【木村 大】ギター・ソロを中心にしたロマンティックな新作『ONE』

木村大   2014/06/13掲載
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クラシック・ギター奏者だから引き出せた、ロック / ポピュラー音楽の“もうひとつの顔”
 収録曲だけ見れば、クラシック・ギタリストとしては“異色”のアルバム。そう早とちりしそうになる木村 大の最新作『ONE』だが、でもちょっと待って。一見クラシックらしかからぬスチール弦で弾かれるビートルズの「ブラックバード」から立ちのぼる、英国民謡ともリンクするフォーキーだが典雅でもある匂い。そこにはクラシック・ギター奏者だからこそ引き出すことができた、ロック / ポピュラー音楽の“もうひとつの顔”が確実に示されてもいる。ロックの名曲を中心に取り上げた前作『HERO』に続く意欲作を完成させたことで、ライヴ・パフォーマンスの幅も、より広がってきたそうだ。
 「そのせいで、“もうクラシック・ギターは弾かないんですか?”と訊かれることがあるんですが(笑)、〈チューン〉はあくまでクラシック・ギタリストの立ち位置で、演奏しているつもりなんです。レパートリーの幅や、演奏するギターの音色の種類を広げることで、クラシック・ギタリストの可能性って、まだまだ広がっていく余地がある。そのことで、僕より若い(1982年生まれ)次世代が、ギターを弾くうえでより大きな夢を描くことができるような気がしますし」
――「ブラックバード」もそうですが、『HERO』に収録されていたジミー・ペイジの「ブロン・イ・アー」が、英国ロックとクラシック音楽とのつながりを感じさせて、おもしろかったです。
 「そうなんです。今僕がやってることって“ポピュラー音楽”という範疇でくくられがちなんですが、ロックの中にも意外なくらいクラシカル、フォーク・ソングとつながる部分があるんですよね。〈ブロン・イ・アー〉は特殊なチューニングで演奏されていることもあって、ジミー・ペイジのギタリストとしての遊び心を感じさせる曲でもある。僕も演奏する上で、そのあたりへのトリビュートは意識しました」
――基本、アレンジも全曲ご自身でやってらっしゃるんですよね。
 「はい。クラシック・ギターの成立を考えると、編曲は人に任せる。作品も自分では書かずに、著名な作曲家に書いてもらうというのが定石なんですが、僕としては自分でアレンジして、場合によっては曲も書くことで、広がる世界が間違いなくあると思っているんです。今まで見えてこなかった景色が確実に見えるので、次世代のクラシック・ギタリストたちにとっての、モデルのひとつになれたらいいなと」
――「チューン」と「レヴァンタール」、2曲のオリジナルが後半に並んでいます。
 「今回、アルバム・コンセプトとして、“愛”を感じさせる作品を演奏しよう、という狙いがあったんです。“愛”と言っても激情にかられるようなものがあれば、より内省的なもの、ピュアなもの……とさまざまな表情がある中、〈チューン〉については、僕自身はまあ、それとはまったく真逆、愛情に裏切られた場面の曲、というか(笑)。“愛”といっても、困惑したり、失望したりする瞬間もあるんだ、という気持ちを込めて書きました」
――そこはやはり年齢なりの(笑)。
 「それなりに痛い目にもあってますから(笑)。そういう戸惑いだって、男女問わず必ずあると思う。そう思うと、とても重要な曲かもしれないです」
――オリジナル曲を書く上で、エモーショナルな動機づけというのは、やはり大きいですか?
 「クラシックの名曲自体、僕らが生まれてなかった時代の楽しさだったり悲しみだったりを、歴史や文化的な背景を忖度しながら演奏していくわけですよね。そうした感情の起伏を、自分なりに再構築していくのがクラシックだと僕自身は思っているので、その意味でオリジナル以上に適切なものはない」
――なにしろ自分のことだから(笑)。
 「言ってて、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)」
―― 一方「レヴァンタール」では、フラメンコ・ギタリストの沖 仁さんと共演されています。
 「沖さんから学んだことは、本当に大きかったです。というのも僕自身、リズム面が弱いという自覚がずっとあったんです。クラシック・ギタリストであることの、ある意味宿命なんですよね。クラシックの奏法って、必ず拍の頭に合わせる。ジャズやその他のポピュラー音楽のように、リズムを“裏”で取るという感覚が皆無ですから。17歳という若さでデビューできたおかげで、いろんなジャンルの大御所の方たちと共演させていただいてきたんですが、そこで必ず言われてきたのが、“大はリズムが弱い”ということだった。

 僕なりに、少しずつ克服できているとは思うんです。今回も沖さんとお話しして、“フラメンコは基本、踊り手がいかに気持ちよく踊れるかが肝。ギターはダンサーなり歌手なりの自在な〈動き〉に、当意即妙に合わせられなければいけない”と教えられた。〈レヴァンタール〉では僕がお迎えする立場でもあったので、とにかく沖さんには自由に弾いてもらって、僕はクラシックの立場から、伴奏に徹する。そう思っていたんですが、やっぱり自分でも盛り上がっちゃいましたね(笑)。沖さんのギターが、あまりにも素晴しかったものだから」
――近年、ライヴ・ハウスでもコンスタントに演奏されていますよね。
 「『HERO』を出せたことで、ライヴ・ハウスで演奏できるレパートリーが、ようやくできてきた。と同時に、1割くらいは、クラシック・ギターのために書かれた、素晴らしい曲を演奏していく。そういう構成を心がけています。ライヴ・ハウスって、観客との距離がすごく近い。ダイレクトなので、自分自身、演奏する作品に対してどれくらいの情熱を持っているか再確認する、絶好の空間でもあるんです」
――普通、クラシック・ギターのコンサートといえば、PAのない“生音”で演じられますが。
 「僕、がんがんPA通してますよ(笑)。より正確に言えば、完全な生音もあれば、電気の力を借りて、アコースティック・ギターのヴォリューム感を出す場合もある。両方をミックスすることによって、クラシック・ギターならではの芸術性とエンターテインメント性、両方が表現できたらいいな、と思っているんです」
取材・文 / 真保みゆき(2014年6月)
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