丸みのある、自然体の音楽 Opus Inn『Time Rolls On』

Opus Inn   2018/12/21掲載
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 エレクトロニクスと生楽器を交え、エレクトロニック・ミュージックやヒップホップ、ソウルを洗練されたポップ感覚でまとめ上げる男性デュオ、Opus Inn。ヴォーカルの堀内美潮とギターの永田 誠からなる彼らは、2017年12月にリリースしたファーストEP『Time Gone By』で注目された、その甘美なタッチをさらに研ぎ澄ませ、SIRUPをヴォーカルに迎えた「Feel It」を含むセカンドEP『Time Rolls On』を完成させた。ジャンルを超え、メロディ・フロウのスムースさを極めつつある彼らの正体はいかに。堀内が自然体のまま育まれつつあるグループの個性について語ってくれた。
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――堀内さんはOpus Inn以前はバンドで活動されていたそうですね。
 「はい。もともと、僕とギターの永田は、神戸で共同生活しながら、それぞれが別のロック・バンドで活動していました。でも、2人ともリスナーとしては雑食で、僕はハードロックから、どんどんさかのぼってビートルズを聴いたり、邦楽だとはっぴいえんど山下達郎にのめり込んでいって。R&Bとかソウルも聴くようにもなりましたし、バンドではドリームポップだったり、打ち込みも用いたテーム・インパラのようなサイケデリック・バンドなんかに影響を受けた音楽性だったんですけど、ある日、同じタイミングで2人ともバンドを辞めて、一緒に音楽を作り始めたんです」
――新しく始めたOpus Innというグループの名前は山下達郎さんのライヴが由来とか?
 「はい。友達に誘ってもらって達郎さんのライヴを初めて観た時、チケットを取るのが大変なこととか何も知らなくて、気軽な気持ちで会場に足を運んだら、昔の曲も新しい曲も今のパフォーマンスとして提示していたライヴがあまりに凄すぎたというか、思うところがありすぎて、涙が出てくるほどだったんですよ。で、その時のステージセットで組まれていたモーテルの看板に“Opus Inn”という文字が書かれていたことがずっと頭の中にあって。で、2人で始めたグループの名前を3ヶ月くらい一向に決まらなくて、ふとした瞬間にそのことを思い出したんです」
――そして、バンドではなく、トラックを作るようになったのは、Opus Innが初めてなんですよね?
 「そうですね。当初は新しいバンドを始めるつもりで、メンバーを探していたんですけど、周りでは見つからなくて。でも、早く音楽をやりたかったので、DTMでビートを作り、曲を作るようになって、それをSoundCloudにアップするようになったことが今のOpus Innに繋がっていったんです。2人で曲を作るようになってから、自分たちの作ってる音楽がどのジャンルに当てはまるのか、よく分からなくて。強いて言うなら、前作EP『Time Gone By』はエレクトロのニュアンスが強かったと思うんですけど、今回のEP『Time Rolls On』はR&Bの要素も入ってるし、エレクトロの要素も入っているし、バンド・サウンドに近い音も入っているので、ジャンルがより分からなくなっていて、色んな要素が混在して、世界観を作り上げている映画のサウンドトラックに近いものになっているように思います」
――トラップを含め、現行のヒップホップはベースがぐっと出ていると思うんですけど、Opus Innは中域、高域の出音が気持ちいい作りになっていますよね。
 「ガツンガツンと鳴る音楽も聴いていた時期はあるんですけど、丸い音が好きで、意識せず、気持ちいい鳴りや音のバランスを模索していったら、自然と今の形になっていった感じですね」
――ギターの永田さんとはどうやって曲を作っているんですか?
 「今は永田が神戸で、僕が東京にいるので、永田が作ったビートに、僕がメロディとかを入れて、それを構築していくというやり取りを重ねていきながら作っていくことが多いです。今は離れていても、以前は一緒に住んでいたので、何も言わなくても音楽が成立する関係性だったりもしますし、永田は素直というか、イヤなことはイヤだとはっきり言う人間なので、直接会わずとも音のやり取りだけでも今は作品が作れていますし、今回は意図せずして、曲のヴァリエーションが広がったんですけど、初めて、エンジニアさんと作業したことで、以前より音もしっかりまとまって、1曲1曲バラバラだけど、統一感がある作品になったと思いますね」
――5曲目「Feel It」のヴォーカルにSIRUPをフィーチャーしたいきさつは?
 「付き合いは長くはないんですけど、初めて会った時に意気投合して。今はお互い尊敬する間柄だったりもしますし、2人とももともと関西という共通点もあったりして。神戸から東京に出てきた当初は、知り合いが少ないことに不安もあったんですけど、会う人会う人、新しい人ばかりで、その出会いが自分のバックグラウンドになっていくと思うので、今はその出会いを楽しみつつ、神戸に比べると、音楽とかクリエイティヴ方面に興味がある人が多く、東京での生活は自分にとっては面白いです」
――堀内さんから見て、今の東京のシーンはいかがですか?
 「海外もそうですけど、ブラック・ミュージックが主流になってますよね。ただ、それ一色になってしまったら面白くないし、今は色んな音楽の要素が混ざってきているように感じますね。ヒップホップもよく聴きますが、音楽だけじゃなく、ジャケットとかフライヤーなどのデザインや、映像も面白いクリエイターが増えているので、そういうところからも刺激を受けて、自分たちも負けないような面白いことをしたいなって考えていますね」
――Opus Innの作品は、大滝詠一さんの『A LONG VACATION』でお馴染みのデザイナー、永井 博さんがアートワークを手がけられていますよね。
 「永井さんの絵はただのファンだったんですけど、EPをリリースするにあたって、永井さんに直接メールを送って、デザインをお願いしたら、快く引き受けてくださったんですよ。夕方のロードサイドのモーテルが描かれていた前作のアートワークに対して、今回描かれているのは夜の街だし、その街で鳴ってるサウンドトラックという作品の佇まいを見事に補っています」
――しかも、これはカセットテープをイメージしたデザインですよね。これは永井さんから提案されたアイディアなんですか?
 「いや、デザインは自分達でレイアウトを組んだものなんですよ。というのも、昔、自分はウォークマンでカセットテープを聴いていたのもあって」
――え? 堀内さんって、今、20代ですよね?
 「(笑)世代的にはCD、配信が主流の世代なんですけど、家に親のカセットが沢山あって、よくひとりで聴いていたんですよ。音質も丸く、あたたかみもあって、自分たちが音楽を作る時、殊更に意識したわけではないんですけど、Opus Innの丸みのある音は、カセットで音楽に親しんでいた経験が反映されたのかもしれないですね」
――ここまでお話を聞いてきて、Opus Innの音楽はあくまで自然発生的なものだ、と。では、音楽を作るにあたって、意識しているところとは?
 「自分が持っていないものは無理矢理やろうとは思わないし、Opus Innの歌詞が英語詞だったりするのも、日本語だとメロディとぶつかってしまうところが出てきてしまうからだったりして、自然なメロディのフロウを活かすためなんですよね。そういう意味で音の聞こえ方を今は一番大事にしていますね」
――現在のデジタル時代は、ないものをあるように見せたり、実際とは異なるネット上の人格を作り上げることも出来ると思うんですけど、ないものはないというスタンスはOpus Innらしさなのかもしれないですね。
 「自分にないものを試したりもするんですけど、その時点で違うなって感じなんですよね。そうやって自然体の音楽を今後もずっと続けていきたいと思いますし、いい音楽を広く伝えていくのが自分たちの理想です」
取材・文 / 小野田 雄(2018年11月)
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