クラムボン ニュー・シングル「NOW!!!」発表記念対談 ミト(クラムボン)&高橋健太郎(レコミュニ・シニア・プロデューサー) “お弁当箱”から“お皿”へ〜ミュージシャンとプロデューサーに訊く、音源配信の現状と可能性〜

クラムボン   2009/07/29掲載
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 クラムボンの新曲「NOW!!!」が8月1日より、ミュージック・ダウンロード・サイト、レコミュニより24bit/48KHZの高音質配信で独占販売される。CDよりもクオリティの高い音質であり、スタジオでレコーディングされたときと同じ音質の画期的な音源配信である。「NOW!!!」はクラムボンのオリジナルの新曲としては2年ぶりのリリースで、先頃行なわれたツアー『Re-clammbon tour』でも唯一の新曲として演奏されていた曲で、バービーボーイズKONTAが参加していることも話題である。高音質での配信、配信のみのリリースを含む意欲的な発表形式に関して、クラムボンのミトと、レコミュニのシニア・プロデューサーを務める音楽評論家/プロデューサー、高橋健太郎に話をうかがった。





音源配信がレコード会社にとって敵ではなく、以前に比べて
フレキシブルに行なえる状況になってきているんです(高橋)


──まずはレコミュニの説明をお願いします。
高橋 「レコミュニは元々はSNSで始まったが、mixiなどが出てきて、それ以外の特色も出す必要も出てきて音源配信を始めた。ただ、音源配信はiTunesの寡占のような状態だが、アップルみたいに何でも売るということはしない。面白いと思うアーティストを出していく。80年代にCISCOやWAVEなどの輸入盤店に行くのが面白かったように、レコミュニのサイトに行けばワクワクするような状況にしたいと思っている。今回のクラムボンのあとにもムーンライダーズゴンチチ朝日美穂などの音源開始が控えています」
ミト 「iTunesなど音源配信サイトは使っていますが、その今あるものとは別にクラムボンで何かできたらとは思っていましたね」


──そもそも今回の「NOW!!!」をレコミュニから出すきっかけは何だったのでしょう?
高橋 「月イチでミトくんが中目黒で行なっている〈Hardcore“Classics”Tunes〉というクラシックを良いオーディオ設備のお店で聴くイベントがあるのですが、2月に行なわれたそのイベントに行ったんです。iTunesはAACが標準だけど、ミュージシャンがスタジオで扱っている24bit/48KHzで何かできないかなと思っていたら、そのときにミトくんがイベント用に持ってきていたノートPCを指して“このハードディスクにクラムボンの新しい音源が24bit/48KHzで入っていますよ”という話になったんです。それで、早速そこで視聴してみんなで感激し、それは『Re:clammbon2』用の音源だったのですが、こちらも24bit/48KHzの音源配信の企画書を持っていたので、それを見せて、じゃあ何かやろうとなったんです。そういう偶然が重なって」
ミト 「そのときにクラムボンとしても『Re:clammbon2』の発売に伴うツアーで、オーディエンスへのプレゼントも込めて新曲をライヴでやることを考えていたんです。ただ、1曲ですし、どういう形でリリースしようと思っていたから、こちらのやりたいこととタイミングがあったんですね」

──僕も行っていた〈Hardcore“Classics”Tunes〉がきっかけだったんですね。
高橋 「レコミュニとしてもクラムボンのようなメジャー・アーティストのマスター音源と同質の音源を配信できるのは面白いと思いました。日本ではそんなことをやっているアーティストはいないですし、海外でもナイン・インチ・ネイルズぐらいですよね。レコミュニの24bit/48KHz配信の第一弾としてもインパクトがあるなと」
ミト 「クラムボンもコロムビアとのアーティスト契約が満了した時期だったので、ニーズも状況も一致した。健太郎さんとは以前から機材の話などを含めていろいろと話す仲だし、最近も木村カエラちゃんの新作のタイトル曲の制作も一緒に行ないました。そういう意味で分かりあえている部分も含めて、レスポンスが早いんです。通常の形式でレコード会社とやりとりしていると、サンプル音源やプレス・リリースを作ったり、すごく時間もかかる。でも、〈NOW!!!〉に関してはライヴで披露して、すぐにリリースしたかった。〈未来はのんびり待っててもやってこないもの〉という歌詞とも呼応していましたね(笑)」
高橋 「〈NOW!!!〉は楽曲として、とてもいいし、歌詞もいい。この曲をレコミュニから24bit/48KHzでリリースできるのは良かったが、CDでサンプル音源を作らないし、どうプロモーションしていくかが問題でした。だから久し振りに力を入れて、自分の足を使ってラジオや音楽雑誌などメディア回りを行ないました。あるラジオ局に行ったときに、コロムビアのクラムボン担当の営業の方と会ったので話したら、その方が“うちとしても『Re:clammbon2』との相乗効果があって良いですね”となったんです。レコード会社としてはもう少しネガティヴな反応かと思ったら、そんなことなくて、大阪ではうちのスタッフとコロムビアの人が一緒にメディア周りをしていましたからね(笑)。音源配信がレコード会社にとって敵ではなく、以前に比べてフレキシブルに行なえる状況になってきているんです」





“これからの音源配信は24bit/48KHzだ”というのではなく、
あくまでもリスナーに選択のチャンネルを提示したかった(ミト)


──試聴会で聴いたときに驚いたのですが、音像がとてもはっきりしていて、“ドラムのシンバルがこの高さで叩かれているんだな”とか“ヴォーカルがこのあたりで歌っているんだな”と実感できました。
高橋 「24bit/48KHzは、やはりそういうことが分かりますよね。ミュージシャンがスタジオで聴いている音を届けたかった。大手レコード会社は新たな形式にすることに対するリスクやバジェットの問題などで、なかなか実現できないかもしれないけれど、レコミュニならそれが実現できるんですね」
ミト 「ミュージシャンはスタジオで録音した24bit/48KHzの音源をCDサイズ(16bit/44.1KHz)にすることを“お弁当箱に入れる”と言うんです。要するに24bit/48KHzだと、お弁当箱ではなく、お皿にいろいろと盛ったフレッシュな状態なんですね。しかしもちろん、ウサギ型に切ったリンゴや冷めたソーセージだったり、お弁当ならではの美味しさも、もちろんあります。でも、ミュージシャンとしては、やっぱりスタジオで聴いている同じ音源をリスナーにも届けたいんですね。そこにはライヴ・ハウスで音楽を聴くような生々しい感覚があると思うんです。ライヴ・ハウスの内装による反響の倍音も含めた、目の前で演奏しているという情報量ですね。ただ、僕らとしては“これからの音源配信は24bit/48KHzだ”というのではなく、あくまでもリスナーに選択のチャンネルを提示したかったんです。みんな、いろんなメディアで音楽を自由に楽しんでくれればいい」


──「NOW!!!」の楽曲に関してですが、バービーボーイズのKONTAさんがサックスで参加しています。これはどういう経緯で参加したのでしょうか?
ミト 「小淵沢のスタジオで〈NOW!!!〉を録ったとき、サックスのようなリード楽器が入ると面白いかなと思ったんです。そのとき、突然KONTAさんが思い浮かんだんです。ちょうど録音の前日、僕が青い部屋(ライヴ・ハウス)で行なわれているセッションのイベントに参加したときにKONTAさんも参加していて、ちょっとご挨拶したことがあって。そこで共通の知り合いを通して連絡したら、すぐにOKの返事をいただけたので、〈NOW!!!〉の音源をネットで送ったんです」

──バービーボーイズは聴いていたんですか?
ミト 「聴いていましたよ。カラオケで歌っていましたから(笑)。録音はたまたまKONTAさんがライヴしていた東京のバーで、サックスを入れてほしい箇所を指定して偶然あったポータブル・レコーダーで自由に吹いてもらったんです。そして適当に何テイクか録音したものを転送してもらい、こちらで編集をしたのがあの演奏です。ポータブル・レコーダーで録音しても今は96bitまで録音可能なので、良質な録音ですぐに曲に入れることができました」

──そういう顔を合わせない音作りの良さは何だと思いますか?
ミト 「集まって顔を合わせなくてもできることはもちろんとして、好きなときに音作りに集中できることですよね。自分の家でもできますし、テイ(・トウワ)さんから急に連絡がきてAYUSE KOZUEちゃんの曲にベースを入れたこともあります。マイス・パレードとは仲良くしていますが、最近、来日したときもアダム・ピアースと“一緒に何かやろう”という話になって、“忙しいだろうから11月ぐらいにデータのやりとりでいいよ”と言われました(笑)。いつでもできる良さを実感しますね」

──音楽業界はもちろんビジネスですが、この25年ほどでメディアの形式が何度も変わっています。この点はどう思いますか?
高橋 「その時代ならではのメディアに対応しながらも、メディアの形式に翻弄されないようにしたいです。そういう試みのひとつが今回の〈NOW!!!〉の24bit/48KHzでの音源配信につながっていますね」
ミト 「可能なことが多いからこそ、“何をして何をやらないか”を無理せずにやっていこうと思っています」



取材・文/わたなべりんたろう(2009年7月)
撮影/石井麻木



●レコミュニとは

 “読む、聴く、買う”を掲げ、良質な音楽を届けるミュージック・ダウンロード・サイト。こだわりのアーティストのインタビューやレビューなどの豊富な記事が満載。ファイル形式は、DRMフリーの手軽なMP3と高音質のWAVを用意。専属の音楽ライターや現場のバンドマンが関わり、既存のメディアに呑まれることのないリアルなミュージック・シーンを伝えている。また音楽だけでなく、脱出ゲームなどの新しいカルチャーを提供することにも力を注いでいる。 http://recommuni.jp/


●「NOW!!!」クラムボン

 オリジナル楽曲としては2年ぶりとなるクラムボンの新曲。2009年8月1日よりレコミュニのみで限定販売。8月1日より1ヵ月間は、24bit/48KHzのWAV形式で販売。9月1日よりMP3での販売も開始。
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