偉大な“過去”への敬意を込めて――金聖響&OEKが現代的アプローチで表現した『ブラームス:交響曲第1番』

金聖響   2007/11/20掲載
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偉大な“過去”への敬意を込めて――金聖響&OEKが現代的アプローチで表現した『ブラームス:交響曲第1番』
 2007年春から始まり、2008年春までに4回にわたり展開される、金聖響オーケストラ・アンサンブル金沢(以下、OEK)によるブラームス・チクルスのコンサート・シリーズ。そのシリーズも折り返しの時期となった11月に、2007年4月の石川県立音楽堂と大阪ザ・シンフォニーホールでの録音がリリース(11月21日)される。偉大な“過去”に敬意を込めつつ、現代的なアプローチで表現された本作について、金聖響に話を聞いた。



 OEKと続けているベートーヴェンの交響曲全集の録音がまだ半ば、というところでブラームスの交響曲全集録音もスタートした。

 「もちろんベートーヴェンの方も継続中ですが、ここへきてOEKさんとコンサート・シリーズで1年をかけてブラームスの交響曲や序曲、協奏曲を取り上げようということになったんです。それならば、記録として録音もしておきたいということになり、4つの交響曲だけは必ずリリースすることにしました。協奏曲なども素晴らしいソリストと共演するんですが、それらの録音については僕もオーケストラもまだ勉強中だから、的を絞ろうということになって」

 このコンサート・シリーズではOEKの本拠地である石川県立音楽堂と大阪のザ・シンフォニーホールの2ヵ所で行なっている。今回のブラームスの演奏も、ベートーヴェンの録音と同じように“古楽的アプローチ/時代的演奏”によるものだ。

 「ブラームスは、古典派の響きのするロマン派の作曲家。ですから、その“落としどころ”は非常に難しい。ベートーヴェン演奏の流れを引き継ぐのが自然なわけですが、たとえばノン・ヴィブラート奏法に固執するということはしませんでした。OEKの皆さんとともに常に調整しながら、自然な演奏となるように進めていったんです。とくに和音の響きの美しさを再現するために十分な時間を使い、それが実現できたと思ってます」

 他の古楽的アプローチの演奏と同様に、テンポは速めできびきびと進められている。

 「表現があっさりとするのは確かですが、だからこそ、究極といってもいい音の響きの美しさが出てくるんです。音の密度は非常に高い。1番の交響曲はクララ・シューマンに対するラブ・ソングとも言えるわけだから、そんなに深刻な音楽ではないと思うんですよ。ロマン派の流れの演奏とはちがうアプローチですね。とはいえ、ブラームスのことだから、ストレートに“好き”とは言わず、それを気付かれないようにさり気なく、でも非常に濃い内容のことを言ってるんです。和音の構成を考え、その響きのもっとも美しいところを追求した結果、この演奏に到達した、ということですね。ブラームスの楽譜はきっちりと書き込まれていないぶん、表現者の自由が与えられています。カラヤンを代表とするロマンティックな演奏から、ノリントンが示したいろんなものを削ぎ落とした演奏まで、いろんなアプローチができる。今回の僕らの演奏も許される範囲のものと思っています」

 OEKとのコンビネーションもばっちりだ。

 「オーケストラの演奏から作品に対するイメージなどをいただくことも多いです。機動力があり、メンバー全員の感性が鋭いし、音楽家として対等に付き合ってくださる。皆さん、僕の“若気の至り”に本当に真面目に真摯に、そしてじっくりと付き合ってくださいます。そして、僕の成長を支えてくださっていると感謝もしています」



取材・文/堀江昭朗(2007年11月)



【金聖響 スケジュール】

●11月23日 “日本フィルどりーむコンサート”
会場 : 府中の森芸術劇場 どりーむホール
開演 : 14:00
主催 : 府中文化振興財団
演奏 : 日本フィルハーモニー交響楽団
ソリスト : 田部京子(ピアノ)

●11月25日 “第318回名曲コンサート”
会場 : サントリーホール
開演 : 14:00
主催 : 日本フィルハーモニー交響楽団
演奏 : 日本フィルハーモニー交響楽団
ソリスト : 薗田真木子(ソプラノ)、山下浩司(テノール)

●11月30日 “聖響 × OEK ブラームス・チクルス”
会場 : 石川県立音楽堂コンサートホール
開演 : 18:00
主催 : (財)石川県音楽文化振興事業団
演奏 : オーケストラ・アンザンブル金沢
ソリスト : 清水和音(ピアノ)

●12月1日 “聖響 × OEK ブラームス・チクルス”
会場 : 加賀市文化会館
開演 : 15:00
主催 : 朝日放送、(財)石川県立音楽文化振興事業団
演奏 : オーケストラ・アンザンブル金沢
ソリスト : 清水和音(ピアノ)

●12月2日 “聖響 × OEK ブラームス・チクルス”
会場 : ザ・シンフォニーホール
開演 : 15:00
主催 : 朝日放送、(財)石川県立音楽文化振興事業団
演奏 : オーケストラ・アンザンブル金沢
ソリスト : 清水和音(ピアノ)

●12月13日 “聖響 × 第九”
会場 : ミューザ川崎シンフォニーホール
開演 : 19:00
主催 : IMXクラシックス&アーツ
演奏 : 新日本フィルハーモニー交響楽団
合唱 : 晋友会合唱団
ソリスト : 佐々木典子(ソプラノ)、押見朋子(アルト)
経種廉彦(テノール)、福島明也(バリトン)
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