[こちらハイレゾ商會]第96回 リー・モーガンの熱いライヴが完全版で聴ける
掲載日:2021年10月12日
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第96回 リー・モーガンの熱いライヴが完全版で聴ける
絵と文 / 牧野良幸
33歳の若さで亡くなった伝説のトランペッター、リー・モーガンの『コンプリート・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』がハイレゾで配信された。ハイレゾはflacの192kHz/24bitと96kHz/24bitの2種類で配信されている。
最初にこのアルバムの過去を少し振り返ってみたい。
オリジナルは『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』として、ブルーノートから1971年にLP2枚組で発売になった。1970年の7月10日から12日までの3日間に、カリフォルニア州ハモサビーチのジャズ・クラブ“ザ・ライトハウス”でおこなわれたライヴを収録。演奏が長尺のため全4曲。「アブソリューションズ」「ザ・ビーハイヴ」「ネオフィリア」「ノンモ」がそれぞれレコードの片面全部を使って収録されていた。
演奏は素晴らしい。これを聴くにつれ、リー・モーガンがアルバム発売の翌1972年に内縁の妻に射殺され、33歳の若さでこの世を去ってしまったのが残念に思える。まだ33歳だ。もし悲劇がなければリー・モーガンは70年代にどんな音楽を追求しただろう? 収録されたライヴから想像しただけでもいろいろな可能性を感じてしまう。
ファンにとって幸いだったのは、1996年にこのアルバムの拡張版がCD3枚組で出たことだ。未発表音源が加えられ収録曲は12曲に増えた。リー・モーガンのMCやヒット曲「ザ・サイドワインダー」もここで初めて聴けた。
そしてオリジナルの発売50周年を記念して今回リリースされた『コンプリート・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』である。ここには拡張版CDを遥かに凌ぐ量の音源が収録されている。
7月10日の4セット、7月11日の4セット、7月12日の4セット。すなわち3日間のステージのすべてを伝える文字どおりコンプリートな内容だ。ハイレゾは全部で47トラック(MCを含む)。時間にして7時間をこえる。これほどの量になるとレコードをいちいちひっくり返したり、CDを入れ替えたりするのさえめんどくさい。ハイレゾで一気に聴くのがベストだろう。もちろん音質も含めてである。
今回新たに日の目を見た未発表音源も素晴らしい。近年は“50周年”とか“40周年”といった類のスペシャル・エディションのリリースが活発で、未発表音源がたくさん収録されることが多いが、それらを聴くと「やっぱり未発表になる理由があるのだな」と思うことが多い。演奏に問題があるとか、この曲を入れるとアルバム全体の緊張感が損なわれるとか。だから未発表音源は資料として一回聴くだけ、という場合がほとんどかもしれない。
しかしこの『コンプリート・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』は違う。どの未発表音源を聴いても素晴らしいのだ。4曲入りオリジナルLPと同じテンションが、7時間以上の収録時間のどこにでもある。同じ曲もセットや日にちが違うだけで新鮮。文字どおりその瞬間に生まれた音楽が収録されているのである。
メンバーはリー・モーガン(トランペット、フリューゲルホルン)、ハロルド・メイバーン(ピアノ)、ジミー・メリット(ベース)、ミッキー・ローカー(ドラムス)、ベニー・モウピン(テナー・サックス、フルート、バス・クラリネット)。
リー・モーガンは1950年代、10代の頃から才能を発揮した天才トランペッターだった。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのメンバーとして傑作『モーニン』(1958年)にも参加。また自身の名義では『ザ・サイドワインダー』(1963年)を大ヒットさせ、ジャズ・ロックのアルバムをこの世に残した。
その時期は、いかにもモダン・ジャズのトランペッターという感じのスーツ姿が似合うリー・モーガンだが、本作のオリジナルLPのジャケットに写るモーガンは完全に70年代のモードに突入している服装だ。ジャズは“電化”の時代に入っていたが、少なくともこのライヴではアコースティックである。というかジャズだ、ロックだというより、“これが俺たちの音楽だ”と言いたげな完全燃焼の演奏が収録されている。ハード・バップのようなすさまじい熱気は、ジャズ・ファンだけでなく、ロック・ファンにも無条件に迎え入れられるのではないか。
リー・モーガンのトランペットは、あいかわらずストレートでスカッとする演奏だ。『ザ・サイドワインダー』があるから言うわけではないけれど、リー・モーガンのトランペットはロックのギター・ソロを聴くのと同じようにゾクゾクするところがある(これはロック好きとしての感想です)。
ベニー・モウピンのテナー・サックスはコルトレーンのような熱さ。「ネオフィリア」ではバス・クラリネットを吹くが、その怪しげな雰囲気はモウピンが参加し70年に話題となったマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』を想起させる。また73年録音のハービー・ハンコックと共演した『ヘッド・ハンターズ』の世界にもつながる音色だ。
ハロルド・メイバーンのピアノも素晴らしい。ラテン風の「サムシング・ライク・ジス」。彼がここでピアノではなく電子ピアノを弾いたらそのままチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーになってしまいそうである。ベースのジミー・メリットとドラムスのミッキー・ローカーもドライヴ感のある演奏で加わる。リズム隊は3人だけなのに、パーカッションを加えた6人くらいの演奏のように錯覚してしまう。音数が多いのかもしれない。賑やかで激しい。
ちなみに演奏以外でも今回初出のリー・モーガンのMCが味わい深い。この演奏はライヴ録音をしていて、ブルーノートから2枚組で出ることを話す場面もある。セットの最後におこなうMCでは25分後に戻るからお酒でも飲んでいてくれ、という感じ。このMCのおかげで区切りができ、膨大なトラックが聴きやすい。
最後にハイレゾの音について。再生音はベース、ドラムス、ピアノが中央から放射状に広がる感じ。それを挟むように左寄りにリー・モーガンのトランペット、右寄りにベニー・モウピンのサックスがあらわれる。音は厚みがあり、塊となってぶつかってくる。ドラムは細かい音の一つひとつにパンチがある。とてもアナログライクな音だ。24bitのハイレゾでぜひ聴いてもらいたい。




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