【Yamagata Tweakster】政治性とユーモアで爆走する、韓国アンダーグラウンド音楽シーンの重要人物が語る!

YAMAGATA TWEAKSTER   2013/02/20掲載
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 ヤマガタ、とはいえ生まれも育ちも韓国。韓国のアンダーグラウンド音楽シーンでユニークな活動を続けるYamagata Tweaksterことハンバ(hahn vad)は1月に来日し、Yamagata TweaksterとAmature Amplifierのふたつの名義でライヴを敢行。インタビューを行なった日の夜、新大久保のライヴ・ハウスに登場した彼は観客とともに会場を飛び出し、クラクションが鳴り響くなか車道を占拠して歌った。(編集部)
――昔は映画監督を志していたそうですね。YouTubeに上がっている短篇を拝見しました。
 「ありがとうございます。高校生の頃から短篇映画を撮り出して、けっこう真剣に取り組んでました。それで、35歳のときに有名な映画評論家に自分の作品を見てもらったんですけど、反応が薄くて……(苦笑)。映画一筋だったので、かなり絶望的な気分になって、ベンチャーの起業に走ったりもしたんです。でも、それもやっぱりうまくいかず(笑)。2003年から“Amature Amplifier(アマチュア増幅器)”名義で音楽活動を始めたんです」
――昨日のライヴ(1月26日 @幡ヶ谷フォレストリミット)でも鈴木清順についての曲を歌ってましたが、どんな監督が好きなんですか。
 「もちろん鈴木清順は大好きな監督です。日本では相米慎二も好きです。韓国でもホン・サンスキム・ギドク……いっぱいいます(笑)。映画はかなり観てますね」
――音楽はいつ頃から?
 「それこそ映画制作に関することは何でも自分でやっていたので、撮影や編集と同じように音楽も自分でつくり始めたんですよ。最初は友だちにギターを習って」
――ここ日本でも、ホンデ(ソウル)は韓国インディ・シーンの中心地として知られていますが、Amature Amplifierで音楽活動を始めた頃のホンデはどんな状況でしたか。
 「もともとホンデには90年代頭からライヴ・ハウスができてきたんですね。当時は今よりももっとアンダーグラウンドな雰囲気で、音楽もメタルが中心で。トゥルグッカっていう80年代から活動する伝説的なバンドがライヴをやったりもしていました。それが90年代中盤になって、ニルヴァーナに影響を受けたオルタナティヴ・ロックのバンドが次々に出てきて、それらのバンドを観て、さらに僕ら世代の人間がバンドを始めるっていう流れですね」
――1995年に音楽バー、DRUGでカート・コバーンの一周忌追悼ライヴがあったそうですね。
 「まさに、その公演がいまに繋がるホンデのインディ・シーンの出発点になっています」
――ハンバさん自身はどんな音楽に影響を受けてきたんですか。
 「若い頃はペット・ショップ・ボーイズ、ブリストルのストレンジラブ。韓国の伝統音楽と歌謡曲をミックスした“カン・ビュンチョルとサムテギ”というグループも好きでした。2000年代に入ってからフィッシュマンズと出会ったのも大きかったですね」
――昨夜のAmature Amplifierのライヴでも、フィッシュマンズのカヴァー(「IN THE FLIGHT」)をやっていましたね。また、ホンデにはイベント「すばらしくて NICE CHOICE」で有名な音楽カフェ、空中キャンプもあります。韓国のインディ・シーンでフィッシュマンズが人気なのはなぜなんでしょう?
 「それは僕もすごく気になっているところです(笑)。今では日本よりも韓国のほうがフィッシュマンズは人気あるかもしれませんね。何なんでしょう……あのノスタルジックな空気感が韓国人の心を掴むのかもしれない。フィッシュマンズは、まだインターネットが普及する前の時期にパソコン通信で広まったんです。僕もそこで知りました。もしかしたら先ほどのカート・コバーンじゃないですけど、すでに佐藤伸治がこの世にいないという現実が、彼らの音楽を特別なものにしている……というのはあるかもしれないですね」
――カヴァーをやっているぐらいですし、Amature Amplifierのライヴにもフィッシュマンズの影響を感じましたが、音楽活動を始めた当初にあったイメージはどんなものだったんですか。
 「最初はハプニングみたいなことばかりやってたんですよ(笑)。金髪のカツラをかぶってカート・コバーンのモノマネをしたり……」
――あ、昨日もカツラをかぶってましたけど、あれはカート・コバーンからきていたんですか!(笑)
 「音楽活動を始める前の97年からかぶってます(笑)」
――でも、いまの音楽性は音響を生かしたアシッド・フォークっぽいですよね?
 「そうなんです(笑)。音楽活動を続けていくうちに、徐々に自分の人生に降りかかる出来事を歌で表現するようになったんです。都市に生きる寂しい男が浮かべる幻想とかあこがれとか」
――現在の音楽活動のメインであるYamagata Tweaksterは、ダンス・ミュージックですね。これはどのようにして始まったんですか。ちょうど世界的にも4つ打ちロックが流行ったりもした時期だと思うんですが……。
 「ずばり、そういったムーヴメントとは無縁でして(笑)。2005年にiBookを買ったんです。すると簡単にゴキゲンな音楽がつくれるじゃないですか、GarageBandで。それでいろいろいじっているうちに、かつてペット・ショップ・ボーイズが好きだったことを思い出したり、さらにハウス、テクノ、イタロ・ディスコなどダンス・ミュージックの源流を辿っていくようになったんです。ダンス・ミュージックの中にあるサイケデリックな要素に惹かれたんですね。それで、自分でもやってみようということでYamagata Tweaksterを始めたんです」
――Yamagata TweaksterとAmature Amplifierという二つの顔を使い分ける、という感じですか?
 「いや、いまはYamagata Tweaksterだけに専念して、Amature Amplifierはごくたまにライヴをするだけです。というのも、Amature Amplifierは都市に生きる寂しい男の歌だって言いましたけど、2008年に結婚して“寂しい男”じゃなくなってしまったんです(笑)。また、同じ時期に父親を亡くしたんですけど、私にとっては敵であり、壁であり、支えでもある父親だったので喪失感が大きくて。その穴を埋めてくれたのが、やはりダンス・ミュージックだったんです」
――Yamagata Tweaksterのライヴ動画をいくつかYouTubeで拝見しましたが、ライヴ中に観客を引き連れて路上に出ていったり、かなりユニークなパフォーマンスですよね。ハンさん自身、面白かったライヴをいくつか教えてもらえますか。
 「いーっぱいあります(笑)。昨年、ソウルのアートソンジェ・センターでライヴをしたんですけど、温泉をイメージして、数百人のお客さんに囲まれながら、お湯をかぶって演奏しました」
――……意味がわからない!(笑)。アートソンジェ・センターといえば昨年末から大竹伸朗展をやっているギャラリーですよね。よくよく考えれば、大竹さんも直島で銭湯を作ったりしてましたけど……(笑)。ちなみにアートシーンと音楽シーンの交流は活発なんですか。
 「若い世代は完全にそうです。アーティストが音楽をやっているケースも非常に多いです」
――2009年のトゥリバン食堂をめぐる闘争もそうした下地があってのものだったりするわけですか?
 「まさしく、です」
――闘争について、実際のところを詳しく教えていただきたいのですが。
 「まず、その前提として同じ年の1月に起きた“ヨンサン立てこもり住民死亡事故”の話をさせてください。イ・ミョンバク政権を象徴する事件です。ソウル駅近くのヨンサンという地域に米軍基地があったんですけど、ピョンテクに移転することになったんですね。そのため、基地の跡地を含めて周辺地域で大規模な再開発が行なわれることになったんです。もともとヨンサンには低所得者が大勢住んでいたんですけど、補償がないまま立ち退きを迫られたので、住人たちの一部はデモを起こして、ビルに立てこもった。そこに警察が強制排除に入った結果、火が上がって住人・警察双方で6人の死者が出てしまいました。同じ時期に、ホンデにも再開発の波がきて、個性的なライヴ・ハウスやショップや地下道のような、私たちが演奏をしたり、ちょっとした公演を打つことができる自由なスペースがどんどん失われていくという状況がありました。そうした中で、ホンデ駅前のビルに入っているトゥリバン食堂が、ほかのテナントがなけなしのお金で立ち退いていく中、なんとか営業を再開しようと抗議活動をしていたんです。ちょうどヨンサンの事故の記憶も生々しかったので、これは支援をしなければならないと思って、友人たちと建物内でライヴを始めた……というのが、トゥリバンの闘争の始まりです」
――ハンバさんたちの活動を支持したのはどんな人たちですか。
 「最初は音楽好きの若者が多かったですけど、徐々に運動が広がるにつれて各界からの支持も増えていきました。それで曜日ごとに色分けしてイベントを打つまでになったんです(笑)。火曜はトゥリバンのドキュメンタリーを撮る監督たち、金曜は大衆歌謡やプロテスト・ソング、日曜はフォーラムや詩の朗読会っていう具合に。5月1日のメーデーにフェスを開催したんですけど、最初は出演者51組で企画していたら、さらに出たいと言ってくれる人が集まって、最終的には62組が出演、3,000人の観客が集まりました。こうした運動の結果、トゥリバンの置かれている状況を大々的にアピールすることができて、十分な補償金を勝ち取ることができたんです」
――その運動が発展して「自立音楽生産組合」(Jarip)結成へと繋がるわけですね。
 「そうです。巨大資本に属さずに、自由に活動していくミュージシャンのネットワークです」
――近年、ホンデのインディ・シーンからメインストリームへと出ていくバンドも増えてきていますが、Yamagata Tweaksterにそういう話はないんですか?
 「僕にはまったく関係のない話です(笑)。もちろん大きい事務所に拾われる人たちもいますけど、僕はもっとローカルに根づいて活動がしたくて、グルーヴ・クルマ(飾り付けたリヤカーを引いて、ライヴをしながらCDや本を売る)などをやっています。そうした活動の延長で、たとえば下北沢のミュージシャンとネットワークで繋がるような、それぞれの都市をグローバルに結ぶ展開を目指したいと思っています」
――グルーヴ・クルマがまさに象徴的ですけど、ハンバさんの活動って政治性とユーモアのバランスが絶妙だと思うんですよね。
 「基本的にはユーモアのほうを追求しがちです(笑)。なぜならユーモアは人にグッド・エネルギーを与えることができるから。ユーモアに関しては、アンディ・カウフマンから多大な影響を受けています」
――なるほど“Man On The Moon”ですね。それを聞くと、なぜハンバさんが本名で活動せずに、“Amature Amplifier”とか“Yamagata Tweakster”といったキャラクターを生みだすのかがわかったような気がします。ちなみにハンバさんから見て、韓国でいま注目すべきミュージシャンはいますか?
 「ハンバ(即答)」
――ま、そうですよね(笑)。日本ではどうでしょう?
 「こないだランタンパレードを聴いて、いいなと思いました。前野健太の歌詞も面白いですね」
――オールジャンルでは?
 「ここ最近はずっとハウスです。単純なビートのものばかり聴いてます」
――ちなみに日本ではデモにサウンドカーが混じることも少なくないんですけど、韓国はどうですか?
 「トゥリバンの紛争以降、再開発や格差社会への抗議行動として、一種のサウンドデモともいえる音楽活動が増えましたね。ちょうど今回、来日する前に毛利嘉孝の『ストリートの思想』を読んで、日本では2000年代初頭からサウンドデモがあったと知って感銘を受けたところでした」
――福島での原発事故以降、日本ではデモや抗議行動のあり方についてはまたちょっと見直されているところもあります。事態が緊急を要するというか。自分たちの行動が確実に日本の近未来を左右するわけで、かつてのサウンドデモとは違った重みが出てきています。
 「韓国でもイ・ミョンバク政権下で先ほど挙げたような事故があったりしたことで若い世代がより政治に目を向けるようになりました。今回、保守派のパク・クネ氏が次期大統領に決まったことで、さらにそれは加速すると思います。日本も前回の総選挙で自民党が圧勝したことで、逆に政治への関心は高まるんじゃないですか?」
――そうでないとマズい……という危機感はあります。
 「ぜひ情報を交換していきましょう。私たちはカルチャーで繋がっているんですから」
取材・文 / 九龍ジョー(2013年1月)
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