山田五郎×サワサキヨシヒロ 温泉対談 〜土着の温泉文化を伝播させる方法とは〜

サワサキヨシヒロ   2009/10/21掲載
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 無類の温泉好きが高じて、かねてより構想を温めていた温泉アンビエント・ワークス、“Naturally Gushing”プロジェクトを昨年から本格的にスタートさせたテクノ・クリエイター、サワサキヨシヒロ。チルアウト効果の高い温泉映像と自身の手によるアンビエント・ミュージックからなる“温泉アンビエントDVD”シリーズ『Naturally Gushing DVD』を10月より3ヵ月連続でリリース! さらには11月14〜15日に長野の名湯、渋温泉にて DE DE MOUSEASA-CHANG&巡礼七尾旅人渚ようこといった個性溢れる面々を集めた音楽フェスを主催するなど、土着の温泉文化を広めるべく、まさしく自然湧出(Naturally Gushing)する情熱に衝き動かされるがごとく日々、エネルギッシュな活動を展開しているサワサキ。今回の対談では、かねてから親交のある山田五郎氏をゲストに招き、“Naturally Gushing”プロジェクトの今後について大いに語り合ってもらった。


「ヨッちゃんがやろうとしてることって、ブライアン・イーノとつげ義春をくっつけようってことでしょ」(山田)



サワサキヨシヒロ(以下、サワサキ) 「僕、去年から温泉とアンビエントを結びつける“Naturally Gushing”というプロジェクトを立ち上げまして。その一貫として今回DVDを作ったんですよ」
山田五郎(以下、山田) 「観た観た。なんかオシャレ〜なことやってるなと思いましたよ。シュッとしてるやん、ヨッちゃん」
サワサキ 「あれ、カメラマンと一緒に温泉地まで行って、全部自分たちで映像を撮ってるんですよ。そこに自分で作った音楽をかぶせて。ブライアン・イーノのアンビエント・シリーズみたいなものを作ろうと思ったんです」
山田 「ゴメン、そこは全然気がつかなかった(笑)。でも、イーノって言われたらイーノかも」
サワサキ 「そうなんですよ、おじいちゃんおばあちゃんしか来ないような土着の温泉をいかにしてオシャレなものとして若者に伝えるかというのがテーマなんです」
山田 「そこが、ヨッちゃんの難しいところだよね。普通にオシャレな温泉とタイアップしたらええやん。そこに土着を入れるから難しくなるのよ」
サワサキ 「いやいや、それをやったら、そのまんまじゃないですか(笑)。面白くないですよ、そんなところと組んだって。僕がやりたいのは、古来から伝わる本物の温泉文化を伝えていくことなんです」
山田 「やりたいことはすごくよく分かる。でも、ヨッちゃんがやろうとしてることって、要するにブライアン・イーノとつげ義春をくっつけようってことでしょ。それは、やっぱり難しいよ」
サワサキ 「でもね山田さん、僕はあえてそこに挑戦したいんです。世間でもてはやされてるような、分かりやすいオシャレなデザイナーズ温泉みたいなものに甘んじたくないわけですよ」
山田 「カマキリが戦車に立ち向かっていくような、ヨッちゃんの戦いが始まるわけだ(笑)」
サワサキ 「戦いますよ〜(笑)。これから20年かけて頑張りますから」
山田 「でも、その戦いはシンドイよ。俺らよりひと回り上の世代あたりから、かれこれ50年近く負け続けてきた戦いだよ。どうやったら勝てるのか、マジで知りたい」
サワサキ 「やっぱり戦い続けていくしかないと思うんですよね。みうらじゅん師匠(※サワサキは一時期、みうらじゅん事務所に社員として勤めていた)が地道に活動し続けて、最終的には20年かけてサブカルで東京ドームまで到達したわけじゃないですか。だから僕の活動に関しても最低20年はかかると思ってます」
山田 「ヨッちゃんが今みたいな感じで作品をリリースし続けて、それが世の中に認められて、たとえば今のエイベックスくらいブイブイいわすようになるまでには何年くらいかかる予定」
サワサキ 「10年くらいでいけるといいんですけど(笑)」
山田 「おお、10年」
サワサキ 「僕は町田にエイベックスの社屋があった時代に仕事で行ったことがあって、小室哲哉景気でエイベックスが3〜4年で急成長したのも見てますから」
山田 「ヨッちゃんも、そうなりたい?」
サワサキ 「そうなりたいかどうかは、まあ……」
山田 「そこなんだよ。つまり、なぜ俺たちが負け続けているのかというと、そもそも、あんまり勝ちたがってないからなんだよね」
サワサキ 「あ〜。それは確かに言えますね」
山田 「俺だって、世の中の価値観を変えたいよ。六本木ヒルズにいっぱい部屋を持ってる人が勝ち組みたいな、そんな価値観、明らかにおかしいじゃん。ヒルズに部屋とか欲しくないでしょ。でも、欲しくない人と欲しい人が戦ったら、そりゃ欲しい人が勝つわな。ヨッちゃんも、別に六本木ヒルズなんか住みたくないでしょ」
サワサキ 「全然住みたくないですね(笑)」
山田 「でしょ。でも、世の中はそれを負け惜しみとしか捉えてくれないんだよ」
サワサキ 「そうなんですよね。でも今は変革の時代を迎えつつあるわけですから、そこさえも変えていく運動をしていかなくちゃいけないと思うんです。その取っ掛かりとして11月に長野の渋温泉で音楽フェスを開催するんですよ。『千と千尋の神隠し』の“油屋”のモデルになったといわれている金具屋という老舗旅館に協力してもらって」
山田 「渋好みとしては、まずは渋温泉からはじめよう、と」
サワサキ 「そう。だから過去50年にわたって続いてきた先輩方のくすぶりを」
山田 「くすぶり、って(笑)。確かにくすぶってるわ、俺ら」
サワサキ 「自分らの世代が炎に変えて伝播していくっていう。それをやらなきゃいけない時期だと思うんです。そのためにも僕はこのプロジェクトを生涯かけて続けていこうと思ってるんですよ。DVDでいえば、すでに3作品作りましたから、これからずーっと世界遺産シリーズみたいな感じで、日本中、さらには世界中の温泉地をテーマに作品を発表していきたいと思っています」
山田 「オッケー。ヨッちゃんがそこまで言うんだったら付いていくよ。みごと勝利を収めたアカツキには、俺らにも何かご馳走してよ。いい肉とかさ。ヨッちゃんも最近はSMAPの仕事とかしてるけど、温泉でひとヤマ当てて、いい肉を食わせてくれるほうが、俺らも嬉しい。でも、温泉でSMAPより儲かる展望って本当にあるの?」
サワサキ 「全然ありますよ! このシリーズで松坂の近くにある榊原温泉とか撮影したら、地元の人が安くて最高級の松坂牛をご馳走してくれると思うんですね(笑)」
山田 「それ、単なる取材絡みの役得狙いやん(笑)! そうじゃなくて、ヨッちゃん自身が家に温泉があるような豪邸に住んで、自前で牛一頭買いきって俺らにふるまってくれるような日がいつ来るのかっていう展望を聞いてるわけ」
サワサキ 「でも、それをやっちゃうと、いわゆるヒルズ族みたいな人と一緒なわけじゃないですか。そうじゃない形で僕は肉を手に入れたいですね」



11月14日〜15日にサワサキが温泉フェスを開催する長野県・渋温泉。



「僕が言いたいのは、地球の恵みをいただいて、身も心も
豊かになりましょうということなんですよ」(サワサキ)




山田 「じゃあ、ヨッちゃんの欲しい肉は具体的にはどんな肉なの?」
サワサキ 「たとえばりんごの時期に渋温泉に行くと、旅館前に傷モノで出荷できないりんごがよく置いてあるんですよ。“ご自由にお取りください”って。でも、実は傷もののほうが、傷を治そうとして、甘くなっているんですよね。僕が欲しい肉は、例えるならそういうものです。地元の人と密接に結びついて美味しい肉を手に入れたいわけです」
山田 「それって、つげ義春&『ガロ』っていうより、なんかロハスとか地産地消とか、『ソトコト』系のオシャレと『美味しんぼ』系の思想が入ってない?」
サワサキ 「いわゆる田舎のいいところばっかり見て、いいところどりの価値観が入ってくるかもしれないですけど……僕はあえて、そういうのは認めようと思ってるんですよ」
山田 「あ、そこは認めるんだ」
サワサキ 「やっぱり都会の人がそういう土着に目を向けてくれることは、重要ですからね。それこそ畑をやったりとか流行ってきてますから。泥まみれになって野菜を作るのがイケてる!みたいになりつつありますしね」
山田 「汗をかく男だ」
サワサキ 「そうです。汗、汗。汗をかいていきますよ。実際、今でも、自分らでフルチンになって汗をダラダラ流して温泉の撮影をしてますから」

山田 「汗もチンポも出すと。そこは大事なところだよね。でも、問題は、世間一般の人々は汗とチンポを嫌うってことなんだよ。ヨッちゃんのプロジェクトって、実はちょっとチンポが見えてるからね」
サワサキ 「やっぱ見えてますか」
山田 「ハミ出てますよ。つまり、ヨッちゃんが言いたいのは、“ハミチンも素敵じゃん”ってことでしょ? 俺としてはそこが好きなんだけど、世間はそこがダメって言うよ」
サワサキ 「でも、ハミチンは素敵なことですよ。さすがにボロンはダメですけど。女の人でも“ハミチン、素敵”って思う人はいると思うんですよ(笑)」
山田 「いるか〜?」
サワサキ 「います、います。こないだも関西のお好み焼き屋で食事したときに、いわゆる“ハミチン”的な価値観に共感してくれる女友達がいましたよ。しかもわりとオシャレでシュッとしてるコが」
山田 「お好み焼き屋でハミチンの話をしてる時点で全然シュッとしてへんわ(笑)。でも、お好み焼き屋でシュッとしたコとハミチンについて語り合えるような時代がくればいいなとは、俺も本気で思いますよ。民主党は、そういう日本にしてくれるかな?」
サワサキ 「僕個人としては、民主党はしてくれると思いますけどね。鳩山さんにもアプローチしてみようかな」
山田 「たぶん幸夫人の方が食いつきがいいんじゃない? だって太陽食べる人やもん。温泉のラジウムとかにも絶対に食いついてくれるでしょ。太陽を食べるのもいいですけど地球のエネルギーも食べてみませんか、とかなんとか言って売り込んでみたら?」
サワサキ 「うまい! さすがやなぁ、山田さん」
山田 「地球は生きてますよ、ってことでしょ。ガイアとか、分かりやすいキーワードを絡めてプレゼンすれば、イケるかも」
サワサキ 「でも、ガイアはブライアン・イーノっぽくないですね」
山田 「温泉って、そもそもガイアだから、実はテクノやアンビエントじゃなくて、どちらかといえばトランスの方が合ってるのかもしれないけど・・・・・・。でもトランスは最近、いろいろアレだから、やっぱりガイアっていうのはやめておこう(笑)」
サワサキ 「ガイアって言った途端、一気にニューエイジの香りも漂ってきますよね。あと“SAVE THE EARTH”みたいなノリも、またちょっと違うんですよね」
山田 「地球は人間ごときに救ってもらわなくても大丈夫。手塚治虫の『火の鳥』にも描いてあったよね(笑)。考えてみたら“SAVE THE EARTH”なんて、ダニが人間を救おうと言ってるようなもので、おこがましい限りですよ」
サワサキ 「ホンマそうですよ」
山田 「地球を人間に例えれば、温泉は傷口から出てる血液みたいなもの。それを、地球に巣食うダニであるわれわれが、チューチュー吸いに行ってるわけ。だったら、より新鮮で栄養のある血が湧き出てる場所に行きたい、って話だね」
サワサキ 「だから僕が言いたいのは、自然湧出する温泉につかって、地球の恵みをいただいて、身も心も豊かになりましょうってことなんですよ。このプロジェクトでは、そういうことを広く伝えていきたいんです」
山田 「イーノ的なやり方で、土着の温泉文化をトランスレートしていくわけだ。いっそ来年あたり、イーノ本人をイベントに呼んでみたら?」
サワサキ 「そんなん、めちゃくちゃ呼びたいですよ!」
山田 「冗談抜きで、呼べば来るんじゃない? 最近、暇そうだし(笑)。あとは誰を呼ぼうか」
サワサキ 「ロバート・ワイアットとか」
山田 「ついでにロバート・フリップも呼んでみてよ。面倒くさいぞ〜、フリップ来たら(笑)」
サワサキ 「確かに(笑)」
山田 「じゃあ、次回のヨッちゃん温泉プロジェクトは、イーノのアンビエント・ライヴってことで決定ね」


取材・文/望月哲(2009年10月)



山田五郎 Profile:

1958年、東京都生まれ。上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し西洋美術を学ぶ。卒業後、(株)講談社に入社、『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。現在は時計、ファッション、西洋美術、街づくりなど幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。

サワサキヨシヒロ Profile:

90年代初頭から活動を続けるテクノ・クリエイター。1994年、ケンイシイの薦めで送ったデモ・テープがきっかけでベルギーのR&Sのサブ・レーベルAPOLLOより“Medetation YS”名義でデビュー。昨年より温泉アンビエント・ワークス、“Naturally Gushing”プロジェクトを始動。2009年夏にSMAPの楽曲「スーパースター★」の作詞・作曲をナイス橋本と共作したことも話題を呼んだ。

※発売中
『Naturally Gushing vol.1 長野県 渋温泉-地獄谷温泉-熊の湯温泉』
※11月11日発売
『Naturally Gushing vol.2 石川県 中宮温泉-親谷の湯-岩間温泉』
※12月9日発売
『Naturally Gushing vol.3 宮城県 鳴子温泉郷』

〈Naturally Gushing presents『音泉温楽』vol.1 hosted by サワサキヨシヒロ〉
●11月14日(土)〜15日(日)
●会場:長野県山ノ内町・渋温泉 14日会場:臨仙閣/15日会場:歴史の宿 金具屋 大広間
●両日通しチケット(オフィシャル手ぬぐい付) 税込6,500円
●出演者:DE DE MOUSE (アンビエント・セット)、ASA-CHANG & 巡礼、七尾旅人、渚ようこ、metalmouse (アンビエント・セット)、SNOW EFFECT、コーヒーカラー、Double Famouse DJチーム(坂口修一郎、高木二郎)、サワサキヨシヒロNaturally Gushing Orchestra (N.G.O)
●主催・企画制作:Omega Triibe 協力:誰そ彼
●詳細:http://www.naturallygushing.com/fes09/

※会場の都合上、先着300名限定のイベントです。お早めのチケット購入をお勧めします。一日券、当日券のお取り扱いは未定です。小学生以下は入場無料。
※チケットには宿泊費・交通費は含まれておりません。なお、近隣でのテント等を使った野営はできません。

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