布袋寅泰   2009/12/22掲載
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「なぜ音楽の力強さに惹かれてきたのか、なぜギターを弾いたのか、そんな謎を解いてみたい気持ちがありました」
布袋寅泰、初の洋楽カヴァー・アルバム『MODERN TIMES ROCK'N'ROLL』を語る!


 今の布袋寅泰は実に軽やかだ。軽やかで、そして、妙な話、スキがある。と言ってしまうと失礼だろうか。だが、2月に発表された約15年ぶりとなる『GUITARHYTHM』シリーズ『GUITARHYTHM V』もそうだったが、現在の彼はどこかで自分のネジを少しばかり緩めてやろうとしているところが感じられる。それがキャリアを重ねてきた末に手にした余裕なのか遊び心なのかはわからないが、いずれにせよ、完成度の高さを常に希求してきたようなところがある布袋寅泰というアーティストが、ここにきて、音楽そのものを楽しもうとしている無邪気さを素直に見せるようになってきているのは間違いないところだろう。その邪気のない横顔が何とも微笑ましい、と言ってしまうとまた失礼な話かもしれないが、もしかすると、布袋寅泰を一番身近に感じることができるのは今かもしれない。

 意外なことに、全曲洋楽のカヴァーでまとめられたアルバムというのは今回が初めて。これまで、折りに触れてカヴァーを聴かせてくれていたが、ビートルズストーンズからエルヴィス・プレスリーチャック・ベリーロキシー・ミュージッククラフトワークまでをとりあげた『MODERN TIMES ROCK'N'ROLL』には、布袋から見たロックンロールの短くはない歴史への敬意や挑戦以上に、とにかくまずは楽しもうという無垢な思いが何より強く感じられる。そこが今の布袋を、そこらのアマチュア・バンドなんかより遥かに軽やかに見せている理由かもしれない。




僕自身、〈ジョニー・B.グッド〉や〈ハートブレイクホテル〉みたいな曲をやるとは思っていなかったです
――洋楽カヴァー集という企画は前から暖めておられたのですか?
 布袋寅泰(以下同) 「洋楽にずっと影響を受けてきた世代だしね。ただ、学生時代にコピー・バンドをやっていたわけでもなく、そうこうしているうちに自分たちでオリジナル曲を作って活動するようになって。こういう(カヴァー集のような)楽しい企画をやる余裕もなかったんです。その時その時の自分に必死で。それどころじゃなかったというかね。前々から、ウチの事務所の社長には言われていたんです。“布袋が影響受けた洋楽を集めたカヴァー集って聴いてみたいな”って」
――逆に、キャリアを重ねた今だからこそ新鮮だったし、選曲などにも幅を持たせることもできたのではないかと思えるのですが、今、洋楽のカヴァー・アルバムを作ることの意味合いというのはどういうところに感じていますか?
 「選曲は制限なくやれたんですけど、やっぱり『MODERN TIMES ROCK'N'ROLL』というタイトルではないですけど、自分の愛したロックンロールをモダンに、自分色に、というところから始めました。と同時に、昨今はデジタル・レコーディングが主流になっていますよね。いろんなことができるようになって、トラック数も無限に使えるようにはなっていますし、僕自身、現在のミュージシャンとして、音楽をデザインするような感覚で楽しんで作っているところもありますけど、自分の音楽も含めて装飾過多になってしまっているんじゃないか?っていう思いもありまして。なんか、キレイにラッピングされているような感じというか、どの音楽もなんだかよく出来てるし、すごくよく響くし。でも、それが当たり前になってくると、スピリットの部分が遠ざかっていくんですよね。それであればいい機会なので、ロック創世記のサウンドに触れて、自分もそこに立ち返りたいと思って。自分自身、なぜ音楽の力強さに惹かれてきたのか、なぜギターを弾いたのか、といった謎を解いてみたいという気持ちがありましたしね。ただ、僕も、昔は『ロック・マガジン』を読んで、『新宿レコード』に通っていたような音楽ファンだったので、いくらでもマニアックになろうと思えばなれたと思うんですけど、そこをあえてフラットに捉えてみようと思って、誰でも知っているような曲を選んだんです。僕自身、〈ジョニー・B.グッド〉や〈ハートブレイクホテル〉みたいな曲をやるとは思っていなかったですよ。〈ジョニー・B.グッド〉なんて、チャック・ベリーの原曲より、昔、新宿ロフトで(誰か他のバンドがカヴァーしていたのを)聴いていた回数の方が多いくらい(笑)。でも、自分がロックに向き合う前の時代のロックに触れてみるということを、今、こうしてやってみたのは意味があったと思います。だって、僕は放っておいたらフランク・ザッパとかやっちゃいますからね(笑)。ザッパとか、やってみたいような、自分でも聴いてみたいような気もするんですけどね。あとはジャニスの〈ムーヴ・オーヴァー〉もちょっとやってみたし、カイリー(・ミノーグ)やってみよう、ブリトニー(・スピアーズ)やってみようかとか冗談では言ってたんですけどね。あとは、ナックとかデヴィッド・ボウイとかもアイディアとしては出たんですけど、今回はこういうポピュラーな選曲だったことに意味があったと思いますね」
面白おかしくアレンジするより、原曲に正面から向きあった方がいいってことなんですよね
――布袋さんがまだあくまでリスナーとして音楽に接しておられた時代までの音楽がメインになっているのが印象的ですね。影響を強く受けたであろうパンク以降の作品を、ユーリズミックスを除いてほとんどとりあげていないあたりに、ただ好きな曲をとりあげているだけのアルバムではないことを実感します。
 「あと、90年代のレッチリとかニルヴァーナとかもね、カッコいいけど、僕自身は影響を受けてないし。今回、福富幸宏くんが共同プロデュースで関わってくれてるんで、そのあたりは彼のDJとしてのセンスのようなものもすごく大きく左右していると思います。彼はDJとして時代を切り取ってきている人だし、僕のことも長年知ってくれているから、同じ世代同士、そのあたりは理解し合えましたね」
――そもそも、福富さんとはいつ頃からのおつきあいなのですか?
 「『GUITARHYTHM III』の時に初めてご一緒してからだから、もう結構長いんですよね。で、この前の『GUITARHYTHM V』でまた作業を一緒にやって、音楽のボキャブラリーも多いし、奥行きもあるし、何より、黙っていてもわかりあえるってことが嬉しくて。この人だったら、“まな板の上のコイ”になるのも心地よさそうだなって思ってね(笑)。あまりそういう気持ちになれる人って出会わないんですけど、福富くんは本当にそう思えるんですよ。やっぱりギタリストって自分のシグネチャーを持っているから、プロデューサーから見てなかなか料理しづらいと思うんですけど、彼はそこらへんも理解してくれるんですよね」
――ということは、今回は福富さんとかなり最初の段階からしっかり組んで作業を進められたのですか?
 「ええ、もう、選曲の段階からね。で、ちょうどこの企画の話を進めている最中に、EMIの方からビートルズのカヴァー集『LOVE LOVE LOVE』(への参加)の話があったんで、じゃあ、まずビートルズの選曲からやろうと。だから、最初のレコーディングはビートルズの〈BACK IN THE U.S.S.R.〉だったんです。あれは、ドラムの中村達也くん、ベースのナスノミツルさん、ピアノの小島良喜さんとの4人でガッと録ったんですけど、その後に福富くんがモダンナイズする役割でプログラミングしてくれました。それを聴いて、“あ、これはイケるな”と思ったんです。ビートルズの持つロックンロールの生々しさを残しつつ、ちゃんと現代のものになっている。でも、カヴァーという名の落書きには、まったくなっていない。それで、今回のアルバムの方向性が見えてきたんです」
――ただ、どの曲も楽曲の構成はほとんど変えていらっしゃらない。原曲の良さを崩さないアレンジになさっていますよね。いくらスタンダードでポピュラーな選曲とはいえ、ちゃんと元の曲に対するリスペクトを忘れたくないという布袋さんの思いが感じられますが、翻して、今の若いリスナーに、昔はこんなにカッコいいロックがあったんだ、ということを伝えたい思いもあるのでしょうか?
 「啓蒙したい気持ちがあまりないですね。それより僕自身、チャック・ベリーなんて、ちゃんとやったことないんですよ。ギターの隅々までしっかりと演奏するってことがね。第一、ディープ・パープルとかレッド・ツェッペリンを弾くのは楽しくても、チャック・ベリーはテクニカルじゃないから、弾いていても若いコはきっと楽しくないと思うんです。T.レックスもそうですよね。もちろん、カッコいいけど、僕が若い頃、T.レックスを好きだったのは、そのコズミックな雰囲気だったりしていたんで。でも、そこで僕がちゃんとチャック・ベリーやマーク・ボランの音を弾くっていうことが大事というか。面白おかしくアレンジするより、原曲に正面から向きあった方がいいってことなんですよね。福富くんもそこはわかってくれていて、“モダンナイズするのはこの部分だけにしましょう”とかっていう判断をしてくれて。そういう意味では、僕自身、すごく発見もあったし、楽しんでレコーディングできましたね」
――無邪気に楽しむことで、音作りに入り込み過ぎない良さもありますね。
 「そうなんですよね。僕自身、BOΦWY時代からプロデュース的なことをずっとやってきたんで、ついついやり過ぎるっていうか、力が入ってしまうんですよ。ほぼ毎回、自分のアルバムを作り終わると、“また今回もやり過ぎちゃった”って反省するんです(笑)。もう少し聴いていてラクな音楽作れないかね、って。まあ、コンピュータが悪いと思うんですよね(笑)。容量も増えてスピードも上がって、(レコーディング・)アシスタントさんたちも(プロトゥールズの)波形を見ていて作業していますから。本当は音そのものを聴いて作っていくものだし、それこそ、このアルバムで取り上げているアーティストの時代は、1本のマイクでドラム、もう1本はギターって感じだったわけで。アーティストも、早く終わってガールフレンドと食事にでも行きたいもんだから“一発で集中してカッコいい音録ろうよ”ってことになる。不完全なんだけど、その荒々しい瞬発力やエネルギーが作品に真空パックされているから、今聴いても新鮮じゃないですか。でも、今は、あれこれやり過ぎて、“結局、何がやりたかったんだろう?”ってことになることもありますよね。そこを見直したいって思いは、ここ最近、特に感じますね」
――レコーディングでも結局、何度も録り直したテイクより、最初のテイクが一番いい、と言われますよね。
 「そう。例えば、新人バンドが“俺の前で一回だけ演奏してごらん”と言われてその場で鳴らした演奏と、家に帰って録音して用意してきた音源とでは絶対に何かが違うんですよね。そういう一発芸のような潔さみたいなものを感じますよね。今回も1日で4、5曲一気にレコーディングして。福富くんも“オッケーです”ってすぐ判断してくれる。僕は僕で“もう一回やらせて”って言ってやってみるんだけど、結局1テイク目の方が良かった、ということに気づくんですよ」
毒やロマンを持った若いロックンロール・バンドの出現を待ち望んでいる部分もあります
――ただギタリストとして弾くだけではなく、自ら歌まで歌うことによって、その曲に対する意識や認識が変化することもあったのではないかと思うのですが。
 「それはありますね。ストーンズの〈悪魔を憐れむ歌〉やT.レックスの〈テレグラム・サム〉なんて、歌ってみて、その世界を理解できたというところもあります。もちろん、ギターを実際に弾いてみても気づくことはありました。ロックンロールの3コードってすごい発明だと思うんですけど、そこに耳触りのいいテンション・コードを入れるとロックンロールじゃなくなる、とか。あと、ドラムやベースなどと合わさっていくリフのパターンというのが僕自身好きですから、リフの斬新さやパワー感を実感できたというのもあります。僕のオリジナル・アルバムよりも、今までなかなか出せなかった自分のギターの色をすんなり出せたというのもありますね。自分のオリジナル曲だと、オリジナルであろうとするがあまり、なるべく人のいかないところを行こうとして、結果、それが自分のスタイルを作ってきたわけですけど、今回は意図せずして自分の中にあったものが自然と出たという感じなんですよ。だから、今回は珍しく、後から聴き直していて疲れないっていうか(笑)。意外と、シャワー浴びながら聴いたりできるんですよね。いちリスナーとして楽しめるというかね。自分であり、自分でないような感じもするんだけど、でも、紛れもなくロックンロールでしかないアルバムになっていると思いますね。そこらへんは中村達也くんとか一緒にやってくれたミュージシャンもわかってくれていると思います。もちろん、クラフトワークとかユーリズミックスみたいな曲では、あらきゆうこさんに叩いてもらって。このアルバムに関わっている全員がその曲その曲のロックンロール・スピリットに向かっていることが、このアルバムを軽やかに聴かせている理由かもしれないですね。僕自身、こういうアルバムを作れたことを誇りに思っていますよ」
――今、このアルバムに収録されているような曲をほとんど知らない若いバンドがたくさんいると思いますが、布袋さん自身、そうした若い世代との違いを感じることはありますか?
 「いや、昔を知っていればいいというものでもないですしね。それに、僕が若かったら、自分の町に、BOΦWYやブランキー・ジェット・シティのようなバンドがライヴに来たりしたら、そりゃあ熱狂すると思いますよ。でも、僕らは若い時にエネルギーを出していった。だから今の若い世代にも同じように時代を変えてほしいと思いますね。毒やロマンを持った若いロックンロール・バンドの出現を待ち望んでいる部分もありますよ。早くこの流れをどうにかしてくれよ、みんなで仲良くなっていないでさ、と思いますよ、本当に(笑)。ただ、僕自身、もっともっとアップデイトしていきたいという思いがあるし、ワールドワイドで活動して行きたいという思いもある。しんどい作業かと言えば、しんどいのかもしれないけど、それは新たなものを作る自分自身へのミッションとしているところはありますね」
――布袋さんの作品は、必ずしも斬新さを強く求めているようなものばかりではなく、ロックンロールのフォーマットの持つ美しさや強さのようなものも讃えています。すなわち、3コード、8とか4ビートなどをベースにしたそのフォルムを極端に崩していないところがあると思うのですが、そこは自覚されているところなのでしょうか?
 「自覚はしてないですけど、平凡さゆえの非凡さへの憧れがあるのかもしれないですね。平凡だから平凡じゃいけないと思うし。ただ、今回のアルバムもそうですけど、単純にロックンロールというスタイルが好きだっていうのも大きいです。もちろん、同じことをやりたくない、自分だけのスタイルを見つけるんだという思いは本当に昔から強くあって、それが何をやっても自分であるというスタイルにつながったとは思います。そういう意味で自分はラッキーだったとは思いますね」
取材・文/岡村詩野(2009年12月)



〈HOTEI 2010 / ROCK A GO! GO! TOUR〉

●日時:2010年1月24日(日)
●会場:愛知・Zepp Nagoya
●時間:開場 16:00 / 開演17:00
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:サンデーフォークプロモーションプロモーション [Tel]052-320-9100

●日時:2010年1月29日(金)
●会場:東京・Zepp Tokyo
●時間:開場 18:00 / 開演19:00
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:キョードー東京 [Tel]03-3498-9999

●日時:2010年1月31日(日)
●会場:大阪・Zepp Osaka
●時間:開場 16:00 / 開演17:00
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:キョードーチケットセンター [Tel]06-7732-8888

●日時:2010年2月5日(金)
●会場:宮城・Zepp Sendai
●時間:開場 17:30 / 開演18:30
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:G.I.P [Tel]022-222-9999

●日時:2010年2月7日(日)
●会場:北海道・Zepp Sapporo
●時間:開場 16:00 / 開演17:00
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:WESS [Tel]011-614-9999

●日時:2010年2月14日(日)
●会場:福岡・Zepp Fukuoka
●時間:開場 16:00 / 開演17:00
●料金:前売・税込7,350円 (+ドリンク代500円)
※問い合わせ:キョードー西日本 [Tel]092-714-0159
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