【ircam×東京春祭】フランス発、最先端の音響実験空間を体験せよ!

2013/01/25掲載
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ircam×東京春祭
フランス発、最先端の音響実験空間を体験せよ!
 毎年、桜の季節に上野で開催される〈東京・春・音楽祭〉と、フランスのイルカムとのコラボレーションが実現! 最新技術を駆使した実験的な音響空間が展開されるコンサートは、クラシックや現代音楽のリスナーだけでなく、電子音楽やアヴァンギャルド好きにも必聴です。「イルカムってなに?」という方も、ぜひチェックしてみてください。

イルカムとは?

 イルカム(ircam:フランス国立音響音楽研究所)は観光客でにぎわうパリの中心部、ポンピドゥー・センターの脇、ジャン・ティンゲリーらによる愉快な彫刻が揺れる噴水の前に建つ。1977年、ポンピドゥー大統領の庇護のもと、ポンピドゥー・センター設立と同時に、音楽部門を担う提携機関としてピエール・ブーレーズの指揮下に創設された。

 世界最先端の音楽情報技術を誇る研究所として、国際フォーラムや講演を開き、日々新しい技術を更新、公開している。たとえば昨年11月末にも、サラウンド・システムよりさらに精度の高い立体音響を制御するシステム、WFS(ウェーブ・フィールド・シンセシス)と高次アンビソニックについての一般向け説明とデモンストレーション(2人の若手作曲家の作品の抜粋)が行なわれ、パリの電子音楽ファンや音楽界の注目を集めた。

 もちろん制作にも力を入れている。地下には壁に埋め込まれた可動式の無数のスピーカーを備えた最大350席のホールがあり、隣のポンピドゥー・センターのホールとともに、昨年からリニューアルされたフェスティヴァル〈マニフェスト〉をはじめ、コンサートやインスタレーション、ダンスとのコラボレーションなどを企画している。また、イルカムの委嘱による新曲も多々初演されている。

 なお、電子音楽の作曲研修課程は若き作曲家の登竜門としても知られ、毎年、世界中の応募から選出された10名が1年間の研修を行なう。2007年にはそこからさらに選ばれたわずかな数名が残る“研修課程2”もつくられた。ちなみに2〜6日間でMax / MSPなどのツールを学ぶオープンな短期研修も定期的に開かれていて、毎回ではないが英語での研修もある。

電子音と楽器音

 今回の〈ircam×東京春祭〉の【ConcertI】も、1963〜71年生まれのイルカム研修課程の卒業生3人を集めたプログラム。皆、師世代にあたるトリスタン・ミュライユらスペクトル派、そしてプログレッシヴ・ロック、フリー・ジャズ、グローバル化された非西洋の民俗音楽など時代の影響を受けつつ、進歩した電子音楽技術に支えられ、その影響を複雑で魅力的な音響として生かしている興味深い作曲家ばかり。そのためまったくの無調ではなく、いわゆる“現代音楽”ファンではないリスナーにもお薦めと言えよう。

 とくに、2004年に残念ながら41歳で亡くなったファウスト・ロミテッリは、現在でも頻繁に演奏されている、この世代を代表する重要な作曲家。エレクトリック・ギターのための「Trash TV Trance」(2002年作曲)は、“現代音楽”とはほど遠く、オルタナティヴ・ロックと実験系エレクトロニカを足して2で割ったとでも言えばいいだろうか。ループをはじめとしたエフェクターを用い、接続不良による電子ノイズ、スポンジを弦の上で擦った噪音などが小気味のよいリズムで数度繰り返され、形を変える。ロミテッリの人気作品の一つをぜひ聴いてみてほしい。

 ジェローム・コンビエのギターとライヴ・エレクトロニクスのための「Kogarashi〜亡霊たちの最初の吐息」は2002年、イルカム研修中に作られた楽曲。日本の俳句と荒野にさまようリア王にインスピレーションを得た音楽は、どこかホラー映画風で、お能の幽玄な世界をも想起させる人の息、突風のように通り過ぎる電子音、妖しい物音のようなざわめきに、風に揺れる枯れ葉がたてる音のような、かすかにはじかれるギターの音色などが混ざり合う。擦ったり叩かれたり、ノイジーなギターは筝や親指ピアノのように響くことも。新鮮な面白味のある作品だ。

クリステル・セリ
 ヤン・マレシュの4つの弦楽器とライヴ・エレクトロニクスのための「スル・セーニョ」(2004年作曲)は、弦が楽器の摩擦を経てボディを共鳴させる仕組みを分析・合成した、電子音と楽器音が交わる響きの美しい作品。ジャズを学んだマレシュは、ジャズ風ではないが、拍節感、繰り返される独特な活気のあるリズムなどが個性的な魅力となっている。

 これらの作品を演奏するアンサンブル・クール=シルキュイは1991年に設立され、国内外の音楽祭にも参加するとともに数々の新作初演を行なう、定評ある気鋭のソリスト集団で、拠点にしているパリでも人気がある。なかでも客演の、コンビエ率いるアンサンブル・ケルンに所属するギター奏者のクリステル・セリは、現代音楽分野での活動以外に、シルヴェーヌ・エラリーとのデュオ“ドゥーミックス”で前衛的なポップロックを聴かせることもあるだけに、クラシックの枠にはまらない点が魅力である。また、ツィンバロンを演奏する打楽器奏者フランソワーズ・リヴァランも即興演奏でも知られ、グルーヴ感、流れをつくるのがうまい。
フランソワーズ・リヴァラン (C)A.Bonzon
エレクトロニクスの新旧の様相

 【Concert II】の方は、よりオーソドックスな器楽&電子音楽となっている。

 大御所ピエール・ブーレーズの傑作の一つ、「二重の影の対話」は1985年、ルチアーノ・ベリオの60歳の誕生日を祝ってクラリネットとテープのために作曲された(サクソフォン版は2001年初演)。独奏者と、その録音演奏である“影の分身”が交互に対話をなす。トリルやトレモロなど、繰り返される一定の音型によって構造づけられ、1950〜60年代の作品に比べてずっと聴きやすく、耳にもわかりやすい作りの綺麗な作品である。

ircamでの「息の道」練習風景 (C)Inria / Photo:H.Raguet


クロード・ドラングル(アゴラ音楽祭でのリハーサル風景)
(C)Inria / Photo:H.Raguet
 野平一郎の「息の道」は昨年6月の〈マニフェスト〉で、1981年に野平がパリに留学していたときに初めてコラボレーションを行なったクロード・ドラングルにより初演された。舞台の上に置かれたソプラノからバリトンまで複数のサクソフォンを次々に演奏していく。まさに息の音からはじまる楽曲は、ドラングルのサクソフォン演奏、息、声の録音に、生の朗読と楽器音、その音を引き受けて変容を遂げるライヴ・エレクトロニクスが交差し、幾重にも重なり合う。介入する金属的、ないしはモーターのような存在感の強い電子音、生の楽器音を取り囲む複数の歪んだサクソフォンの音が圧巻。

 前半はクラシックや現代音楽を普段聴かない人にもおすすめ、後半は1曲が長いこともあり、エレクトロニクスの新旧の様相を知りたいクラシック・ファンや現代音楽ファン向けと言えようか。
取材・文/柿市 如
ircam×東京春祭
〜フランス発、最先端の音響実験空間

[日時]
【ConcertI】 4月5日(金) 18:30開演
【Concert II】4月5日(金) 20:30開演
(各回約60分)

[会場]東京・日経ホール

【Concert機
[出演]
アンサンブル・クール=シルキュイ
ディディエ・ムゥ(コントラバス)
ヴェロニク・ゲスキエール(ハープ)
クリステル・セリ(ギター)
フランソワーズ・リヴァラン(ツィンバロン)

[曲目]
ヤン・マレシュ:スル・セーニョ
ジェローム・コンビエ:Kogarashi
ファウスト・ロミテッリ:Trash TV Trance エレクトリック・ギターのための

【ConcertII】 20:30開演
[出演]
クロード・ドラングル(サクソフォン)

[曲目]
ピエール・ブーレーズ:二重の影の対話(サクソフォン版)
野平一郎:息の道〜4つのサクソフォンを奏する1人のサクソフォン奏者と電子音響のための(静岡市文化振興財団委嘱作品、IRCAM制作作品/東京初演)

[チケット]
通し券:5,000円
全席指定(各回):3,000円/U-25:1,500円

※詳細、チケットの申し込みは〈東京・春・音楽祭〉のサイトへ
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_1376.html
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