変わりゆく同じグルーヴ――BUDAMUNK『Movin’ Scent』

BUDAMUNK   2018/08/31掲載
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 ビートメイカー、BUDAMUNKの最新作『Movin' Scent』には、5lackISSUGI仙人掌といったラッパーのみならず、mabanuaや金子 巧、ロイ・ハーグローヴのバンドの鍵盤奏者、TSuggsらミュージシャンも参加している。ジャズとヒップホップ――2018年現在のこの2つのジャンルの混交へのBUDAMUNKなりのひとまずの回答と言えるかもしれない。インタビュー後半で語っている通り、今後はミュージシャンとセッションした作品も積極的に発表していくつもりだという。本作はその序章となる。BUDAMUNKのビートの味は変わらないが、コクと深みは増している。これを機会にいま改めてBUDAMUNKの作品群を聴くことを強くおすすめしたい。
――これまでインストのビート集やラッパーとの共作など、いろんな作品を発表してきていますが、今回の『Movin' Scent』は本人的にはどういう位置づけの作品ですか?
 「あまり考えずにまとまったときに出していく感じですが、『Boom Bap Theory』と『The Awakening』、Yotaroとの『Rhythm & Balance』、FITZ AMBRO$Eとの『BudaBrose』シリーズ(2作品ある)とか、FAT BEATSから出ている『Baker's Dozen』はビートテープって感じですかね。俺の中でビートテープとアルバムをもし分けるとすれば、ビートテープはラッパーがそのビートに仮にラップを乗せても成り立つことです。今回はラップの曲もあるけど、インストだけでも十分音が埋まってる曲もいれたかったので、自分のビートにミュージシャンの人が弾いたり、DJ YUZEさんがスクラッチをのせることで、GREEN BUTTERのときもそういう思いがありましたが、インストのヒップホップがもっといろんな人に広がるといいなと思ってます。『Movin' Scent』をもし定義するとすれば、ビートテープよりもう少し作り込まれたものって感じですね」
――ラップが乗ってアルバムとして完成させる、つまりインストの作品を出さないビートメイカーもいまはけっこういると思うんですけど、BUDAMUNKくんはインストとして成立するものがより自分の作品である、と。
 「っていう訳ではないですが、自分のメインのパートのビートだけの曲でも、もっといろんな人に聴いてほしいっていうのはありますね。けど基本的にはただシンプルに自分がやばいって思うものを作り続けてるだけで、今回のアルバムはソロの作品としてはかなり良いバランスだと思います」
――『Baker's Dozen』はFAT BEATSからどのように声をかけられたんですか?
 「FITZが間に入ってくれたんですけど、FAT BEATSから“リリースに興味あるけど、どうだ?”って連絡があったんです。『Baker's Dozen』はすげえ好きなシリーズだったのでオファーが来たとき、びっくりしました。即OKしましたね(笑)。あの作品はNative InstrumentsのMACHINEで作ったビートが中心です。そのときはまだソフトウェアを使いはじめたばっかで使い慣れていなかったので、自分の中では実験だった。だから、不完全な感じかもしれないんですが、それはそれで面白いかなと自分では思っていて。そこからステップアップしたのが今回のアルバムですね。今回は、MACHINEとAbleton Liveが半々ぐらいですかね。MPCで作った昔の曲も2曲入ってます。いろいろ混ぜてみましたね。だから、昔作ったビートからも選びつつ、新しく作ってるビートからも選んだ感じですね。(金子)巧さんと作っている〈Good Day To You〉は、数年前にスペースシャワーのジングルで使われていたんです」
――金子 巧との曲もそうですし、mabanuaやTSuggsとの曲などエレピが印象的な曲も多いですよね。
 「ただ実は〈Warm Water〉のmabanuaはドラムなんですよ。GREEN BUTTERのときは俺がビートを作ってmabanuaが鍵盤やギターを弾くので、その逆ですね。たしかタワーレコード限定だったと思うんですけど、『Butter Session Mixtape』っていうmabanuaのドラムを使って作った作品を出してるんですけど、そのときにもらったドラムを今回使わせてもらいましたね」
――ロイ・ハーグローヴのThe RH Factorで鍵盤を弾くTSuggsとはどのようにして出会って共作に至ったんですか?
 「YUZEさんが紹介してくれましたね。YUZEさんはジャズ・ミュージシャンとセッションをよくやっていて、その界隈の知り合いがたくさんいるんです。この前ロイ・ハーグローヴがブルーノートでライヴしたときにも鍵盤弾いてましたね。TSuggsは茨城に住んでるんですが、ピアノを弾く仕事でよく東京に来るので、余った時間で俺の家に来て一緒にたくさん曲を作ってきたんです。アルバムに入っている曲は初めて一緒に作った曲ですね。彼とのプロジェクトもこれからリリースしていくと思います。彼やYUZEさんの影響もあって、今回は作っていくうちにジャズっぽい要素もちょっとある、チルしたりレイドバックして聴ける感じのアルバムにしていこうと方向性が定まっていきました。5lackとCavalierとやった〈Had To Do It〉はビートを一回やり直したんですが、それもけっこう前ので、ヴァースを録音したのは2009、10年ぐらいだと思います。だから、5lackのラップのスタイルも昔のスタイルですよね」
――ああ、やっぱりそうなんですか。BUDAMUNKくんとやると、5lackは昔のスタイルに戻るんだ、となかば勘違いしていました。声も若いしなって(笑)。
 「ははは。本人もその曲を当時気に入ってたんですよね」
――Cavalierっていうラッパーは誰ですか?
 「NYのラッパーですね。最近はIman OmariQuelle Chrisなどと活動して注目されてます。曲は5lackの家に連れてって録ったんですが、どんなリリックかの説明を俺が受けて5lackに伝えた感じですね」
――BUDAMUNKくんのビートには、一聴してBUDAMUNKのグルーヴというものがあるじゃないですか。以前、ISSUGIくんにインタヴューしたとき、彼はどの楽器の演奏もドラムより前に“走っちゃいけない”と語ったというマイルス・デイヴィスの考え方にとても共感すると話していました。BUDAMUNKくん流にグルーヴを解説するとどうなりますか?
 「ISSUGIくんが、俺のビートは一個一個の音がそれぞれ違う動きをしてるって言ってたんですが、俺のビートはたぶんそれによって全体のグルーヴが生まれてると思います。例えばドラムがスウィングしているとか。BPMが速い曲だと音が詰まるからクオンタイズされていてもグルーヴが出るんですけど、BPMが遅い曲だとクオンタイズされているとグルーヴは上手く出ないですね。BPMが遅ければ遅いほどグルーヴを出すのは難しい。だから、遅い曲で速い曲と同じぐらいのスウィング感を出すことがグルーヴを生み出す秘訣ですね」
――それはビートメイカーとしての鍛錬で磨かれていくものですか?
 「やればやるほど自分のグルーヴは出てくるものだと思います。mabanuaはビートも作るし、ドラムがメインの楽器だから、自分のグルーヴの感覚も分かるかもしれないですが、ミュージシャンとビートメイカーではグルーヴの理解の仕方が違うかもしれないですね」
――先ほどジャズの話が少し出ましたが、BUDAMUNKくんが熱心に聴いてきたジャズなどはありますか?
 「俺は特に熱心にジャズを聴いてきたわけではないんですけど、最近は昔よりよく聴くようになりましたね。ロバート・グラスパーもそうだし、テラス・マーティンもジャズっぽいアルバムを作ってますよね。ブッチャー・ブラウンとかも好きです。ブッチャー・ブラウンのメンバーのDJハリソンはビートも作ってるんでビート・シーンとジャズを繋いでる存在だし、ブッチャー・ブラウンがサポートで入っているニコラス・ペイトンっていうトランペット奏者の『Numbers』ってアルバムもすごく良くて。ヒップホップとジャズの共通している部分、ヒップホップのノリをわかっているミュージシャンが作るジャズはやっぱり好きですね。90年代だったらザ・ルーツもそうだと思いますし、ディガブル・プラネッツとか好きでした。ディガブル・プラネッツのファーストセカンドはいま聴いてもカッコイイです。今回そこまで強くジャズを意識したわけではないんですけど、そういう音楽を聴いていたのもあったかもしれないですし、たまたまジャズのミュージシャンの人に参加してもらったこともあって、そういう作品になりましたね」
――なるほど。オリジナルの作品を発表しつつ、実はミックスもけっこう発表しているじゃないですか。例えば、僕は今年出た『GrooveRoom vol.2』がとても気に入って聴いています。90年代のR&Bの選曲に心躍らされたりもするのですが、何よりあの音の歪ませ方というか全体のモコモコした音像が素晴らしくて。あれは何なんですかね?
 「『GrooveRoom vol.2』とかそういうミックスには自分のそのときの好みの音が入ってますね。90年代の曲も入れてますけど、半分ぐらいは最近の曲ですね。原曲をチョップしてループして、ドラムを抜いたりしているような曲もあるんです。だから、俺としては普通にDJしているだけなんですけど、あのミックスは全体の浮遊感や空気感みたいのを大事にしてて。音色に関しては、録音しながら普段DJするときもそうですがフィルターをかけたりします。自宅で録音するときは、MPCとSP-404は通るようにセッティングしてあるんで、それも音が少し変わると思います。ミキシングはいつも自分でやるんですけど、昔に比べると音に対しての理解は深くなっていっていますね。昔の自分の作ったビートを聴くと、ハイが痛い、とか、スネアが出過ぎていると思うときがありますしね」
――『GrooveRoom vol.2』は90年代のヒップホップとかR&Bをサンプリングして作った『BudaBrose 2』の延長にあるミックスだな、と。
 「『BudaBrose』は1も2もたしかに90sのR&Bをサンプルしているのが、だいたいですね。1は全部自分のMPC2000XLで、2は全部FITZのMPC1000で作ってます。俺もあのアルバムは気に入ってますね。新しいことができたのかなって。FITZも俺も同い年で同じような音楽を聴いてきたので好みのベースが一緒なんですよ。自分が一番音楽に影響受けたのが10代だった90年代だったので、当時の独特の空気感を新しい感じで表現していけたらなっていうのは常に自分のテーマではあります。俺は90年代半ばからはLAにいたんで、そのときの刺激もでかいです」
――96年にLAに行くんですよね。当時、LAに行ってどんな経験をされたんですか?
 「最初はテレビが衝撃でした。BETとMTVばっか見てました。ディアンジェロはLA行く前から好きで、日本では写真しかみたことなかったんですが、当時向こうでは超スーパースターで、人気歌手が出るようなテレビの音楽番組にしょっちゅう出てて、そういう番組で観たんです。それと、ちょうどLAに行ったときに、マックスウェルのMTVアンプラグドを観てそれも衝撃でした。だから、最初はそういうテレビやラジオで流行っている音楽を聴いてましたね」
――ディアンジェロの『Brown Sugar』と『Voodoo』のどちらかを選べと言われたら、BUDAMUNKくんはどちらですか?
 「『Voodoo』も好きですけど、俺は『Brown Sugar』が出たときに衝撃を受けてるので、完全に『Brown Sugar』ですね。あの音のドライさというかザラッとした感じが大好きなんです。あと、『Men In Black』のサントラに入ってた、ザ・ルーツの曲でディアンジェロがフックを歌う〈The Notic〉も大好きですね。あのサントラには、まだ有名になる前のアリシア・キーズも入ってて、ちょっとエリカ・バドゥみたいな感じですごく良かったですね。90年代後半からは、LAローカルのイベントに行くようになって、アングラのアーティストに影響されていくようになるんです。LAローカルの局で、映像もすごい粗かったりするんですが、アングラのヒップホップの番組もいくつかあって、そういうのも観たりしてました。そうやってどんどんディープな世界にハマっていった感じです」
――JOE STYLESもそういうシーンで出会っていった感じですか?
 「JOE STYLESは向こうの学校で出会ったんですけど、俺が影響受けてきたモブ・ディープとかウータン・クランスラム・ヴィレッジとかトライブとか、イケてるヒップホップを聴いてましたね。一緒に始めた一人ですね、当時ジェイ・ディーのやばさやグルーヴ感を俺により深く教えてくれたのも彼です」
――「Lets Build」でISSUGIと仙人掌と共に参加してるEpicはどんな人ですか?
 「兄ちゃんがShinobiってラッパーで、2人とも横須賀出身でLAでも育ったヤツで、Sick Teamとか自分の作品やDoubleDoubleアルバムにも参加してますね。いつも俺らの周りにいる仲間です」
――また、ビートメイカー、Aru-2との「Play Cuts」という曲もありますね。
 「Aru-2が俺の家に遊びに来たとき色々作っていて、その中から見つけた一曲です。あいつは鍵盤を弾けるので、4つぐらいレイヤーしてある弾いた音のループを全部バラバラでもらって、それをチョップして俺が組み直した感じですね」
――しかし、BUDAMUNKくんも盟友の16FLIPもほんとにずーっとビートを作ってますよね。
 「16FLIPは俺と作るときは、俺がドラムをやって16FLIPが上ネタをやることが多いです。16FLIPもたまーにドラムやりたいってやるときもありますね。俺と16FLIPはすげえいっぱい作ってますね。タイミングがあれば作ってすぐできちゃうんで。発表してない曲もたくさんありますよ」
――いろんなビートメイカーに訊く質問なんですけど、ビートメイカーは曲の完成ってどこに設定しているのかなと。極端なこと言えば、展開のない延々とワンループするものでもビートは成立するわけじゃないですか。最後の判断は非常に感覚的だとは思うんですけど、“よし、これで完成!”ってするときの法則や基準ってあるのかなと。
 「自分の場合は、順番はそのときによって違いますが、ドラム、サンプルのループにベースを入れて完成っていうのが基本で。それにもっと音を足すときもあるし、作品にするときはダイアログ的なサンプルやエフェクト的なサンプルを足したりして、もっと完成度を高くすることが多いです。今回のアルバムに関してはミュージシャンが入っているのが大きいですかね。それでたまたま全体の作品としてのバランスが上手くとれたかな、と」
――そうですね。今作はミュージシャンの参加は大きいですよね。
 「とりあえず曲はいっぱいあるんで。どれだけまとめられるかですね。TSuggsとはアルバム2、3個できるぐらいの曲は作ってたりしますし。最近、東京からLAに帰ってしまったデヴィン・モリソンと作った曲もたくさんあります。デヴィン・モリソンは、KOJOEの『here』にも参加していて、楽器も弾けるし歌も歌えるんですよ。YUZEさんと作った曲もありますし、俺がYUZEさんのいま作っているアルバムにも参加したりもしてます。なので、今回の作品は、ミュージシャンとセッションした作品を発表していくこれからの動きの入り口になるようなものだと思いますね」
取材・文 / 二木 信(2018年8月)
Live Schedule
SOUL CAMP 2018 at ISETAN
2018年9月12日(水)〜17日(月・祝)
東京 伊勢丹新宿店本館 6階・催物場
isetanguide.com/20180912/soulcamp/index.html

[LIVE]

9月12日(水)18:00〜19:00
BUDAMUNK

9月15日(土)16:30〜19:30
MURO / DJ IZOH / DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA / DJ SARASA / DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH! / DJ MITSU THE BEATS

9月16日(日)16:30〜19:30
DJ HASEBE / DJ YANATAKE / DJ HAZIME / DJ WATARAI / Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY / DJ KOMORI / BULL
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