【Special Interview】“弾くたびに新しい発見がある”---村治佳織が「アランフエス協奏曲」を再録音

村治佳織   2007/10/18掲載
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 イギリスの名門レーベル“デッカ”と、日本人として初の長期契約を結んでからすでに3枚のアルバムを発表している村治佳織。4枚目に選んだのは超有名曲の「アランフエス協奏曲」。2000年にビクターで録音しているが、今回は同じロドリーゴのあまり演奏されない作品がカップリングされた意欲作。若い才能が活躍している日本ギター界だが、その美しいルックスも相まってダントツの人気の彼女。江戸っ子らしいさっぱりした性格で、とても気さくな人柄も魅力だ。



 ――アランフエス協奏曲はギターのレパートリーの定番中の定番。それだけに演奏する機会も多いでしょうね。
「少ない年で4〜5回、多い年では10回は弾いています。継続的に練習しているレパートリーといえますね。弾くたびに新たな発見があって、オーケストラとの合わせにも気持ちの余裕を持って臨めるようになりました」

――スペインの指揮者とオーケストラとの共演ということは、村治さんからの企画だそうですね。
「ギターを代表するとともに、スペインを代表する作品ですし、スペインらしい軽やかなリズム感覚を感じながら演奏したいと思いました。彼らとは初めての共演ですし、スペインの北部への滞在も初めてでした。眩しい太陽のようなキャラクターの南とは異なり、北は大声で話すことのない、物事を深く考える雰囲気があるんですよ。実際に行って驚いたのは、ガリシア交響楽団には結構“外国人”が多かったこと。ロシア人やアメリカ人、ドイツ人など多彩なメンバー構成でした。でも出てくる音はまさにスペインそのもの。スペインを心から愛し、外国人である自分がスペインにいる意味を深く考えているからなのでしょうね。指揮者のペレスさんをはじめとして、リハーサルはすべてスペイン語で通す心意気もありました。ペレスさんは経験の豊富な方で、ギターへの理解も深い人だったので、共演は楽しかった」

――今回の録音では、通常のようにオーケストラの前ではなく、オーケストラに取り囲まれるような場所に座って演奏したそうですね。
「第2ヴァイオリンとヴィオラの間です。私の音だけを拾うマイクも使っていますから、CDでそれはわからないかと思いますが、演奏者としてはとても弾きやすかった。ステージでは難しい、弦楽器や管楽器との細やかで密接なやり取りができました。オーケストラの音がはっきりと聴き取れながら、そのサウンドに包みこまれるような特等席にいたわけです」

――カップリングもロドリーゴの作品ですね。
「有名な〈ある貴紳のための幻想曲〉も考えましたが、演奏される機会が少なく、まだ録音していない〈ある宴のための協奏曲〉の方がいいかなと。ロドリーゴの作風が完成した晩年の作品で、洗練の極致とも言える名作です。小品集のような趣で変化に富んでいて、親しみやすいと思いますので、これから機会があれば演奏していきたい作品です」







――デッカでの3枚のアルバム中の1枚は声(合唱)とのコラボレーション、また2007年4月にリリースされたミニ・アルバム&DVD『AMANDA』はクロスオーヴァーものでしたね。今後、その方向性への展開を考えていますか?
「たまたまご縁があってそういう形になり、私自身も心から演奏も録音も楽しむことができました。『AMANDA』は大島ミチルさんの書き下ろし作品を入れたんですが、その作品がとても素晴らしくて、これからも書いていただけたらと思っています。クロスオーヴァーということでは、たまに共演させていただいているジャズ・ギタリストの渡辺香津美さんにも書いていただけたら、などと密かに思っています。多様な活動をしても、自分自身が流されなければ大丈夫だと。私の活動の基本はクラシックで、ソロで演奏することです。それを大きな柱にして、一つ一つの演奏会を楽しんでいきたいと思っています」


――海外での活動も多いですね。
「音楽院のシステムの中にちゃんと“ギター科”が確立されているのはヨーロッパなんですが、ギターの演奏会の数は日本の方が多いんですよ。かろうじてマドリッドが盛んでしょうか。ギター・コンクールがなくなってしまったので、パリもそんなには多くないです。縁があってデッカさんと仕事ができるのはありがたいことでです」


――次の録音については考えていますか。
「まだ具体的には決まっていませんが、いつかバッハを録音したいなとは思っています。この秋のツアーからバッハのリュート組曲の1番をプログラムに取り入れているんですよ。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との初共演も決まっているんですが、ヨーロッパの中でもドイツに行くのは初めてなので、バッハの伝統も肌で感じてきたいと思っています。バッハ作品はとくに、頭がクリアになっていないと弾けないので、自分を磨くのにもいいんですよ。今までは短距離走という感じでしたが、これからはじっくりと地に足を付けて走るような長距離ランナーになりたいと思っています」


――じゃ、長期的な計画もあるんですか。
「何十年も先のことは、まだ考えられません。私も来年は30歳なので、女性としての人生のあり方も考えたいし」

――弟さんの村治奏一さんも本格的な活動を始めましたね。
「個性も好みも違っていて、彼はマニアックな方向性を持っているようですが、それは刺激になります」

――愚問ですが、ギターの魅力って何でしょうか。
「出した音がすぐに消えていくところ。一つ一つはすぐに消えてしまうけれど、弾き手の意識はずっとつながっている。消えていくから美しいのだと思うんです」



取材・文/堀江昭朗(2007年10月)



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