【ゴーティエ・カピュソン】作曲家の言いたいことを伝えていくのが演奏家――ゲルギエフとの共演によるショスタコーヴィチ協奏曲集

ゴーティエ・カピュソン   2015/12/22掲載
はてなブックマークに追加
 ヴァイオリニストで兄のルノーとともに、若い世代を代表する演奏家として破竹の勢いの活躍を続けているゴーティエ・カピュソン。今、もっとも忙しい指揮者と言われるワレリー・ゲルギエフとの2度目の共演によるアルバムがリリースされた。今回はショスタコーヴィチの2つのチェロ協奏曲。フランス生まれの名手ゴーティエとロシアの名匠ゲルギエフとの相性は、とても良いようだ。
photo ©Aline Paley
――初めてお会いしますが、今回のジャケット写真のシリアスでコワモテのイメージとはかなり違って、優しい雰囲気なんですね。
 「今、目の前にしているのが本当の僕です(笑)。今回のショスタコーヴィチの作品の内容がシリアスだし、演奏中に撮った写真なので、ニヤニヤしてたら変ですよね(笑)」
――今回はゲルギエフ率いるマリインスキー劇場管弦楽団と2度目のレコーディングですね。
photo ©JB Millot
 「彼らとの共演は2007年ごろから続いていて、今回録音したショスタコーヴィチは何回もステージで演奏しています。ゲルギエフさんとの共演は、いつも特別で素晴らしい音楽空間、音楽体験となります。ロシアが誇るブランドでもある彼らの間に“音楽仲間”として入れるだけでも光栄なことなんです。彼らは、ショスタコーヴィチの生涯はもちろん、作品に込められたもの、またそれらの文化や社会の背景についてもわかりきっている人たち。ともに演奏しているだけで、ものすごい刺激を受けています。彼らが僕の音楽を尊重してくれるのも嬉しいことです」
――オーケストラをドライヴするテクニックに長けたゲルギエフ。共演者としては、どう向き合うのでしょうか。
 「彼が責任を持って演奏の方向性を示すわけですが、それが僕の志す方向性と同じなんです。そういう意味では僕は彼に取り込まれているとも言えるわけですが、彼は聴衆をも取り込んでしまうんですよ。演奏会場全体が、その時に演奏している音楽に入り込んでしまうのです」
――今回は、第1番の協奏曲はパリのサル・プレイエル、第2番はロシアのマリインスキー劇場と場所は違いますが、どちらもライヴ収録ですね。
 「聴衆のいる状況での録音は、演奏家にとってはかなりチャレンジングなことです。何度も取り直しのできるスタジオ録音にも良さがありますが、一発勝負のライヴ録音には独特の緊張感がありますね。内省的で密度の高いショスタコーヴィチの作品は、聴き手とのコミュニケーションも大切な要素なんですが、今回はゲルギエフさんのおかげもあって、両方ともとてもうまくいきました」
――今回のショスタコーヴィチの2作品は、日本ではそれほどなじみの深いものではありません。それぞれの聴きどころを教えていただけますか?
 「2曲とも、親交のあった巨匠ロストロポーヴィチのために書かれた作品です。初めて触れる人には、第1番の方がとっつきやすいかもしれませんね。オーケストラが鳴る部分と、ソロのチェロが鳴る部分が書きわけられていて、合わさった時にはどちらも十分に生かされるよう、ショスタコーヴィチはさまざまな作曲テクニックを駆使して書いています。3楽章の長いカデンツァは、正直に言うと演奏者にとってはとてもキツイ場所なんですよ。でも、ここの出来が演奏全体のクオリティを左右します。うまくいったのは、親しみをもって聴いてくれたサル・プレイエルの聴衆の力でもあります。第2番は出だしから内省的な音楽です。陰鬱な雰囲気のまま、曲は進んでいきます。ロシアの民謡を思わせるメロディが巧みに取り入れられ、こちらもオーケストラとソロ・チェロの対比と調和が見事です。ショスタコーヴィチの魂と向き合うかのような音楽ですが、彼を理解する聴衆のいるマリインスキー劇場だったことが、成功への大きな鍵となりました」
『ショスタコーヴィチ: チェロ協奏曲集』
WPCS-13241 2,600円 + 税
――作品に深く入り込み、そこから何ものかを引き出そうとしていることは、あなたの演奏から伝わってきますね。
 「いつも思っているのは、“語り部”となって、チェロという声で作曲家の言いたいことを伝えていくのが演奏家だということ。作品に入り込んでいく感じは、俳優が役に入り込むのと似ているかな。作曲家と同化して、思いもしなかったような感情が湧きおこることもあります。とくに今回の第2番では、演奏していて涙が出てきました。その深くて大きな感情の揺れ動きは、演奏会の翌朝に目覚めた時まで続きました。こうしたことは、僕には結構あるんですよ。作曲家が曲を書いていくプロセスを追体験することは、演奏家にとって必須のことだと思っています」
――いろんな意味で難しい作品ではありますが、繰り返し聴きたくなり、また繰り返し聴くたびにいろいろな発見がある演奏となっていますね。今後はどんな作品を録音していくのでしょうか。
 「同郷のエベーヌ四重奏団との共演によるシューベルトの五重奏の録音が、すでに終わっています。ついこの間は、ベルナルド・ハイティンク指揮ヨーロッパ室内管弦楽団との共演で、シューマンのチェロ協奏曲などを録りました。今度の3月にはピアニストのフランク・ブラレイとの共演でベートーヴェンのチェロ・ソナタを録音する予定です。これらの詳細やリリース予定などは、おいおいきちんと発表されると思いますので、楽しみにしていてくださいね。また、2016年はアンリ・デュティユーの生誕100年にあたることで、その前祝いとして今年は彼の作品をずいぶん取り上げました。それらをまとめて録音できないかと思っています」
取材・文 / 堀江昭朗(2015年11月)
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 野崎りこん “ネット・ラップ叩き上げの異彩MC”による原点回帰作[インタビュー] 音楽と映像のスペクタクル・ショウが開幕――ディズニー初の公式アカペラ・グループ、ディカペラが日本ツアーを開催
[インタビュー] akiko 間や響きの美学に満ちた静寂の世界――ピアニスト林正樹とのコラボ・アルバム『spectrum』[インタビュー] エレクトリック・マイルスの現代版を標榜するSelim Slive Elementzがライヴ録音の新作『VOICE』を発表
[インタビュー] 不安や焦りや苦しみをポジティヴに変換していく 杏沙子、初のシングルを発表[インタビュー] 赤頬思春期 アコースティックでファッショナブル 噂の2人組が日本デビュー
[インタビュー] 聴く人を架空のリゾートにご案内――Pictured Resortの新作が誘う日常からのエスケープ[インタビュー] THA BLUE HERB、全30曲入り2枚組の大作でたどり着いた孤高の境地
[インタビュー] Moonの待望の新作『Tenderly』は、スタンダードからグリーン・デイまで歌うカヴァー集[インタビュー] 小坂忠、再発された70年代のアルバム『CHEW KOSAKA SINGS』と『モーニング』を語る
[インタビュー] Suchmos、WONKなどのコーラスを手がけてきた大坂朋子がSolmana名義でデビュー[インタビュー] 話題の公演“100チェロ”を東京で行なうジョヴァンニ・ソッリマが代表作を語る
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
新譜情報
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015