自分の中にある伝統と革新―― 島 裕介が新世代ミュージシャンを率いて『Silent Jazz Case 3』を発表

島裕介   2017/07/05掲載
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 島 裕介の世界はじつにカラフルだ。Shima&ShikouDUOや、「名曲を吹く」シリーズ、小山 豊(津軽三味線)との「和ジャズ」などのさまざまなプロジェクトのほか、EGO-WRAPPIN'bohemianvoodoo青木カレンらトップ・アーティストのプロデュース&サポートを担当。さらには、〈等々力ジャズレコード〉の主宰や執筆活動など、多方面での活躍を見せている。そんな多彩な活動を繰り広げる彼が、自身のクリエイティヴィティとサウンド・プロデューサーとしての可能性の追求にフォーカスして推進しているプロジェクトがSilent Jazz Caseだ。その3作目となる『Silent Jazz Case 3』では、海外でも活躍する気鋭のピアニスト河野祐亮や、fox capture plan井上 司m.s.t.の持山翔子、若手トップ・ギタリスト井上 銘といった新世代のミュージシャンを率いて、島ならではの新感覚ジャズを盤面いっぱいに展開させている。
――島さんは、Shima&ShikouDUOや「名曲を吹く」シリーズなどさまざまな活動を展開なさっていますが、その中でSilent Jazz Case(SJC)はどのような位置付けなのでしょうか?
「SJCは僕のリーダー・プロジェクトのひとつです。いくつかの側面を持っていますが、最も大きな目的は、単なるプレイヤーとしてだけではなく、プロデュースも含めたトータル・ミュージシャンとしての表現をするということ。僕は自分の演奏活動以外にも、2010年頃は数多くのアーティストのプロデュースやサポートも手掛けていましたがそうした活動を行なう際に、いくつものダビング・トラックやデモ・トラックを作るのですが、そうしてできあがった音源をさらに発展させてアルバムの形に集約したものが、2010年に発表した1stアルバム『Silent Jazz Case』です」
――今、SJCにはいくつかの側面があるとおっしゃいましたが、そのほかの側面とは?
「素晴らしいミュージシャンと繋がっていたいという思いですね。特に若いプレイヤーと一緒に演奏するのはとても刺激的。いつも大きくインスパイアされますから。2015年発表の『Silent Jazz Case 2』はそうした思いからできあがった作品。bohemianvoodoofox capture plan13Soulsなどの若手プレイヤーとコラボレートして作り上げたものです」
――そうした経緯の後に発表された今回の『Silent Jazz Case 3』ですが、このアルバムで表現したかったことというと?
「現在の自分の音楽や活動がしっかりと反映されたものにしようと。1作目の『Silent Jazz Case』はクラブ・ジャズにフォーカスした作品。続く『Silent Jazz Case 2』は、もうちょっとアッパーでグルーヴィな音楽をイメージして作り上げたアルバムでした。いろいろとチャレンジしたなかで思ったことは、自分には派手なものよりも、哀愁感のある音楽の方がフィットしているということでした。今回のイメージは、泥臭くて哀愁たっぷりだけど、グルーヴ感のある音楽。メロディやハーモニーは涙を誘う切ないもの。だけど、ベーシックなリズムの部分ではしっかりとしたグルーヴが流れている。それが基本的なコンセプトです」
――たしかにグルーヴ感のあるリズムと、哀愁豊かなメロディとハーモニーが素敵なコントラストを描く楽曲が多いですね。アンサンブルにはずいぶん気を遣われたのでは?
「綺麗で聴き心地がいいけど、ガッツがあるサウンドをイメージしました。前作『Silent Jazz Case 2』では、ちょっと音を重ね過ぎてしまったんです。そこが前作の反省点でした。音を重ね過ぎると音楽のエッセンスが薄まってしまうように思いますね。今回は重ね過ぎないよう、とにかく我慢しました(笑)。1950〜60年代のジャズを意識した2ホーンだけでユニゾンしている楽曲などもありますが、ハーモニーの重ね方やミキシングもなるべくシンプルなものに仕上げました」
――ミキシングもご自身でなさったのですか?
「ミキシングはこれまでにもいろいろな作品でやっていますが、今作は全曲自分でやりました。アルバム制作には、アレンジ、ミキシング、マスタリングこの3つはものすごくリンクしています。今回、マスタリングはSTUDIO Dedeの吉川昭仁くんに頼むということに決めていましたので、ミキシングはあまり凝り過ぎないようにしました。彼ならマスタリングでこういうふうに仕上げてくれるだろうということがイメージできていたので、そのことを想定してこういうミックスにしよう、そしてこういうミックスにするのなら、こういうアレンジにしてみようということでプランを進めました。最終的な音像のイメージを意識してのアレンジ&ミックスです」
――とても聴き心地の良い仕上がりです。
「今回はその面でも会心作です。これまで僕は自分で作ったアルバムをプライベートで聴くことはあまりなかったんですが、今度のアルバムは何度も聴いています」
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――演奏メンバーを見ますと、2組のリズム・セクションを迎えていますね。
「河野祐亮(p)、杉浦 睦(e-b)、井上 司(ds)の3人と、持山翔子(p)、小山尚希(b)、山内陽一朗(ds)のトリオです。どちらも普段からよく一緒にライヴをやっているので、どちらも巻き込みたったのが大きな理由ですが、今回収録しようと思った楽曲は振り幅が大きかったので、曲によってキャラクターを変えたいという狙いもありました。それからゲスト・プレイヤーとして井上 銘くんに2曲参加してもらっています」
――ピアニストの河野さんが全13曲中の7曲に参加しています。
「河野くんが今回のアルバムのキーパーソンです。彼に初めて会ったのは数年前、彼がニューヨークから帰ってきて、日本で活動し始めた頃。自由が丘のhyphen(ハイフン)というお店で、僕とNori Naraokaのふたりがセッション・ホストを務めるジャム・セッションに彼が遊びに来てくれたのがきっかけです。その時、最初の曲でブルースをやったのですが、4小節弾いただけで、“あっ、こいつは違う!”と直感できました。ほかのピアニストには聴くことのできない感覚、そして僕の求めているサウンド。すぐにオファーしました。僕のスタジオで自由に弾いてもらい、それを録り貯めながら音源を作っていきました。それらをエディットしてできたのが〈Philly's Dance〉〈DEAI〉などの楽曲です」
――もうひとりのピアニストは持山翔子さんですね。
「持山さんは、小山くんと一緒にやっているm.s.t.というユニットで今年4月に『Pianium』という1stアルバムをリリースしたばかりの気鋭のミュージシャン。ピアニストとして素晴らしいのは勿論ですが、ポップス系のサポートも数多く手掛けておりアレンジの能力やバランス感覚も高いんです。音楽的アイディアもじつに豊富ですね」
――持山さんのピアノと島さんのホーン・アンサンブルが響き合う「瀬戸海百景」が美しいですね。
「ありがとうございます。〈瀬戸海百景〉は彼女のアルペジオにインスパイアされてできた曲。僕は彼女の弾くアルペジオが好きなのですが、スタジオで僕のイメージを伝えて弾いてもらった音源をもとに、僕のホーンを少しずつ足してトラック・メイクしたものです」
――「鳴門渦潮」では井上 銘さんとのミステリアスなコラボレーションがフィーチャーされています。
「銘くんと知り合ったのは、平戸祐介くんのライヴに一緒に呼ばれたのがきっかけです。その時初めて共演したのですが、彼はまだ21歳。ギターも凄いし、ルックスも抜群。もうビックリでしたね(笑)。この曲は、リヴァーブやエフェクトの掛かったギターをフィーチャーしたアンビエントな音楽を作りたいという衝動から生まれたもの。銘くんにアンビエントなアプローチで自由に弾いてもらって録音したトラックにループなどを施してディットして、そこにさらにホーン・ダビングを入れて作り上げていきました。途中、唐突に井上 司くんのドラムが現れますが、これはエルメート・パスコアールがよくやるような“お遊び”的な感じですかね」
――先ほどお話にも出ましたが、今回のアルバムは楽曲の振り幅がとても広く、ひたすら美しい「Blue in Kyoto」や、熱気あふれる「K's Dream」など、個性的な曲が揃っています。
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「作曲方法に関しては、ふとした時に思い浮かんだメロディをその場でメモのように録音しておいて、そのモチーフをもとに書き進めることが多いのですが、このやり方だと曲が似通ってくる危険性があります。それを避けるために、最近では共演するミュージシャンからインスパイアされる共作という形を取ることが多いのですが、それでもときどきメロディがすっと思い浮かびそのまま自然に書き上げられることがあります。この2曲はどちらも僕の単独作品。〈Blue in Kyoto〉は、ライヴ・ツアーの際、京都の東福寺を訪れた時に思い浮かんだものです。まさしくメロディが降りてきてくれました。〈K's Dream〉はファンの方との会話がきっかけになって書いたもの。タイトルの由来は、ホレス・シルヴァーの〈ニカズ・ドリーム〉です。〈ニカズ・ドリーム〉は、4ビートとラテンが交錯するリズムに哀愁あふれるメロディを乗せたものでした。僕の〈K's Dream〉もドラムンベースのリズムに演歌調のメロディを合わせたもの。ホレス・シルヴァーが新たなミクスチャーを生み出したのと同様に、新しいミクスチャーを作り出したいと思って付けたのがこのタイトルです」
――プロデューサーとしての色彩が強いというSilent Jazz Caseですが、4ビートで疾走する「R40」や8ビートでグルーヴする「Blues for Faran」など、トランペッター島 裕介のハード・バップ・テイストのブロウが聴けるのも嬉しいところです。
「前作『Silent Jazz Case 2』にはあまりハード・バップ感がなかったんですよね。今回はそういった面も出してみたくて収録しました。〈R40〉は、ジョン・コルトレーンの〈ジャイアント・ステップス〉のようにコード進行が複雑な上にトーナリティも定めにくい難曲ですが、ジャズのエッセンスをふんだんに入れた曲です。タイトルの由来は、映画などにある“R18”のような年齢指定の表示。こういう小難しいジャズは40歳以下の人にはわからないかなー、でも若い人たちにもわかってほしい(笑)。そんな二律背反な思いを籠めてこのタイトルにしました。〈Blues for Faran〉はリー・モーガンの〈サイドワインダー〉のようなありがちなオールド・ジャズ・ロック・スタイルを模倣しました。このアルバムでは自分のオリジナルをやっていますが、僕がここまで来るには徹底的にジャズのイディオムを勉強し、そのルーツを探ってきたという積み重ねがあります。自分のやってきたことに真摯に向かった演奏、自分の中にある伝統と革新を感じ取ってもらえたら嬉しいですね」
――最後に今後のご予定をお聞かせください。
「7月25日に渋谷JZ Bratで『Silent Jazz Case 3』リリース記念ライヴを行ないます。井上 銘くんも加わったクインテット編成です。“Silent”とは真逆の熱いライヴをお届けしますので、ぜひ聴きにきてください。そのほかにも、小山 豊くんとの〈島裕介〜和ジャズ〜ライヴツアー〉や、〈名曲を吹く〉、Shima&shikouDUOのツアーで日本各地に行く予定。お近くの方はぜひお越しください。
取材・文/早田和音(2017年6月)
島 裕介クインテット『Silent Jazz Case 3』リリース記念ライヴ
https://www.jzbrat.com/reserve/
2017年7月25日(火)東京・渋谷 Jz Brat
開場 17:30/開演 19:30(1st)、21:00(2nd)
[チャージ] 予約4,000円/当日4,500円(入替なし通し料金)

[メンバー]
島 裕介(tp,fl) 河野祐亮(p,key) 杉浦 睦(b) 井上 司(ds / fox capture plan) 井上 銘(g)

[予約] Jz Brat
[URL] https://www.jzbrat.com/reserve/
[TEL] 03-5728-0168

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