心の拠り所となるものをみつけて、信じる気持ちが大切――聴き手の心を導く“光”となるキャサリン・ジェンキンスの最新作

キャサリン・ジェンキンス   2019/04/24掲載
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 2004年のデビューからコンスタントにアルバム・リリースを続け、世界で最も多作なクラシカル・クロスオーヴァーの歌手と言われているキャサリン・ジェンキンス。合唱王国ウェールズに育まれ、18歳で英国王立音楽院に入学して声楽を学んだ彼女は、あたたかみのある表現に秀でたメゾ・ソプラノ。オペラ・アリアから大作曲家による歌曲、フォークソングやミュージカル・ナンバー、ポップス曲と幅広いレパートリーを持つのが強み。国民的シンガーとして、エリザベス女王の戴冠60周年記念式典では国歌を歌う大役を務め、2016年の女王90歳記念式典でも歌声を披露。前作『セレブレーション』も英国史上最高齢・最長在位となった女王に捧げる祝賀的内容だった。そんな彼女が第二子の出産を経て発表した新作『光に導かれて〜ガイディング・ライト』はがらりと趣を変えた、とてもスピリチュアルなアルバム。パーソナルな体験や精神世界が選曲にも色濃く反映されている。
――本盤はあなた自身のライフ&アートがシンクロした、すごく親密なアルバムですね。しかも、個人的な内容なのに、とても普遍的なメッセージを含んでいて、聴く人の心に響きます。
 「前作から少しブランクが空きましたが、その間に私の人生にもさまざまな変化がありました……とくに二人の子どもを出産したことは大きな出来事! 本当に目の回るような日々でしたが、今は落ち着いて、とても穏やかな気持ちで、いろんなことに、素直に感謝できる。そんな心持ちのなかで選曲したのが今回のアルバムです。どれも現在の私の心境に近く、自然と感情に訴えてくる楽曲ばかり。何かと忙しいこの世の中で、皆さんがふと足を止めて耳を傾けてくれて、瞑想できたり癒されたりするような一枚になることを願っています」
――「ゲールの祝福」のような、ケルト文化に因んだ(※ウェールズにはケルト系民族であるブリトン人の子孫が多い)曲がたくさんありますね。冒頭を飾る「家路へ」は、あなたと同じウェールズが生んだ世界的なバス・バリトン歌手のブリン・ターフェルさんも、アルバムのタイトル曲にしていました。
 「じつは〈家路へ〉はトラディショナル・ソングではなく現代に書かれた曲なのですが、とても懐かしい雰囲気を持っていますね。今回、ブリンとはキャット・スティーヴンスの歌唱で知られる〈今日も新しい朝が〉をデュエットすることができて嬉しかった。この曲はスコットランドのゲール人に伝わる旋律をベースにした讃美歌に歌詞をつけたものなんです。そして〈ウェールズのための祈り〉はシベリウスの交響詩〈フィンランディア〉の旋律にウェールズ語の歌詞をつけたもので、ウェールズでは第二の国歌のように愛唱されています」
キャサリン・ジェンキンス
©venni
――日本人はイングランドもウェールズもスコットランドも北アイルランドも、まとめてざっくりと“イギリス”と呼んでいて、英国が4つの国で構成されていることを忘れがちです。
 「文化や言葉もそれぞれ違いますね。とくにウェールズは歌が大好きな国民性で知られています。どんな小さな村にも伝統的な男声合唱団があるし、人前で歌うことを恥ずかしがらない人が多い。今年は日本で行なわれる“ラグビーワールドカップ2019”に強豪ウェールズ代表チームが出場します。滞在中、皆さんといろんな交流ができますように!」
――すべての人々が深く共感できる信仰や祈りの歌も印象的です。タイトルに『ガイディング・ライト』とあるように“光”を感じさせるアルバムですね。
 「私自身は子どもの頃から敬虔なキリスト教徒だったけれど、夫はユダヤ系ですし、特定の宗教にかぎらず、それぞれが心の拠り所となるものをみつけて、信じる気持ちが大切だと思うのです。たとえば〈天使への嫉妬〉は父を亡くした15歳の頃に聴いて、まるで私のことを歌っているみたいだと感じて慰められた曲。今回ミュージック・ビデオも作ったら、予想以上にたくさんのかたから反響をいただいて、この曲をカヴァーしてよかったと思いました。ジョシュ・グローバンのデビュー・アルバムにも収録されている〈あなたのいるところへ〉もこの世を去った最愛の恋人への想いを綴った曲で、以前は感傷的になりすぎて気持ちが昂ぶり、歌うことができなかったのですが、今の私にはこの曲を歌える強さがあり、同じように身近な人を亡くして深い悲しみの淵にいる人々に寄り添える気がしたのです」
――やはり母親になったことがあなたを強くしたのだと思います。オリジナル曲「ザンダーの歌」には、我が子へのあふれんばかりの愛情とともに、次の時代を担う新しい生命への大いなる希望が謳われています。
 「息子を腕に抱いた時に子守唄のように歌ってきかせていた歌詞がもとになっています。その話をプロデューサーにしたら、ぜひレコーディングしようってことになった。おそらく、息子が大きくなって自分で聴いたら、恥ずかしくなるかも……でもそんな日が来るのが楽しみです(笑)」
――大ヒット・ミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』でスウェーデンの歌姫ジェニー・リンドが歌い上げるディーヴァ・ソング「ネヴァー・イナフ」もあなたにぴったりで素晴らしかったです。
 「ありがとうございます! 私もあの映画とあの曲が大好き。息子を産んでから5週間後に“Classic Brit Awards 2018”のステージでこの曲のパフォーマンスを披露したのを、娘も観て気に入って“マミー、あのお月様のうた、歌って!”ってよくせがまれました……あの時、月のセットをバックに歌ったので(笑)。本当に大人から子どもまで、幅広い層に愛される名曲ですね」
――映画『タイタニック』に登場する讃美歌なども非常に美しい。“ゴスペルの父”と呼ばれたトーマス・A・ドーシーの名曲「谷間の静けさ」もア・カペラ・ヴァージョンで感動的でした。
 「私の隠れNo.1お気に入り曲です(笑)。今回、10〜25歳からなる英国の名門合唱団Rodolfus Choirとの共演はとても楽しいものでした。初めてのコラボでしたが、若い彼らのプロ意識にも感銘を受けました」
――今後のご活躍も楽しみにしています。また日本にもいっぱい来てください!
 「日本の皆さんの前で歌うことは毎回、楽しみでしかありません! これからも新しいことに挑戦し続けていたいし、ミュージカルやアニメのサントラなど、やりたいことはいっぱいありますが、あまり欲張らずに、長く歌を続けられたらいいですね。このアルバムが皆さんを導く心の“光”となることを祈っています」
取材・文 / 東端哲也(2019年3月)
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