人気女性ピアノYouTuberが“天空”にまつわる楽曲を弾いた煌めきの新作 朝香智子

朝香智子   2021/05/27掲載
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「あさぴチャンネル」で知られる、女性ピアノYouTuberの第一人者“あさぴ”こと、朝香智子の最新アルバムが登場。「コスモプラネタリウム渋谷」の人気プログラム〈Starry Music〜世界を巡る星とピアノと色彩〜〉のメイン・テーマ「プラネタリウム・ラヴァーズ」(新録版)を中心に“天空”にまつわるオリジナル曲と鮮烈なカヴァー曲でまとめた、煌めく一枚。JIMS Recordsのオーガナイザーであるジェイコブ・コーラーやレーベル・メイトのヒビキpianoといった“凄腕”との連弾も楽しめる、魅惑のピアノ・アルバムだ。
――コスモプラネタリウム渋谷で2020年の11月から投影されているプログラムの音楽を監修されていますね。
「昨年5月にリリースしたアルバムのタイトル・ソング〈Pianista in Tokyo〉をスタッフの方が気に入ってくれたみたいで、声をかけてくださったのがきっかけです。既存の曲とともに〈プラネタリウム・ラヴァーズ〉という新曲を書き上げて提供したのですが、せっかくだからこのテーマでもう少し何かできないかな、星とか空に関連した曲ばかり集めたら楽しいだろうな〜ってどんどんアルバムのイメージか固まっていった。JIMS Recordsでは『アニメ・ピアノ・フォレスト』(2019年)、『ピアニスタ・イン・トーキョー』(2020年)に続いて今回が3枚目になります」
――オリジナル曲もカヴァー曲もお互いがアルバムの中で輝き合っています。時折挟み込まれる、星にまつわるスタンダード・ナンバーのインタールードがまた素晴らしい! 全体を通して聴くとひとつの番組みたいな流れになっていて素敵です。
「ありがとうございます! 初めての方でもカヴァー曲があると安心して聴いてくださるのでは、と思い、ディレクターとも相談して配分を決めました。そしてアレンジにもかなりこだわったので、いきなり曲に入るよりもまずはインタールードで世界を作ってから次の曲に誘う、みたいなのがイイんじゃないかなって……」
――もしオリジナル曲のみだったとしても、ぜんぜん問題なく楽しめたと思います。1曲目の「Meteor Rain」から“変拍子の魔術師”とでも呼びたくなるような朝香さんらしい楽曲で、心を掴まれます。
「ソロになる前(ユニット時代)に書いたナンバーのリメイクで、降り注ぐ流星雨をイメージした楽曲。かなり変則的な拍子ですが、メロディが美しいので普通に気持ちよく聴いていただけると思います。ただちょうどいい長さに辿り着くまでずっと頭を悩ませていたので、完成までかなり時間を費やした渾身の作品です。
――そして〈プラネタリウム・ラヴァーズ〉はヒビキpianoさんとの連弾版。4月末に発売された彼のアルバム『HEAL』に朝香さんがアレンジ&連弾で参加されていたので、その“お返し”ですね。
「コスモプラネタリウム渋谷で実際にオンエアされている、打ち込みリズム・トラック入りでバンド・サウンド感が強いオリジナル音源とは違うヴァージョンでやってみようと思い、ピアノ・ソロで挑戦してみたのですが……何か物足りなくて。それで、そうだヒビキくんの力を借りよう! と思ってお願いしました。“大事なタイトル・トラックなのに、僕で大丈夫ですか?”って本人は心配していたけれど(笑)、すごく華やかなサウンドになりました。もともと誰かと一緒に演奏するのが大好き。だからYouTubeの〈あさぴチャンネル〉も基本はコラボなんです」
――グレン・ミラーの「ムーンライトセレナーデ」をインタールードに挟んで導かれるのはSEKAI NO OWARI〈Dragon Night〉の超“ラテン”なカヴァー。
「彼らのMVよりも、もっと陽気でカーニバル感を出そうと思って、自分の得意とする左手のベースラインを強調したラテン調のアレンジにまとめ上げました。もっとも、左手のアタックが強いってことに自分では1年くらい前まで気づいていませんでした(笑)」
――次のオリジナル曲「RED Invisible」は、まるで夜の首都高を走っているような“アーバン”な雰囲気が良いですね。……80年代に一世を風靡したシャカタクを彷彿とさせます。
「はい! 私もシャカタクの〈Night Birds〉が大好きです。普段から車を運転することが多くて、以前フルーティストのYumikoちゃんのために〈RED Skyscraper〉という疾走感あふれる曲を書いて、今回はそこからフレーズを引用して作った姉妹曲。空にまたたく妖しげな赤い光ははたして星なのか、ビルの灯りなのか、皆さんで自由にイマジネーションを膨らませながら仮想ドライヴを楽しんでみて下さい」
朝香智子
――〈キラキラ星〉(インタールード)から名曲〈オール・スルー・ザ・ナイト〉(シンディー・ローパー)に繋がる流れも“神業”。個人的にもこのカヴァーは“号泣”ものでした。
「YouTubeにアップした時も、50代以上の方の反応が熱かったですね。〈キラキラ星〉とはワントラックのイメージで、マスタリング担当のジェイコブさんにもインテンポで繋いでほしいってお願いしました。壮大な夜空を表現するために右手も左手も大忙しで、今回のレコーディングでいちばんたいへんな楽曲でしたが、達成感も大きいです」
――じつは「月曜9時の恋人たち」(オリジナル)は個人的に、朝香さんがセルフ・ライナーノーツで書かれているのと解釈が違って、土日はそれぞれ家庭があって会えない秘密の恋人たちが、月曜日の夜にときめいている場面を想像してしまいました。
「それもアリかもですね(笑)。ちょっとレトロなキャバレーっぽいサウンドにしてみたかった楽曲です」
――〈十六夜と龍〉は、コントラバス奏者の長澤伴彦さんとのインスト・ユニット「style-3!」でも知られる、コンポーザー / ヴァイオリニストの高嶋英輔さんが書いた曲のカヴァーとか。
「高嶋さんは本当に最高のメロディ・メイカー! お互いのYouTubeチャンネルに出たり、これまでにも数え切れないほどコラボしています。この曲は去年、七夕の日に行なわれた無観客生配信コンサートで披露された新曲。津軽三味線をフィーチャーし、私がピアノを弾いて高嶋さんと一緒にアレンジを考えたものです。十六夜が月だからインタールードは〈フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン〉で」
――〈えんとつ町のプペル〉はカントリー風?
「この曲をとりあげている人もけっこういますね。次第にドラマティックに盛り上がっていく、原曲に沿ったタイプのカヴァーが多いので私は少しアプローチを変えて、煙の消えたえんとつ町のその後の世界をイメージしてみました」
――そして、大人気曲の〈夜に駆ける〉のカヴァーでも変拍子の超絶技巧が炸裂します。すごく高度なテクニックが駆使されているのに、なぜか気持ちよく聴けちゃいます。
「オリジナル楽曲の元になった小説が“死”にまつわる物語なので、どこか不安定な世界観を表現したいなと思って3拍子のワルツで弾き始めていたら、ジェイコブさんが“思い切って変拍子にしてみたら?”って提案してくれた。それで、7拍子? いや無理、5拍子? ……っていろいろ試していくうちにどんどん複雑になっていって、完成品を聴かせたら彼も驚いていました(笑)」
――〈星に願いを〉(インタールード)から繋がるオリジナル曲〈Space Tourism〉も、ヴァネッサ・カールトンの〈A Thousand Miles〉を思わせるあのピコピコしたピアノの響きが個人的に“ツボ”でした。
「いいですよね〈A Thousand Miles〉! あのピアノを乗せた車が走っていくビデオも。私も書いているうちにワクワク感が高まってきて、星間旅行しているようなイメージが湧いてきたのでこのタイトルに」
――〈ジュピター〉(interlude)〜〈風の谷のナウシカ〉も圧巻。これまでのアルバムと同様に、ここでジェイコブ・コーラーさん投入!
「ジェイコブさんのカヴァーでいちばん好きな楽曲かも。まだお会いする前から譜面を買って何度弾いたことか…今年の年始にやっと念願かなって一緒に演奏することができて、絶対次のアルバムに入れなきゃと思いました。彼のソロ・ヴァージョンよりもテンポをおとしたグルーヴ重視のアレンジで、今回は譜面なし、アドリブも一発録りというスリリングなセッション・テイクに挑戦しました」
――ラストもJIMS Recordsらしい楽曲でキメましたね。2018年リリースの湘南をテーマにしたアルバム『SEASIDE RAINBOW』収録曲「costa」のセルフ・カヴァー(ピアノ・ソロヴァージョン)とか。
「アルバムの人気曲でした。これからもJIMS Recordsの名に恥じないよう、頑張ります!」
――最後になりましたが、ジャケットを飾るイラストレーションも目を惹く美しさ。〈Starry Music〜世界を巡る星とピアノと色彩〜〉で共演されたライヴペインティングパフォーマー、近藤康平さんの書き下ろしとか。
「配信も便利ですがCDを手に取っていただけたら嬉しいです……ライナーノーツも一生懸命書きました。そして、またライヴの会場でも、皆さまのお目にかかれますように!」
取材・文/東端哲也
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