自分が自分であること VaVa『VVORLD』

VaVa   2019/02/28掲載
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 KID FRESINOのアルバム『ài qíng』を締め括る「Retarded」やBIMのアルバム『The Beam』のリードトラック「Bonita」、ERAのアルバム『Culture Influences』収録の「Drop」など、人気ラッパーの重要曲を手がけ、ビートメイカーとして評価が高まるなか、VaVaの2枚目となるラップ・アルバム『VVORLD』がリリースされた。昨年、怒濤のペースで発表された3枚のEPからピックアップされた6曲を含む全16曲からなる本作は、BIMやtofubeatsYogee New Wavesの角館健悟をフィーチャー。さらにFutureのプロデュースを手がけるKINGBNJMNら、海外のプロデューサーのビート提供を受けながら、オートチューンを交えた柔らかくあたたかみのあるビートとラップのフロウによって、弱さや優しさ、ナードなライフスタイルなど、彼の等身大の姿をありのままに描き出した転機作となっている。
――THE OTOGIBANASHI'Sへのビート提供や2枚のアルバム『Blue Popcorn』、『Jonathan』を通じて、ビートメイカーとして認識されていたVaVaくんが2017年のアルバム『low mind boi』以降、ラッパーとしても活動することになった経緯を改めて教えてもらえますか?
 「CreativeDrugStoreの仲間たちと2年半くらい共同生活を続けながら昼夜問わずビートを作っていたんですけど、その間に色んなストレスや確執が生まれて。それが我慢できなくなって、2015年の年末辺りに実家に逃亡したんですけど、CreativeDrugStoreやTHE OTOGIBANASHI'Sから離れて、いざ、独りになった時、自分には何もないなと思ったんですよ。で、その数ヶ月後に、“曲は出したことないけど、以前やったことがあったラップにまたトライしてみよう”と。それで後に『low mind boi』の1曲目に入れた〈My Shit〉を録って、それをsummitの増田さんに送ったら、“良かったらラップアルバムを作ってみませんか?”って言ってくれて。それをきっかけに『low mind boi』の制作を始めたんです」
――自己を確立したいという意識がVaVaくんを音楽制作に向かわせた、と。
 「そうですね。だから、2017年の7月に出した『low mind boi』というアルバムには“やってやるぞ”っていう野望が牙をむいて、それがリリックに表れていると思うんですけど、そういう作品を作り上げたことで、CreativeDrugStoreの仲間たちともまた話せるようになりましたし、BIMが去年出したアルバム『THE BEAM』に入っている〈BONITA〉(MVの公開は2017年12月)って曲は、もともと、僕が自分でラップをしようと思っていたんですけど、“今だったら仲間にビートを提供出来るかもしれない”と思って、こちらから“このビートちょっと聞いてみて”と提案したり。そんななか、自分に対する自信が生まれてきたり、仲間に対してもフラットに接することが出来るようになったんです。『low mind boi』以降の最初の作品である昨年8月のEP『Virtual』は、そうした気持ちの変化がリリックや気持ちの入れ方、音楽の世界観に反映されましたし、自分のビートとラップのみの『Virtual』から10月リリースのEP『Idiot』は海外のビートメイカー、12月のEP『Universe』はtofubeatさん、Yogee New Wavesの角舘健悟さんをはじめ、全曲がフィーチャリング。その後にリリースする今回のアルバムには3枚のEPから抜粋した曲を収録しようと、リリースプランを考えて、ものすごいハイペースで制作を進めていったんですけど、今回の『VVORLD』は『low mind boi』以降の約1年の間に生じた心境の変化が色濃く表れた作品になったと思いますね」
――ちなみに、VaVaくんが2曲のビートを提供していたERAさんに昨年インタビューした際、“駄目な自分を肯定した『low mind boi』には大きな影響を受けた”と語っていましたよ。
 「それはホントうれしいですね。ラッパーは格好つけてなんぼだと思うんですけど、俺は格好よくないから、格好つけるのは違うなって思ったんです。ただ、『low mind boi』はあの時点での自分の本心ではあったんですけど、リリース後に振り返った時、まだまだ格好つけている自分がいるなと思ったので、その反省も踏まえて『Virtual』ではもう格好つけないよって歌ったんです」
――その開き直りや気持ちいい振り切れ具合が今回のアルバムの起点になっていますよね。
 「そうかもしれないですね。『Virtual』と今回のアルバムにも入っている〈現実 Feelin' on my mind〉では、僕がゲームばかりやっていた中学高校時代に抱いていた妄想、"みんなを助けるために戦って、ヒロインにモテるっていうゲームの世界に生きられたらいいのに"っていう、あまり人に言いたくない妄想や感情をリリックにしたんですけど、あの曲を形にしたことで、考え方が変わったというか、自分が自分であることがめちゃめちゃ楽になりましたね」
――そうしたメンタルの変化はサウンドにどんな変化をもたらしたと思いますか?
 「中学生の頃の自分は弱い人間だったので、ギャングスタラップやハードコアなヒップホップを好んで聴いていたというか、そういう音楽は電車の中で聴いていると、自分が強い人間になったように感じられたんですよね。でも、今は、例えば、久石 譲さんが手がけた音楽を手がけた映画『菊次郎の夏』の〈Summer〉って曲とか、歌のないインストゥルメンタルだったりするんですけど、夏の記憶を思い出して、懐かしさを感じたり、切なくなったり、聴く人それぞれに色んな感情を抱かせる音楽がいいなと思うようになってきたんです。久石 譲さん以外にも今回、〈ロトのように〉のリリックでも言及している(『ドラゴンクエスト』のゲーム音楽でお馴染み)すぎやまこういち先生が作った音楽なんかはゲームをやりながら何百回と聴かれることになることを想定して、繰り返し聴いても飽きない曲になっているんですけど、その発想はループで成立しているヒップホップと同じじゃないですか。そう考えるようになってからはビートメイクに対する意識も変わりましたね」
――具体的にどう変わったんですか。
 「サンプリングでトラックを作る時、ネタを探している時やフレーズのループを繰り返し聴く時、本当にいいと思える瞬間があるかないか。以前に比べて、その基準を厳密に考えられるようになりましたし、判断する際に“これはストックしておこう”と冷静に思える時と冷静でいられない時があって、冷静でいられない時のビートは自分にとって気に入る曲になることが多いですね。BIMの〈BONITA〉もそうですし、KID FRESINOの〈RETARDED〉、ERAさんの2曲、あと今回のアルバム……とも言っておきます(笑)」
――黒いドープなグルーヴを生み出そうとしていた前作に対して、今回は鍵盤やホーンのフレーズを活かしたあたたかみのあるメロディアスなトラックが多いですよね。
 「そうですね。ここまでトラックを作り続けてきて、自分の好きな音が分かってきたということはあると思います。ホーンのサウンドはもともと大好きなんですけど、ドラゴンクエストの音楽をオーケストラで再現する演奏会を独りで観に行ったことがあって、そこで大感激したことをきっかけにオーケストラ系のサンプルフレーズを集めるようになって。現時点ではそれらを複雑に組み合わせるスキルがまだ足りていないんですけど、ホーンに関しては、自分なりに操れるようになってきたので、自分のトラックで使う機会は確かに増えましたし、鍵盤も、まだ、そこまで複雑なフレーズは弾けないんですけど、曲の軸となるネタに重ねて弾く機会も増えましたね。あと、『low mind boi』との大きな違いとしては、ラップのメロディに対してより自覚的になったところが大きくて、今まで鼻歌のように作っていたメロディをオートチューンを使いながら形にすることで幅を広げることが出来た気がします」
――ご自身でビートを手がけるVaVaくんがFutureを手がけるKINGBNJMNを起用した「ロトのように」をはじめ、海外のビートメイカーと仕事をしてみようと思ったのは何か意図があったんですか?
 「日本のビートメイカーでも良かったんですけど、人が手がけた曲だったら自分はラップに専念出来るので、今回のアルバムではラッパーとしてのVaVaの個性を色濃く出来るんじゃないかなって。そういう意図がある一方で、色んな方々とコラボレーションを行うにあたっては、相手にも参加してよかったと思ってもらいたかったので、ラッパーとしての経験値を少しでも上げた3枚目のEPをコラボ曲で固めたものにしたんです。〈Virtual Luv〉にフィーチャーしたtofubeatsさんは、彼の映像企画『HARD-OFF BEATS』がビートメイカーを志すきっかけになったこともあって、自分にとっては感慨深い曲でしたし、tofuさんに満足してもらえるように気合いが入った曲でもあって。かたや、角館さんは直接面識はなかったんですけど、Yogee New Wavesは作品を愛聴していて。アルバム『WAVES』のツアーファイナルも観に行ったいちファンだったんですけど、〈星降る街角〉のビートを作っている時に“ここに角館さんの声が入ったら最高なんだけどなー”と思い付いて、声を掛けさせてもらって。夢が実現出来てうれしかった反面、プレッシャーもものすごくて、今回はプロデューサーとしても鍛えられた作品でもありますね」
――ヒップホップ以外で普段のVaVaくんはどんな音楽を聴かれているんですか?
 「一言で言うなら、“聴いていて、カロリーを消費しない音楽”が好きですね(笑)。“分かる分かる!”って感じでリリックに共感出来るなら、カロリーは消費しないんですけど、よく理解出来ていないのに、ハードにラップしている曲を聴くのはカロリーを消費して疲れてしまうんですよね。だから、ヒップホップは一番好きな音楽ではあるんですけど、ヒップホップに疲れるタイミングはかなりの頻度でやってきますし、そういう時に優しく響くゲーム音楽や映画音楽、バンド系だとThe 1975やInc. No World、あと、ジャズだとキース・ジャレットとか、全く別のジャンルを聴いて癒やされたりしています」
――VaVaくんの作るあたたかみのあるゴスペル的なメロディはチャンス・ザ・ラッパーの影響なのかなと思っていたんですけど、キース・ジャレットのピアノがまさにゴスペル的だったりしますし、そう言われてみれば、大いに通ずるところがありますね。
 「キース・ジャレットの音楽は一番聴いているかもしれないですね。そういうお香のような、水のような音楽も聴きつつ、前作アルバムはカロリーを消費しやすい内容だったというか、ラーメンでいったら二郎系(笑)。今回はあっさり塩ラーメン……それでいてコクがあるっていう、そんなアルバムになっていたら嬉しいなって(笑)」
――はははは。コクにあたる要素は、「現実 Feelin' on my mind」であるとか、タイトルそのままにヴァーチャル愛を歌った「Virtual Luv」とか、VaVaくんの内面を包み隠さず投影した曲になるんですかね。
 「〈Virtual Luv〉は、男子校で過ごした中高6年の間に考えていたことを思い出しながら、今の自分には音楽があるから、女性の方が“ファンです”って話しかけてくれるんだろうし、音楽がなかったら、話しかけてくれることはないだろうなって。そういう感情が入り混じったリリックですね」
――はははは。個人的な経験上、フライング・ロータスサンダーキャットカマシ・ワシントンなど、海外のアーティストにインタビューする際、ゲームやアニメが話題になることは少なくないというか、むしろ、繰り返し遊ぶことですり込まれるくらい耳にするゲーム音楽からの影響を公言している音楽家は沢山いて。迂闊なことは言えませんが、それが時代のスタンダードであるならば、VaVaくんがありのままの自分を投影した今回のアルバムでモテ度が高まるんじゃないですかね(笑)。
 「いやぁ、そうなったらいいですね。音楽を始めるにあたって、ラップ、ビートメイク、DJ……何をやろうと考えた時、兄貴がDJをやっていたので、自分はDJを始めたんですけど、その理由は一番モテそうだったからなんですよ。でも、いざ始めてみたら、全くモテなかったので、何事も一生懸命やらないとダメなんだなって(笑)。あ、この場合のモテるという言葉は女子も男子も含めてます。今回の歌詞を書きながら、自分を客観視した時、昔から独りが好きで、フットワークがかなり重いし、飲みにもいかず、煙草とコーラさえあれば生きていける自分は引きこもりだなって思ったりもして。ただ、それを悪いことだとは思っていないというか、むしろ、家にいる時が一番好きなことが出来るし、そういう生活だったからこそ、このアルバムは完成出来たんですよ。自分は作業が早い方だとは言われるんですけど、日々、人と会っていたら、EPを含めて、これだけの曲数を仕上げるのは難しかったでしょうし。だから、忙しくなっても、独りの時間はなにより大切にしたいなと思っているんです」
取材・文 小野田 雄(2019年2月)
Live Schedule
Jazzy Sport Kyoto 1st Anniversary cro-magnon“cro-magnon city”& VaVa“VVORLD”Release Party in Kyoto

2019年3月9日(土)
京都 METRO
出演: cro-magnon / VaVa / DAICHI YAMAMOTO / DJ Mu-R / DJ Gajiroh
開場 / 開演 24:00
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
www.metro.ne.jp/single-post/190309

Erection

2019年4月12日(金)東京 代官山 UNIT
出演: VaVa / VIDEOTAPEMUSIC / Yogee New Waves
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)
www.unit-tokyo.com/schedule/1131/

2019 GW Special Party!

2019年5月1日(祝・水)
石川 金沢 DOUBLE KANAZAWA
出演: VaVa / パソコン音楽クラブ / shakke ほか
twitter.com/doublist

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