PIZZICATO ONE、5年ぶりのニュー・アルバムはワンマンライヴの実況録音盤

PIZZICATO ONE   2020/06/30掲載
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 ついにこの時が来た。なんて煽り文句は大袈裟かもしれないが、控えめに言っても画期的な作品だ。小西康陽のソロ・プロジェクト、PIZZICATO ONEの新作『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』は、2019年10月に東京と大阪のビルボードで行なわれたライヴを収録したもの。これまでPIZZICATO ONEのアルバムでは曲ごとにさまざまなヴォーカルをフィーチャーしてきたが、このライヴでは小西が全曲でヴォーカルを担当。5人編成のバンドを従えてマイク一本で自作曲を歌う。これは小西にとって初めての試みであり、そこからは小西の作家性が浮かび上がってくると同時に、シンガーとしての新たな一面を垣間見せてくれる。この興味深く、味わい深いアルバムについて、小西に話を訊いた。
――僕は六本木のビルボードで拝見したのですが、台風が直撃するという緊迫したなかでのライヴでしたね。
 「台風よりも、ステージに上がるドキドキの方が大きかったですけどね(笑)」
――やはりマイク一本で歌うというのはプレッシャーでした?
 「楽器を弾くよりはるかに」
――今回のライヴはどういう経緯で実現したのでしょうか。
 「PIZZICATO ONEのライヴに参加してくれたINO hidefumiさんが、僕のライヴが面白いからってビルボードに推薦してくれたんです。それで、どんなふうにやろうかって思った時に、ピアノ・トリオじゃつまらないし、そこにヴィブラフォンとギターを加えた理想の編成でやろうと。そういう編成なら、僕が理想とするジョージ・シアリングみたいなサウンドができると思ったんです。そして、それができるのなら、せっかくだからレコーディングしようかと」
――その編成でスタジオでレコーディングしよう、とは思わなかった?
 「その時は思いつかなかったですね。この編成でライヴをやるのが決まった時、頭の片隅に浮かんだレコードがあって。ティム・ハーディン『3』、そのライヴでヴィブラフォンを演奏しているマイク・マイニエリが参加したローラ・ニーロ『Season Of Lights(光の季節)』。小坂忠さんとフォージョーハーフの『もっともっと』。この3枚は大好きなレコードで、ああいう雰囲気のライヴ盤を作りたいと思っていました」
――その3枚のアルバムの良さというのは、どういうところでしょうか。
 「今あげた3枚ともそうなのですが、とくに『もっともっと』は、シンプルな編成でこんな豊かな世界ができるんだっていう驚きがありました。あと、これまで僕が作ったアルバムって曲ごとに編成が変わるものが多かったですが、そうじゃないものを作りたかったんですよね」
――決められた編成でアレンジや選曲で広がりを見せていく、ということですね。PIZZICATO ONEのこれまでの作品は、曲ごとにシンガーをフィーチャーして、一曲が一本の映画のようでしたが、今回のアルバムは小西さんが主演の長編映画を見ているようでした。
 「ありがとうございます。でも、僕が主役の長編映画なんて、ずいぶん退屈そうです(笑)」
――いえいえ、これがじつに見応えがあります(笑)。監督が監督・脚本・主演をやった作品なんて滅多にありませんから、自分をどう撮るかが興味深い。今回でいうと、バンド編成やアレンジをどうするか。
 「アレンジに関しては、まずヴィブラフォンとギターを加えると独特のサウンドが生まれますよね、ジョージ・シアリングに代表されるような。そういったサウンドをソウル・ミュージックに使ったのがフィラデルフィア・サウンドで、フィリーのスウィート・ソウルな感じも、その2つの楽器があれば出せると思ったんです」
――たしかに、ヴィブラフォンが生み出す柔らかなグルーヴが隠し味になっていますね。オープニング曲「めざめ」のヴィブラフォンとダブルベースのイントロを聴くと、これから始まるショウの雰囲気が伝わってきます。
 「嬉しいです、まんまと乗せられてくれて(笑)。このイントロは、リハーサル用に譜面を準備していた時に思いつきました。今回は僕がまず譜面を書いたのですが、アレンジに関してはバンド・メンバーから知恵を出してもらったところも多かったですね。面白かったのが〈きみになりたい〉のエンディング。僕が書いていったコードがうまく決まらなくて。それで“もっといいコードないかな?”ってみんなに聞いたら、それぞれに違うアイディアを出してくれたんです。どれもが良くて、その中からピアノの矢舟テツローさんのアイディアを採用しました」
――腕利き揃いのバンドですから心強いですね。
 「お弟子さんがいらっしゃるような方々ですからね。でも、皆さん控えめですから、自分からはあれこれ言わず、こちらが聞けばアイディアを出してくれる。そういうところも素晴らしいんですよ」
――ジェントルマンの集まりみたいな。
 「普段はくだらないことばかり喋っているんですけどね(笑)。このバンドにはベテランだからこそ出せる柔らかさがあって、そこがいちばんの魅力だと思います。若い時はライヴっていうと“勝負!”っていう感じで、その尖った感じも好きでしたけど」
――PIZZICATO ONEの音楽はキレキレな演奏よりも、今回みたいな余裕のある演奏で聴きたいです。
 「僕が歌うと、あまりリズムが打ってない、おとなしい曲ばかりになっちゃうんですよ。ピチカート・ファイヴ時代はベースとかすごい突っ込んでいたのに、今ではどんどんビート感が後ろになってる。歳をとるとそうなるみたいですね。だから、自分が好きなテンポのものを選んでいるとスロウな曲ばかりになっちゃうので、バンド・メンバーやお客さんが楽しんでくれるようにアップテンポの曲も意識して入れるようにしました」
PIZZICATO ONE
©Kenju Uyama
――「東京上空3000フィート」から「テーブルにひとびんのワイン」への流れは、バンドの弾み方もゴキゲンな感じですね。あと、「メッセージ・ソング」のアレンジも新鮮でした。曲の前半はゆったりと聴かせて、サビになると駆け出していく。
 「一昨年、“下北沢にて”っていうライヴサーキットに出た時に思い浮かんだアレンジです。その時のピアノがINOさんで、実際にやってみて“この手があったか!”って思いました。今のところ、この曲にもっともふさわしいアレンジだと思っています。これでもうちょっと歌がうまければ良いんですけど(笑)、不器用な感じが良いのかもしれない」
――そうなんですよね! って、ご本人に向かって言うのも失礼ですが(笑)。その不器用さというか、誠実な歌声に味わいがあるんです。音楽家としてはベテランなのに、とてもナイーヴなヴォーカルで。
 「時々、アマチュアですごく歌が巧い人がいますよね。カラオケを歌わせるとすごく巧いとか。自分はああいう巧さを身につけたくない、というか身につかない。その一方で、この業界の中でほんとに歌の巧い人を何人も存じ上げていて、そういうふうにもなれない。そうすると、この歌い方になってしまうんです」
――自分ができる範囲のなかで見つけ出した歌唱法なのでしょうか。それとも、自然に身を任せて歌っているのでしょうか。
 「この歌い方が良いのだったら、大学生の頃からこの歌い方だったし、ずっとこれでやってたら良かったんですよ。だけど自分の理想の音楽に合うヴォーカル・スタイルはこれじゃなかった。自分で認められなかったんです。それはベースでも言えることで、僕はベースも弾きますが、レコーディングではベース・プレイヤーを立てていた。自分くらいの技術でレコーディングしちゃいけないと思っていたんです。でも、今では僕程度のヴォーカルの力量でも聴いてくれる人がいる。作品を出していいんじゃないかと思えるようになった。デビューしてから、長い時間をかけて自分のハードルを少しずつ下げてきたのかもしれないですね。これでも良いんだって。言い換えれば開き直りですよ(笑)」
――たとえばミシェル・ルグランとかバート・バカラックみたいに歌う作曲家がいますが、小西さんの場合、歌詞も書かれているじゃないですか。そこが重要だと思います。作者の実感みたいなものが伝わってきて、そういうところも味わい深かったりするんですよね。
 「たしかにそれはあるかもしれないですね。今だから言える話だけど、ある時期のピチカート・ファイヴの曲って、自分の日記みたいにプライベートなことを題材にしていました。今回の収録曲でいうと〈メッセージ・ソング〉がそう。自分が歌うということで、ああいうアレンジにしました。野宮(真貴)さんの時は思いつかなかった」
――なんて話を聞くと、また聴き直したくなりますね。「神の御業」はオリジナル以上にビーチ・ボーイズ感が出てるというか、ブライアン(・ウィルソン)のソロ・アルバムみたいな雰囲気も感じました。
 「それ、褒めてないでしょう(笑)」
――そんなことないですよ(笑) 田島貴男さんの艶やかな歌声はもちろん素晴らしいですけど、小西さんが歌うと飾らない哀しさ、みたいなものが伝わってきた。それがブライアンが本来持っている脆さや哀しさを感じさせたんです。
 「ありがとうございます。この曲は本来、こういうアレンジでやるべきだったと思いましたね。『ベリッシマ』の時のアレンジは間違ってた(笑)」
――それは「メッセージ・ソング」と同じように、自分が歌うから見えてきた曲の本質的なものなのかもしれないですね。「また恋におちてしまった」では、じつに気持ち良さそうに歌っていて。
 「ジャイアンみたいにね(笑)。あの曲はピチカート・ファイヴで野宮さんに歌ってもらった時は、なぜかうまくいかなかった。ライヴで歌ってわかったのですが、どうやら知らぬ間に自分が歌うために書いていた曲みたいです。自分のヴォーカル・レンジにあってるし、テンポもちょうど良い。とにかく、歌っていて気持ち良いんです。ピチカート・ファイヴの時に自分で歌っていれば良かったですね。レコード会社からは止められたかもしれないけど(笑)」
PIZZICATO ONE
©Kenju Uyama
――今回、あらためて自分が書いた曲を歌うことで、何か発見したことはありました?
 「ひとつ思ったのは、今回の収録曲って古いものから新しいものまで結構開きがありますが、どう聴いても同じ作家が作った曲にしか聴こえない。意外とスタイルに揺らぎがないんだなって思いました。そこはちょっと嬉しかったです」
――それは同じ編成でやったから見えてきたことかもしれないですね。歌詞のスタイルも一貫してます。
 「歌詞の世界は、わりと最初の頃から出来上がってましたね」
――ソングライティングも歌詞も、独自のスタイルを30年以上も続けてきたわけですね。 「僕が憧れるソングライターには、そういう人が多いですね。ニール・ヤングとかレナード・コーエンとか、みんな変わらない。ニール・ヤングはテクノ・ポップをやってみたりした時もあったけど、基本的に書いてる曲は同じ。それが嫌でいろんなアプローチをするのかもしれませんが」
――ニール・ヤングもレナード・コーエンもシンガー・ソングライターじゃないですか。ちょっと矛盾した表現ですが、小西さんは歌わないシンガー・ソングライターだったんじゃないかって思いました。それくらい強い作家性がある。
 「ああ、そうだったのかもしれないですね。僕が中学生の時、狂ったようにレコードを集め始めたきっかけは、シンガー・ソングライターのレコードだったし」
――小西さんは曲や歌詞を提供する側、たとえばブリルビルディングとかティン・パン・アレイ的なミュージシャンというイメージが強いですが、じつはシンガー・ソングライター気質なんじゃないかと、このアルバムを聴いてあらためて感じました。
 「今おっしゃったティン・パン・アレイ的なポップスの後、ボブ・ディランが登場して自分で楽器を弾いて歌うミュージシャンが増えてきた。ディラン以前/以降みたいに世界が分断されますが、僕はその中間にずっといた、というか、どちら側の仕事もしていた。和田アキ子さんや香取慎吾さんに作家として曲を提供しながら、自分の音楽活動もしてきました。そういう自分の立ち位置が、今回のステージに象徴的に表れている気がしますね。自作曲を歌っているけど楽器は弾かない。マイク一本で歌う。こういう人って、あまりいないかもしれない」
――そうですよね。プレス資料を拝見すると「地球最後の日」に関して「これから作ろうと考えているじぶんの音楽はたぶん、この曲の先にある」とコメントされています。この曲のどういうところに今後を感じているのでしょうか。
 「ピチカート・ファイヴ時代って、音楽の90%がサウンドとかアレンジだったんですよ。でも解散して以降、みるみるうちに歌詞に傾いていった。 〈地球最後の日〉に至っては、オリジナルはピアノの伴奏だけでした。ほとんど歌詞だけというか。この先の僕の音楽って、歌詞に95%ぐらい重きを置いたものになっていくんだろうなって思っています」
――伴奏もアレンジもシンプルになっていく。そういうサウンドで自分で歌うアルバムをまた作る、ということも考えていたりします?
 「ちょっと考えています。でも、いろんな人に歌ってもらうほうが嬉しいですね。それで自分が歌うヴァージョンもあると美味しいじゃないですか(笑)」
――一粒で二度美味しい(笑)。今後の“歌うアルバム”を楽しみにしています。ちなみに、神様が「お前に好きな声をやろう」とおっしゃったら誰の声がほしいですか?
 「うーん、パッと思い浮かんだのはメル・トーメですね。ジョアン・ジルベルトでもケニー・ランキンでもなく」
――メル・トーメが歌うPIZZICATO ONE、いいですね! 聴いてみたいです。
「そうですね。自分には物足りないレパートリーが多い、なんて言われそうですけど(笑)」
取材・文/村尾泰郎
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