[特集]“ハイブリッド・ガムラン”を提唱する異色の日本人ガムラン・グループ、TAIKUH JIKANG 滞空時間

滞空時間   2013/04/19掲載
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ガムランの持つ未知なる可能性を追求する
“ウロツテノヤ子”
取材・文 / 岡部徳枝
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 滞空時間のメンバーも所属する“ウロツテノヤ子”は、舞踊家でありガムラン奏者である小谷野哲郎が2002年に結成したガムラン集団。(ちなみに一風変わった名前は、小谷野哲郎=コヤノテツロウを逆さまに読んだもの)。昨年10月に行なわれた10周年記念ライヴでは、以前から交流のあった奄美の唄者、朝崎郁恵やシタール奏者ヨシダダイキチ、ディジュリドゥ奏者GOMAらと共演、民族音楽の揺るぎない底力を証明するともに、ガムランの持つ未知なる可能性を見せつけ、大きな話題を呼んだ。
 小谷野哲郎が初めてバリを訪れたのは1992年。大学生時代、音楽環境論を学びに行ったのを機にガムラン演奏を習い始め、そのうち「顔と体型が踊り向き」という理由で舞踊の道を進められ、踊り手メインで活動するようになった。
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「バリ芸能は、奉納から端を発していて、神様、先祖、精霊などに向けているもの。あっちの世界と人間の世界を取り持つためにやっているんです。そういう深みがある一方で、人も観て聴いて楽しんでいるという大らかさがある。これは日本の伝統芸能、神楽に通じるものがあるな、と。日本人の根源的な精神を思い出したというか、シンパシーを感じました。やればやるほど見えてくる境地があって、一生続けても完成できない奥深さがある。それでまんまと深みにハマっていったという感じです(笑)」
 師匠は、バリ芸能史に残る偉大な仮面舞踊家、イ・マデ・ジマット。そのため、ステージでの小谷野哲郎は仮面姿が基本で、ウロツテノヤ子のライヴでは、仮面を被り歌い踊り芝居で笑わせ、いないと思ったら素顔でガムラン演奏をしているなんていう展開もしばしばだ。
「1人でいろいろできるというのは、バリだけでなく伝統芸能すべてに言えることだと思うけど、バリにおける踊り手は少し特殊。今は誰でも習えるけど、かつては選ばれた人しか踊れませんでした。すごい踊り手というのは、その人が入るだけでガムランの演奏の次元が変わって、時空が変わるんです。バリ舞踊で大事なのは、自分というものを限りなくゼロにすること。自分の身体をメディアとして、そこに踊りが降りてくることで、初めて目に見える形になって人の前に現れるような。うまいだけの踊りほどつまらないものはない。僕が感じるバリ舞踊の魅力はそこにあります」
 このたびリリースされる『Gamelan』は、ウロツテノヤ子にとって初のアルバム。結成から10年かかったのには、理由がある。
『Gamelan』
「ガムランは、共同体で暮らしている人たちから生まれる音楽。バリの友達がすごく印象的なことを言っていたんですよ。“僕はガムランが下手だけど、そういう人間もガムランのグループには必要なんだ。なぜってそれが社会だから”と。人間はそれぞれ得意不得意があり、千差万別で、凸凹がある。共同体の作業というのは、その凸凹をいかにうまく組み合わせて全体として大きな丸を作るか。ガムランはまさにそういう音楽なんだけど、僕らは10年一緒に活動してきてようやくそこに辿り着けた気がしたんです。いつどこで音出しても、ちゃんとウロツテノヤ子の音になってる。そういうクオリティで出せる今なら、とレコーディングに踏み切りました」
 演奏されているのは、バリ・ガムランの古典だ。「現行の音楽と並べて聴いても、まったく遜色がない。それどころか、聴くたびに新しい発見がある。聴けば聴くほど味が出る古典の素晴らしさを伝えたかった」。そんな新鮮な輝きに満ちた全6曲は、山梨県の森の中で一発録りされたもの。風に揺れる木の葉、鳥のさえずり、犬の遠吠え、さまざまな音と交じり合いながら奏でられるガムランの音色。「音楽を一所懸命聴くというより、ガムランが鳴っている空間の中にいることの気持ちよさをパッケージしたかった」という言葉が頷ける仕上がりだ。
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 日本におけるガムランの認知度はまだまだかもしれない。けれど、小谷野哲郎には、200年後300年後を想像した、こんなビジョンがある。
「最近、岩手県の遠野市に伝わる早池峰神楽を現地で習っているんですが、後継者問題も深刻みたいで、伝統芸能について一層考えるようになりました。そういう今に残る日本の伝統芸能を継承しつつ、さらにたとえば200年後300年後とかに日本のどこかの村でガムランが伝統芸能になっていたらおもしろいなって。日本の伝統芸能も、もとは海外から入ってきたものがあって、それを日本独自にアレンジされたものが根付いていたりする。だから、バリのガムランも決してコピーするってことじゃなく、自分たち流に昇華して続けていくことができたら、そんなことも夢じゃないかなって。日本人としてガムランをやる意味はそこにあるのかもしれないとも思う。自分が生きているうちには完成しないだろうけど、そういう心持で続けていくことで、いつかそんな思い描く未来につながっていったらいいなと思ってます」
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