【木村 大 interview】 より創造性あふれる“無限”の世界へ――新たな境地に踏み出すための“原点回帰”

木村大   2009/10/02掲載
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 “天才少年”として、幼い頃からクラシック・ギターのコンテストで賞を総なめにし、17歳でメジャー・デビュー。それから10年――ロンドン留学や、さまざまなアーティストとのコラボレーションの中で、みずからの創造の翼を広げていった木村大

 デビュー10周年を迎える今年、9月30日にリリースされたニュー・アルバム『INFINITY mugen-DAI』は、そんな彼が“クラシック・ギタリスト”としてだけでなく、一人の“表現者”としての立ち位置を確固たるものとした会心作だ。

 キーワードは“原点回帰”。彼にとっての“原点”とは? そして“mugen(無限)”に広がる可能性とは?


――今回のアルバムで、まず一番のポイントは、木村さんが作曲されたオリジナル曲が初めて収録されていることですよね。これまでのアルバムにオリジナルが1曲も収録されていなかったのは、ちょっと意外な気もしたのですが。
木村 大(以下、同)「はい、じつは今回が初めてなんです。アルバムの冒頭に入っている〈Shine〉という曲は、2年ほど前に、僕が初めて作った曲です」
――人生初の作曲ということですか?
 「そうですね。遊びというか、手グセのような感じで作ってみたことはありましたが、ちゃんと“作曲しよう”と思って取り組んだのは初めてです。というのも、前回のアルバムを出したのがちょうど3年前。それから次のアルバムに向けての構想を練り始めたとき、これからの自分の方向性について、じっくり考えてみたんです。クラシック音楽に特化した“再現芸術”の世界に身を置くのか、それとも“今の自分”をより自由に表現できるクリエイティブな世界に身を置くのか。どちらがいいかと考えたときに、僕はやっぱり後者を選びたかった。今までやってきた経験を活かしながら、クラシック・ギターという楽器で自分を表現し、皆に伝えられる場所があったら楽しいだろうと思って、作曲にチャレンジすることにしたわけです」
――それにしても「Shine」は、初めての作品とは思えない、素晴らしい出来ですね。
 「そう言っていただけると、本当に嬉しいです。じつはすごく高いハードルがあって、プロデューサーに“木村大クンらしくて、キャッチーで、メロディがあって、わかりやすくて、なおかつ、じつは弾いたら難しい曲を書いて!”って言われてたんです(笑)」
――それはまた、プロデューサーらしい、ごもっともなご意見で(笑)。でも、その要望にバッチリ応えた曲になっていると思いますよ。初めての作曲というこで、難しかった面や、戸惑いはなかったのでしょうか?
 「それほどなかったですね。作曲にあたっては、自分の中で“カントリー”というカテゴリーを作って、アイルランドやスコットランド、スペイン、南米など、世界中の民謡や民族音楽をひとつの枠組みの中に置いてみたんです。そうしたらいろんなメロディが次々わいてきて、非常にやりやすくなった。もう、あと10曲ぐらいスラスラ書けるんじゃないかと思うほど。でも、もちろんそのアイディアを曲として完成させるまでには、パズルのようにフレーズを組み合わせたり、アレンジやチューニングをあれこれいじったり、ものすごく悩むんですけれども」
――「Shine」以外にも、「HOME」と「風」といったオリジナル曲が入っていますね。
 「〈HOME〉はエコロジーについてのTV番組のテーマ曲として書いたのですが、ちょうど作曲に取りかかろうとしたときに窓の外を見たら、鳥が優雅に飛んでいたんです。そこからイメージを膨らませて、いろんな世界を鳥のように旅して、最後は自分の巣=守るべき大切な場所に帰っていくというストーリーにしました。
〈風〉には、僕の中では“ギブリ”という副題が付いています。“ギブリ”というのは、カラッカラの大地から吹いてくる熱風。もし、熱風吹き付ける大地にドンって落とされたらどんな感じか。寂しいんだけど、あまりに大きな自然に圧倒されるような感覚かなぁとか。

 それから、最後に入っている〈聖母の御子〉も、じつはオリジナル曲なんですよ。スペインのカタロニア地方の民謡に〈聖母の御子〉という曲があるのですが、あるとき曲を作っていて、書き終わったら突然、この曲のイントロが浮かんできて、頭の中に鳴り響いちゃったんです。“降ってきた”ように。だから結局、そのメロディをベースにして曲を作りました」
――オリジナル曲以外の収録曲を見ると、ヴィヴァルディの「四季」やラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」からピアソラの「ブエノスアイレスの夏」、そしてチック・コリアの「Spain」まで、クラシックだけにとどまらない幅広い選曲になっています。これはやはり、“再現芸術”としてではなく、ご自身の“創造性”を追求するというフィールドに立っての選曲ということなのでしょうか?
 「はい、オリジナル曲と同様に、クラシック・ギターという楽器を使って、その魅力を最大限に引き出し、自分の世界を表現したいという気持ちで選曲しました。だから時代もスタイルもバラバラ。編曲はすべて自分で手がけましたし、アルバム一枚トータルで“ギタリスト木村大”が出せればいいなぁと」
――そういった意味で、『INFINITY mugen-DAI』というアルバム・タイトルはピッタリですね。ジャンルを超えて無限に広がる、ギターの可能性と木村さんの創造性。
 「ええ、ホントにうまいこと言ったな、と思います(笑)。ただ、今回のアルバムでもう一つ大事なポイントとして、“原点回帰”というテーマがあるんです」
――木村さんにとっての“原点”とは何なのでしょう?
 「十代の頃にデビューして、ずっと活動してきた中で、やはり僕の“柱”はクラシックだと、今回あらためて再認識したんです。今まで話してきたことと矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど、決してそうではなくて。僕の中に流れている感覚や発想、これまでの歩みの中で培われた“クラシカル”な要素というのが、クリエイティブな世界に踏み出すにあたって、とても大きな助けとなっていることに気付いた。根っこがしっかりあるから、いろんなことに挑戦できるという部分があると思ったんです。

 この2〜3年間、ストリングスとの共演や、クラシック曲をギターにアレンジしてコンサートで演奏する機会が多く、そういった活動の中で見えてきたテーマでしたね、“原点回帰”というのは。“回帰”と言っても、ただ元にいた場所に戻るということではなく、新しい世界へ足を踏み出しつつ、“原点”をあらためて見つめるというイメージ。あくまで現在進行形です」
――なるほど。新たな境地へ踏み出すための“原点回帰”というわけですね。
 「ええ、ですから今回は、自分の世界を表現すると同時に、クラシックへのリスペクトも込めながら録音しました。技巧的で、“なかなか真似できないんじゃないかな”っていうヴィヴァルディを入れたり、ラヴェルの〈亡き王女〜〉に関しては、これまでの版を勉強し直したり。

 今までの自分とこれからの自分。より幅広い視野に立って作ることができました。ほんと、僕の中では、今まで出したアルバムの中でベスト! 会心作です!」
取材・文/原 典子(2009年9月)


■木村大&吉俣良 ジョイントコンサート
10月3日(土)16:00〜 東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
問:かつしかシンフォニーヒルズ [Tel]03-5670-2233
http://www.k-mil.gr.jp/

■木村大 ギター・ソロ・ツアー〜INFINITY 2009-2010
10月16日(金)19:00 北海道・奈井江町文化ホール
問:奈井江町文化ホール [Tel]0125-65-6066
  NPO法人空知音鑑 [Tel]0125-23-6330

11月23日(月・祝)18:00 大阪・ザ・フェニックスホール
問:キョードーチケットセンター [Tel]06-7732-8888
http://www.kyodo-osaka.co.jp

12月19日(土)18:00 愛知・宗次ホール
問:サンデーフォークプロモーション [Tel]052-320-9000
http://www.sundayfolk.com

2010年1月16日(土)18:00 北海道・札幌コンサートホールKitara 小ホール
問:WESS [Tel]011-614-9999
http://www.wess.jp

2010年1月31日(日)15:00 愛知・御津町文化会館
問:御津町教育委員会ハートフルホール  [Tel]0533-76-3720
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