純度の高い場所に行き着こうという思い――直枝政広を惹きつける、越えるべき“境界”とは?

直枝政広(政太郎)   2007/11/22掲載
はてなブックマークに追加
純度の高い場所に行き着こうという思い――直枝政広を惹きつける、越えるべき“境界”とは?
 カーネーションという看板を背負って20数年、孤独の旅路をひたすら歩み続けてきた直枝政広。バンドのドキュメンタリー映画『カーネーション/ROCK LOVE』に合わせて、初めての書籍『宇宙の柳、たましいの下着』も刊行される。どちらも直枝の人生とロックとの密着ぶりが垣間見えて興味深いが、例えば映画。そこにはボロボロになりながらもロックと格闘するメンバー3人の姿が、赤裸々に映し出されている。



「監督(牧野耕一)には“見たまま撮ってくれ”って、カメラに向かい合った感じですね。彼なりの人生や映像経験をそこにブツけてくれたらいい。そこから何か新しいものを見つけてもらえるんじゃないかって。“ROCK LOVE”(2006年に行なわれたビッグバンド編成でのライヴ。映画にも登場)なんかでもそうだけど、参加してもらうアーティストを選んだ段階でアレンジメントは完成してるんです。後はみなさん、フィーリングでやってくださいと」


 つまり映画は、監督とバンドとのセッションともいえるわけだ。例えば名古屋の小さなライヴ・ハウスで、荒々しい演奏を繰り広げるバンドの間を走り抜けるカメラの臨場感が、それを端的に伝えている。

「お客さんはステージ上で大きなカメラ担いだ監督見て“何だコイツ!?”って思ってただろうね(笑)。でも、映画では3人だけの演奏シーンが一番良かった。バンドのギリギリの状態がちゃんと音に現れてた。バンドというものを背負った以上、あそこまで行っちゃうと、これは大事にしなきゃなって思いましたね」


 映画でもうひとつ印象的なシーンがある。夕暮れの森に佇む直枝の姿。異世界からやってきた預言者みたいに、飴色の光のなかで男の影が妖しく揺れている。

「あの森はソロ・アルバムを作ってた頃に見つけたんだけど、行く度に“なんかヤバいな”って空気を感じてて。たぶんあそこは何らかの結界。撮影の時も手を合わせてたしね。おれは妙に身の回りにある境界を意識してるところがあって、今回、本を書いてる時にも、目に見えている部分と見えてない部分にこそ何かがあると、じっと目を凝らした。自分が惹かれてやまないのはそういう純度の高い場所の記憶や直感なんじゃないかって気がしてた」


  問題はその本、『宇宙の柳、たましいの下着』だ。“直枝政広が選んだディスク・ガイド”という体裁をとりながらも、そこには直枝の記憶や思いこみがパラノイアックに詰め込まれている。しかも、書き下ろし原稿とインタビューがミックスされて、語り口も自由奔放。

「交錯してるんです。でも、それで全然いい。文章のカットアップ。映画もモノローグから他者の視線に切り替わったりするでしょ? 無関係なようでリズムとしてアリというか。最初に取材してもらって、それを起こした原稿を読んで、まだ語り切れてない部分があると気づいた。そこで頭から書き直したり、またインタビューをやったりして、自分ひとりでリミックス作業を進めていったんです」


 その結果生まれたのが、直枝の脳内コラージュというか、ジャケでたとえるとフランク・ザッパ 『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』みたいな本だ。そんなケッタイな本を補完すべくCDも付けられているのだが、そこには3曲の新録とライヴ音源1曲を収録。ミュージシャンとして、音のケジメもキチンと付けられている。

「(新録は)文章を書いた時の気持ち、あと文章に出てくる風景とか、その魔窟感とかを意識しながら歌ってみたんです。いつものチューニングとは違う、魔界のチューニングで」

 映画に書籍、政風会のアルバムと、初モノ続きでキャリアの節目感が漂う今年。直枝はまたひとつ境界を越えた。

取材・文/村尾 泰郎(2007年11月)

最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[特集] ジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』 一新されたアルバムと驚きの貴重音源を収める50周年記念盤の聴きどころ[インタビュー] 新作アルバムは、ずっと愛奏している作品で構成したオール・ショパン・プログラム、小林愛実
[特集] 「Sony Park展」第3弾「ファイナンスは、詩だ。」 東京スカパラダイスオーケストラインタビュー[インタビュー] 活動10周年にして集大成さくら学院ラスト・インタビュー
[インタビュー] チャレンジ精神に歌とダンスでエールを送る 新曲は『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』主題歌、BOYS AND MEN[特集] Sony Park展「音楽は旅だ」「カンタビレIN THE PARK」レポート 奥田民生
[特集] クラウン時代のラスト・アルバム(鈴木茂コスモス’51リミックス発売記念ライブ)白熱のライヴ・レポート、鈴木茂[インタビュー] 千住真理子、音楽は時空を超えて旅をする 新作はヴァイオリンで歌う世界のメロディ
[インタビュー] ユーミン、じゃがたら、『みんなのうた』…、新作は原曲と違う風景が見えるカヴァー集 KERA[インタビュー] 宮本笑里×DAITA 恐竜科学博の壮大なテーマ曲で実現した、異なる弦楽器のコラボレーション
[インタビュー] 架空の映画のサウンドトラックというコンセプト・アルバムを発表したKaede[インタビュー] 大井 健 コロナ被害からの再起 / みずからの新たな挑戦から生まれたクラシック・アルバム
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015