒ・サウンドの魅力でしたが、今回はシンセがシンセらしくなっていますね。
 「最初の3枚のアルバムをレコーディングしたころは、シンセ・サウンドには若干飽きがきていて、聴く人にわからないように処理する必要さえ感じていました。それで主にリヴァーブやモジュレーション系のエフェクトを深くかけてみたんですよ。それが2008年か2009年ごろには、シンセの音に対する自分の感覚が変わりつつあることに気がついたんです。“シンセの音楽的な可能性を賞賛するようなアルバムを作りたい”と、強く思うようになっていきましたね」
――特によく使ったメインのシンセサイザーというと?
 「本作では、できる限り“シンフォニック”なアルバム作りを目指したんですね。つまり、ある程度突出する要素はあるにせよ、すべての要素が全体的な印象を作り出すのに同じ重要さを持つ仕上がりというか。なので、“メインのシンセサイザー”として一つの楽器を選ぶことはできません。むしろ、それができないようなアルバムを作りたかったんだと思います。ただ、自分にとって居心地のいい楽器というのはあります。長年使ってきて、馴染みのある楽器という理由だけなんですけどね。たとえばオーバーハイムのOB-8なんかはいい例です」
"A Long Way To Fall"
――以前からあなたのサウンドには、90年代シューゲイザー・サウンドやコクトー・ツインズの影響を強く感じます。実際、マーク・ガードナーライド)やレイチェル・ゴスウェル(スロウダイヴ)、アソビセクスのリミックスを手がけるなど、新旧シューゲイザー系のアーティストとの交流も深いあなたですが、ウルリッヒ・サウンドの中でシューゲイザーはどのような位置付けにあるのでしょうか? 
 「最初の3枚ではシューゲイザー・サウンドが非常に大きな要素でした。シューゲイザー・サウンドを、ギターでなくシンセサイザーを使うことによって現代的に再解釈することが大きなねらいでしたね。ぼくはチャプターハウスやスロウダイヴのようなバンドを聴いて育ったし、彼らの音楽の影響は常にぼくの音楽のどこかに出ているんじゃないかと思います。

 ここ数10年の他のポピュラー・ミュージックと違って、シューゲイザーではメランコリーな感情が中核になっていて、現実逃避が賞賛された。実際、そうした傾向が極端に進んだ結果、シューゲイザーのバンドが作り出す音のユートピアと美しいノイズは、従来の“体制なんてクソくらえ”的なインディ系のマッチョな連中には想像もつかない、それこそ何百倍も深みのある弁証法的な社会批評を形成しました。それがシューゲイザーの本質であり、昔も今もぼくが魅力に感じるのはそこなんです」
影響を受けたシューゲイザー作品、
気になる日本のアーティストを発表!
(C)katja ruge
――では、あなたがもっとも感銘を受けたシューゲイザーのバンドとアルバムは?
 「まずは、ジャンルという限界に挑んだあまりに力強いステートメントであるという点で、チャプターハウスの『ブラッド・ミュージック』(93年)。それと、いかなるジャンル背景にも適合する素晴らしい曲を集めた非常にパーフェクトなアルバムであり、モジュレーション系エフェクトと“間”をふんだんに使うことでそれがさらに高められているという点で、スロウダイヴの『スーヴラク』(93年)ですね」
――ほかにはどのような音楽を聴いて育ちましたか?
 「両親のレコードを聴いていたのが一番最初でしたね。70年代のフュージョンやジャズが中心で、アンドレアス・フォーレンヴァイダーが一番好きでしたね。今でも非常に好きです。
 アシッドハウス人気が爆発した1988年になって、自分独自の音楽指向というものが出てきました。88〜93年という短い期間にはアシッド、シューゲイザー、ブリープ、ハードコア / レイヴ、そして初期のドラムンベースやジャングルと、ずいぶんたくさんのエキサイティングな展開がありましたからね。感化されるには事欠かない時代でした」
――ではここで、これまでにあなたがリリースしたソロ名義での3枚のスタジオ・アルバムについて、簡単にコメントをもらえますか?
 「『Far Away Trains Passing By』(2001年)は、ドラムンベースを作ることをあきらめたあと、90年代シューゲイザーの美学と、現代的エレクトロニカ・サウンドとの融合を目指したアルバムです。この時代には個人的に良い思い出があるのですが、音楽的にはやや単純すぎる曲が多い気がしますね。今振り返ると、ナイーヴにすら感じられます。
『A Strangely Isolated Place』(2003年)は、前作のアイディアについて自信を持って探究したアルバム。たぶん、3枚のうちでこれが一番気に入っています。当時まだ斬新だったアイディアに則って制作する楽しさと、進歩し進化する欲求とのバランスがうまく取れているので。 
 『Goodbye』は、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)で制作した最初のアルバムです。シューゲイザーの独特なレイヤリングの手法を、要素がほとんど崩壊するレベルまで押し進めたかった。今振り返って思うのは、ヒップスターにおもねった、商業主義のレコードを目指すことをせず、このアルバムを出す度胸があってよかったということです」
――過去に数回来日し、日本のアーティストとも積極的にイベントに出演しているあなたですが、気になる日本人アーティストはいますか?
 「YMOとメンバーのソロ作品は昔から大好きです。坂本龍一『ESPERANTO〜モリサ・フェンレイのダンス・パフォーマンスのための音楽』はお気に入りの一つですね。日本はたぶんドイツと似ていて、非常に優良で多様なエレクトロニック・ミュージックが昔からある。池田亮司やMakoto、ロジック・システムなども非常に興味深いですね。

 日本に来るのはいつも楽しみです。皆さんすごく親切にしてくれるし、東京で古いレコードや楽器を漁ると状態がすごくいいものばかりだし……。一方、日本の社会は、生き残るのが大変だし、同調圧力が他の国より強い印象があります。あと日本で外出して遊ぶには、それなりのお金がないと全然面白くないですよね(笑)」
取材・文 / 黒田隆憲 (2013年2月)
翻訳 / 小寺 敦
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