ジャズ・ギタリスト小沼ようすけが追求する、生き方とマッチした音楽“Jam Ka”

小沼ようすけ   2019/04/09掲載
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 カリブ海に浮かぶフランスの海外県、グアドゥループ島の民族音楽“GWO-KA(グオッカ)”のリズムと現代的なジャズを融合させたクレオール・ジャズがパリで活性化している。そのシーンにおける中心的ミュージシャンたちとのインターナショナル・プロジェクト“Jam Ka”をアップデートさせ続けているギタリスト・小沼ようすけから、最新アルバム『Jam Ka 2.5 The Tokyo Session』が到着。2017年のジャパン・ツアー後に東京のスタジオで録られたライヴ・セッションの一部を収録した本作には、アルバム『Jam Ka』(2010年)、『Jam Ka Deux』(16年)の収録曲のライヴ・バージョンのほか、インプロヴァイズ・セッションも収められ、プロジェクトの新たな進化を体感できる作品に仕上がっている。アーノウ・ドルメン(ka)、オリヴィエ・ジュスト(ka)、グレゴリー・プリヴァ(p)、レジ―・ワシントン(b)などヨーロッパのジャズ・シーンを代表する凄腕ミュージシャンとともに繰り広げられる演奏も絶品だ。

 5月にはグアドゥループのグォッカ・フェスティバルに出演。8月にはヨーロッパで活動する際のメイン・メンバー、グレゴリー・プリヴァ、ソニー・トルーペ(ds, ka)、レジー ・ワシントンを擁した“Jam Ka Qualtet”でのツアーも予定されている小沼に、本作『Jam Ka 2.5 The Tokyo Session』について聞いた。
――新作『Jam Ka 2.5 The Tokyo Session』は2017年のジャパン・ツアーの後でレコーディングされたそうですね。
 「はい。『Jam Ka Deux』を出した後、東京、名古屋、大阪と回って、その直後に東京でスタジオに入って。ライヴを通して楽曲が変化しているの感じていたし、それを残しておきかったんですよね。すべて一発録り、“録り直し不可”の状態でレコーディングしたんですが、原曲のフォーマットとは違う広がり方をしていたし、3作目の『Jam Ka』につながるセッションだったなと。だからタイトルを『2.5』にしたんです」
――Jam Kaがさらに変化していく過渡を記録した作品でもあると。1曲目の「Moai's Tihai」は、アルバム『Jam Ka Deux』の収録曲ですが、音源とはビートの雰囲気が違っていて。
 「かなり現代的なビートになってますよね。ドラムだけじゃなくて、フェンダーローズが生ピアノになっていたり、僕もリア(ピックアップ)を使って音色を変えていたり、アプローチが違っていて。ドラムのアーノウ・ドルメンはいまのパリのジャズ・シーンでも注目されていて、どんどん進化を続けているんです。パーカッションのオリヴィエ・ジュストはトラディショナルなテイストが強いから、その組み合わせもおもしろいんですよね。2曲目の〈Flyway〉(アルバム『Jam Ka』収録)はジャズ・スタンダード的な構成の楽曲です。オリジナルではグォッカのリズムに忠実なんですが、それを自由に解釈しながら演奏していて。リズムから入るアレンジは、僕のアイディアですね。誰から演奏を始めるかは決めてないんですけど、全員が世界トップクラスのミュージシャンだし、どんな始まり方でも、最高のタイミングで入ってきてくれて。自分のリーダー・アルバムなので、アイディアは出しますが、演奏に関してこちらから言うことは何もないですね」
――3曲目の「Beyond the Sea / Le Bonheur」は小沼さんのギター、グレゴリー・プリヴァのピアノによるデュオ。4曲目の「Gradation4」は小沼さんとパーカッションのアーノウ、オリヴィエのセッションによるナンバーです。
 「〈Beyond the Sea〉は『Jam Ka Deux』の曲で、〈Le Bonheur〉はグレゴリーのアルバム『FAMILY TREE』の1曲目に収録されている曲。〈Le Bonheur〉は僕も大好きな曲なので、グレゴリーのピアノのソロを挟んで、ぜひメドレーで演奏したくて。〈Gradation4〉は、アルバムのたびに収録しているフリー・セッションの楽曲ですね。カ奏者のふたりと会話しながら、遊びながら演奏したというか(笑)。構成もまったく決めず、すべてインプロヴァイズのよるセッションなんですよ」
――5曲目の「The Elements」は、それぞれのプレイヤーの個性が有機的に絡み合うアンサンブルが印象的でした。
 「これも『Jam Ka Deux』の曲ですね。音源ではピアノ、パーカッション、ギターで演奏しているのですが、ライヴではベーシストのレジ―・ワシントンにも入ってもらって。彼のソロ・パートもあるし、後半では僕とグレゴリーもピアノを弾いていて。ライヴで演奏するなかで、いちばん広がりを感じた曲のひとつですね」
――Jam Kaでは、制作の段階からセッションの要素を取り入れているんですか?
 「いろいろなパターンがありますが、まず僕が楽曲をクリエイトして、それをもとにミュージシャンに加わってもらうことが多いですね。最初にプロデューサーのジャック・シュワルツバルトと一緒に“どんなリズムが合うか?”“どんなフレーズがふさわしいか?”ということを打ち合わせるんです。ジャックはサキソフォン奏者なのですが、“こういうフレーズを入れるとクレオールのスタイルに近づく”というアイディアをもらったり。僕が持っている日本人の感覚と、グアドゥループをルーツにしているミュージシャンたちのスピリッツを融合させる作業ですよね。自分の頭のなかだけで組み立てるのは限界があるんですよ。ローカリズムというか、現地に住んでいないとわからないフィーリングがあるし、それは音源を聴いたり、インターネットで調べるだけでは理解できないので。たとえばギターの刻み方にしても、自分が持っている知識に引っ張られがちなんですよ。僕が学んできたブラジリアンやキューバンをクレオール・ジャズに当てはめようとしても、現地のミュージシャンにしてみると“リズムが違う”ということになる。ジャックの力を借りながら、そこをアジャストしていく作業はどうしても必要なんです。ただ、今回のアルバムに参加してくれたミュージシャンは、他のジャンルとくっつくことに長けているんですよ。クレオールのスピリットを持って、そのリズムに対する愛情を失うことなく、現代的なジャズとも融合できる。それが魅力的なんですよね」
――当然、そこには演奏家としての喜びもあると。
 「そうですね。たとえばベースのレジ―はもともとニューヨーク・スタイルのミュージシャンで、最先端のジャズ・シーンを支えているプレイヤーのひとりで。いまはヨーロッパにいて、プロデューサーのジャックのアルバムにも参加していますが、彼がいることで、自分の音楽性とクレオール・ジャズ、コンテンポラリーなジャズを上手くミックスできるというか。ピアノのグレゴリーは、ミシェル・ペトルチアーニからの影響がメロディセンスにありつつ、独特の強力で柔らかいグルーヴと洗練されたハーモニーが魅力。彼らと一緒にプレイしていると、それぞれの人生や経験してきたことをシェアしているような気持ちになるんですよ。日本人である僕のアイディアも楽しんでくれるし、そこに個性的なエッセンスを加えてくれて」
――多様性がある音楽ですよね、本当に。
 「そう思います。ヨーロッパで演奏すると、“どうして日本人がカリビアンを演奏しているんだ?”と興味を持ってもらえることも多いんです。僕自身は自分の心に反応する音楽を信じて活動しているんですが、現地で評価してもらえたり、いろいろなミュージシャンとのつながりが増えると、“正しいことをやっている”と思えるというか。最初は理屈じゃなくて“この音楽をやりたい”という気持ちだけだったんですよ。アルバムを作って、ライヴをやることで、“どうしてこの音楽、リズムに惹かれたのか?”がクリアになっている気がします」
――いま振り返ってみると、クレオール・ジャズに興味を持ったのはどうしてだと思いますか?
 「そうですね……。以前はトラディショナルなジャズから、オルガン・バンドのジャズ、ジャズ・ファンクに移行する60's半ば〜70's前半の音楽に興味があったんです。その後、もっと自然を感じられるもの、ワールド・ミュージック的なグルーヴを求めるようになって、いろいろなリズムを研究したんですね。アフリカン、ブラジリアン、キューバ、アルゼンチンなどもかなり聴きましたが、どのジャンルもすべて開拓されていて、日本にもスペシャリストが存在していたんです。そこに後から入って、自分らしい表現をするのは難しいだろうなと感じて、袋小路にはまってしまって。その時期に聴いたのが、ジャック・シュワルツバルトの『ソ・ネ・カラ』(06年)、『アビス』(08年)だったんですよね。そのとき僕が求めていたものがすべて入っていたし、しかも、いま起きている音楽であることに強く惹かれて。クレオール・ジャズと自分の音楽性を融合させてみたいと思ったのが、第一歩ですね。『Jam Ka』を作った後、実際にグアドゥループに行ったんですが、現地で見聞きしたことにもすごく影響されました。海がきれいで、サーフィンのカルチャーもあって、火山や滝もあって。カーニバルも見ましたが、街の人たちが自分の土地の音楽に誇りを持っていることもすごく感じたんですよね」
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――クレオール・ジャズのルーツに迫ることで、小沼さん自身のルーツを見つめ直すことにもつながったのでは?
 「確かに“日本人であること”を考えた時期もありました。人から“何も考えないで演奏すれば、自然とルーツは出て来るよ”とアドバイスしてもらって、それは理解しつつも、“確固たるものがなければ、自信を持って演奏できない”と思ったり……。ただ、これまでの自分の人生だったり、ライフスタイルを振り返ってみると、自然と触れ合うことが多かったんですよ。旅も好きだし、サーフィンもやるし、そのなかで感じたことがたくさんあって。そういう生き方とマッチしたジャズをやれば、それが自分の音楽になるんじゃないかなと。昨年の12月にマルティニークのジャズ・フェスティバルに日本人として初めて出演したんですが、本当にたくさんの人に声をかけてもらって。日本人のミュージシャンがクレオールの文化に根差した音楽をやっていることで、“自分たちの音楽が日本に辿り着いた”と喜んでもらえたんです。それも嬉しい出来事でしたね」
――自分の音楽を通して、クレオール・ジャズを日本に伝えたいという気持ちも?
 「ありますね。僕の音楽は純度100%クレオール・ジャズではなく、コンテンポラリー・ジャズの要素はもちろん、今までの人生で経験し得てきた様々なものを融合させた音楽です。それを入口にして、背景にある音楽を知って、感じてほしいなと。クレオール・ジャズ、フレンチ・カリビアンといった言葉が、もっと浸透してくれたらいいなと思いますね」
取材・文 / 森 朋之(2019年3月)
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