答えが出ることの怖さを抱えながら――東野へいとが語る“神様、僕は気づいてしまった”の哲学

神様、僕は気づいてしまった   2018/10/23掲載
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 神様、僕は気づいてしまった――実に意味深なバンド名である。しかし、映画「オズランド 笑顔の魔法おしえます。」の挿入歌にもなっている両A面シングル「ストレイシープ / 匿名」の制作秘話を知れば、このバンド名とバンドコンセプトがどれだけ筋の通ったものであるかがわかるだろう。自分の為すべきこと、今、自分が生きている意味を考える――誰もが自らを投影できる人類永遠のテーマの上に立脚するバンドの実像について、大半の作詞・曲を手掛けるキーパーソン・東野へいと(g)が語る。
――やはり“神様、僕は気づいてしまった”というバンド名について、どうしても最初にお伺いしたのですが、いったい何に気づいてしまったんでしょう?
 「僕たちが“神様”と表現しているものの浅はかさですね」
――と言いますと?
 「世の中には“中二病”だとか“メンヘラ”だとか、ネガティブなメンタル状況を表現する言葉っていくつも存在するじゃないですか。でも“十人十色”っていう言葉がある通り、みんな考え方が違うのは本来、何もおかしいことではなくて。自分が理解できない考えだからといって、例えば中二病だとかっていう一つのカテゴリーに押し込めてしまうこと自体が、僕たちはナンセンスだなと思っているんです。確かに彼らの発言や考えは、大人から見たら薄っぺらく感じるのかもしれないですけど、どうしようもなく生きづらい環境にいる子たちが本当に感じた感情であることに間違いはなくて。それをあらゆる面で余裕を持っている大人が、訳知り顔で“青臭い”と値踏みする――僕たちが“神様”と表現している、そういった一連の行動の浅はかさに、僕らは気づいているよということですね。だから安直な一言でカテゴライズするのではなく、クリアな感情はちゃんとクリアなまま、十人十色の感情を僕らは一つひとつ表現していきたい。情景ではなく、人間の深層心理だったり心の内を発信していこうというのが、“神僕”のコンセプトなんです。要は、世間で正義とされるものに対するカウンターカルチャーの精神ですね」
――大人が若者を“青臭い”と切り捨てるのは、一種の防衛本能だと思いますけどね。自分が失ってしまったビビッドな感性に対する恐怖と、あとは羨望もあるんじゃないかと。
 「そういうストレンジャーな感情に対する防衛本能っていうのは間違いなくありますよね。僕らの音楽だって“青臭い”と言う人たちはいるし、でも、そんなの僕たちはわかってやってるんだから余計なことを言ってくるな! 黙っててくれ!ってことです」
――だからなんでしょうか? 新曲の「ストレイシープ」は青臭い部分もありつつ、非常にわかりやすいなと感じたんですよ。
 「それは今回いろんなインタビュアーさんに言われました。いつもよりプライベートな歌詞だって」
――ええ。この1曲から小説や映画も作れそうな感じですが、そのプライベート感は意識して? それとも無意識の結果?
 「うーん……どっちもあると思います。今までは意識して作っている部分が多かったんですけど、今回は今年の11月で活動2年目になるということで。活動が長くなると“これでいいのか?”っていう不穏分子みたいなものが自分の中で増えてきて、精神的に余裕がなくなってくるんですよ。そうなると、どうしても物事を俯瞰して意識的に書くということができなくなってくるので、その余裕の無さから来る自分事感みたいなところはあったでしょうね。ただ、それ以前に“神僕ではこういう曲を書こう”っていう大きなコンセプトが僕の中にあるので、そういった部分での“意識”は間違いなくあります」
――映画「オズランド 笑顔の魔法おしえます。」の挿入歌として書き下ろされた曲ということで、作品にインスパイアされたところもありますか?
 「インスパイアというより、作品が訴えたいメッセージと神僕というバンドでやらなきゃいけない音楽の共通項をすり合わせるということは意識しました。僕たちを選んでくれたからには、ちゃんと僕たちにしかできないやり方でテーマソングを提供したかったんですよね。映画を観させてもらったら、最初は仕事に不満を持っていた主人公が周りとの人間関係や仕事との付き合い方みたいなものを通して、自分という人間がそこにいる意義を見出していくという物語で。それって人間にとって永遠のテーマだなぁと思ったんですよ。その時々のシチュエーションや人間関係を踏まえながら、自分は今、何をすべきなのか? 自分が生きている意味は何なのか?を、迷いながらも考え続けていく――そこは神僕でも歌ってきたテーマであったので、それでタイトルも“迷える仔羊”を意味する〈ストレイシープ〉に決めたんです」
――なるほど。ただ従来のロックだと、夢を叶えたい若者が異を唱える大人に歯向かうという構図だったのが、この曲の主人公は歯向かう前に自分で道を閉ざしていますよね。最初のお話で言うなら、値踏みされる前に諦めている。
 「そこはまた別の話になってしまうんですけど、よく“最大の敵は自分自身だ”って言うじゃないですか。例えば、僕らは神僕の音楽を“青臭い”と評する人間がいるのもわかった上でやっていますけど、それを“恥ずかしい”からとやらない人もいる。その違いって周りの反応を気にするか気にしないかで、要は自分次第なんですよ。大人云々の手前に、まずは自分との闘いがあるんですよね」
――そこで闘いを放棄すると、Aメロで書かれているように“将来”というテーマの作文で差し障りのないことを書いてしまうと。
 「そうです。なぜ差し障りのないことを書くのか?というと、素直に願望を書いたら“青臭い”と言われるんじゃないか? 親の期待を裏切ってしまうんじゃないか?という想いがあるからで、結局そこも自分自身とどう向き合うか?っていう話なんですよね。実際これは僕の実体験でもあって、やっぱり歌詞に嘘はつけませんから」
――その最後に“僕等の声がどうかだ”と歌って、自分の衝動に素直になろうと決断しているということは、つまりは東野さん自身が自分との闘いを経験した当事者であるということですね。ちなみに今回は「ストレイシープ」と「匿名」、両A面の2曲とも「オズランド」の挿入歌になっていますが。
 「事前にプロデューサーの方と打ち合わせさせていただいたら、僕らのことを本当に信頼してくださっていて。“お任せした方が良いものになると思うので、好きに作ってください”と言ってくださったのがすごく有り難かったから、それぞれに作曲者が違う曲を3曲出させていただいたんです。やっぱり僕一人で3曲出すと、曲は違っても結局は僕の色になってしまうので」
――それで「匿名」はヴォーカルのどこのだれかさんが作詞・曲をされているんですね。
 「はい。結果的に2曲使ってくださることになって、しかも完成版を観させていただいたら、〈匿名〉がかかったあとに〈ストレイシープ〉が流れるっていう順番になっていたんですよ! これが逆だったら歌詞の流れが嘘になってしまうので、ちゃんと僕たちの意図が伝わっていたんだって嬉しかったですね。〈ストレイシープ〉で"僕等の声がどうかだ"って力強く歌っているのに、その後に〈匿名〉がかかったら、また逆戻りして整合性が取れなくなってしまう。〈匿名〉は間違いなく自分の中の答えを見つけて進んでいく歌だけれど、ネガティブな要素が無くはないので」
――やはり、伝えたいことが明確なバンドですね。神僕は。
 「だといいですね」
――ただ、人間は理由付けを欲しがる生き物で、曲のメッセージの裏側にあるものを知りたがるじゃないですか。だからロック・バンドは自分自身を赤裸々にさらけ出すケースが多いのに、なぜ神僕は覆面バンドという真逆のスタイルを選んだんでしょう?
 「おっしゃるように、普通リスナーって曲を作った人間の人生を知って、こういう歌が生まれたんだなと納得しますよね。でも、そのプロセスがこのバンドには必要ないと思ったんです。むしろ、それがノイズになってしまうんじゃないかって」
――ノイズ?
 「神僕の曲を、“誰か”の歌として聴いてほしくないんです。さも自分が書いた歌みたいに聴いてほしい。だから作っている人間、演奏している人間のエモーションは一切排除して、純粋に曲、歌詞、メロディで勝負したいんですよね。例えば〈ストレイシープ〉のサビの4行目はフワッとやさしく歌っているんですが、それを汗ダラダラでエモーショナルに歌ったら、歌詞の意図が伝わりづらくなってしまう。もちろんエモーショナルに表現すること自体は否定しないし、それが相応しいバンドもありますけど、このバンドではやりたくない。そうでないと、このバンドのコンセプトやバンド名の由来だったりがブレてしまうから」
――確かに“十人十色の感情を一つひとつ表現する”ためには、その感情を特定の人間のものとして制限するような行為は邪魔になりますよね。
 「そう。だから、そこに演者の表情とか髪型の認識も神僕では必要なくて。人が動いて髪が揺れたり、汗が飛び散るのを見て"エモい"と感じる、そういう情報を排除するための覆面ですね」
――ライヴはどのようなモチベーションで行っているのですか?
 「“俺たちロックバンドだし、今はCD売れる時代じゃないからライヴやろうぜ!”みたいな、哲学のないライヴのやり方はしたくない。ちゃんと自分たちがライヴをやる意味を見出した上でライヴをやりたいし、ただ、一度もやったことがない状態では良いも悪いも判断できないってことで、去年の夏と年末、今年も夏にフェスへ出させて頂きました。実際にやってみて……正直、僕の中ではまだ答えは見つけられていないですね。だから今後ワンマンをやるとしても、“なんでワンマンをやることにしたの?”っていう質問をされたときに、ちゃんと即答できる状態まで頭の中が固まってからにしたいなと僕は考えています」
――やっぱり完璧主義者ですね、東野さんは。問われたときに答えが返せない状態でやりたくないということは、自分の中で理由と結果の道筋がキチンと出来ていないと納得できないってことですから。単なる感情で善し悪しを判断しない。
 「そうですね。“楽しい”っていうだけでも理由にはなるでしょうけど、そこに自分でも腑に落ちる答えがないと、どうしても浅く感じてしまうんです。もちろん僕らはメジャーのバンドなんで、ちゃんと売っていかなきゃいけない。でも、それは結果論であって、そのために“売れる曲を書こう”じゃ本末転倒なんですよね。まずは曲があって、それを最大限売るためにどうするか?が考えるべきことであり、ライヴも同じだと思うんです。ちゃんと自分の中に哲学があって、ライヴが出来て、それが成功した結果、商業的にもうまくいったならいいけど、惰性やビジネス上の都合からライヴをやるのは違う。そこで変に妥協するなら、別に音楽じゃなくてもいいじゃないですか。“なんで音楽やってんの?”って聞かれたときに、“これが一番理想の手法なんです”と、ちゃんと胸を張って答えられるような動機付けが自分の中に欲しいんです。ライヴに対しても、何に対しても」
――そこなんです。歌詞を拝見してお話を伺っていると、例えば小説とかを書いても成功できそうなのに、なぜ東野さんは音楽をやっているんでしょう?
 「書いたことないんで、小説はわからないですけど(笑)。自分からアウトプットする形として、音楽が一番適しているだろうなぁと感じるからですね。そこは答えが100%出ているわけじゃないし、わからないですけど……ただ、その答えが出てない感覚に対して、ちょっとした安堵感もある」
――どういうことですか?
 「答えが出ることの怖さってあるんですよ。例えば“なんでライヴをやるのか?”っていう問いに対する答えが出たら、その後、考えることをしなくなるじゃないですか。考えないっていうのは振り出しに戻ることと同じで、答えが出てるのに出ていないことになってしまう。だから今の均衡が取れていない状態が、音楽としては一番美しいなと僕は思っているんですよ。この感覚に不安もあるんですけど、その不安を覚えることに対する安心感もある」
――答えを見つけたい気持ちがあって、その答えは見つかっていないけれど、答えを探して考えているという状態そのものが音楽を生むことには適していると。
 「そうですね。僕たちは普通の会社員がやるような仕事はしていないわけで、じゃあ、その労力をどこに割くの?って言ったら、考えることだと思うんです。楽器の練習してるだけならスタジオミュージシャンのほうが上手いし、曲を作るってことだって頭の中に鳴ってる音をアウトプットするだけですからね。ステージに立つアーティストとして、じゃあ、どこが生産的なのか?って言ったら、やっぱり考えることだろうと。もちろん反論してくる人もいるだろうし、そうじゃないスタイルのアーティストもいるだろうけど、十人十色の話からすれば、その違いが美しいじゃないですか」
――答えを見つけ出そうと考えている今の状態が美しいということは、今後こうなりたいという目標も特に無いんでしょうか? 例えば武道館に立ちたいとか。
 「武道館に立てたら嬉しいですけど、それはあくまで僕の主観の話なんで。“このバンドで武道館に立つ意味って何?”って聞かれたときに、まだ今は明確に答えられないから、このバンドとしてインタビューを受けているときには適切な回答ではないですね。ただ、エンターテインメントとして成長していきたいっていう気持ちはあります」
――エンターテインメント?
 「はい。僕、音楽というか全ての芸術には2パターンあると考えていて、一つは史実的に価値のあるもの――いわゆる“アート”ですよね。例えば一つの例として、クラブとかで機材をたくさん置いて、頭の中に鳴ってるものを再現するのではなく、その場で瞬間的に作っていく音楽は、21世紀ならではの史実的な価値があるアートだと思います。だけど僕たちの音楽は、使っているコードだって既存のものだし、サビだって王道進行で、音楽史的には何も新しい価値はない。それはアートというより“エンターテインメント”だと思うんです。エンターテインメントっていうのは見てもらってナンボのものだから、やっぱりたくさんの人に聴いてもらいたいですよね。それがエンターテインメントとして有効価値の高いものってことになるので」
――潔いですね。自分の作るものはアートだと言いたがるアーティストが多い中で、エンターテインメントと言い切るなんて。
 「僕たちは何も新しいことはやっていないんだから、エンターテインメントですよ。だったら中途半端にアートぶるんじゃなく、エンターテインメントとして尖っていきたい。もちろんソレも結果論なので、曲を作る段階で“たくさんの人に聴いてもらうために”なんて考えたりはしないですけどね」
――首尾一貫した論理は見事です。では最後に、これを読んでいる方々にメッセージを。
 「健康に生きてほしいので、手洗い、うがい、早寝早起きを心がけていただきたいですね。じゃないと聴いてもらえないので」
――聴いてもらうために健康でいてほしい?
 「いやいや、同じ人間だったら幸せを願いたいじゃないですか。人類って生き残るために生きていると思うので、仲間が死んだらやっぱり悲しいんですよ。だから健康に生きてほしいですよね。それは音楽以前の願いです!」
取材・文 / 清水素子(2018年10月)
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