活動11年目のTSUKEMENが“いい大人”へのスタートとなる新作『時を超える絆』をリリース

TSUKEMEN   2019/05/14掲載
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 ヴァイオリン2台に(時にヴィオラも)ピアノ。この、ありそうでない編成で続けてきた活動も、今年で11年目。音色的にはクラシックに軸足を置きつつも、オリジナルとカヴァーの両面で演奏者としての間口と裾野を広げる。TSUKEMENならではのそうした姿勢の集大成であり、最新報告と言えそうなのが、ニュー・アルバム『時を超える絆』だ。冒頭に置かれた表題曲にしてからが、女声コーラスとのコラボ曲。インスト・トリオという基調路線を守るに留まらない、広がりのある新境地を聞かせている。バランスと“攻め”の狭間を(いい意味で)揺れ動いてきたとも思える、このトリオ独特のあり方について、3人のメンバーに語ってもらった。
――“そもそも系”の質問になりますが、結成に至る決め手となったのは、人柄だったのか、それともトリオ編成というコンセプトだったのか、興味があるんですが。
SUGURU 「まずは人でしたね。ヴァイオリンのTAIRIKUとKENTAが、東京音大の附属高校時代の同級生。そこからTAIRIKUは桐朋音大に進んで、僕と知り合ったんです。当時、2人で演奏する機会が多かったんですが、もう一人誰か呼ぼうということになった時TAIRIKUが“呼びたい”と言ったのが、同じヴァイオリンのKENTAだった」
――ヴァイオリン2台にピアノという編成自体、クラシック音楽的には異色なわけですよね。
SUGURU 「楽器優先で選んでいたら、チェロを呼ぶのが普通ですね」
TAIRIKU 「高校時代、KENTAとよく一緒に演奏していたんですが、聴いた人たちから“ベクトルが違う二人がぶつかり合うところが、爆発力につながっている”と言われることが多かったんです。同じ方向を向いてないところがおもしろいって」
――“人が先”とはいえ、独自性の芽はすでにあった気がしますが。
SUGURU 「最初やった時は、それぞれソロ寄りの演奏だったんですけどね。今のTSUKEMENに通じるアンサンブルでの演奏は、5曲くらいだった。3人でやり始めた当初、“(音の)重心が高い”って問題を感じていたので、まずピアノの弾き方を変えました。左手に重きを置いて、低音を厚めに響かせる工夫をしたりして」
――ピアノがリズム楽器として機能している印象があったんですが、意識的に増強されてきた部分だったんですね。
SUGURU 「増強したのは、結成3?4年目かな。低音だけを追求しても、それはそれでバランスを欠いていっちゃいますから」
TAIRIKU 「かと言って“安定感”を求めてコントラバスやチェロを入れるというのも、ちょっと違うんです。この3人での編成自体に、エネルギーやスリリングさがあると思っているんで」
SUGURU 「低音に留意した上で、そこにTAIRIKUが弾くヴィオラを入れることで、中音域のふくらみを加えていく。そうすることで、クラシック楽器だから出せる響きのよさ、TSUKEMENならではの風景が生まれている気はしています。最近気づいたんですが、ベースも終始ドンドン鳴っていればいいわけじゃないんですよね。特にライヴで聴く場合、アンサンブルにうまく混ざっている状態が理想。やたら低音を強調するのではなく、そこに“いる”感じを出すほうが重要だなと」
――この3人だからできるアンサンブルを、10年かけて培ってきたんですね。
SUGURU 「そうですね。一人でも違ってたら、まったく別のグループになってたんじゃないかな」
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――ニュー・アルバムで言うと、中盤に置かれた「真田組曲」。メンバーそれぞれが1楽章ずつ書き下ろしている一方で、風景的にはつながって聞こえるのがおもしろかったです。
KENTA 「第1楽章をTAIRIKU、第2楽章が僕、第3楽章はSUGURUが書くという振り分けは、あらかじめ決めておいたんです。まず真田幸村をテーマにしたTAIRIKUが、壮大なドラマ、なにかが始める予感を提示して、次いで僕の霧隠才蔵。内面的な表現ですね。で、最後にSUGURUが、猿飛佐助の突き抜けていく感じ、疾走感を描いていって。イメージを共有しながら、それぞれの楽章をまとめていった感じです。今まで、オリジナルは書いても、ここまで踏み込んだ共作をしたことはなかったんですよ。“二人で共作“することはあっても、あとの一人は関係がなかった。アルバム・タイトルじゃないですけど、すべての楽曲に全員で責任を持つというところが、今回“絆”を表題に掲げた醍醐味でもあったので、オリジナル曲も作曲者にまかせっきりにしたくなかったんです。3人全員の気持ちを、それぞれの曲に入れていきたかった」
SUGURU 「〈真田組曲〉の背景でもある信州、長野には、TSUKEMENのデビュー以来、ずっとお世話になってきているんですよね。年に1回、テレビ信州に特集番組を作っていただいたりして」
――アルバムと同題のDVD(『時を超える絆〜TSUKEMEN 10年のキセキ〜』)に、撮影風景や「真田組曲」の構想を練るシーンが出てきました。
SUGURU 「番組に加えて、スペシャル・ライヴをやったんです。〈真田組曲〉に関しては、デビュー以来支えてくださってる信州のみなさんに対する“恩返し”の意味合いが大きかったですね」
TAIRIKU 「上田市が初演だったんですけど、過去最高というくらい、拍手が鳴り止まなかった」
KENTA 「地元をテーマにした曲で、あそこまで喜んでくださるなんて、音楽って裏切らないなと思いました。それこそが、僕らに対するご褒美というか」
――“ご当地”に根ざした曲といえば、アルバム表題曲「時を超える絆」で共演している、女子高生コーラスも素晴らしかったです。
SUGURU 「長崎・佐世保にある聖和女子学院っていう、合唱で有名な学校なんですよね」
――DVDで観ると、いまどきこんなに“昭和”なたたずまいの女子高生がいるんだと、驚かされました。
TAIRIKU 「〈時を超える絆〉も、〈真田組曲〉同様、1回かぎりの公演用に作った曲だったんですよね」
SUGURU 「その後、アルバム・レコーディングのために、もう一度会うことになって。TV番組に出た後だったせいか、めちゃめちゃあか抜けていて驚きました(笑)」
――お年頃の女の子らしい。
KENTA 「コーラスが強い女子校って、教育がしっかりしている。身なりとかも素朴で、素直に育てられてる感じの方たちばかりだったんです。そういうよさが声に反映されて、いいハーモニーになってる面があったのかもしれない」
SUGURU 「コンサートで共演した後、彼女たちが自分たちのコンサートでこの曲を歌っている動画が送られてきたんです。完璧に暗譜していて、譜面も見ていない。みんな涙ぐみながら歌っている、そんな熱意が感じられた。それもあって、CDをレコーディングするにあたっても、やっぱり彼女たちに歌ってほしいと思ったんです。東京の子たちとかじゃなくて」
TAIRIKU 「去年、TSUKEMEN10周年コンサートを広島でやった、その足で佐世保に向かって、レコーディングすることができました」
――そうしたいきさつが、出来映えにも反映されている気がします。
TAIRIKU 「レコーディング中にも、すごくあたたかいものがあった。休憩中にも話し合って、“歌詞を見て、もう一回心を込めて歌います”と言ってもらえたり」
――彼女たちにとっても“一期一会”だったわけですよね。
KENTA 「そうなんです」
――ちなみに歌詞は、TAIRIKUさんのお父さまである、さだまさしさんが書かれていて。
TAIRIKU 「そうです」
――詞が先だったんですか。
TAIRIKU 「いえ、曲が先でした」
――じゃあ、発注したんですね(笑)。
TAIRIKU 「この曲が生まれるにあたっては、まず浦上天主堂(長崎市にあるカトリック教会。原爆投下の痕跡を留めることでも知られる)からお話をいただいたんです。“平和”や“絆”をテーマにしたコンサートをやってほしいということで、曲を作るアイディアもそこから浮かんできた。僕らも結成10周年だったので、合唱の子たちとできるのなら……そう話し合っていく中で、天主堂とつながりのある聖和女子学院の名前も上がってきたんです。同様に、歌詞を“(さだ)まさしさんにお願いしたい”というのも、その聖和女子学院からの提案でした」
KENTA 「僕らがやりたくて、さださんにお願いするという流れではなかった」
TAIRIKU 「自分らで書けるのなら書こうと思ってもいたんですけど、そういう提案を頂いたのなら、素晴らしいミュージシャンなのでお願いしようと」
SUGURU 「親子関係とかは抜きにして、クリエイティヴな関わりを周りから提案していただいたのは、ありがたいなと思いましたね」
――さださんにとってのゆかりの地でもあるし、なりゆき的にも無理がない。
3人 「はい」
TAIRIKU 「長崎に行けば、うちの父親はすぐ声かけられますから(笑)」
SUGURU 「教会の関係者にも知り合いがいらっしゃるし、顔が本当に広い。長崎に愛されてる、長崎を代表するアーティストなんだなと、あらためて思いました。そんなさださんとTSUKEMENがコラボ共作するタイミングが、結成10周年というタイミングでめぐってきた、という感じでした」
――共作はスムーズに行きましたか。
SUGURU 「ヴァイオリンとピアノとで作曲したんですけど、どちらの楽器も基本、休みなく弾く。(本来歌い手である)まさしさんからしたら、“お前、これどこが歌の切れ目や”と(笑)。ブレスするポイントを作れやという指摘は、ちょくちょくいただきました」
――おもしろいですね。ヴァイオリンもピアノもメロディ楽器とはいえ、書く曲はやはり器楽的。歌唱的ではなかったというのが。
SUGURU 「楽器を弾く感覚から言うと、小節というのは、最後の音符をまたいで次の始まりのところまでで一区切りなんです。その前で切っちゃうと、音楽が止まってしまう。一方歌う側からすると、次の始まりの前が一区切り。一拍休みが必要とかね。器楽と歌唱の、そこが大きな違い。僕らの場合、やっぱり次の頭まで行くクセがついてるものですから」
――いわゆるアウフタクトの捉え方の違い。歌う側からすると、歌詞をどこで区切るか、言葉の意味の問題も出てくるだろうし。
SUGURU 「ありますよね。そういう意味でも、今回、新しい発見がありました。かと言って、完全に“歌唱寄り”のアプローチをしたというのとも、少し違っていて。普通の歌のメロディも押さえつつ、一方で自分たちがふだん弾いている特色も織り込んでる、みたいな」
――DVDには、ベースとドラムを加えたバンド編成で、お三方もそれぞれ電気ヴァイオリンとキーボードにスイッチして演奏している。そんな映像も収録されています。ああいう持ち替えって、演奏する側からすると、相当違うものですか。
TAIRIKU 「違います」
――楽器のタッチも変わるだろうし。
TAIRIKU 「たとえるなら、いつも木の箸を使ってるとるするじゃないですか。それが韓国料理とかを食べに行くと、金属製の箸が出てくる」
――重くて長いやつですね(笑)。
TAIRIKU 「あんな感じです。同じ箸には変わりはないし、使えはするけど、なんか勝手が違う」
KENTA 「ヴァイオリンの場合、ふだん使ってる楽器と形が違うだけで、音程が難しくなったりするんです。弓を乗せて引っ掻く時の、抵抗の加減とかが全然違う。一番難しかったのは“耳”ですね。モニターを通して、自分の音と周りの音とのバランスを判断しないといけない。ライヴ感を感じながら、躍動感のあるステージングをするのが、本当に難しかったです。ほんと、チャレンジでした」
――3人だけで生音で演奏している時は、それこそ自分の耳でミックスしながら弾けますものね。
SUGURU 「3人でやる場合、よほどのことがない限り、サウンドの軸はピアノ寄りだと思うんです。ピアノが呑まれないように、ヴァイオリンとのバランスをあらかじめ作っておく。バンド編成だと、その軸がベースとドラムに移るんですよ。自分たち3人と食い違いがあった場合、それをどう伝えようか。すり合わせが難しかった。そこは苦労しましたね」
――また、やりたいですか?
TAIRIKU 「やりたいです。これでゼロにしたら、なんのためにやったの?って話にもなるので。ただの記念にはしたくない」
SUGURU 「なるほどなと思ったのは、いつもは3人で音楽を作って完結している。でもベース、ドラムを加えた場合、サポートとはいえ、音楽の一部になるんですよね」
TAIRIKU 「そこは噛み合っていないと成立しない。すごくいい経験になりました」
――MVを拝見すると、パーカッションとのコラボがすごくいいですよね。楽しそう。
KENTA 「生音でもできるようなサウンドだからかも」
SUGURU 「音色が混ざるからじゃないかな。パーカッションって、いわば木や皮の楽器ですから。まあ、ドラムも皮は使ってますけど」
――そのあたりは、今後に期待というか。
SUGURU 「はい」
――ニュー・アルバムに話を戻すと、「上を向いて歩こう」には、ジョージ・ガーシュウィンの作品の一節が引用されています。
3人 「(笑)」
TAIRIKU 「いつもアレンジを担当してくださってる阿部篤志さんが、けっこう自由に編曲される方なんです。追い打ちをかけるように、“自由にやってください”とこちらからも言ったせいか、本当に自由にやってくださって」
KENTA 「TSUKEMENの場合、“ふざけてる”と思われるぐらいでちょうといいというか(笑)。そうじゃないと、個性が出なかったりする。TSUKEMENがカヴァーする以上は、TSUKEMENじゃなきゃできないアプローチを大事にしているので」
――エリック・クラプトンで名高い「チェンジ・ザ・ワールド」も、リズム・アレンジにひねりが加えられています。
TAIRIKU 「クラプトンの曲だから誰かギターを呼んでくるというのも悪くはないですけど、それで本家を越えるのは難しい。自分たち自身オリジナル曲を書いているだけに、カヴァーするにしても、本家とは違ったものにしたい。丸コピじゃない、TSUKEMENならではの味を出したいという思いはあります。コピーというより“融合”ですよね。そこに、僕たちがカヴァーすることのよさがあるのかなと」
――今回のアルバムは、オリジナルとカヴァーの配分が、ほぼ半々ですよね。
TAIRIKU 「そもそもTSUKEMENのスタートが、いろんなジャンルのミックス。クラシックを基点に、オリジナル、映画音楽、アニメ、ジャズ、タンゴと、いろいろやってきた中で、ここ3年ぐらいはオリジナルを中心にやらせていただいていた。一方、お客さんからの“クラシックの、あの有名な曲を聴きたい”という声もあったんです。ニュー・アルバムではそれこそ“原点”じゃないですけど、自分たちのオリジナルとカヴァーの両方。今のTSUKEMENができる“最大”をやっていこうと。3人で話し合ううちに、自然な流れでそういうことになりました」
――ユニットとしてのそうした立ち位置も、10年かけて培ってきた。
SUGURU 「自分たちの立ち位置を客観的に見ることって、いまだにできないんですが、お客さんのなんでも受け入れてくれる姿勢に支えられてやってこられたのはたしかです。“これじゃなきゃダメ”みたいな聴き手がいない。こちらが何かを求めて一所懸命やってたら、“そういうのもアリだよね“と受け止めてくれる」
TAIRIKU 「僕らの熱量を、くみ取ってくれてるよね」
SUGURU 「今回のアルバムを機に、また新しいところへと突入していく。そんな予感がしてもいるんです。〈旋律の彼方へ〉と〈ベストフレンド〉、〈LOVE YOU〉の3曲は、それぞれ2人のメンバーが、もう一人の向けてのプレゼントとして書いた曲。TSUKEMENとして初めての試みだったし、それをきっかけに、今度はライヴの演出も、今まで以上に明確にイメージできるようになってきた。3人がただ頭を並べるんじゃない、違う個性として、おのおのをれを尖らせて、磨いていけたらいいですよね」
TAIRIKU 「僕とSUGURUがKENTAをイメージして書いた〈LOVE YOU〉では、KENTAにステージからバラの花を配ってもらおうと思ってるんですよ(笑)」
KENTA 「え? ほんとにやるの?」
TAIRIKU 「やれよ〜(笑)」
SUGURU 「そういう形を取ることで、〈LOVE YOU〉という曲が、TSUKEMENからお客さんに向けたラブ・ソングにもなる。これから3人して、30代後半に入っていきますけど、個人的にも、TSUKEMENとしても“いい大人”になっていきたい。そのスタートになるのが今回のアルバム。そんな気がしているんです」
取材・文 / 真保みゆき(2019年4月)
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