荘村清志 30〜40年ぶりに弾き、その魅力に引き込まれたアルベニスの作品集に込められた思い

荘村清志   2021/10/12掲載
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 人気・実力の両面で日本を代表するギタリスト、荘村清志が、10月13日にニュー・アルバム『旅の思い出 アルベニス作品集』をリリースする。これは、トップ奏者として長年ギター界を牽引し、デビュー50周年(2019年)を超えてなお第一線で演奏活動を続ける彼にして、初のアルベニス作品集。すべてピアノを原曲とする8曲が収録されている。そこで、録音の経緯、スペインやアルベニスへの思い、その音楽の特徴や魅力について話を聞いた。
――まずは本アルバム成立の経緯をお話いただけますか。
「今回録音したアルベニスの8作品は、いずれも私が20代から30代前半にかけて一度は手がけ、ステージでも弾いたことがある曲です。2020年の2月から5月にかけて、演奏会が全部なくなったので、さまざまな楽譜を掘り起こしてみました。そこで30〜40年ぶりにアルベニスの作品を弾いてみると、昔はわからなかった曲の面白さや良さを感じることができたのです。その時期はタレガとバリオスのCDを録音し、次回作の内容を考えていましたので、“では、アルベニスの作品でいこう!”ということになりました」
――アルベニスの作品は30〜40年間まったく弾いていなかったのですか?
「ほとんど弾いていません。ただ〈朱色の塔〉〈グラナダ〉〈入り江のざわめき〉あたりは、ある程度弾いていましたし、録音もしています。でも自分の感性だけで弾いていて、曲の中に入り込めていなかった。なので、自然に演奏しなくなっていました。ところが今回はものすごく感情移入できて、素晴らしい作品だと感じました。いわば再発見したということですね」
――新作は“スペインをめぐる音楽の旅”ということで、『旅の思い出』(これは「入り江のざわめき」を含む曲集のタイトルでもある)と名付けられていますが、荘村さんとスペインとの関わりは?
「16歳の時、ギターを勉強するために留学し、青春時代に4年間過ごしましたので、“第2の故郷”のような国です。スペインの人はよく情熱的と言われるように、熱い思いをダイナミックに表現しますが、基本的にハートがとても温かいんです。大好きな国で、その後もたびたび訪れ、コンチェルトの録音でビルバオという町に3週間滞在したこともありますし、それ以外でもいろいろな場所に行っています。ですからスペインのことはよく知っていて、情や思い入れも人一倍あります」
荘村清志
――そのスペインの作曲家の中でもとくにアルベニスに惹かれた理由は何でしょうか?
「アルベニスは、フラメンコなどスペインのエスプリを自分の中に取り込み、ピアノを使ってスペイン的な曲を数多く書きました。そしてピアノを使いながら“歌”の要素をものすごく意識し、大事にしています。そこが惹かれる理由ですね。ピアノはハンマーで弦を叩く楽器、ギターは弦をはじく楽器で、ともに音が減衰していきます。つまり仕組みとしては声=歌から遠い楽器なんです。その楽器を使っていかに歌わせるか、歌手が歌っているかのように聴かせるかがもっとも重要なところ。これは技術的な問題ではなく、内面に歌心があるかどうかによります。歌心がないとレガートの線ではなく縦割りの点になってしまう。その点アルベニス自身に無類の歌心があったからこそ、ピアノを使ってこれだけ素晴らしい作品を残せたと思うのです」
――それはギターにも共通する要素ですね。
「そう。歌心を持って弾くのは、ギターを演奏するうえでもっとも大切なこと。弦を美しい音でよく響かせながら歌わせてこそ音楽に酔いしれることができます。それにアルベニスの作品は、ギターで弾いてもまったく違和感がありません。編曲版は多少調性を変えてはいるものの、左手が自然と指なりに動くなど、ギタリストが作ったオリジナル曲のごとく書かれています。アルベニス自身、タレガと交友があったようですし、タレガがギター用に編曲した〈グラナダ〉を聴いて非常に喜んだという話も伝わっていますので、ギターという楽器をある程度知っていたのではないでしょうか」
――それにしても編曲が重要だと思いますが、本作には編曲者の名前が明記されていません。
「アルベニスのピアノ曲のギター版は、タレガとリョベートの編曲がメインになっています。ただリョベートはギターに即して変えている部分もあるので、私は今回の録音にあたってピアノのオリジナル版と照らし合わせ、できるかぎり原曲に沿うよう手直ししました。とはいえ彼らが素晴らしい編曲をしてくれたおかげでアルベニス作品のギター版が定番化したのは間違いありません。それを多少直したからといって自分の編曲と称するのもおこがましいので、あえて明記しませんでした」
――二人の編曲の特徴や魅力は何でしょうか?
「これがオリジナルだったのではないかと思わせるほど、ギター的にアレンジされているところですね。調性の選び方も的確で、音域的にもよく響くように書かれています。オクターブ上げたり音を省いたりしてはいますが、原曲を単純に移し替えるだけでは、ギターで弾くと難しすぎるところが出てきます。いくら原曲に忠実でも世界で5人くらいしか弾けないようでは、アレンジ作品として生き残らないでしょう。その点彼らは、アルベニスの原点や核心を残しながら、誰もが弾けるようにうまく工夫している。そこがすごいと思います」
荘村清志
――さて、本作の聴きどころは?
「やはり先ほど申し上げたように、アルベニスの歌心ですね。彼は、スペインの民族音楽を根底に用いながら、歌というものを表したかったのだなと、今回8曲演奏して強く感じました。その歌心をどれほど豊かに表すことができているか? そしてまた私自身の歌心をいかに表すことができているか? がポイントであり、聴いてほしい点でもあります」
――いくつか具体的な例をあげていただけますか?
「たとえば〈グラナダ〉は、20代の頃はストレートに弾いていました。でも今はあるパッセージにくると粘ったり速くなったり、フェルマータをかけたりといったことが自然にできるようになりました。また〈コルドバ〉は、最初の祈りの部分をピアニッシモで弾いて、ゆっくりと歌うことが大事です。さらに最後に歌が出てくる部分は大きな音など必要なく、音は減衰しながらもまるで歌っているかのようにレガートで弾く必要があります。数値的なものよりも感性が反映するこうした表現や間の取り方などは、聴きどころといえるでしょう。ただみなさんには白紙の状態で聴いていただいて、結果的にそれが自然に伝われば、いちばん嬉しいですね」
――なるほど。ところで新作の曲を演奏するコンサートはありますか?
「はい。この秋は、第1部でスペインのいろいろな作品、第2部でアルベニスの6つの作品を弾くというコンサートを、11月20日の東京・浜離宮朝日ホールなど全国各地で行ないます」
――そちらも楽しみですね。では最後に、今後に向けて一言お願いします。
「このCDが発売される10月13日の時点で、私は74歳になっています。まさかこの年齢まで弾いていられるとは思ってもいませんでしたが、内面を磨いていけばもっともっと豊かな表現ができると信じてやっていますし、その気持ちがなくなったら演奏をやめるべきでしょう。自分としては去年に比べて表現の幅が増えたと感じるような演奏がつねにできていないといけない。これは指の動きなどではなく感性の問題です。今は表現の幅が増えていると確信していますし、まだまだ弾き続けることができると思っています」
取材・文/柴田克彦
Photo by Kazuya Rachi
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