10周年は新しいことにチャレンジするポイントでもある――音楽の旅を続ける牧野由依の新作『タビノオト』

牧野由依   2015/10/08掲載
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声優としても活躍を続ける牧野由依が、デビュー10周年記念アルバム『タビノオト』を完成させた。シングル「きみの選ぶみち」、配信シングル「88秒フライト」を含む本作は、矢野博康がサウンドプロデュースを担当。かの香織宮川 弾コトリンゴ堀込高樹、梅林太郎、Avec Avecなどの多彩な作家陣が楽曲を提供し、牧野由依のヴォーカルの魅力、アーティストとしてのポテンシャルの高さをしっかりと引き立たせている。“旅”をテーマにした本作の制作プロセス、そこで得たものについて、彼女自身に語ってもらった。
タビノオト / 初回限定盤
タビノオト / 初回限定盤
タビノオト / 通常盤
タビノオト / 通常盤
――ニュー・アルバム『タビノオト』が完成しました。10周年の軌跡を感じさせながら、同時に新しい試みも多い作品だなと。
「そうですね。そのあたりの全体的なバランスは、サウンドプロデューサーの矢野博康さんが取ってくださっていて。新しい扉を開けつつ、いままでの道も外れない感じが絶妙だなって思います。ひとりの方にサウンドプロデュースをお願いするのも初めてだったんですよ。10周年はいままでの集大成というだけではなく、新しいことにチャレンジするポイントとしても考えたかったんです」
――なるほど。
「以前から矢野さんが手がけてきた楽曲の世界観が大好きで、いつか何かの形でご一緒したいなと思っていたんですよね。まずはシングル(〈きみの選ぶ道みち〉)のカップリング曲(〈たったひとつ〉)のアレンジをお願いしたんですけど、そのままアルバムもやってくださることになったんです」
――改めて伺いたいのですが、矢野さんのサウンドに惹かれる理由とは?
「すごく抽象的なんですけども、聴いていて“日常のなかにも大事な時間ってあるよな”って思うんです。洗練されているんだけど、身近に感じるというか。あと、アーティストの声の特性を最大限に活かしているんですよね。私は声優もやらせていただいているというのもあって、声も自分の武器だと思っているので、そこをクローズアップするためにも、矢野さんの音の世界に飛び込んでみたいなって」
――自分自身の声と向き合う制作でもあった、と。
「いままでチャレンジしたことない方向性の楽曲もありましたからね。デモを聴いたときのドキドキ感だったり、“ここからどんなふうに変わっていくんだろう?”というワクワク感もあって。そういうことって、デビュー当初はすごくあったんです。曲に出会うたびに“どう歌ったらいんだろう?”という戸惑いが常にあって、それをひとつずつ乗り越えていって。その感覚を久々に味わえたのは、すごく楽しかったですね」
――“旅”というテーマについては?
「レコーディングが始まる前から決まっていたんですけど、それも最初は矢野さんからのご提案でした。今年は海外でライヴをする機会も多かったし、そのことを踏まえて、矢野さんから“〈ワールドツアー〉という曲を書こうと思っているんだよね”というお話をもらって」
――シングル「きみの選ぶみち」のインタビューでも、“今年は海外からのオファーも出来る限り受けようと思っています”と言ってましたよね。
「はい。けっこうタイトなスケジュールで、(ライヴが終わったら)とんぼ返りってこともあったんですけどね(笑)。国によって雰囲気が違うんですけど、どこの国でもすごく喜んでもらえて。移動すると肉体的な疲れはありますが、現地のみなさんとお会いできるのも楽しいし、すぐに“また行きたいな”って。これって、女の人の出産と近いかもしれないですよね(笑)。産むときはめちゃくちゃツライけど、かわいいから、産む時のツラさなんて忘れてしまうっていう」
――(笑)。1曲目が「ワールドツアー」というのも、このアルバムの方向性を象徴してますよね。華やかなホーンセクションも、アルバムのオープニングにふさわしいなと。
「これぞ矢野さん!と楽しくなるような曲ですよね。歌詞の中にいろんな都市の名前が出ててくるんですけど、リオ・デ・ジャネイロ、イスタンブール、カイロ、ドバイとか、行ったことのないところもたくさんあって。でも、この曲を歌った後、歌詞に出てくる都市にお仕事で行くことになったんです(笑)」
――「ワールドツアー」が新しい旅を呼び込んだのかも(笑)。宮川 弾さんが作詞作曲を手がけた「星に願うなら」は洗練されたポップチューン。牧野さんの声質にもピッタリの曲だと思います。
「最初に聴いたときは“かわいいな”という印象だったんですけど、これをかわいいだけで表現するのは違う気がしたんですよね。歌詞には切ない感じもあったから、そこをイメージしながら歌ってみたら、弾さんから“そこまで切なくしないでほしい”というリクエストもあったり。今回のレコーディングは矢野さん、作曲家の方といっしょにスタジオで話をしながら進めたんですが、それもすごく良かったですね。〈イヤホン片方ずつ〉という歌詞があるんですけど、電車のなかで友達や恋人同士がイヤホンを片方ずつ聴いているのを見て、“右と左で少しずつ音が違う”と思ったそうなんですよね。相手に聴こえている音が自分には聴こえていないっていう……。そういう着想をしたことがなかったから、すごいなって思いましたね」
――「ハチガツノソラ」は牧野さん自身の作詞。リアルな思いが投影されている曲ですよね。
「これは、シングル〈囁きは“Crescendo”〉のカップリング曲で、そのときに感じていたことを歌詞にしたんですよね。ちょうど30歳になる手前で、まわりのお友達が結婚したり、お子さんを産んでいたりして。20代から30代になるときって、女性はかなりの変化があると思うんですけど、そのなかで何となく、疎外感や孤独感があって……。いろいろ考えていたんですけど、“それでも自分のやりたいことを突き詰めていく。自分は自分でしかない”と思ったんですよね。そういう葛藤から答えに辿り着くまでの変化を歌詞に書いてみようかなって。夏の空って、天気が読みづらいじゃないですか。スコールみたいな雨が降ったと思ったら、憎らしいくらい青い空が広がったり、すごくキレイな夕焼けになったり。そういう空の変化と自分の心情を重ねた歌詞ですね」
――歌詞を書くことに関しても、この10年で変化があったと思うんですが。
「いつになっても難しいなって思いますね。歌を歌うこと、ピアノを弾くこともそうですけど、やればやるほど難しさを感じるので。歌詞にしても、どんどん新しいことを感じていないと書けないと思うんですよ。だから“何かないかな?”っていつも探してます」
――創作のためのインプットが必要?
「そうですね。あと、自分が何を感じているか、何を思っているかをひとつひとつ整理することが大事だと思います。何となくモヤッとしたまま時間が過ぎてしまうと、結局、言葉に出来ないので。毎回毎回、自分の気持ちを分析して、整理した状態で引き出しにしまっておいて、歌詞を書くときにそれを開ける。その習慣は10年の間に身についたと思います。ダークなところ、根暗なところがけっこうあることにも気づきました(笑)。これからはもうちょっと陽気なところも出していきたいですね」
――ピアノの演奏に関しても、新たなインプットは必要なんですか?
「小さいときから、その楽曲からイメージできる絵や映像を膨らませながら演奏してたんですよね。たとえばキラッとしてる曲だなと思ったら、星をイメージできる音をピアノで出してみるとか。景色を見たり、映画を見たりすることも、新しい自分のボキャブラリーにつながるんだと思います」
――梅林太郎さんが作曲した「secret melody」も強く印象に残りました。ひとつひとつのメロディが美しくて、楽曲のなかにストーリー性も存在していて。
「すごいですよね。Aメロは日本っぽい和のイメージなのかなと思ったら、Bメロはラテンっぽいノリがでてきたり、サビはまた変化して。ブロックごとにぜんぜん違うというか、次々と表情が変わっていくので、最初に聴いたときはすごくビックリしました。おもしろいし、素敵な曲だなって。梅林さんは私が声優として出演させてもらった『スペース☆ダンディ』にも楽曲を提供しているんですよ。ご縁を感じますね」
――「secret melody」の歌詞も牧野さんが書かれていますが、神話的な世界観を持った歌になってますね。
「楽曲自体に疾走感、前に進んでいく力があるなと思ったのと、あとは神秘的なインスピレーションも感じていたので、そこから“宇宙、星”をテーマにしてみたいなって。宇宙の本を読んだり、光の速度で宇宙を旅する映像を見たりしながら、歌詞として表現した感じですね。アレンジも梅林さんなんですがラストで、声に包まれるような部分があって。それはまさに、光のスピードで進みながら星と星の間を潜り抜けていくイメージなんですよ。星の光にまみれて、だんだんと真っ白になるような感覚を、きっと楽曲を通して共有してたんだなって、すごく感動しましたね」
――牧野さんと作家陣のケミストリーもこのアルバムの聴きどころですからね。
「この曲の歌詞、ギリギリまでやってたんですよ。レコーディングの日の朝4時くらいまで、ファミレスで矢野さんと最終チェックしてたので。そのときに他の楽曲の方向性についても話をしたんですよね。“こういう音が好き”という感覚的なことを含めて、そのタイミングで矢野さんと密なコミュニケーションが取れたことも、制作期間のなかでひとつのターニングポイントだったのかなって」
――「太陽を巡って」「まわる まわる」はコトリンゴさんの楽曲。どちらの曲にも、彼女のセンス、個性が強く表れてますよね。
「まさにコトリンゴさんワールドだなって。〈太陽を巡って〉はダークな部分がある曲ですが、最初は“どうしよう”と思ったんです。デモテープではコトリンゴさんが歌ってくださっていて、“このままがいちばんキレイだな”って思ってしまったんですよね。もともとコトリンゴさんの曲を聴かせてもらっていたこともあって、どうしても寄せたくなってしまうんですよ。この楽曲に関してはとにかく何回も歌って、そのなかで“あ、これだ”って思える瞬間を待つしかなくて。でも、そういうやり方はデビュー当初よくやってたんですよ」
――ある意味、原点回帰的なところもあるのかも。「まわる まわる」に関してはどうですか?
「〈まわる まわる〉〈アルメリア〉〈ワールドツアー〉の3曲は矢野さんが歌詞を書いてくだったんですが、それぞれにつながりがあるんですよね。〈まわる まわる〉に出て来る幼き頃の女の子が、大きくなって〈ワールドツアー〉を歌っているイメージがあって。〈アルメリア〉は10代の頃が描かれているんですよ。あと、〈まわる まわる〉と〈ワールドツアー〉はキーが同じで、どちらも全音分転調するんです。まるで輪廻しているような感じもあるし、いろんな聴き方が出来るんじゃないかな」
――アニバーサリーにふさわしい充実のアルバムですよね、ホントに。牧野さんにとって、この10年の音楽の旅はどうでした?
「いい旅だったと思います。苦しい思い出もたくさんありますけど(笑)、楽曲と作家の方々、聴いてくださるみなさんに本当に助けていただきながら歩いてきた10年だったなって」
――まだまだ旅は続いていきますが、次はどんなことをやりたいと思っていますか?
「そうですね……。矢野さんプロデュースで、もっとコンセプトを絞った作品を作ってみたいです。それも朝4時のファミレスで話したことなんですけどね(笑)」
取材・文 / 森 朋之(2015年9月)
Yui Makino Concert❇︎around the note❇︎

2015年11月23日(月・祝)
東京 恵比寿 The Garden Hall
開場 16:00 / 開演 17:00
全席指定 6,000円(税込 / ドリンク代別)

[チケット一般発売]
2015年10月17日(土)より発売開始
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード276-599)
ローソンチケット 0570-084-003(Lコード75958)
イープラス sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010163P0108P002028064P0050001P006001P0030017
※お1人様4枚まで。

[お問い合わせ]
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999


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