シンガー・ソングライターのemily hashimotoが、新曲「O・DA・WA・LOVE」を配信リリースした。
彼女の地元・小田原への愛がまっすぐ伝わってくると同時に、小田原にゆかりがなくても聴けば興味をそそられる。口ずさみやすさもありながら、おしゃれなシティポップ感も兼ね備えた「O・DA・WA・LOVE」。そんな新作について、あふれんばかりの想いを語ってもらった。リリース後に予定されているヴォーカル・オーディションや〈EmiLyのおしゃれフリークFES〉の計画など、壮大な関連プロジェクトにもぜひ注目してほしい。
――emilyさんが地元・小田原のことを歌いたいと思った理由から聞かせてください。
「19歳からは地元を離れて暮らしていたものの、ここ数年たびたび帰るようになったのをきっかけに“小田原ってすごくいい街だな”とあらためて思ったんです。海も山も川もあって、ショッピングモールや百貨店もあって。自然が豊かな上に便利。東京にも新幹線ですぐに行けますし、最近は移住されてくる方も多いそうです」
――確かに素敵な街ですよね。名所もいっぱいあって。
「一度離れたからこそ気づけた小田原の魅力を、自分なりに音楽で表現してみたいと思いました」
――生まれ育った街に恩返しがしたいというような気持ちですか?
「そうですね。あと、地元に帰る機会が増えたのは父の介護のためなんです。2022年の12月に亡くなったんですけど、本人の希望もあり、最期は病院ではなく自宅で過ごしました。そんな日々を送る中、小田原に対する感情の変化が生まれてきました」
――お父様のおかげもあって、小田原がより愛おしくなったんですね。
「子供の頃の楽しい記憶があふれてきました。家族で小田原城址公園に行ったり、川でバーベキューをしたり。父は日曜日に喫茶店で本を読む習慣があって、私が迎えに行くと母に内緒でパフェを食べさせてくれるので、それが楽しみだったりもしました。いろいろ振り返るうち、当たり前だと思っていた日々が特別だったことに気づいて、大好きな父、そして生まれ育った小田原に何かを返したいな、自分にできることはないかな、という想いがわいてきたんです」
――「O・DA・WA・LOVE」の曲作りはどこから着手されたんでしょう?
「まず、大好きな街のことを今一度しっかり調べて、キーになるワードを書き出していきました。難攻不落の小田原城をはじめ、豊臣秀吉が建てたと言われる石垣山一夜城の跡地、明治天皇と皇后が訪れた御幸の浜、二宮金次郎の生家はもちろん、意外と知られていない小田原のいいところも歌詞に入れたくて。『曽我物語』の舞台にもなった梅林とか、桜並木がきれい、富士山が見える、新幹線が通っているとか。みかん畑も有名なんですよ」
――普段とは違うアプローチで難しさもあったのかなと感じます。
「時間はかかりました。いつもは歌詞とメロディを同時に書くタイプなんですけど、今回は小田原の魅力、伝えたいことを熟考した歌詞を先に作って、メロディを合わせていく手順でした。それに、みんなが一度聴いただけで歌えるようなキャッチーな曲にしたくて」
――実際、一度聴いたら歌える曲になっていますね。特にサビは。
「ありがとうございます! 別の箇所で小田原の風景などを歌っているぶん、サビはあえて超シンプルに“オダワラブ”を繰り返すのがいいかなと。直感でパッと出たメロディを重ねていきました」
――ほかに意識された点は何かありますか?
「曲を作る段階で、自分以外の誰かに歌ってもらうことも考えていました。小田原で生まれ育ったんですけど、10代の頃は周りに練習スタジオが少ない、本格的に音楽をやりたくても頼れるところがあまりない状態で。東京だったらライヴハウスがたくさんあって、そこで音源を聴いていただけたりするじゃないですか。そういう環境がほとんどなくて“音楽をやりたいけど、デビューするにはどうしたらいいんだろう”と当時すごく悩んだんです。もしそういう人が今現在もいるなら、そろそろ自分は手助けできるキャリアになったんじゃないかなと思って。小田原がテーマの曲だし、地元にゆかりのある若い人にも歌ってもらえたら何かを返せるような気がして、じつはすでに2パターン作ったんです。今回配信で出る、夜っぽいムードでまとめたemily hashimotoヴァージョンの〈O・DA・WA・LOVE〉と、私以外の方に歌ってもらう想定でよりポップで明るいヴァージョンの〈オダワラヴ〉を、アレンジャーの橋本寛之さんに仕上げていただきました」
――小田原のことを知ってもらいたい一方で、小田原の音楽シーンの活性化も同時に思い描いていたわけですね。
「そうです。なんて言えばいいんだろう。話がちょっと脱線しちゃうかもしれないんですけど、人が健康に生きていられる時間は案外短いんだなと思ったんです。父が亡くなったこともそうだし、その4ヵ月後に私も体調を崩してしまい、全身麻酔の手術を初めて受けたんです。その時、これからの人生を真剣に考えて、“悔いを残さないように生きよう”“自分のやれることをすべてやりたい”という気持ちになったんです」
――立て続けに大変な出来事が。
「手術は無事に成功して、もう元気なんですけど。だから、今は自分のこともがんばりたいし、誰かのためにできることがあればそれもやりたいと思っています」
――さまざまな想いが込められている曲なんですね。その背景がありながらサビをここまでシンプルにされるのって、すごく勇気が要りそうだなと思いました。
「あははは(笑)。私も悩みました。2番は違う言葉にしようかなとか。でも、一貫して“オダワラブ”のほうが愛の強さに繋がるし、小田原の名前も耳に残るので。ひたすらリフレインにしました。でも、その中で歌い方を少し変えています。力を抜いてみたり、地声にしてみたり、裏声にしてみたり。いろんな表現を試した末、心地よいポイントに落ち着いた感じです」
――小田原の魅力を丁寧に伝えつつ、ミックスボイスなどを通して、emilyさんの従来からの持ち味であるガーリーでスウィートな世界観もうまく出せたんじゃないですか?
「どうせなら、おしゃれなご当地ソングにしたかったんです(笑)。シンプルなサビゆえに、歌詞だけだとぶっちゃけ拙く見えるんですよ。なので、サウンドはめちゃくちゃカッコよく作ろうと思いました」
――子供もすぐに口ずさめる歌であり、ポップスとしても秀逸です。
「詞と曲のギャップが気に入っています。今思い出したのですが、先日NONA REEVESの西寺郷太さんの作詞講座に参加したんです。作詞に苦手意識があって、“もっといい歌詞を書かなきゃ”と悩んでいて。そのときに郷太さんが“替え歌も作詞なんだよ”と話してくださったのが大きかったかもしれません」
――替え歌も作詞?
「たとえば、既存の曲を子供が何気なく替え歌にしたりしますけど、それも作詞のひとつだとおっしゃっていました。“だから、そんなに難しく捉える必要ない”“ちょっと遊んでみてもいいんじゃないか”という郷太さんの見解を聞いて、重く考えていた作詞がもっと身近で楽しいものに変わったんです。そのおかげで〈O・DA・WA・LOVE〉の歌詞は、作り込まない軽やかさが出せたと思います」
――サウンド面はシティポップ感を出したかったんですか?
「そのイメージはありました。街の曲で歌詞に海も出てくるから、シティポップが合うだろうなと思って。山下達郎さんの〈SPARKLE〉みたいなサウンドを頭に描きつつ、アレンジャーの橋本寛之さんに相談しました」
――クレジットを見ると、作詞・作曲が橋本絵美利、編曲が橋本寛之、ギターが橋本孝太となっていて、3人とも橋本さんですね。
「そうそう。寛之さんと孝太さんは兄弟で、私はまったく別の橋本なんですけど、“Hashimoto's”と呼んでいます(笑)。2021年リリースの〈花粉症〉もこのトリオで作りました」
――ギターもめっちゃカッコいいです。
「ですよね!曲がひと通りできたあと、孝太さんに追加で弾いてもらったんですが、カッコよすぎて思わず笑っちゃいました(笑)。アウトロの軽快に歌っているようなギター・ソロも素晴らしくて、私の理想を具現化していただけた上に、期待を超えるプラスアルファがあって嬉しかったです」
――最後に訪れる1分間のアウトロまで凝った作りになっています。
「高橋徹也さんの〈新しい世界〉で延々と転調していく部分がラストにあるんですけど、それが大好きで。寛之さんにご相談したら、転調を2回入れてくれました(笑)」
――emilyさん以外の誰かにも歌ってもらいたいというお話が先ほどありましたけど、「O・DA・WA・LOVE」に関する今後のビジョンを教えていただけますか?
「別アレンジの〈オダワラヴ〉を小田原にゆかりのある方に歌っていただきたいのと、小田原のみなさんに音楽を楽しんでもらいたいという想いで、ヴォーカル・オーディションを開催します。emily hashimotoヴァージョンの〈O・DA・WA・LOVE〉の配信とともに参加者の募集がスタートしているので、ぜひ特設ページを覗いてみてほしいです。合格者はひとりではなく、できれば複数名。追ってそのレコーディング、リリースもしていきたいなと」
■特設ページ
https://emilyhashimoto.com/odawalove_vocalaudition/――オーディションの行方や「オダワラヴ」の仕上がりもどうなるのか楽しみです。
「さらに、〈EmiLyのおしゃれフリークFES〉の開催を計画中なんです。私がパーソナリティを務めるラジオ番組『EmiLyのおしゃれフリーク』(全国約40局のコミュニティFMで放送)主催のフェスです。場所は小田原三の丸ホール。自分が好きなシティポップや渋谷系のアーティストに出演を依頼して、ヴォーカル・オーディションの合格者にオープニングアクトをお願いする予定です。こちらでも小田原のみなさんに新鮮な音楽を提供できたらなと思っています」
――すごい!
「小田原の曲を発表するのも、ヴォーカル・オーディションとフェスを開催するのも、全部が初めてでドキドキなんですけど、性格的にうまくいくことしか考えていません。私を助けてくれる信頼できる仲間ばかりなので、きっといいバランスで進めていけるはずです。〈O・DA・WA・LOVE〉のMVも作る予定なので、楽しみにしていてください!」
――むしろ、ここからが本番といった怒涛のスケジュールで。
「後悔したくない気持ちを原動力に、関連プロジェクトをすべて成し遂げられるよう、2025年の下半期は〈O・DA・WA・LOVE〉と駆け抜けます。多くの方が小田原を知ってくれるきっかけになって、地元の方が歌ってくださる曲になれば嬉しいです」
――続報をお待ちしています。
「この先のプロジェクトも小田原のみなさんと協力して展開していけたらと思っています。〈O・DA・WA・LOVE〉以外の近況としては、7月2日にリリースされた川本真琴さんのカセットテープ・アルバム『Lovely』の収録曲〈Bonbon〉に作詞とプログラミングで参加しています。こちらもどうぞよろしくお願いいたします」
取材・文/田山雄士