「あさぴ」はROCKなサウスポー!ピアノYouTuber朝香智子の新作

朝香智子   2022/09/28掲載
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 大きなムーヴメントとなっている“ピアノYouTuber”シーンで注目を集めている朝香智子。2020年5月に『ピアニスタ・イン・トーキョー』、2021年5月に『プラネタリウム・ラヴァーズ』をリリースするなど、コロナ禍においても精力的な活動を続けている“あさぴ”から、ニュー・アルバム『ASAPI ROCK PIANO』が届けられた。
 「ウィ・ウィル・ロック・ユー(with Jacob Koller)」(クイーン)、「ビート・イット」(マイケル・ジャクソン)、「ワタリドリ」([Alexandros])などのカヴァー曲を中心に、「ROAR(ロア)with みやけん」「SUMMERTIME〜ASAPI ROCK PIANOのテーマ〜」などのオリジナル曲も収録。左手のビートとベース・ラインの強さ、右手のメロディ・ラインの美しさを軸とした、ピアニストとしての個性と魅力が存分に発揮された作品に仕上がっている。
 本作『ASAPI ROCK PIANO』の制作を軸に、ロック音楽との出会い、同じくピアノYouTuberとしても活動しているジェイコブ・コーラー、みやけんとの関係性などについても語ってもらった。
New Album
朝香智子
『ASAPI ROCK PIANO』

(JIMS-1021)
 「さっき都庁に行ってきたんですよ」
――都庁のストリートピアノですね! 
 「はい。みやけん君と一緒だったんです」
――以前は海外の観光客が多かったですが、最近はどうですか?
 「ちょくちょく見かけるようになりましたけど、コロナ前に比べたら、まだまだですね。今はほとんどが日本人の方なので、洋楽よりも日本のポップスを演奏することが増えました」
朝香智子
――では、ニュー・アルバム『ASAPI ROCK PIANO』について聞かせてください。洋楽、邦楽のロック・チューンのカヴァーとオリジナル曲で構成された作品ですが、ロックをテーマにしたのはどうしてなんですか?
 「ほかの楽器を入れず、ピアノだけでロックを演奏しているアルバムはあまりないかもしれない、と思ったのがきっかけです。私自身もポップ・ロックのバンド(mogahoop)を経験しているし、ライヴでもグランドピアノで立ち弾きしたり、ロックっぽいパフォーマンスが好きで。“ロックを中心にしたアルバムが1枚あってもいいかもね”ということになりました。ハード・ロックから往年のロックンロール、最近の日本のバンドの曲、J-POPまでかなり幅広い選曲になっています」
――初めて弾く曲もあったんですか?
 「弾き慣れた曲のほうが少ないです。なんとなくポロポロと弾いたことがあった曲もありましたけど、今回初めてレコーディングできる状態まで持っていった曲も。前から好きな曲も多いですけど。〈ミス・ア・シング〉(エアロスミス)は昔から大好きで、映画(『アルマゲドン』)も何回も観たし、サントラはもちろん、この曲が入っているエアロスミスのアルバムも聴いてました」
――ロックも朝香さんのルーツなんですね。
 「そうですね。いろんなジャンルを聴くんですけど、踏ん張りたいとき、がんばりたいときはやっぱりロックです(笑)。私にとっては、背中を押してくれる、エンジンをかけてくれる音楽です。洋楽との最初の出会いはビートルズ。中学の英語の授業で“英語の歌を歌う”という課題があって、その最初の楽曲が〈ヘルプ!〉だったんです。それが中学1年の4月で、3年間は洋楽ばっかり聴いてました。(洋楽専門誌)『INROCK』を買ったり、MTVやスペースシャワーTVの洋楽特集を見たり。高校のときに友達に勧められたクイーンも大好きでした。最初に〈ボヘミアン・ラプソディ〉を聴いたんですけど、“なんだこれは!”って衝撃を受けて。小さい頃からクラシック・ピアノをやっていたので、“ロックとオーケストレーションが融合しているのはすごい!”ってビックリしたんですよね。高校時代は洋楽だけじゃなくて、日本の音楽も聴いてました」
――リスナーとしての幅広さは、現在の活動にもつながっていそうですね。
 「そうかもしれないです。小学校に入る前は“家でクラシック以外は聞いちゃダメ”と言われていたせいか、小学生のときはJ-ROCKを聴きまくってたんですよ(笑)。CDをレンタルして、それをカセットテープに録って。でも、テープって巻き戻すのが面倒じゃないですか。なので自分で曲を覚えて、イントロやリフなどを口三味線で歌うようになったんです(笑)。耳コピも好きで、曲を覚えてピアノで弾くことも遊びでやっていて。学校の音楽室で弾いて、クラスメイトに“すごいね!”と言われるのも気持ちよかったです(笑)。それが自然とフレーズの引き出しや、アレンジの勉強になっていたのかもしれないです」
――なるほど。『ASAPI ROCK PIANO』のカヴァー曲のアレンジについてはどうですか?
 「“原曲のイメージを壊さない”というのが、私のスタイルなんです。たとえばジェイコブ・コーラーさんは大胆なジャズ・アレンジが得意で、いつもすごいと思ってるんですけど、私はもっとオーソドックスというか、楽曲のファンの方が聴きやすく、一緒に歌えるようなアレンジにしようと思ってました。たとえば中森明菜さんの〈TATTOO〉のホーンセクションも、どうすればピアノ1本であの雰囲気が出せるだろう?と考えて、原曲を何回も聴き直したりしました」
――キャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」のイントロのギターも、見事にピアノで再現していて。
 「なるべくそれっぽく聴こえるように(笑)。〈ファンキー・モンキー・ベイビー〉に関しては、左手で弾いているベース・ラインも完コピに近いんですよ。原曲に忠実に弾くことを軸にしながら、曲によってはアレンジを加えているものもあって。〈ビート・イット〉(マイケル・ジャクソン)のなかに〈ビリー・ジーン〉のメロディをインサートしたり、〈抱きしめたい〉(ビートルズ)の途中でテンションを落としたり。そのまま演奏すると飽きるかもという曲に関しては、許容範囲ギリギリでアレンジしてみたりしています」
――そのあたりにも朝香さんの解釈やセンスが出ているんでしょうね。共通しているのは、左手のベース・ラインとビート感。すごいパワーですよね。
 「ありがとうございます。私は小指よりも薬指を使うことが多いし、レフティ(左利き)ということも活かせているのかもしれないです。たしかにベース・ライン、ビートはロックの曲の命だと思っていて。ドラムや打ち込みのトラックを入れてないので、リズムを感じられるような音をどう入れるか?というのも意識していました。たとえば〈ワタリドリ〉([Alexandros])もそう。原曲のリズムがすごく印象的なので、左手のフレーズでできるかぎり表現したくて。ハットの音や裏拍のリズムを感じられるかどうかで、立体感が変わってくるし、基本、左手を重視しながら、下(低音)から積み上げていく感じでした。“ピアノ1本だからボリュームが足りない”と言われたくないなって(笑)。原曲がいいのはわかってるんですけど、勢いやボリュームを殺さないピアノ・アレンジもできるというのが目標でしたね」
――交流のあるピアニストと共演した曲も印象的でした。まずはジェイコブ・コーラーさんを招いた「ウィ・ウィル・ロック・ユー」。ライヴ感、臨場感のある演奏だなと。
 「これ、一瞬でレコーディングが終わったんです。まず1回やって、“智子、いけるよ!”と言ってくれて。2回くらい録って、“どっちがいい?”“2回目かな”“OK!”で終了(笑)。ふだんのレコーディングでは一部を差し替えることもあるんですけど、この曲は最初から最後まで止まることなく演奏しています。以前ライヴで一緒にやったことがあったんだけど、ジェイコブさんの演奏は大半がアドリブで、予測不能なんです。とにかく演奏の軸だけはブレないようにして、あとは楽しそうに弾いているジェイコブさんを見てました(笑)」
――朝香さんにとってジェイコブさんは、どんなピアニストなんですか?
 「演奏はもちろん素晴らしいし、アレンジのセンスもすごいくて。以前、ジェイコブさんに“君の演奏はグルーヴ感が素晴らしい”と言ってもらったことがあって。その頃は自分の方向性に迷っていたというか、“私の売りって何だろう?”って考えてた時期なんですよ。“グルーヴを押し出せるアレンジやパフォーマンスがいいんじゃない?”と言ってもらえたことで、自信を持てました」
――演奏のグルーヴは一朝一夕では身につかないし、ジェイコブさんにそう言われると“やってきたことは間違ってなかった”と思えますよね」
 「そうですね。私はクラシックから始まって、大学生のときにライヴの世界に飛び込んで。ガールズ・バンド(mogahoop)に加入したときに、メンバーから“朝香ちゃんはビートが弱い”って言われたんですよ。バンドで演奏するのはそのときが初めてだったし、“ビートが弱いって何!?”みたいな状態で(笑)。そのバンドは結構スパルタで、1日7時間くらいリハすることもあって。そこからビートやグルーヴを意識するようになったんですが、10年以上経ってジェイコブさんみたいなすごいピアニストに評価してもらえたのは、自分としても腑に落ちるところがありました」
――そして朝香さんのオリジナル曲「ROAR(ロア)」には、みやけんさんが参加。この曲はどんなコンセプトで制作されたんですか?
 「『アルドノア・ゼロ』というアニメ作品がきっかけなんです。音楽を澤野弘之さんが作れているんですけど、挿入歌(〈BBRE@TH//LESS〉)を知り合いの小林未郁さんが歌っていて。興味を持ってアニメを観たら、すごく面白かったんですよ。そのときに感じたこと――自分のなかの乾きだったり、戦ってるシーンの印象だったり――を形にしたのが、〈ROAR(ロア)〉ですね。もともとはINUUNIQというプログレ系のバンドのために書いたんですが、私のなかではかなりロックな曲なので、このアルバムにも収録したくて。先行配信したヴァージョンはソロ演奏なんですが、原曲にはビオラなども入っていて、どうしても一人では弾ききれなかったんですよ。なので、みやけんにお願いして、パートを分け合いながらレコーディングしました」
――みやけんさんとの交流もかなり長いですよね。
 「知り合ったのは、彼のYouTubeチャンネルの登録者数が5000〜6000人くらいの頃ですね(現在のチャンネル登録者数は20.5万人)。都庁のストリートピアノで演奏しているのを見たのが最初なんですが、原曲に忠実でありながら、すごく派手さあって。“私がやりたかったことをやっている人がいる!”と思ったんですよね。そこから仲良くなったんですが、やろうとしていることの方向性が近いぶん、何をやっても彼の廉価版みたいになってる気がして、半年くらい悩んでしまったんです。結果的にはすごくいい刺激だったし、ステップアップにつながったと思ってます。前作『プラネタリウム・ラヴァーズ』で自由なアレンジにトライしたのもそうだし」
――近しいピアニストから受ける刺激や影響がある、と。
 「すごくありますね。ピアニストYoutuberの動画もけっこう観ているんですけど、人によってスタイルがぜんぜん違うんですよ。タンゴ、ゲーム音楽、ジャズなどの専門の方もいて、すごくバラエティに富んでいる。私の場合は、いろんなピアニストのエッセンスを取り入れて、もともと自分が持っているものとミックスして表現することに真価があると思っていて。日本人がいちばん得意なことをやってます(笑)」
――アルバムには、未発表の新曲(「SUMMER TIME〜ASAPI ROCK PIANOのテーマ〜」「恋のビタミンC」「American Graffiti」)も収録されています。
 「〈ROAR(ロア)〉以外の新曲はぜんぜんできてなくてどうしようと思ってたんです(笑)。さっきお話したジェイコブさんとのレコーディングの次の日がレコーディング最終日だったんですけど、(〈ウィー・ウィル・ロック・ユー〉の)録音がすごいスピードで終わって、ディレクターに“今から曲を書いてみようか”と言われて。そういう制限があると急に曲が出てくることがあるんですが、そのときもまさにそうで、一気に書けたんですよ。まず〈SUMMER TIME〉ができて、プリンセス・プリンセスっぽい曲を弾きたいと思って、〈恋はビタミンC〉を書いて。〈American Graffiti〉は、“アルバムの最後にオリジナルのロック・バラードがほしい”というところからですね。映画『アメリカン・グラフィティ』の切ない感じをイメージしながら、リズムは3連で。全部で4〜5時間で作ったんですけど、3曲ともいけそうだったから、次の日にレコーディングしました」
――すごい!「SUMMER TIME〜ASAPI ROCK PIANOのテーマ〜」「恋のビタミンC」「American Graffiti」はアルバムの軸になっていると思います。
 「ありがとうございます。オリジナル曲の前後でカヴァー曲の雰囲気も変わるので、いいフックになったのかなと」
――アルバムの曲をライヴで聴けるのも楽しみです。
 「10月8日のワンマンライヴ(下北沢・Com.cafe音倉)はありがたいことに、早々に売り切れたんです。配信もあるんですが、権利の関係で洋楽カヴァーは配信できなくて。できれば全国各地でワンマンをやれるのが理想です」
――次回作の構想は?
 「オリジナル楽曲でフル・アルバムを作りたいと思ってます。ピアノ・ソロのオリジナル曲も、頭のなかではバンド・サウンドが鳴っていることがあって。やりたいことはいろいろあるので、がんばります!」
取材・文/森 朋之
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