キンキーな魅力はそのままにさらなる成長を遂げたキノコホテルの2ndアルバム『マリアンヌの恍惚』

キノコホテル   2011/04/21掲載
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 秋でもないのにキノコホテルは今が旬! カヴァー・アルバム『マリアンヌの休日』を経て届けられた2ndアルバム『マリアンヌの恍惚』には、サイケデリックでドラマチックなオヤジ殺しの大作「風景」ほか粒ぞろいの楽曲が目白押し。従来のキンキーな魅力はそのままにさらなる成長を遂げたバンドの充実を探るべく、ヴォーカルとキーボードほかバンドのすべてを司る支配人、マリアンヌ東雲様の下に馳せ参じ、話を伺った。


 ――キノコホテルのバンドとしての地力が上がったように感じました。
 マリアンヌ東雲(以下同) 「昨年、ものすごくたくさんのステージをこなしたからね。ワタクシはね、ベースがいちばん大躍進したと思ってるの。ベースがいいでしょ? ベースを聴いてほしいの」
 ――たしかに! これまでキノコホテル・サウンドといえば、支配人を除くと、イザベル=ケメ鴨川さんのギターがとかく語られてました。この作品のエマニュエル小湊さんのベース、いいですね。
 「ベースのエマちゃんはね、もともと主張がないコだったの。人間的に主張がないのは結構なんだけど、やっぱりベースはそれなりに主張してほしくて。キノコホテルの楽曲はある意味、ベースありきな部分もあるのね。だから彼女も昨年の一連の活動の中で、プレイヤーとして自尊心をくすぐられる部分っていうのがあって、それが成長に結びついたんじゃないのかと思うわ」




 ――なるほど。今回は相当高いハードルを設定してメンバーもそこをクリアしたのだろうと察します。その成果のひとつがアルバム5曲目の「風景」ではないかと。この曲大好きです。
 「<風景>にヤラれる人、ホント中年男性に多いのよね」
 ――ズキッ!
 「いえいえ、“耳の肥えた”中年男性って言ってさしあげてるんだけど。前の『マリアンヌの休日』でカバーした<山猫の唄>も後半で趣が変わる曲で、バンドにとって初めての試みだったの。でも3人が戸惑いながらも最後にはすごく楽しそうにやってたから、このバンドでこういうことをやっても問題ないなと思って、じゃあオリジナル曲でやりましょうと。<風景>は自分の中ですっかり構成はできてて、それをそのままスタジオで3人に投げつけて。はじめは“支配人がなにをしたいのかわからない”みたいな状況だったけど、そのうちバンドのアンサンブルができて全体像が自ずと分かってきたのね。だからね、思ったほどには時間はかからなかった。投げかけてみればうまいこと形になるんだから、もっと好きなことどんどんやっていいんだなと思ったわ」
 ――ですよね。ただマリアンヌ様のお立場も大変で、ぜったいに判断を間違えられないわけで……。
 「ホントそう! 基本的にワタクシは自分のことを信じて、自分がこのバンドの司令塔だっていう自覚の下にやってるんだけど……でもね、全知全能なわけではないから、判断が違うことも迷うこともあるだろうし、そういうときに、“いや違う!”って言う人間がいないわけですよ。そういう意味では、先ほど“メンバーに高いハードルを……”ってお話があったけど、ワタクシがワタクシ自身に高いハードルを設定している部分もあるわね」
 ――そういう部分もあってか、今作のマリアンヌ様は“かわいい”と思ってしまいました。
 「何それ!?(怒) もともとかわいいわよ!!」
 ――ヒィすいません! いえ、1stアルバム『マリアンヌの憂鬱』のマリアンヌ様はダッチワイフ的というか人工的な佇まいなのに対して、今作は生身感があるというか……。
 「意図したところはあるわね。前作は歌い回し方がどの曲も割と同じなんだけど、ステージを重ねていく中で、歌うことに関してようやく自自由になれたのね。ワタクシは声質がこんなんだから、どんな歌い方をしても結局ワタクシの声として届く、ということが分かったのね。だからそういう中でもっと人間っぽい生々しいむき出しのものを出してもいいんじゃないかと。バンドの音楽の世界観が広がるに伴って、自ずとそうせざるを得なかったというのもあるかもね」




 ――他のメンバーの3人は今作に対してどう言ってます?
 「ワタクシ、他の3人の意見ちゃんと聞いてないのよ。でもエマちゃんに“ほら、ベース大きくていいでしょ? 喜びなさい!”って言ったら“ハイ……恥ずかしいけど……嬉しいです”って目を潤ませてたわ」
 ――タマランですね(笑)。
 「どう思ってるのかしらね? ……『マリアンヌの休日』のときはドラムの音をガッと下げちゃったから、(ドラムの)ファビエンヌ猪苗代は不満そうだったの。“でもね、キノコホテルの音としてワタクシがこうしたかったんだから、これが正しいの!”って言ったら口をへの字にして黙ってましたけど。今回もその音作りを踏襲しているところがあって、先ほども言った通り、ベースを聴いてほしいっていうのがあったから、ドラムはマイク立ててたんだけどオフマイクにしちゃったの。それでカサっとした軽い感じにすることでベースが際立って、その一見アンバランスな感じがキノコホテルの絶妙なバランスだと思っているのね」
 ――よりグルーヴィになりますよね。
 「そう、グルーヴを重視したかったの。ドラムの彼女もそこは理解してくれたから。でもね、今回は音よりもこれ!(とジャケットのメンバー個別写真を見せつつ)ケメちゃんでしょ、エマちゃんでしょ……」
 ――うわ! ファビエンヌさん残念。目が見切れちゃってます……。
 「これはワタクシがこうしたいって言ったわけではなくて、アート・ディレクターの方の判断。キノコホテルとしての世界を完結するにあたって、このほうがいいと思ったんでしょうね、ディレクターの方が。彼女が出来上がったこれをパラパラ見たときにちょっと固まってたけど」
 ――俺だったら泣いちゃいますよ。ところで、とかくGSだ歌謡曲だと言われがちなキノコホテルですが、それらの実に精巧なイミテーションな風でいてまったくの別物、という音世界は実にニューウェイヴだなあと今作を聴いてあらためて思いました。
 「ワタクシも特に最近、そういう思いは強いわね」
 ――ただひとつ懸念があって、ニューウェイヴのギャルバンはある日突然エコに目覚めてオーガニックな佇まいに行きがちなんですが、まさかマリアンヌ様も……。
 「行かないわよ! 大っ嫌いなの! ああいうの!(激怒)」
 ――ヒィすいません!!(土下座)
取材・文/フミヤマウチ(2011年4月)
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