ロンサム・ストリングスと中村まりのコラボ・アルバム第2弾が完成!

ロンサム・ストリングス   2012/09/27掲載
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 大変嬉しいことに、ロンサム・ストリングス中村まりのコラボ・アルバム第2弾『Afterthoughts』が届けられた。USルーツ・ミュージック愛好者たちにとって鳥肌モノの傑作であった『Folklore Session』に次ぐ本作は、ブルース(ジャンルという意味に限らず)の含有量を高めた5曲入りアルバムである。それに今回は、腕利き揃いのメンバーの指使いがじっくりとチェックできてしまうスタジオライヴを収録したDVDとセットなのだからたまらない。しかし、大変悲しいことに、本作は、音楽ファンはもとより同業者からも広く愛されたベーシスト、松永孝義にとって最後のアルバムになってしまった(今年7月12日、肺炎により死去。54歳だった)。ここに刻まれているいつもどおりに素晴らしい彼の演奏はきっと、ストレートに聴き手の胸をノックするだろうと思う。そしてこれほどまで中身の濃い作品を残してくれたことに感謝したくなるはず。
 



中村 「去年青山CAYでライヴをやったときに、これで終わりにしたくないね、って話になって。それでこの春にスタジオに入ることになり、いっしょに映像も撮っちゃえと結果、CDとDVDの2本立てになりました。最初は、ミニ・アルバムならできるかなと気軽な調子で臨んでいたのに、選曲をやっているうちにだんだん熱がこもってきて」
桜井 「前作のほうがもう少し吟味した選曲になっていたと思うけど、今回はわりと思いつきで。選曲の意図とか説明してないよね?」
中村 「はい。基本説明なしです。こちらは桜井さんの選曲の意図を想像しつつ、また自分が歌えるかどうか歌詞を確認しながら判断していく。今回は『Folklore Session』よりも現代に近い選曲が行なわれています。ロックの方面からの選曲になっているから、ディープな選曲を期待した人はポップになったと感じるかもしれない。でも、そういう意味では間口がより広がった作品だと思います」
桜井 「いやさ、今回の曲も充分に古いんだけど、モダンだなって気持ちになっていたんだよね」
中村 「私もモダンなつもりでしたよ。ぜんぜんルーツっぽくない。60年代、70年代を新しいと考えれば(笑)、洋楽好きの方にはわりと耳なじみのある曲が揃っているのではないかと」
――前作は古典の風格があって、初めて聴いたときはずっと先に稀代の名盤として扱われているに違いない、なんて考えたものでしたが、新作は何というか、生々しさを感じさせる演奏が並んでいて。
中村 「あ〜。楽曲のおかげなんですかね、それって」
桜井 「それもあるし、ツアーとかをやって得たものが出ているんでしょうね。5人で作っているって感じは強まっているよね?」
中村 「強まりましたね。それから今回の5曲って、初っ端から全員が入ってくる形が多い。前は原(さとし)さんと私だけ、とか、待ちの時間が長い曲も多くあったけど、いきなり本題に入るというパターンが増えた。5人の演奏時間を凝縮した作りになっているから、こういう濃い感じに仕上がったのかもしれませんね」
――誰かが主役になる、とかいう発想じゃなく。
桜井 「何よりも楽曲をどう聴かせるかという考えに基づいてアレンジするんだけど、今回はそうならなかったんだよ。自然とね」
中村 「自然とそうなっちゃうほど、パワフルな曲が多かったってこともある」
――いい具合にガヤガヤしているんですよね。
中村 「ま、全部後付けなんですけど、やってみたらガヤガヤしていたと(笑)」
――ところで、タイトルの意味を教えてください。
中村 「ふと思いついたタイトルのうちのひとつだったんですが、桜井さんが『Afterthoughts(=追記)』でいこう、と言ってくれて」
桜井 「候補の中でいちばん地味なタイトルだった(笑)」
中村 「私としては、さすがにこれはないだろうって思っていたほどで。地味というか、日本人にとってあまり馴染みがない英語のフレーズじゃないかと。でも後押ししていただいていたら、だんだん良く思えてきて」
桜井 「いちばん何気ない感じがしたんだよね。ま、いろんなことがあったので」
――あぁそうか……。2回目のコラボとなるわけですけど、新作にはどのような進歩が刻まれていると思いますか?
桜井 「進歩とか考えていなくて、やれることをただやっているだけ。そもそも音楽に進歩を求めなくていいと思う。すべてワンテイクで決めることができて、一日で全部完成させることができれば時間的には確かに進歩ですよ。でも、表現の深みっていうのは進歩だけじゃ語れないですね。あえて言うなら、確かなものをしっかり掴めるというか、察知する勘を得ることが進歩だと思うな」
中村 「なるほど。ちなみにその表現の深みは出ましたかね?」
桜井 「出たと思いますよ」
中村 「私の個人的に得た感覚の話をさせてもらうと、OKテイクがすごく早く出た〈Worried Blues〉がそうだったんですけど、私がこういったら皆さんはこうくるだろうな、ってあらかじめわかっていた状況で、スルっと音を出しやすかった。勢いが良くなった というか。何て言うんですかね、集中が切れるのが早くなったと見るべきなのか、それとも集中力が高まったと考えるべきなのかわからないんですけど、とにかくその瞬間が訪れるのが早かった気がするんです。ライヴの回数を重ねてきて、細かい音の付け方というか、音の着地点を明確に作れるようになったのかなと思って」
――今回、両者の思い描いていた像に近づいたというような感触はありますか? そのとおりになったな、と思うこととか。
桜井 「そのとおり、というものがそもそも僕の頭の中にないんですよ。そのフレーズいいね、よしこれで曲ができた、ってそれだけ」
中村 「その瞬間をちゃんと見極められるかどうかってことですよね。奇跡的な瞬間を自ら選択できるかどうか」
桜井 「そうだね。逆に、“何でこれが駄目なんだろう?” ってことも多々あって、そこから、“これかな?”ってものを探っていく作業が始まったりもする。〈Worried Blues〉なんて、すでにできているのにもっと良くなるはずだと思ってテイクを重ねてみたりしたけど、そもそも“もっと”がすごく漠然としたものだと気づいて」
中村 「止めどころがわからなくなってくるというか、行き過ぎてみてからじゃないとわからない。だから見極める判断力が必要になってきますよね。常に頂点にまで達してから止めるんじゃなくて」
桜井 「そもそも頂点が頂点であるのかすらわかんないものだからね」
中村 「ま、常に頂点を目指しているんですけどね。う〜ん、難しいような、簡単なような。だから直感的な作業の繰り返しなんです」
桜井 「〈Worried Blues〉で(田村)玄さんが滑らせた音を楽器にぶつけるときがあるんだよね。それが非常にいいタイミングで“コン”と鳴るんだよ。そういうポイントって、そのテイクに決める判断を後押ししてくれるというか。そういういい偶然も大事」




――いずれにせよ、濃いものを作れたという手応えがあったと思うんです。それは次回への期待に繋がったりしませんでしたか?
中村 「録り終えたときは、ガッツポーズでしたもんね、私たち。でも個人的には、やはり松永さんがいないと駄目かなと考えてしまいます。『Folklore Session』からの流れはここがピークだと。ここで終わったんだなと、今にして思います」
桜井 「まったくその通りですね」
中村 「もともと、私たちの活動はここで一区切りという話でした。そういう意味ではあっさりしているというか」
桜井 「この新作すら、もともと予定になかったものだからね」
中村 「プロジェクトとしては『Folklore Session』を出した時点で全うしたと思えていたぐらいなので。第2作を作るとしても、だいぶ経ってからだろうとは思っていましたから。むしろこれを出せたことが奇跡なんです。だからもう作れない、ということよりも、作れてよかったというのが正直な気持ちですよね」
――現実問題としては、この先のことが望めないことは重々承知しているんです。でもこんな素晴らしい作品が届けられてしまうと、こちらとしてはどうしても欲が出てしまって……。
中村 「確かに私もライナーノーツで“またやりましょう”って書いてるし(笑)」
桜井 「10年ぐらい経って、とかね」
中村 「(笑)。でも現実は現実というか、そういう意味では作れないものは作れないっていうことでしょうかね。厳しい言い方になってしまいますが」
桜井 「僕なんか、まだ松永さんが入院してるんじゃないかと思ってるからさ」
中村 「うん。今ここにひょっこり現われても普通に受け入れられる。」
――ところで、松永さんはこの作品に対する感想はどうだったんでしょう?
中村 「感想は……なかったですね(笑)」
桜井 「というか、レコーディングのあとに聴かせてないよ。スタジオのプレイバックしか聴いていないと思うんですよ」
中村 「ただまぁ、あんまり執着がない人というか」
桜井 「そうそう、あの人ね、自分の録音をあまり聴かないんですよ。だいたいさ、CDができて少し経ってから“あれはよくできた”っていうような人だから」
中村 「その一言が欲しかったなぁ……。だから今もなお謎のままで。感想を聞けるものなら聞いてみたいですよね。とにかく今回は、単純に強烈なものが出来たと思っています。純粋に楽しみながら聴いていただきたいんです。今回、作り手の思いが余分に加わっているところがあるとすれば、それは『Folklore Session』 の続編であり、終わりでもあるという意味合い、そして松永さんという大事な人が居なくなってしまったということに対する思い。とても思い入れのある作品になったのですが、聴いていただく場合はそちらのほうにあまり気を取られていただかなくても結構です、とも思っていて。とにかく私が作り終えたときに感じた嬉しさが伝わればいいなと」
桜井 「軽い気持ちで聴いていただいて、もし気に入ってもらえたとして、前作『Folklore Session』を聴いていないなら、ぜひ手にとっていただきたい。そういうものを目指して作りましたから」
中村 「『Folklore Session』をまだ聴いていらっしゃらない方にとって、手に取りやすくなる入門編になると思っていて。前作ってちょっと難解な部分もあるじゃないですか」
桜井 「難解? あぁ、一見さんお断りみたいな(笑)」
中村 「私はこの5曲を録ってみて改めて、難解だったかなと思ったんですけど」
――やっぱり『Folklore Session』は格調高い作品ですよね、『Afterthoughts』と比べると。
桜井 「確かにあれは格調高いものを作りたかった。あの題材でね」
――前作よりもフレンドリーな作品になっているし、僕の生活にグッと寄り添ってくれる曲が並んでいる。そういう場合、曲の多い少ないって関係ないんですよね。さておき、きたるべき10年後のコラボ作品を期待しつつ、じっくりとお付き合いさせてもらうことにします。もちろん『Folklore Session』も含めて。
桜井 「10年後か……生きてるかな」
中村 「お互い生きていましょうね(笑)」


取材・文/桑原シロー(2012年9月)
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