Suchmos、WONKなどのコーラスを手がけてきた大坂朋子がSolmana名義でデビュー

Solmana   2019/07/03掲載
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 Suchmos、WONK、SANABAGUN.、AAAMYYY、Nao Kawamuraらのコーラスおよびコーラス・アレンジを行なってきたシンガーの大坂朋子が、ソロ・プロジェクト“Solmana(ソルマナ)”として本格始動。完成した初EP『AMANECER』(スペイン語で“夜明け”の意味)は、ブルース、ジャジー・ソウル、ヒップホップまで、ブラック・ミュージックに対する愛情の深さが伝わるディープな作品だ。彼女の“これまで”と“いま”について話を聞いた。
――まずはプロフィール的な話から。お生まれはどちらですか?
「岩手県の三陸海岸に面する宮古市です。高校まで宮古に住んでいて、理系科目が得意だったので、そこから青森の弘前大学に進んで4年間、遺伝子を研究してました。でもそこでジャズ研に入ってバンドをやりだしたら本気になっちゃって。その当時、私が日本のジャズ・シンガーでいちばん好きだったギラ・ジルカさんが神奈川の洗足学園音楽大学のジャズコースで教えてるってことで、親に土下座して音楽をやらせてくれと頼んで。そしたら、まず弘前大学をちゃんと卒業して、それからとことんやれと。結局ふたつの大学に行ったんですよ。8年間大学生をやって、2年前に卒業したばかりなんです」
――ご両親は音楽に理解のある方々だったんですか?
「母がピアノの先生で、父は声楽をやっていて。だから3歳から音楽教育が始まって、私は高校3年までクラシック・ピアノをやってました」
――音楽一家だったわけですね。歌うことは昔から好きだったんですか?
「もともと得意だったんです。ちっちゃい頃から絶対音感があったし。昔は恥ずかしがり屋だったので人前で歌うなんて考えられなかったんですけど、中学くらいから活発になりはじめて、やってみたい気持ちが大きくなった。人前で歌いたいというより、とにかく〈オー・ハッピー・デイ〉(1967年にリリースされたエドウィン・ホーキンズのゴスペル曲。1993年に映画『天使にラブ・ソングを2』で使われて再ヒットした)を歌いたかったんですよ(笑)」
――ブラック・ミュージックを好きになったきっかけは?
「ちっちゃい頃はクラシックしか聴いてなくて、ショパンがめっちゃ好きだったんですけど、中学のときに『天使にラブ・ソングを2』を観て雷が落ちたみたいな衝撃を受けて。そこからですね。それで高校でデスティニーズ・チャイルドとビヨンセ、大学でアリシア・キーズを聴くようになった。それからジャズ研に入ったんですけど、そこではみんな60年代、70年代とかの音楽を聴いてたんですね。打ち込みの曲を聴いてるのは私くらいしかいなくて。そこで聴かせてもらって“やばい!”ってなったのが、マリーナ・ショウとダニー・ハサウェイ。そのふたりにいちばん影響受けてます。それぞれもちろん歌手としても素晴らしいんですけど、何よりバンドの演奏と一体となってグルーヴしてる感じがかっこいい。そういうのが好きなんですよ。個人の歌の力だけじゃなくて、音楽全体の力を感じさせるものが好きなんです」
Solmana
――なるほど。その感じはデビューEP『AMANECER』にも出てますね。
「そうですね」
――これまでに大坂朋子としてSANABAGUN.、WONK、Suchmos、THE THROTTLE、AAAMYYY、MALIYA、Nao Kawamuraといったさまざまなアーティストのコーラスやコーラス・アレンジを行なってきたわけですが、それはどういうきっかけで?
「上京するってなったときに、SANABAGUN.のヴォーカルの高岩遼くんがめちゃくちゃみんなに広めてくれたっていうのがひとつ。遼くんは同郷の幼なじみなんですよ。彼はずっと前からブルースやジャズが好きで、私もブラック・ミュージックが好きだったから、お互い触発されあってきたんです。あとその後に、音大に入って2ヵ月経ったとき、先輩のシンガーが出れなくなったライヴがあるから代わりに出てほしいって話がきて。その出れなくなったシンガーがNao Kawamura。そのときに“ごめんね、頼むね”って言われて、そこから気が合って親友になったんですけど。そのライヴのメンバーがSuchmosのキーボードのTAIHEIとか、サックスの萩原優とかで。R&B系のセッション・ライヴみたいなもので、そこでみんなと仲良くなって、それが基盤となってどんどん広がっていった感じですね。Naoちゃんがライヴをやるってなったら私がコーラスをやって、私がやるとなったらNaoちゃんがコーラスをやって、バックはTAIHEIとか、King Gnuのベースの新井(和輝)くんとか」
――いまの日本のシーンを担ってる人ばかりじゃないですか。
「そうですね。いま20代後半で、90年代前半に生まれたR&B得意組みたいな」
――EP『AMANECER』にも関与しているAAAMYYYは?
「AAAMYYYはSuchmosのベースの隼太さん(=HSU)に紹介されて。その当時、彼女はeimieというユニットをやっていて、会場限定CDのコーラス・アレンジを頼まれてやったのがきっかけ。それからコーラス・アレンジもコーラスも頼まれたらやるようになって、逆に私が曲を作るときに、歌詞を英語にするのを手伝ってもらったりとか。今回のEPもそれをやってもらっていて、スキルトレードというか、互いに助け合う関係ですね」
――友だちに恵まれてますねえ。
「本当に。みんな信念を持ってやってる人たちなので。私のポリシーとして、リスペクトできる人のコーラスしかやらないというのがあるんですよ。メジャーでいくら有名な方でも、リスペクトできなかったらやりたくない。あと、私の声はすごく低いんですけど、この音域がほしい、その声が好きって思ってくれなかったらやれないですね。音楽って、お互いにリスペクトしたうえでじゃないと、本当のブレンドはできないと思うので」
――そうした仲間たちに刺激されて、自分もソロでデビューしようと動き出したわけですか?
「刺激は受けてるけど、だからってことではないですね。じつは2年半前に大学を卒業したあと、大きく体調を崩しちゃったんですよ。謎の高熱に悩まされて、がんの可能性もありますと言われて。結局そうじゃなかったんですけど、そのとき初めて死を意識していろんなことを考えた。そのときに思ったのは、“自分はまだやりてえことやれてなくね?”ってことで。コーラスのお仕事をいろいろやらせてもらって、やりたい人と一緒に音楽をできているという現状に満足してたところもあったんですけど、“でも本当にこれでいいのかな、私”って。そのときに自分のCDを出したいと思ったんです。じゃないと後悔するなと。それで去年の2月くらいに体調が戻ってからガーっと動き始めて、WONKのマネージャーをはじめ友人にもいろいろ相談したりして。そうするとみんないろんな角度からアドバイスしてくれて、“あ、こういうやり方もあるんだ”ってなって」
Solmana
――ソロでどういう音楽をやりたいかは、はっきり見えていたんですか。
「曲は先にコツコツ作っていたので、ある程度は見えてましたね。バキバキのヒップホップをやろうとは思わないし、ただのR&Bをやるのも嫌だったし、かといって完全にジャズに寄せるのも違うと思ったし。私が好きだったのは何かと何かの間をやってる人たちだったので、そういう絶妙なところをつきたいなと。で、音大のときに南米の音楽を学ぶ機会があって“サンバ、めっちゃ楽しい!”ってなったりしてたので、そういうブラジルの音楽とか、あとはギラ・ジルカさんにスペインのアーティストを教えてもらって影響を受けていたので、そういう感じをR&Bとかと混ぜたら面白いと思っていて」
――なるほど。このEPにもまさしくそういう曲がありますもんね。
「はい。あとこのEPに関しては、初作だからありのままの自分を出したいと思っていた。なんで日本語で歌わないんだ? って思う人もいるかもしれないけど、私は人生のなかで日本語の曲を歌ってきてなかったので。ずっと英語の音楽を歌ってきたので、日本語で歌う自分に対する違和感が大きいんですよ。だからまず自分の思ってることを書いて、それをAAAMYYYとシンガーの向原愛海ちゃんに手伝ってもらって英語にして」
――EP全体のテーマは“葛藤からの脱却”と“覚醒”だったそうですが。
「葛藤というのは、さっき言った“本当にこのままでいいのか、私”っていう思い。そういう思いがどんどん募っていってたので、そこから脱却して覚醒したかった。覚醒……しましたね、うん。暗い曲が多いけど、暗いままで終わってる曲はひとつもないんで。どの曲も何かしらヒントを見つけて終わってるから」
――1曲目は「Intro -Blues-」。弾き語りの生々しいブルースです。
「やっぱり自分の根っこにあるのはブルースだろうってことで。ブラジル音楽を聴いてガットギターの音を好きになったので、ガットギターを買って、それを使った弾き語りをやろうと」
――2曲目「Step Ahead」はジャジー・ソウルにブラジリアン的な要素が加わったリード曲。コーラス部分も耳に残ります。
「この曲のコーラスのアレンジは、けっこう凝りました。“やっぱりコーラス楽しい!”と思いながらやりましたね」
――3曲目「Roots」は歌声の個性が強く出ているヘヴィな一曲ですね。
「渋さみたいなのが自分の持ち味だと思うので。そこを詰め込んだ感じですね。日本ではこういう声の人ってあまりいないと思うんですよ。外国だとレイラ・ハサウェイとかに近いと思うんですけど、日本にはいないんじゃないかな」
――サックスとヴォーカルの相性がとてもいい。
「ALIってバンドを始めたYU(萩原優)が吹いてるんですけど、私は彼のサックスが死ぬほど好きで、彼も私のヴォーカルを好きだと言ってくれてる。音楽的に相思相愛なんです」
――そのYUさんがフルートを吹いている4曲目「I Will Forgive You」は、このEPのなかではもっとも明るいトーンの曲で、いいアクセントになっています。
「マーヴィン・ゲイのアルバム『ホワッツ・ゴーイン・オン』のコーラスをすごい研究して、オマージュする感じで作りました」
――5曲目「Set Me Free(feat.DIAN)」にはKANDYTOWNのDIANのラップがフィーチャーされてますね。
「KANDYTOWNがめちゃめちゃ好きで。これはDIANにラップしてもらうために作った曲なんです。ラップはお任せしました。“オレ、日本語でやるけど、いいの?”って言うから、“全然いいよ”って言って。このEPのなかで唯一そこだけ日本語を聞けるっていう(笑)」
――6曲目「Quietly」はピアノ・バラード。アリシア・キーズ的な。
「まさに。アリシアの〈イフ・アイ・エイント・ガット・ユー〉が私のルーツとなる一曲なので、やっぱり影響を受けてますね。この曲は気合入れすぎないようにあえて座って歌って録ったんです。で、だんだんボルテージ上げていって、後半のコーラスはちょっとグラミーを意識するみたいな感じ(笑)。この曲は唯一、葛藤系じゃなくて、ラブな部分が入った曲なので、渋さよりも温かく包み込む感じを意識して歌いました」
――そんな全6曲、聴く人にどんなふうに感じてもらえたら嬉しいですか?
「まず生演奏のよさ。ヴォーカルもいいけど、演奏しているひとりひとりのサウンドがどれもかっこよくて、それが一体になってることの熱を感じてもらいたいですね。あと、日本にはキラキラしたポップな音楽が多いじゃないですか。それも全然いいと思うけど、もっとくすんだ感じの音楽、こういうスモーキーな音楽のよさもあるんだよってことを知ってほしい。ジャケも明るくないけど、これは私にとっての人生の再スタートでもあるから、“誕生”とか“再生”を表現したくて上も脱いだし。こう、ニュルっと生まれて立ち上がるみたいな。そういうテーマも含めてけっして明るくないし、ちょっとヘヴィかもしれないけど、そういう音楽のよさもあるってことを知ってもらえたら嬉しいですね」
取材・文/内本順一
Live Schedule
■Solmana 1st EP "AMANECER" Release Live

2019年8月2日(金)
東京 下北沢 GARAGE
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 2,500円 / 当日 2,800円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: GARAGE 03-5454-7277

[メンバー]
Solmana(vo)
YU(from ALI)(sax)
竹之内一彌(g)
井上薫(key)
越智俊介(from CRCK/LCKS, Shunske G & The Peas)(b)
彦坂玄(from RAMMELLS)(ds)
指宿克典(perc)
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