宮本笑里×DAITA 恐竜科学博の壮大なテーマ曲で実現した、異なる弦楽器のコラボレーション

宮本笑里   2021/06/29掲載
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 来たる7月17日、パシフィコ横浜展示ホールAで「Sony presents DinoScience 恐竜科学博 〜ララミディア大陸の恐竜物語〜 2021@YOKOHAMA」が開幕する。ヒューストン自然科学博物館に所蔵されたトリケラトプスの実物化石「レイン」の日本初公開を目玉とし、ソニーならではの技術力でありし日の恐竜たちの姿を目の前に甦らせるような展示がひしめく、2021年夏の話題のイベントだ。
 この恐竜科学博の公式テーマ曲「ララミディア」は、ヴァイオリニスト宮本笑里とギタリストDAITAによるインストゥルメンタル・デュエット。DAITAが作曲とアレンジを手がけ、聴く者の脳裏に時空を超えた壮大なイメージを喚起する。4月から先行配信されている同曲におのおののソロ曲を加えた3曲入りEPも、6月30日にリリースされる。
 宮本とDAITAの二人に、共演実現の経緯から、楽曲の制作と演奏とメッセージ、互いの演奏の魅力、それぞれの恐竜愛(?)まで、じっくりたっぷり話してもらった。
――どういう経緯で実現したプロジェクトなんでしょうか。
DAITA「昔から付き合いのあるレーベルの方から、笑里ちゃんとのコラボで恐竜科学博のテーマ曲を作ってほしいとご依頼いただいたんです。僕はクラシックも好きなので、ぜひやらせてほしいと返事をして、ヴァイオリンが入ることを前提に曲を書きはじめました」
宮本「DAITAさんが曲を作ってくださることになったと聞いて、とてもうれしかったです。学生時代にはSIAM SHADEを聴いている人がまわりにたくさんいましたし、いま仲よくさせてもらっているアーティストにもDAITAさんのファンだという方が多くて、ご一緒すると話したらすごくうらやましがられました(笑)」
――YouTubeで公開されているミュージック・ビデオのメイキング映像で、DAITAさんは「自分が弾いている楽器ではない楽器にフィーリングを重ねていく、シンクロさせていくのはなかなかない経験なので、勉強にもなりましたし刺激にもなりました」と話していますが、ヴァイオリンとエレキ・ギターの共演曲を作ったのは初めてですか?
DAITA「クラシックのオーケストレーションをバックに弾いた経験はあるんですけど、それぞれのソロがあって、ユニゾンしたりハーモニーを奏でたりする曲は初めてです。高音の弦楽器同士なので不自然な感じはなかったんですけど、エレキ・ギターは電気楽器なのでどうしてもコンプレッションがかかってしまって、音量は出せてもダイナミクスをつけるのが難しいんですね。ヴァイオリンの演奏のダイナミクスにギターがどう絡んだら美しく聞こえるか、ということを想像しながら作らないといけない。音のふくよかさというか音色の深みも楽器ごとに違うし、それぞれのいいところを引き出せるようになんとかしなきゃ、という感じでした」
――具体的にはどんな工夫をしましたか?
DAITA「デモを作るときにまずギターで全部弾いてみて、それをヴァイオリンに置き換えるということを試しながら、いい響きになるかどうか確認しながら作っていきました。デモが完成したら笑里ちゃんにお送りして、実際に弾いていただいて最終確認をして、そこからレコーディングに入っていった感じですね」
――そういう作り方なら、宮本さんも安心してやれたのでは?
宮本「はい、おかげさまで。デモを聴かせていただいたときに、まわりのスタッフさんも含めて“もう出来上がってますよね”と。わたしもいままでいろんな方と共演させていただいてきましたけど、ヴァイオリン以外の楽器を専門にされている方って、ヴァイオリンはどこからどこまでの音が出るのかとか、どこの響きが活かせるのかというところが、たまにずれちゃうことがあるんですね。でも今回はそういうことがまったくなくて、ヴァイオリンのいちばん響きのいい音域をDAITAさんがすでに把握してくださっていたので、ただただ“ありがとうございます!”っていう気持ちでした」
DAITA「いっさい弾けないんですけど、いちおう勉強しました(照笑)」
宮本「すばらしいです」
――これもメイキング映像ですが、宮本さんは「レコーディングでは好きなようにやらせてもらって、そのあとに全部合わせて弾いていただいた」とおっしゃっていましたね。
宮本「デモに入っているDAITAさんのギターを聴きながら弾いたんですけど、まずヴァイオリンを録ったとき、“このタイミングだとDAITAさんもしかして弾きづらいんじゃないかな?”みたいに勝手に思っちゃっていたんです。でもまったくよけいな心配で、“全部合わせるから大丈夫だよ”っておっしゃってくださって心強かったですし、そのひとことでさらに肩の力が抜けて自由に心地よく演奏させていただけました。そのあと本当に完全に合わせてくださって、ひたすらありがたかったですね」
宮本笑里
DAITA「僕はヴァイオリンのソロイストのすごいプレイを録音するっていう現場に初めて立ち会ったので、どういう音色で録れたら正解なのか、みたいなことをジャッジするのが難しかったんです。でも自分が長くご一緒しているエンジニアの方がついてくれていたおかげでいっさい問題ない状態で録音できたので、あとは自分が弾いて合わせるだけだな、という感じでした」
――バックトラックは打ち込みですよね。そうするとデモの段階から完成形に近かった?
DAITA「そのままいける状態にはいちおうしていました。ただ、生のヴァイオリンが入るとやっぱりそれに寄り添った音色に、とくに弦楽器は近づけたりとか、迫力をつけたりしなきゃいけないなと思って、別の音色を付け足したりみたいな調整はありましたね。基本はソロ・ヴァイオリンとギターが映えるようなトラックの編成にしました」
――恐竜のイメージはどのあたりに表現しましたか?
DAITA「恐竜科学博に来るトリケラトプス(「レイン」)の骨が発掘されたのが北アメリカの、かつてララミディア大陸があったところなんですよ。たまたま僕は北アメリカを拠点に10年近く活動していたことがあって、そのころよく旅をしたんです。グランド・キャニオン、モニュメント・バレー、イエローストーン国立公園、アーチーズ国立公園など、いろんな場所をクルマで巡って大自然を目にしていたので、“ああいうところを恐竜が闊歩していたんだな”とイメージがリンクしました。その経験が役立ったと思います」
――恐竜の足音みたいな重低音のビートがとても印象的です。
DAITA「迫力を出すために、アフリカの打楽器やティンパニや大太鼓などの和楽器まで、いろんな音色を混ぜて作ったんですよ。そうすることで個性とスケール感みたいなものを出しているのは、ちょっと面白いんじゃないかなと思っています」
宮本「そうした細かい工夫があったんですね。あの音色でいっそうワクワク感が増すというか、聴いていて何かが始まるような気持ちになれます」
――迫力のある低音にエレキ・ギターとヴァイオリンが映えて、コントラストが印象的です。
DAITA「せっかく違う楽器同士でコラボレーションしているので、そのよさが出るようにトラックを組み上げていくのがちょっと難しかったですね。メロディはシンプルなんですけど、複雑な音階に飛んだりすると、やっぱりアレンジも複雑になっちゃうんですよ。なのでオーケストレーションには少し苦労しましたけど、最終的には自分で納得のいくようないい響きにできたと思います」
――歌っぽいメロディが親しみやすく、思わず口ずさんでしまいます。
DAITA「もともと僕は“ギターで歌いたい”“メロディを弾くのが楽しい”っていうタイプのプレイヤーなんですよ。今回も楽器で歌のようにメロディを奏でるということをやりたかったので、そこを感じ取っていただけてうれしいです」
――途中にソロの応酬もあり、アレンジはとてもドラマチックですね。
DAITA「ソロイストが二人で演奏するわけだから、当然からんだほうがいいと思って、アレンジの打ち合わせをオンラインでしたときに、僕のほうから“恐竜の一日を表現したい。朝から始まって、途中にバトルする場面もほしい”みたいに話して、そういうプレイを笑里ちゃんにお願いしたらバッチリやってくれました」
宮本笑里
宮本「はい。そこはわたしも負けないようにがんばろうと思って、気合を入れてメロディを考えました」
DAITA「それを受けて自分のソロを考え直すのがちょっと大変でしたけど(笑)。ほんの数小節に何時間もかけました。結果的にはうまくいったなと思います」
――─ソロの応酬は恐竜同士のバトルなんですね。ところどころの音色やフレーズにバグパイプっぽさを感じたんですが、ケルト音楽をイメージされたんでしょうか。
DAITA「けっこう好きなんです。あのリズム感やフレーズのこぶしみたいなものは前から自分の音楽に取り入れてきたので、この曲でもヴァイオリンとギターでユニゾンするところなんかは、恐竜がバトルしたあと楽しんでいるみたいな要素を考えたときに(笑)、そういうリズミックなパッセージを入れると面白く聞こえるかなと」
――あぁ、あそこは仲直りして一緒に楽しんでいるシーンなんですね(笑)。お二人それぞれ苦労したのはどんなところですか?
DAITA「僕から言わせてもらうと、基本的には全部大変でした(笑)。こういう状況(コロナ禍)なので時間があるじゃないですか。あればあるだけ時間をかけちゃうほうなんで、去年の秋ぐらいからずっとかかりっきりで徹底的に詰めました。そういう意味ではやりきった感がありますね」
宮本「わたしはレコーディング前の準備にとにかく時間をかけました。さっきお話ししたとおり、デモを聴いたときにもう出来上がっていると感じたので、どうしたらその世界観を壊さない範囲で自分なりの歌い方ができるかをすごく模索しました。ひたすら研究して考えて練習して、自宅で何百回も録音して……。準備が大変だったぶん、スタジオに入ってからは解放感もありましたし、“こっちのほうがいいんじゃない?”と誘導もしていただけて、すごくやりやすく、楽しくやらせていただきました」
DAITA「笑里ちゃんの演奏を聴いて、音の立体感というか深みに驚きました。一流のプロが一流の楽器で弾くとこんなに音色が広がるんだ、と肌で感じたというか。家で音源で打ち込んでいるだけではどうしても臨場感が出ないので」
――お二人とも“歌う”と表現されているのが面白いですね。
宮本「つねにヴァイオリンで歌い続けられる人でありたいと思っているんです。昔から、声に出して自分の思いを伝える代わりにヴァイオリンを通して表現したい、という思いがすごく強くて。歌詞のある歌には言葉で聴く人の心をぐっと引き寄せる力があって、すごくいいなと思うけれど、インストならではのよさもすごくたくさんあります。わたしはヴァイオリンの演奏でも、息遣いや声に出して歌っているような感覚を表現することをずっと変わらず心がけていますね」
DAITA「まったく同じです。僕も歌詞を含めて歌ものの曲をたくさん書いてきたし、嫌いではないんですけど、楽器の演奏で情景が浮かんできたりとか、言葉にできない思いが心に入ってくるみたいな音楽が好きなんですよね。歌詞をつけるとイメージが明確になる代わりに、どうしても言葉の意味に縛られてしまう部分があるじゃないですか。でもメロディだけならそうした先入観を抜きにして聴けるし、言葉の壁を越えられる。それは楽器を始めたときからいままで変わらず思っていることなので、この曲もインストですけど、その思いを感じ取ってくれるリスナーが増えるといいなと常々思っています」
――ミュージック・ビデオの撮影現場はどうでしたか?
宮本「DAITAさんが演奏されている姿を間近で拝見できて、すごく勉強になりました。わたしはちょっと研究しすぎちゃうところがあるので(笑)、どこに注意して弾かれているのかとか、ヴァイオリンとはまた違う両手の使い方とか、ずっと凝視していました。ものすごくプロフェッショナルで技術の高い人に共通することなんですけど、たとえば速弾きするような箇所でも、とにかく体の力が抜けているんですよね。体幹とか、どこかにかならず軸はあるはずなんですけど」
DAITA「プロ野球の解説みたいですね(笑)。でも本当にそのとおりで、学生時代、当時はYouTubeがないのでビデオや雑誌を見て学ぶんですけど、一流の演奏家はみなさん力が抜けているんですよ。僕はどっちかっていうと職人気質で、ド派手なパフォーマンスよりもプレイのほうに集中したいので、あんまり立ち姿には意識がいっていないですね」
宮本「凛としたかっこいい表情をされていましたよ」
DAITA「“ロック・ギタリスト然としていないね”ってよく言われるんですよ。それはロック・ギター・ヒーローにはなりたいと思っていたけど、過去の人たちとは違うスタイルを目指していたからで、たとえばジミヘンの真似をして口を開けてガーッと弾くとか、ああいうのはかっこ悪いと思っていたんです(笑)。やりたい人はやればいいけど、僕は好みじゃないので、淡々と職人芸っていうタイプです」
――よその記事で読んだんですが、宮本さんが「音というのは全部ばれてしまうというか、人柄とか人格とか、生きてきた道というのがすごく表れると思う」とおっしゃっていました。
宮本「DAITAさんの音色って、繊細な部分と大胆な部分の両方があって、美しいし心に響いてくるんですよね。ご一緒してあらためてそう感じました。お会いしてみたらデモを聴いて想像していたとおりのお人柄というか、温かさが音楽にも表れているんだなって」
DAITA「ありがとうございます。そのとおりです(笑)。僕は笑里ちゃんのイメージを写真や映像の印象から作っちゃっていたんですけど、実際にお会いして演奏を聴いたら、見た目と違ってハートが熱くてワイルドな方なんだなって思いました」
宮本「あははは」
DAITA「亥年だよね? 僕も亥年だからわかるんですよ(笑)。表にはあんまり出さないけど、情熱を内に秘めるタイプというか、プレイになると豹変する人が多くて。まさに自分と近いんだなって親近感が湧きました」
宮本笑里
―イノシシ2頭の熱い演奏ですね。恐竜科学博に来場するお子さんたちに気に入ってもらえそうな曲になっていると思います。
DAITA「インストの演奏で耳を教育したいって思いもあったんですよ。お子さんたちが気に入ってくれたら、楽器に興味を持ってもらえるじゃないですか。そうすると日本の楽器の底辺がまた広がるので、そのためにもわかりやすい世界観にしようというのは、作曲の段階から思っていました。未来につなげたいんですよ」
――すばらしい。最後の質問ですが、お二人は恐竜は好きでしたか?
DAITA「僕は普通に恐竜図鑑とか見ていました。みんなはTレックスが好きですけど、僕は今回、化石がやって来るトリケラトプスが好きだったんです。草食竜なのに肉食竜に勝てるツノを持っている強さに惹かれて、Tレックスが悪役でトリケラトプスが正義の味方、みたいなイメージで見ていました(笑)」
宮本「わたしは恐竜の本を読んだりすることはあんまりしませんでしたけど、9歳か10歳ぐらいのときに初めて観た映画が『ジュラシック・パーク』だったんです。すごくかっこいいな、実際に見てみたいな、と思う半面、この時代に生きていなくてよかったな、とも思いました(笑)。娘を連れて行って、一緒に恐竜科学博を楽しみたいですね」
取材・文/高岡洋詞
Information
Sony presents DinoScience 恐竜科学博
〜ララミディア大陸の恐竜物語〜 2021@YOKOHAMA

会期:2021年7月17日(土)〜9月12日(日)
会場:神奈川・パシフィコ横浜 展示ホールA
https://dino-science.com/
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