[特集]“ハイブリッド・ガムラン”を提唱する異色の日本人ガムラン・グループ、TAIKUH JIKANG 滞空時間

滞空時間   2013/04/19掲載
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 思いがけない偶然やハプニングが起こるのがバリ。旅立つ前から皆にそう言われていた。その偶然の導きなのか、川村亘平斎の誘いで、到着初日から貴重なウパチャラ(儀式)のガムラン演奏を観ることができた。奇しくも偉大なるプルギノ(ヴェテラン舞踊家)であったイ・クトゥッ・スウェチャ(あの鎌仲ひとみ監督の処女映画『スウェチャおじさん - バリ・夢・うつつ』主人公)のお通夜。故人と同じ舞台を踏んできたという奏者が集う輪の中には、滞空時間の師匠たちもいた。豚の生血が入ったウワサの儀礼料理ラワールを手食しながら、バリで聴く初めてのガムラン。芸に生きた人が、芸に生きる人によって送られていく。もしも夜空の星を叩いたらこんなキラキラした音が出るのではないか。そんな美しい高音が風に乗り、闇に溶け合い、空から降り注いでくるようだった。
「ガムランがこんなにピュアにかっこよく生き続けているのは、人の生死の場で常に必要とされている音楽だから。儀式の場にガムランは欠かせません。ただただ魂や神に捧げる音楽。そういう存在理由がある音楽のたくましさを感じます」(川村亘平斎)
 ふと演奏者を見渡すと、柱に寄りかかり、ニコニコと笑って座っているだけの年長者がいる。「あの人が例の“おとうちゃん”ですよ」と、川村亘平斎が教えてくれた。“おとうちゃん”とは、クンダンの名士、デワ・アジ・スラのことで、川村亘平斎の大師匠。「そこに座っているだけで、みんなの演奏の次元が変わる。正真正銘のマスター」「3日間難航していたアレンジが、おとうちゃんが入ったら一瞬で決まった」など、神がかりなエピソードを持つ人物。何よりも昼寝が好きで、稽古中も、「コーヘー」「メシ」「タバコ」しか話さないような人だから、取材は難しいだろうとのことだったが、挨拶だけはできた。その日は帰路についたが、最終日まで諦めまいという決意が固まった。
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 公演に向けての練習、リハーサルは、3日間続いた。今回参加したバリの師匠は4人。前述したデワ・アジ・スラの四男であるデワ・ライ、ガンサの名手でライの従兄弟デワ・サクラ、ガムラン演奏の中でもっとも難しいとされるグンデル・ワヤン(影絵芝居の伴奏)の名手グスティ・コミン、コミンの弟で舞踊家、ダラン(影絵師)としても有名なグスティ・クトゥットゥ。
 滞空時間の音楽スタイルは、日本、アジア、アフリカなどの民謡を盛り込み、ガムランのアレンジによって新感覚のお祭りサウンドに仕上げるというもので、バリ・ガムランの古典を演奏することはほぼない。そのため今回の公演では、まず師匠4人に曲を覚えてもらい、彼らが入るパートをリアレンジする必要があった。
「彼らは小さい頃から長いことガムランを演奏してきているから、自たちなりの“手”が染みついている。僕らの曲では勝手が違う分、ここでこの音を叩きたいとか、もっと速く叩きたいとか、ウズウズしているかもしれないですね(笑)。でもすごく楽しんでくれていると思う。バリ人はつまらないとすぐ帰っちゃうけど、毎日ちゃんと来てくれるので」(川村亘平斎)
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 ライヴ会場はウブドゥ郊外、広大な森の中にあるトペンミュージアム。リハーサルもここで行なわれた。演奏場は、天井が高く、壁のない吹き抜けの半屋外。これが一番ガムランの演奏に適した場所だとエンジニアの辻 圭介が教えてくれる。
「ガムランは、音が上に広がるんです。天井が高ければ高いほど、音が広がって、それが上からきれいに降り注ぐ。こうやって壁がない場所だと跳ね返りもなくて、降ってきた音もきれいに逃げていくし、だからクリアに聴こえるんですよ」
 リハーサルを重ねるたび、滞空時間のメンバーから熱気を帯びた言葉を聴くことができた。あるときは、森の東屋でバビ・グリン(豚の丸焼き)とビールに舌鼓を打ちながら、またあるときは、村の食堂でサテカンビン(山羊肉の串焼)にかぶりつきながら。
「師匠の4人は、涼やかな顔をして難しいことをしている。まるでジャズ・マンのよう」(AYA)
「一音にかける瞬発力、反射神経に鳥肌が立つ。どれだけ小さな音でも澄み切っていて、宝石みたいにキラキラ輝いてる」(濱元智行)
 毎日共にご飯を食べ、ビールを飲み、冗談を言い合って笑いあい、滞空時間と師匠4人は日に日に結束を固めているようだった。まるで大家族。ガムランのあるべき姿を実感するようだった。
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 ライヴ当日。昼のリハーサル時、演奏場周りの森を散歩しながら、風にのって聴こえてくるガムランの音を楽しんだ。木がざわめき、鳥が歌い、虫が鳴いていた。そして、遠くからいつものみんなの笑い声。
 日が暮れて、いよいよ本番。バリ人、日本人、欧米人、同じくらいの割合だろうか。200人近くの観客が集っていた。まるで家族の晴れ舞台を観るような気分で見守る。私同様、滞空時間に魅せられてバリまで追いかけてきたカメラマン、小暮哲也が真剣なまなざしで撮影カメラを回している。
 カーン。トロンポンの一音目が鳴り響いた瞬間から、空気の流れが変わった気がした。まるで異世界の入り口へと誘うような神秘的な響き。“空気が震える”ってこういうことか。ざわざわと鳥肌がたった。影絵を映し出した白幕の後ろからメンバーが次々と持ち場へついていく。奏者が勢ぞろいして、一斉に音を出した瞬間、みんなの目が「なんだ、これは!?」と輝いているのがわかった。そこには、日本で見た滞空時間とあきらかに違う次元の音があった。食い入るように演奏を見つめる観客。止まないカメラのフラッシュ。ものすごい熱気。演奏中、メンバーと師匠たちが目を合わせ、笑い合う。「バグース!(最高)」と言い合っているようだった。共に歌って踊って笑って、あっという間の1時間。終演後、最高の笑顔でハグし合うメンバーたちを見て、この場に居合わせたことの幸せをかみ締めた。
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 バリ最終夜、別れの挨拶をしに師匠たちのアジトを訪れた。子どもたちが大勢集まり、ガムランの練習をしていた。ふと気づくと、隅のほうにテンペが紛れている。滞空時間のみんなもこうやって稽古をつけてもらってきたのだ。
 視界にふらりと白いランニング姿が現れた。どうしても取材したかったあの“おとうちゃん”である。奥で談笑していた川村亘平斎を呼び、交渉してもらう。つかの間の師弟対談。
「ガムラン芸術は、ワシにとって魂そのものだよ」
『ONE GONG』
 おとうちゃんは、ニコニコと笑いながら当たり前のようにそう言い放つのだった。川村亘平斎があとから解説してくれる。
「師匠は、ガムランのあとにいつも“芸術”という意味の“seni”をつけて話していた。ガムランは、楽器や音楽のことだけを指すのではなく、もっと広い意味を持っているんだってことが伝わる言葉です。バリには自分の村を愛すばかりに、村から一歩も出ず、そこにある音楽しか知らないような人が多いけど、そうやってローカルを突き詰めた人の音楽がどれだけすごいエネルギーを持っているか。それこそ世界とセッションできるようなグローバルに通用する音楽だと思う。僕らもそういう揺るぎない音楽を目指したいですね」
 滞空時間のメンバーは、その後マレーシア公演へと旅立った。若手伝統音楽家カマロ・フシンとの共演。そのときのライヴの驚きを、帰国後のインタビューでメンバーが揃って口にしていた。師匠の4人はいないのに、バリで聴いた彼らの音がいつも一緒に鳴っていた、と。そして、リーダー亘平斎の思い描いていた理想の音がやっとわかった、と。
 滞空時間を大きく前進させたバリ公演の映像。そして、後のマレーシアで奏でた音とは? その軌跡を『ONE GONG』で堪能してほしい。
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